共謀罪7と立法事実4

犯罪の前倒し化は、交通事故や工場災害・ストーカーその他個別パターンごとの事前行為の類型を定めて、事前行為段階の規制を類型的に強めている・・この規制違反を犯罪とする方向で社会の安全を図って来たのが現在社会です。
政治家で言えば賄賂になる前の段階・・政治資金規正法での帳簿整備義務・・虚偽記載や形式的不記載程度でさえも大事件になっていることは周知のとおりです。
このように実際の賄賂収受や公害発生・交通事故発生を待たずに、その前段階の規制とその違反による摘発の前倒しを進めて来たのが現在社会です。
産業構造・社会様式変化等に即した類型化・・大量発生が予測される分野では事前規制方式で何とかなりますが、テロに関しては、次々と最新テロ方法が生まれて来るし、事前類型化し難いのが普通です。
犯罪者はその都度(法網をくぐり抜けるために)個別の新たな工夫をして来るのが普通です。
予め国会や省庁が規則等で指定する方法以外の犯行を工夫する・・次も同じサリンでやろうとする集団は滅多にいない筈です。
その意味ではサリンなんとか法は、後追いで慌てて作ったものの、同じ方法で実行する団体は多分でないでしょうから、法があること自体に意味がある程度しか機能していません。
犯罪集団の工夫の方が先行する傾向があるので、新たに工夫された犯罪準備行為を見つけてもこれを規制する法律がない場合、検挙出来ない現行法体系では、治安機関は反抗グループが現実に犯罪を実行するのを待っているしかないことになります。
仮に法で事前指定した方法でテロ組織が準備したとしても、最近のテロに関しては、サリン事件や9・11のように瞬時に大規模被害が起きる可能性が高まっているので、実行を待っているしかないのでは社会の安全感を阻害します。
反抗グループが準備する薬品や凶器が法で指定されたものではなくとも、殺人やテロの計画自体が発覚した以上は、どんな薬品を作っているか(不明としても)に関わらず手入れ出来る法律=共謀罪が必要という意見は合理性があるように思います。
これは私がこのコラムを書いていて思いついた程度の事例ですが、国際条約の議論では、私の知らない極秘の情報・・情報機関が世界中で起きたいろんなテロ計画を把握しながら阻止出来なった事例・・計画段階で阻止出来れば、かなり有効と言う事例が大量に(秘密)報告されて議論の対象にされて来たと思われます。
法律家の言う立法事実が現に起きているか否かの具体的議論が、共謀法反対論の議論からすっぽり抜けたまま、立法事実もないと断定的に主張されています。
このように具体的な議論を抜きにしたままの共謀罪反対論者の意見によると、日本には、共謀段階で処罰しなければならないような立法事実がないのに、外国の都合に強制されているかのような主張になります。
しかし日本のサリン事件発生こそ、上記のように犯罪実行前でもこの計画が分れば、共謀罪処罰規定がないとどうにもならない重要な事例の1つとして世界中を震撼させた・・世界に先駆けた立法事実だったのではないでしょうか?
アメリカの9・11事件以降過激テロ組織「イスラム国」等の台頭で、武器の準備をしなくてもゲリラ要員募集をしていて、これに応募していた北大生が出国寸前であったことが最近分ったばかりです。
殺人行為をやってくれる人の募集や、犯罪行為の仲間募集をネットでやっていて、これに応じて殺人実行した事例も出ています。
これらを野放し・・ネット公開しているのを警察が把握していても「犯行計画を練り上げるのは許されたことだから自由にやっていなさい」と凶器等を準備していない限り殺人行為実行まで放置しておいて良い訳がありません。
ただし、私は一般の弁護士でしかなく、その道のプロではありませんのでプロから見れば、それはそれで別に検挙する法律手続があるから共謀罪が不要と言うのかもしれません。
このコラムで繰り返し書いてきましたが、私は弁護士と言うだけでそれぞれの専門家から見れば素人ですから、素人的疑問を書いているものに過ぎず、学術論文ではありませんのでそのつもりでお読み下さい。
世の中は素人の方が多いのですから、共謀罪法案に反対している委員会・・プロ集団・・日弁連が世論に訴えようとしている以上は素人弁護士にも分るように主張して欲しいものです。
近代刑法の精神のどこが危険に瀕するのか、人権擁護のために対応努力すれば足るのか対応不能かなど具体的に書いて欲しいものです。

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