法網をくぐる1(法技術に頼る弊害1)

不法収益を手に入れている暴力団を追いつめるために、条例によってやんわりと一般取引からの閉め出し手法で迫って行った我が国の手法は、ソフトで鮮やかでした。
元々江戸時代の村八分だって同じで、学校教育では人権侵害の面ばかり習いますが、刑事処罰のバラエテイーがなかった時代には、(追放等の刑罰の種類を以前紹介したことがあります)死罪や追放・あるいは入れ墨程度しか処罰方法がなかった時代には、微温的で(・・村八分の場合、仲間はずれにするパターンもいろいろな段階・・子供の遊びは良いとか寺子屋を休むことはないとか祭りや法事参加・・村の道路や灌漑設備普請の義務を免除しない=共同作業参加で事実上息抜きになるなど)合理的な手段でした。
上記金融取引全面禁止は、個人責任主義の本家とされているアメリカ主導でマネーロンダリング禁止徹底のために世界的に広がって来た仕組みの一環であり、世界的潮流にもあっていて人権侵害と言う批判も難しそうです。
ロシアのクリミア侵攻に対して欧米諸国がとっている金融制裁も同じ手法です。
表向きロシアは侵攻を否定していますが、覆面した軍が侵攻してウクライナ正規軍を圧倒した上で、法的には住民投票によるロシア併合と言うやり方で超形式的に見れば合法的ですが、こう言う鉄面皮なやり方がまかり通れば世の中正義を信じる人がいなくなります。
日本で言えばヤクザ組織の犯行が見え見えでも、幹部が関与した証拠さえなければどんな裁きも受けないのと同じ「証拠主義」の悪しき結果がまさにクリミア・ウクライナ東部で起きています。
これを放置出来ないのでロシアが鉄面皮に知らないと言い張っても国際社会は経済制裁に乗り出しました。
日本はアメリカのような国際的に強力な強制システムを自己だけでは構築出来ませんが、アメリカに協力する形で指定暴力団の金融取引禁止をすることが出来ますし、逆に違反するとアメリカでの金融取引から閉め出されてしまうので、国際金融取引しないとやって行けない金融業界・暴系関係業界では、事実上の強制力が生じています。
アメリカは中国に対して、サイバーテロ容疑・・これも鉄面皮に中国はシラを切っていますが、中国に対して経済制裁することが出来ない代わり陰に陽に対中国敵視政策(村八分の弱い段階です)に切り替えています。
以上見て来たように、集団・組織利用の場合、個人責任法理ばかりでは法網をくぐる違法行為が横行するので、集団も相応の責任を持って貰うために、(テロを手始めにして)世界中が工夫し始めて数十年経過しています。
個人行為に対する集団責任帰属制度は今のところまだ犯罪集団限定ですが、個人法理と証拠の有無ばかり強調していて実行犯人周辺しか規制出来ないで放置しているのでは、世界秩序が守れない・・自国秩序も守れない時代が来ていることが明らかです。
10日ほど前に、アメリカが何百万人分の公務員情報がサイバーテロで流出したと公表した際に「中国のレベルの高さには敬服する」と皮肉を含めた発表をしながらも、中国政府関与とは言い切りませんでした。
この種の防御力では、世界最高水準にあるアメリカでさえも、サイバーテロの発信元が中国から来ていることまで分っても、(中国政府ダミーがやっているとほぼ分っていても?)断定出来ない・・実態を表しています。
国際関係では、重要証拠・拠点が相手の領域内にあるので、強制捜査が出来ない点をロシア(クリミアに展開した覆面部隊を逮捕することが出来ません)も中国も利用しているからです。
大きな仕事を達成するには集団・組織行動が中心の時代に「証拠のある個人だけ処罰」し、幹部その他構成員が関係している「証拠や法律さえなければ何をしてもいい」と言う(正義の基準など無視する)価値観が広がり過ぎています。
実は証拠がないのではなく証拠法則上当局が証拠収集出来ない面が多々あります。
あるいは法網を巧みにくぐれば良いかのような風潮も問題です。
我が国の民事事件で言えば、武富士事件のショックは大きなものがありました。
武富士創設者長男の所得税裁判に端を発して、国税庁が海外に絡んだ課税に関する裁判で負け続けていると言われています。
世界的に問題になっている世界企業の課税逃れ・・最近では世界的に租税回避問題が大問題になっていますが、根底には、「法網さえくぐれば結果の不道徳性には関係がない」だろう式の公然たる動きに世界中の国民が疑問を持ち始めたことになります。
租税回避やクリミヤ併合をきっかけに、法と道徳の基本に立ち返る必要性が再認識され始めたと言えるでしょう。

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