ウクライナ危機13と中国の学習6(価値観外交の限界)

経済制裁の場合交易関係があるからこそ、その杜絶が相手の打撃になるのですから、被制裁国の交易相手になっている制裁側の国や企業にとっては、その数字の比率どおりの(輸出している国や企業は顧客を失うし、輸入している企業は仕入れが出来なくなります)損害が、(国や同盟国全体では1割の比率でも)特定企業や関係の深い国に集中して生じます。
西側全体とロシアの経済規模格差は10対1以下でしょうが、ウクライナ/ロシアで言えば全面禁輸になっても、アメリカや日本はあまり困らないでしょうが、関係の深いロシアと西欧では大損害が生じます。
アメリカは自分の損害極小のママで、西欧の犠牲で対ロシア制裁しようとするから、うまく行かないのです。
ロシアの例で分るように仮にアメリカが日本の味方をして中国への経済制裁を発動した場合も、その程度が重要です。
中国は今のところ中国が対日軍事行動に出れば、アメリカによるある程度の制裁発動が仕方がないとしても、どの程度に食い止められるかについてクリミア/ウクライナ危機の帰すうを見極めているところです。
現在のウクライナ危機に対するG7の対ロシア制裁は、政府要人に対する渡航禁止と資産凍結くらいしか出来ていません。
それでもロシアは東ウクライナに対する特殊潜行員による事実上の侵略行為をやめないので、追加制裁発動予定と28日の新聞では報道されていますが、上記要人の範囲を少し広げる程度しか出来ない様子です。
ほとぼりが冷めるまで短期間アメリカや西欧諸国へ旅行出来なくとも、ロシアは殆ど困らないから既成事実をドンドンドン積み上げて行くのではないでしょうか?
こんな及び腰の制裁しか出来ないのは、G7側で自分の受けるダメージを少なくしたい要望が強いからです。
ロシアに輸出したり進出していて関係の比較的大きい西欧諸国・特にドイツなど関係の深い順に制裁強化に反対したり規模縮小を主張する立場で意見がまとまり難くなっています。
オバマ大統領の指導力低下の原因は、個人的資質としての相手国との交渉能力レベル以前に自陣営内で結束をさせる根回し能力不足が下地にあります。
TPP交渉がまとまらないのも、大統領の決断だけではどうにもならない・・議会から通商交渉決定権能を獲得できないままで交渉しているのですから、言わば委任状を貰えるか否か不明の人物が交渉を始めているようなものです。
身内を説得できない人物が、外国・相手を説得できるのかと言っても良いでしょう。
日本総理決断は本当の決まりですが、オバマが総理と折角合意しても、「それから議会関係者と国内交渉しますので結果は分りません」というのでは、こちらの総理と相手の課長か主任クラスが来て交渉しているようなもので、格が違い過ぎて話にならない状態です。
国内意見をまとめられないから対外発信能力が意味不明となるし、G7でも、他の参加国をまとめ切れないから、効果の少ない要人の資産凍結程度しか決められないのです。
アメリカの国力低下があって、西欧諸国がアメリカと協調しないでわがままを言ってアメリカの足下を見ることもあるし、西側諸国をまとめ切れないオバマのふらつき・・マトモな決定をできないだろうとロシアが多寡をくくって足下を見た行動に出ていることになります。
対日暴動以来、中国は日本からの基幹部品輸入に頼る弱点回避のために、ドイツを引き込もうとしていますが、ロシアに食い込んだドイツがアメリカの制裁に対するブレーキ役になっている点を見れば、日本離れ→欧州引き込みの政策判断は正しいと自信を持ったでしょう。
仮に中国の侵略行為が始まったときでも、アメリカ企業も多く中国へ進出していますので、彼らも中国の味方となってアメリカ政府に制裁発動をやめるように・・やるにしても、骨抜きになるように働きかけるでしょう。
アメリカやドイツその他の国が中国に進出を増加して行くと、関係の深い比率に応じて制裁反対意見が強くなります。

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