「不法滞在は信号無視程度」か?1

新淑玉氏の発言?に関するウイキペデイア紹介記事の続きです。

「不法滞在と言うのは凶悪犯罪ではない。信号無視程度の人」[41]

これも意味の違う言葉をすり替えるだけではなく、法道徳無視の看過しがたい意見です。
「信号無視程度の人」とは、「法が守ろうとしている法益・性質の違い」を問題にしない乱暴さがある上に、処罰の重さだけに着目した意見です。
「信号無視の処罰を受ける程度の軽いものだ」という意味でしょうか?
しかし、結果だけで見ても、同程度ではない・・実定法の刑罰の重さでは大違いです。
法制度のありようが国民の健全な法意識を表しています。
先ず、道交法(信号無視は懲役3月または罰金5万円以下)、出入国管理難民認定法(3年以下懲役or禁錮または300万円以下)を紹介します。
道路交通法

第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
一 第四条(公安委員会の交通規制)第一項後段に規定する警察官の現場における指示又は第六条(警察官等の交通規制)第四項の規定による警察官の禁止若しくは制限に従わなかつた車両等の運転者
一の二 第七条(信号機の信号等に従う義務)、第八条(通行の禁止等)第一項又は第九条(歩行者用道路を通行する車両の義務)の規定に違反した車両等の運転者

出入国管理及び難民認定法 (昭和二十六年政令第三百十九号)

(上陸の拒否)
第五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
九 次のイからニまでに掲げる者で、それぞれ当該イからニまでに定める期間を経過していないもの
イ 第六号又は前号の規定に該当して上陸を拒否された者 拒否された日から一年
ロ 第二十四条各号(第四号オからヨまで及び第四号の三を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者で、その退去の日前に本邦からの退去を強制されたこと及び第五十五条の三第一項の規定による出国命令により出国したことのないもの 退去した日から五年
ハ 第二十四条各号(第四号オからヨまで及び第四号の三を除く。)のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者(ロに掲げる者を除く。) 退去した日から十年

(退去強制)
第二十四条 次の各号のいずれかに該当する外国人については、次章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる
二の二 第二十二条の四第一項(第一号又は第二号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者
二の三 第二十二条の四第一項(第五号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者(同条第七項本文の規定により期間の指定を受けた者を除く。)
二の四 第二十二条の四第七項本文(第六十一条の二の八第二項において準用する場合を含む。)の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間を経過して本邦に残留するもの
四の二 別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者で、刑法第二編第十二章、第十六章から第十九章まで、第二十三章、第二十六章、第二十七章、第三十一章、第三十三章、第三十六章、第三十七章若しくは第三十九章の罪、暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪、盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第十五条若しくは第十六条の罪又は自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第二条若しくは第六条第一項の罪により懲役又は禁錮に処せられたもの

   第九章 罰則
第七十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
三 第二十二条の四第一項(第一号又は第二号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者で本邦に残留するもの
三の二 第二十二条の四第一項(第五号に係るものに限る。)の規定により在留資格を取り消された者(同条第七項本文の規定により期間の指定を受けた者を除く。)で本邦に残留するもの
三の三 第二十二条の四第七項本文(第六十一条の二の八第二項において準用する場合を含む。)の規定により期間の指定を受けた者で、当該期間を経過して本邦に残留するもの
四 第十九条第一項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められる者
五 在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(第二十条第五項(第二十一条第四項において準用する場合を含む。)の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者

上記の通り、刑罰の重さでは信号無視は最高刑でも懲役3ヶ月にすぎませんし、罰金5万円から起訴猶予まで幅広い対応が予定されていますが、不法滞在は懲役・禁固3年以下で最高刑が約32倍も重く罰金では、5万対300万でまるで違っています。
不法滞在では多くは執行猶予ですが、その代わり判決言い渡し直後に入管に収容されて国外強制送還になります。
一般事件・外国人の不法滞在者の強盗や窃盗事件の刑事裁判が先行している場合には、その判決言い渡し時に入管職員が法廷に待機していて執行猶予判決言い渡し、即身柄拘束が解かれるとその場で、入管当局が強制収用するシステム運用になっています。
例えば以下の8月30日現在のニュースを参考にしてください。
https://www.msn.com/ja-jp/news/national

外国人:借金返せず不法残留 留学生の過酷な現実
2018/08/30 09:52
ベトナム人の女子留学生(25)が先月19日、奈良地裁で出入国管理法違反罪(不法残留など)で懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を受け、1週間後に母国に強制送還された。

最高刑懲役3年以下は刑法の住居不退去罪と同じです。
刑法

第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

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