憲法違反の疑いと国会議員の職責2

仮に与野党で国益上集団自衛権が必要があると合致した場合でも、政府案をどこまで修正すれば妥協出来るかなどはその次の問題です。
必要性があるという合意が出来れば、野党の言う憲法の枠内に収まるように修正合意する協議もあるでしょう。
維新の会の修正案は・報道程度で詳細を知りませんがこの範疇に入るように見えます。
中韓の脅威は理解出来るが、この際とばかりに国際貢献・・遠いアフリカや中東の方まで含めるのは?どうかと言う意見もあるでしょう。
これに対して、科学技術の発展は日進月歩であって、地球の裏側でも我が国の存亡にかかわる事態が起きないとは限らないから、場所で限定するのは間違いだと言う意見もあるでしょう。
こう言う具体的な論議を国民が知りたいのではないでしょうか?
修正案の隔たりが大きければ最後は裁決するしかないのであって、その違いの根本は憲法論に基づくか中国の意向に基づくか、家族が反対しているかは内部問題であって議論する必要はありません。
国民に理解を求めるべきは、自分たちはこう言う修正案を出した・・政府与党案はこう言う条項だ・その違いによって国民にこう言う利害の違いが生じる自分たちの方が正しいから支持してくれと言う具体的説明です。
これらの過程を全部省略して「憲法違反を許すな!」「平和を守れ!」「戦争をする国にするな!」「自衛隊員生命危機が生高まる」と言うスローガンではあまりにも短絡的・・飛躍(すり替え)があり過ぎます。
却って緻密な審議が進まず国民には、消化不良・審議不十分の印象を与えている一方で、国民が内容を理解し難くなっている(内容について緻密な質疑がなければ当然です)のではないでしょうか?
刑事事件で言えば弁護士が法廷で「こんな裁判は茶番だ!」と怒号ばかりしていて裁判長とのけんか腰のやり取りばかりしていると、裁判員として参加した人は肝腎の事件の流れや緻密な争点を理解し難くなります。
国民理解が進んでいないとすれば、内容の議論では国民の支持を受けられないので、マスコミと一体になって訳が分らなくする戦略が成功している結果のように見えます。
憲法違反の疑い・・新法制定や改廃に関連して、既存法令との抵触問題・・整合性の必要性はいつでも生じる問題です。
元々既存法令で間に合わない・・無理して規制すると法令違反になるから新法を作り、既存法の改正をしているのです。
国会はその仕事をするためにあります。

憲法
第四十一条  国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

ドローンの新規規制法の必要性が言われている例を見れば、分ることでしょう。
新法に既存法令との矛盾部分があれば既存法の改正も視野に入れて新法制定の必要性を考えて行くことになります。
ですから既存法令に反しているから反対と言うのでは、(既存法の枠内ならば改正する必要がないので)当たり前過ぎてまじめに議論している(国会議員としての職責を果たしている)ことにはなりません。
既存法令を改廃してでも新たな法律を作るべきかどうか(今問題になっている参議院の合区案の例で言えば、その分どこかの選挙区定数削減変更と一体改正になりますので、改廃には常に利害対立がバックにあります)の決断・・政治交渉に努力することが、立法作業に従事するために歳費を受けている国会議員や背後の国民に求められています。
この辺の理は憲法に関しても同じようなことが起きます。
先ず新規法制定の必要性があるかどうかを議論して利害調整努力の結果新設・改廃が必要となった後で「ところで現行憲法に違反しないか」とあるていど検討するのは良いことです。
後に違憲になると困りますから・・もしも違憲と言う意見一致を見たならばやめた方が良いでしょう。
しかし、違憲かどうかの意見が分かれるような場合、この議論にこだわって法案内容の審議に入るのを拒否することが許されるかは別問題です。
すなわち、一般法令に関しては、国会が新法と整合性を持たせるように同時に改廃出来るし、矛盾法令を存続させておくと国民はどちらの法に従って良いか分らずに困りますから、必ず同時に改廃します。
憲法に関しては違憲か否かは事後的に司法権が判断することになっていて国会の権能ではない上に、ご承知のように国会は憲法改正の発議を出来るだけであって、法律のように国会だけで改正出来ませんから、同時改廃権能を持っていません。
このことが大きな違いになっています。
権限外議論の必要性・・意味がないことに時間をかけることが許されるかと言うことです。

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