投資過多社会3(中国の場合)

固定資産投資が6割を超える・・公共工事主体であるから、GDPが上がってもその割に税収が上がらないのは一見当たり前とも言えますが、それも実は違っています。
必要な公共投資・・例えば道路が渋滞していて二時間かかるコースに高速道路を通して15分に短縮すると、投資額の何倍もの生産効率アップ効果が出ます。
峠を越えるのに4〜5時間かかっていたのをトンネル開通で20分で山の向こうに行けるようになる・・目の前の対岸に行くのに遠くまで迂回してクルマで40分かかっていたのが目の前に橋が出来て僅か5分で行けるようになる・利用数さえ多ければ投資の何倍もの生産効率アップになります。
即ちこの分企業業績が上がり税収が上がります。
このように発展・高成長段階ではインフラ投資が盛ん・・その年度には税収が上がらなくとも、経済活性化の恩恵が数十年単位で続く・税収が上がって行くのが普通・・その後はその恩恵を受ける一方ですから税収弾性値が改善します。
成長が落ち込み始めてからの固定資産投資は上記のような必要性の低いもの・・効率の悪い分野しか残っていない結果、一般論として税収が増えない結果になっている可能性があります。
人の乗らない鉄道や人の住まない投機目的のマンション建設などでは、工事期間中の資材供給生産や人手需要効果がありますが、完成後の生産アップに関係がないばかりか、企業にとっては1需要減10のところ生き残るためのお情けで公共工事の受注で3の補給を得ても、死なない程度・赤字の程度が軽くなる程度・・利益が出ないので結果的に税収増に結びつきません。
税収弾性値の下降が注目されているのは、ゾンビ企業への追い貸しや赤字補填的目的の仕事造りを反映しているだけではないかと言う意見でしょう。
仮にGDP統計が正しいとしても無駄な事業に資金をつぎ込んでいるのではその先がありません。
表向き発表しているGDP維持や倒産先送りのために資金を浪費しているのでは却って中国にとって大変な損失です。
昨日紹介した
「成長率の低下に耐え切れず、投資依存型の成長を続けるのか。習近平体制は歴史的な分岐的を迎えた中国経済のかじ取りを任されている」
という 三浦 有史氏の意見は、(13年1月)「無駄な投資をやめる勇気が習近平氏にあるかを問う」ものでしたが、未だに追い貸し的投資を続けている以上・・その勇気・実力がなかったと言うことでしょう。
以前は電力消費量がGDPの伸びに合わないと言われるとこの統計をいじり、今度は、トラック輸送量統計に合わないと言うとこれも・・と次々です。
最近では全人代の後で、マンション時価評価指数?発表が禁止されたと報道されています。
相場下落が始まる報道によるパニック売りを予防するためなどと言われていますが・・。
産業が育っていない地域へ工場誘致した場合に地域の技術基盤底上げ効果に関する以下の論文の最後・・高速道路などの便宜性などで目当てにイキナリ進出した地域など・・60年代以降の大規模先端産業誘致の場合、地場産業興隆や技術アップに結びつかない・・工場に出て行かれればおしまいになる流れを書いています。
アメリカの場合地場産業の集積のない地帯に、鉄鉱石その他資源だけを目当てに大型工場が一気に進出した結果、いわゆるラストベルト地帯やデトロイトなどで町が錆び付いてしまった原因と思われます。
深圳特区などの大規模工場群出現は以下の1ー2に当たるのか、「2.企業誘致型産業振興の限界」「3.変わりつつある国内工場の役割」に当たるのかの関心ですが、もしかしたら他所に逃げられたら終わり・・うまく行かない典型パターンになる確率が高いのではないでしょうか?
以下工場誘致効果に関する論文の部分抜粋引用です。
https://www.iuk.ac.jp/chiken/pdf/regional_studies38/tomizawa.pdf
  地方分工場経済における企業誘致型産業振興の行方
   富澤 拓志
1.地域に定着した分工場
1-1.誘致工場の周囲に地元企業が創業して形成された産業集積
誘致した企業・工場が母胎となって周囲に関連工場や企業が創業し,集積を形成したものがある。例えば長野県の諏訪市・岡谷市の産業集積や坂城町の産業集積などはその例である。・・こうした人材の蓄積は,それまで地域産業を牽引した大企業が破綻したときにも地域産業の崩壊を防ぐ効果を持った。この点で諏訪地域の産業集積の経験は印象的である。諏訪地域では,主力製品が時計,オルゴール,カメラ,プリンタ,産業用機械と時代に応じて変化してきたが,その移り変わりの都度,有力メーカーの倒産や地域外メーカーによる買収等が起こっている。企業の解体・縮小の都度,その従業員の流出が生じたのだが,その従業員から地域内で中小企業を創業する起業者が出現するのである・・略」
「浜松のソフトウェア産業集積は1980年代以降に形成されたが,浜松地域のヤマハ発動機やスズキ自動車など複数の輸送用機械メーカーがこの創生期に顧客として存在したことがソフトウェア製品の開発に大きな意味を持った。
・・略
1-2.多数の工場を誘致することによって外来の工場が主体となった集積
第二のケースは,自治体による積極的な誘致が功を奏し,多数の外来工場が立地したために産業集積が形成された例である。
・・・中略・・・こうして外来の工場群がまとまって立地することによって,地域内の工業系人材が地域に残ることができるようになった。また,同種の技術を持つ中小企業が複数立地しているため,これらの企業に共通の課題を立て,地域全体で技術開発などの具体的な連携・交流活動を作ることもできるようになった。
1-3.集積を形成していない分工場
しかしながら,これらの地域のように,誘致された企業を中核として産業集積を形成するケースはそれほど多くはなく,進出企業が孤立したまま地域内に産業連関を形成しない場合がほとんどである。
2.企業誘致型産業振興の限界
・・・・・略・・1960年代以降製造業,とりわけ機械工業で進展したオートメーションとシステム化という二つの技術革新によって,それ以前の労働者個人の属人的な熟練労働に依拠した生産体系が,管理労働と単純労働とへ分化した。これは,それまで企業内で進められていた分業システムを企業外へ拡大することを容易にし,その結果,それまでの工程に固有の労働能力を必要としない単能的な労働力を分工場,あるいは下請系列工場の形で地域分散的に調達・編成することが可能になった。
・・・これにより,地方に展開する工業の構成が立地選択の幅が広く海外と競合
しやすい量産品の生産機能に集中するという地域産業構造の「純化」(柳井
1996)が生じたのである。・・・・ほとんどの地域では,依然として管理・開発機能を持たず,都市部の管理に服する分工場・下請的な生産機能のみへの特化が続いている。従って,企業誘致による地方の工業化は,地域の産業連関を深化させ産業を発展させることには十分つながらなかった・・。
3.変わりつつある国内工場の役割
・・・分工場経済への転化は,・・・・地方は従来の分工場の進出先という役割をアジア諸国によって奪われつつある。これは,地方で「純化」される生産領域が,アジア諸国が競争力を持つ生産領域とほぼ重なっているからである(関・加藤Op. cit..)。このため,地方が従来果たしてきた量産品の生産機能の受け皿としての役割はアジア諸国に取って代わられつつあるのである。」
以上の日本国内分析を見ると中国が先進国から誘致した先端工場が東南アジアに取って代わられつつある実態と重なっています。
アメリカの既存大工場・ラストベルト地帯も同じ運命にあることが分ります。

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