生活保護受給者増と窓口強化(感謝の心4)

生活保護受給者増加論に戻ります。
これまで書いて来たように日本経済が悪化している結果、庶民が困っている→生活保護受給者が増えていると言う主張(があるとすれば)に根拠がないことが明らかです。
戦後の混乱期よりも,生活保護受給者が仮に増えているとした場合、日本の生活水準が当時よりも落ちていると考える人は、一人もいないでしょう。
医療機関受診者が多い・・病院での診察待ちが多いからと言って、戦後直後よりも今の方が、大勢病気に苦しんでいる大変な時代だと言う人もいないでしょう。
若い女性が男性よりも健康不安をアンケーとで答える人が多いとしても男性よりも実際には長生きしているし・・、相対的な意識変化の問題です。
洋服が多く売れるから着るものなくて、衣類不足に困っている人が多いとは言えませんし、人気飲食店で列をなしていると飢えに苦しんでいる人が多いことにはなりません。
クルマが昔、年間10万台しか売れず、今、年間400万台売れている場合、昔の方がクルマが行き渡っていたので10万台しか売れなかった・今はクルマを持っている人が少ないから多く売れると言う人がはいません。
生活保護請求者が増えたのは生活が以前より苦しくなったのではなく、遠慮する人が減って権利意識が高まった結果と言うべきでしょう。
生活保護受給が恥ずかしい意識より、権利意識の方が強くなって来て、生活保護請求する人が増えて来るとこれに便乗申請する人も増えて来ます。
大阪では、入国した直後の中国人が大挙生活保護申請した件では、ネットで大騒ぎになった結果、大方が取り下げたと報道されています。
便乗行為・・これを専門に申請援助する商売が増えて来ると、申請があれば自動的に認めるようなやり方を改めて、働く気があるのか援助者がいないのかなど濫用にわたらないかの状況審査を厳しくする窓口規制強化自体を批判するのはおかしいことです。
いろんな取締法規制定の場合、制定後10年程度社会認知を受け定着するまでは、法執行を緩やかにして処罰規定があっても取締をせず処罰しない運用が普通です。
そう言うことを法に書いていないのですが、殆どの法規制はそう言う暗黙の決まり事として運用しています。
極端なことを言えば、法律施行の翌日に違反があるとイキナリ逮捕するようなことはしません。
せいぜい、基準が変わったので今後気を付けて下さいと言う注意程度で終わりでしょう。
消費税導入時も何年間か柔軟対応すると言う申し合わせか国会の付帯決議ががあったように思いますし、帳簿処理能力の低い年間売上高何千万以下の小規模事業者に対しては、別枠の基準を作っていました。
生活保護基準・運用に関してもトキの政治動向に・・世論の動きに応じて法の基準はリアルタイムに変更出来ませんので・・大災害があると緩めに運用したり法改正までの間、運用基準に差が出るのは当然です。
リアルタイムでの法改正は不可能ですから、日々〜半年単位で世論動向に従って柔軟対応するのは、民意に従う民主主義国家として却って健全な行為です。
窓口対応が国民意思動向に反している場合は民主主義精神違反ですが、国民動向そのままの場合には、国会決議がないと言う形式違反であって真の意味の国民主権・意思に反していることにはなりません。
緊急事態で上司の決裁を得る暇がなくて部下が専決した場合、あとで上司から、「良くやってくれた」とほめられるか、間違っていると叱られるかの違いに似ています。
刑事件の場合、処罰の必要性が分って国会上程中でも、まだ処罰法が出来ないうちに先取りして処罰するのは罪刑法定主義に反して違反ですが、民事ではそうとは限りません。
この窓口運用基準のサジ加減が濫用事例の増加により、従来基準より厳しくなったことが法(または内規)の範囲内の修正変化か、法基準を逸脱しているかどうかは、最終的に裁判で決着することになります。
権利と恩恵のテーマに戻ると、国会通過・法(個人企業であれば経営者が許可した場合)になれば、その受給は権利であることは法形式的にはそのとおりですが、権利の始まりが、みんなの好意・善意で決めた技術的な概念に過ぎないと言うことを無視出来ません。
あまり権利、権利と言い募り、周辺事例の請求が増えると税負担する方がイヤになって、世論動向がもう少し制限すべきと言う方向になります。
保険のばあい、相互扶助の精神で成り立っていますから、怪我や病気で働けずしかも医療費がかかる可哀相な場合、健康な人の持ち寄った保険金で低廉な価格で医療サービスを受けられるに過ぎません。
言わば・・保険や社会保障制度は助け合い精神で維持出来ているのですから、不当に制度利用するようなこと(乱診乱療)が続いた場合、保険制度の信頼が崩れます。
そう言う意味では本来の権利とは違った脆弱なものですから、感謝の気持ちがなく一方的権利主張が増えて来ると、「そうだ!難民しよう」と言うような批判的意見も増えて行きます。
ドイツ等で難民が過大な「権利」主張を始めると、元々の国民の反発が広がり始めたのは当然です。
日本では、自分を弱者と言う範疇に入れると無茶な主張しても良いかのような風潮・・言葉狩りに始まって・最近強まってきました。
行き過ぎた要求に対する批判をすると、人道に反すると言って報道界で袋だたきに遭う・・非人間扱いされて抹殺されてしまう・・言論封殺が続いてきました。
日本だけではないのかな?マスコミ・文化人?の行き過ぎたキャンペイン→言論封殺に対する反動が世界中で始まっています。
在日朝鮮人に対する行き過ぎた優遇批判が活発になったのも、(行き過ぎた優遇かどうかは知りませんが・・聖域にせずに議論の対象にすることは、民主国家においては良いことです)その流れの一環と言えます。
西欧で発達した難民に対する対応も、人道主義かどうかと言う観念よりは現実に即した冷静な議論が出来るようになるでしょう。

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