弁護士会の政治活動4

北朝鮮や中韓あるいは、共産党の主張はその立場の主張と国民が割り切って聞いているので、それはそれで良いのですが、朝日新聞の誤報または捏造記事問題で分るように、中立であるべき団体が偏っているのではないかと社会から思われてしまうとその組織の発言力にとって致命傷になります。
日弁連が偏っているのではないかと思われてしまうと人権擁護に直接関係のありそうな法案に関する絶対に必要な意見まで、世間が信用しなくなってしまうリスクがあります。
10月18日「政治運動と中立組織」で書いたように、教育者は教育論に関する周辺政治に関心を持ち運動するのは職分ですし、労働組合は労働条件とその周辺支持に関して同じです。
私がいろんな意見を書くように、弁護士会はいろんな意見の集合体であって、特定政治思想で一致共鳴したことによって集まった結社ではありません。
弁護士会は強制加入団体と言って、弁護士をやるからには道府県ごとに1つしかない(東京に限り3つの会がありますが・・)会に加入しないと弁護士の仕事を出来ないのですから、思想や心情・意見が違うからと言って、弁護士をやめない限り脱退の自由がありません。
この辺が脱退しても教員をやめる必要のない教職員組合や一般的な労組とは本質が違います。
強制加入団体でなければ偏った運動するのがイヤな人は脱退したり、新規加入が減って行きますので自然に自浄作用が働きます。
ところで、弁護士会の多数意見だからと言って、(実際アンケート調査すらしていないので本当に多数か少数かも分りません)少数意見まで同一意見のように一般的(人権擁護とかなり遠い)政治活動を強制的に代弁するのは筋違いな活動です。
ただし人権擁護そのものに関する分野では、その面で学説の違いのような意見相違程度は許されるでしょう。
強制加入団体なのに人権擁護とかなり遠い分野で一方的な政治信条の表明をされるのでは、公式意見と違う思想の会員にとっては、個人の思想信条の自由を侵害されているような不満が生じます。
「じゃあ、裁判すれば良いか」と言うと簡単ではありません。
以下は平成4年末に高裁判決が出たことについての日弁連の発表です。
この後で最高裁判決が出てこの高裁判決が支持されています。
要は当時の反対運動は日弁連として許された範囲の政治活動と言うことでしょう。

日弁連昭和62年総会決議無効確認訴訟判決言渡について

国家秘密法に反対する日弁連の昭和62年総会決議の無効確認と日弁連運動の差止等を求める一部会員からの提訴につき、本日、東京高等裁判所第5民事部(川上正俊裁判長)は、日弁連側全面勝訴の判決を言渡しました。

この判決は、本件日弁連決議と日弁連運動が構成員である会員個人の権利を侵害するものではないという理由で、原告である一部会員たちの請求を全部棄却した本年1月30日付の一審判決を基本的に維持しています。
今回の判決は、その上で、次の点を積極的に認定・判断しました。

弁護士会の活動は、「目的を逸脱した行為に出ることはできないものであり、公法人であることをも考えると、特に特定の政治的な主義、主張や目的に出たり、中立性、公正を損なうような活動をすることは許されない」
しかし、「弁護士に課せられた」弁護士法1条の「使命が重大で、弁護士個人の活動のみによって実現するには自ずから限界があり、特に法律制度の改善のごときは個々の弁護士の力に期待することは困難である…ことを考え合わせると、被控訴人が、弁護士の右使命を達成するために、基本的人権の擁護、社会正義の実現の見地から、法律制度の改善(創設、改廃等)について、会としての意見を明らかにし、それに沿った活動をすることも」、目的の「範囲内のものと解するのが相当である。」
本件総会決議は、「本件法律案が構成要件の明確性を欠き、国民の言論、表現の自由を侵害し、知る権利をはじめとする国民の基本的人権を侵害するものであるなど、専ら法理論上の見地から理由を明示して、法案を国会に提出することに反対する旨の意見を表明したものであることは決議の内容に照し明らかであり、これが特定の政治上の主義、主張や目的のためになされたとか、それが団体としての中立性などを損なうものであると認めるに足りる証拠は見当たらない。」

上記高裁判例は、昭和62年当時秘密保護法に反対運動していたのは「目的を逸脱していない」と認定したものです。
しかしながら注意すべきは、「目的逸脱とは認められない」と言うだけであって「逸脱して」はいけないことが大前提の法理論として定立されたことを重視すべきでしょう。
どんな政治運動もフリーであるとお墨付きを与えたものではありません。

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