素人政治の限界4(絡み合っている米中経済)

関税引き揚げは(国民にとっては実質増税ですが)国内税と違いスーパー301条・・大統領令だけで実施出来ることについては、January 27, 2017に紹介しました。
しかも人権団体の標的にならないので、司法の関与もありません。
その代わりに相手がある・・中国に限らず相手国の報復を受ける覚悟がいります。戦前の大強行時にアメリカが高関税いを掛けたので、欧州諸国が報復関税を実施した結果、国際貿易が急速に縮小し、ひいてはブロック経済化=囲い込みの結果→障壁を破るための第二次世界大戦の原因になりました。
現在の中国は経済戦争の相手としてもレーガン時代のソ連とは違い、米中相互に経済関係が入り組んでいるので国民経済に及ぼす悪影響が複雑・・かなり手強い相手です。
中国から安い製品が入らなくなれば国民・消費者が真っ先に悪影響を受けることになるのは周知のとおりですが、消費材に限らず供給側から見れば、サプライチェーンが複雑に絡み合っているのでアメリカ大企業も大きな影響を受ける点が見逃されています。
元々経済規模の小さい北朝鮮やイランに対する制裁とは受ける影響の意味が違います。
中国とアメリカの経済交流規模(アメリカの貿易赤字の45%も占めるから腹が立つと言うのですが、逆にこれ)に比例した影響をアメリカ社会が受けます。
たとえば、アメリカの重要産業である自動車産業の雄・GMの復活は実は中国での現地生産・販売増加によっているほか、フォードも中国で伸ばしていると言われます。
http://www.chinapress.jp/consumption/52242
「報告によると、ゼネラルモーターズ2017年2月の、中国市場自動車販売台数は、2016年同期と比較して0.4%増加し、24万6730台となった。
ちなみに日系車は以下のとおりです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDC03H0Y_T00C17A3TJ2000/
【北京=中村裕】トヨタ自動車は3日、中国での2月の新車販売台数(小売台数)が前年同月比25.1%増の8万1900台だったと発表した。日産自動車も23%増の7万4830台で、マツダも22.3%増の1万5783台となった。今年1月から小型車の購入時にかかる取得税の減税幅が縮小されたが、日系各社は引き続き、減税対象の小型車を中心に好調だ。」
トヨタが25%増で好調と報道されていますが、絶対数で見ると僅か8万台ですが、GMは1社だけで24万6730台です。
フォードもGMを追い上げていると言われますし、アメリカ系企業の存在が如何に大きいか分るでしょう。
http://response.jp/article/2017/01/20/288793.html
「米国の自動車大手、フォードモーターの中国法人、フォードチャイナは1月上旬、2016年の中国新車販売の結果を公表した。総販売台数は、新記録となる127万2708台。前年実績に対して、14%増と2桁増を達成した。」
その他にもケンタッキーフライドチキンや一般報道されていない多くのアメリカ企業が中国での現地生産・売上に頼っている現実があります。
貿易収支だけでなく所得収支を含めてもアメリカの対中収支は大赤字だから?経済制裁合戦ではアメリカが圧倒的有利と言う一般的解説のようですが、タクスヘイブン議論で有名なとおり、実はアメリカ企業は法人税逃れのために海外収益を現地温存していることを考慮する必要があります。
アメリカのデータに直截当たる能力がないので日銀の国際収支計上の説明を見ると、所得収支は「本社に送金されたものを計上」となっていることに注意すべきです。
https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exbpsm6.pdf
「1.B.2.1.1.1 配当金・配分済支店収益
「直接投資家と直接投資企業の間で受払された利益配当金7、および支店の収益 のうち本社に送金されたものを計上します。」
アメリカも同じ会計処理とすれば、GMやスターバックスなどいくら中国で儲けていても本国送金しない限り統計に出ていないことになります。
法人決算では儲けがそのまま帳簿上出ていますので、米国市場での株は上がりますが、送金されないのにどうやって、配当金を払うのか?の疑問です。
素人憶測ですが別の資金勘定・・喩えば、利益送金ではなく現地企業からの貸付金・金融機関を迂回するなどで資金手当てして配当しているのでしょうか。
アメリカの海外純資産は膨大ですから、国際収支だけ見ても実態が分らない・中国で言えばGM・フォードその他企業の対中投資を中国が締め上げる対抗が可能です。
昨年来韓国政府によるサード配備決定に対して、韓国系事業に対する露骨な締め上げが日々報道されています。
ところで、中国進出企業がトランプの対中強行路線に反対かと言うとそうでもない構図が紹介されています。
散々嫌がらせされているので、この際45%関税でドンドン責め立ててこれを引っ込める代わりに、これ以上嫌がらせさせない・・逆に米企業を優遇させるようにギュッと言わせて欲しい期待があるようです。
ちょうどトランプ氏が経営している事業で、中国で申請していた特許だったかが、何年も許可を得られずたなざらしにされていたのが、トランプ氏が当選するとすぐに許可になったように、強面の仲間入りすることによって、中国で優遇されるメリットへの期待らしいです。
これだけ深く入り組んでいる米中決裂はあり得ない・どこかで折り合いを着けるに決まっている・・そうとなれば言わば当初から大きく出た方が得・トランプ氏の取引外交の成果に期待してる関係です。
投資規模で見れば先進国と後進国との関係では、後進国が圧倒的に多くの投資を受けている・・言わばその分を質にとっている関係です。
11〜12年頃までの統計しかアチコチの記事論文に出ていませんが、アメリカにとって対中投資は世界投資の約1、5%前後らしく(欧州が約55%・・内オランダだけでも13%)ので、アメリカにとって痛くも痒くもないかのような書き方が多いですが、お互いに資産凍結になれば、(中国からアメリカへの投資はごく少ないでしょうから)先進国の方が損をする関係です。
中国の持つアメリカ財務省証券の凍結をアメリカがやれると言う意見がありますが、これは準戦争状態になってからですが、中国の手段である進出企業に対する嫌がらせは(現在韓国に対する嫌がらせが露骨ですが・)準戦争状態にならなくともじわじわ「合法的」にやれます。
http://www.japan-world-trends.com/ja/cat-1/post_1098.phpによると、以下のとおりです。
「1)米国の対中直接投資残高は2010年末で604億5200万ドル。2000年に比べて5.4倍(この期間、全海外に対しては3.0倍)に増えているも、全海外に対する直接投資残高の僅か1.5%(日本に対しては2.9%)に過ぎない(但し増加分の中での比重はもっと大きい)」
上記は2010年までの投資残ですが、その後米中関係は日中関係のような反日暴動もなく、安定的に投資が続いていますので、今ではもっと投資残が大きくなっているでしょう。
アメリカにとって僅か1、5%と言っても絶対額が大きいから、上記のとおり604億ドル・・約6兆円以上も投資している・もしも米中紛争がエスカレートしてお互いの意地の張り合いで、後に引けないような紛争になると、中国進出企業だけで被害を受ける業界が6〜7兆円規模もある・・サプライチェーン関連の米国内企業も無数にある・・その分米国内で取引解決を求める裏の動き・ロビー活動が活発化するでしょう。
こうなって来ると、国内政治は予算が必要なために議会との協調(利害調整)が必要なように対外交渉も国内産業利害の縮図である点は同じであることが分ります。

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