年金赤字8(年金赤字の基礎4)

世代間扶養説の誤りから年金赤字問題に戻ります。
第2の③長寿化問題はどうでしょうか?
これも9月4日に書いた第1の①と同じく経営責任の問題であって、加入者の責任ではありません。
受給期間がどれくらいになるかの見通しを立てて、納付期間・納付金額を決めてこれによっていくらの支給が出来るかを経営者が考えて消費者に提案することは経営責任の問題であって加入者の責任ではあり得ません。
以上のように見て行くと現在の年金赤字の主要問題は、長期積立金の資金運用が予定通り高利回り運用出来なかったことと、受給者の長寿化=受給期間の長期化と次世代の加入者減及び収入減少による加入者の納付金の低さにあります。
今朝の日経朝刊でも厚生年金基金の解散を容易にする方向で検討と出ていましたが、民間基金の場合で言えば、世代間扶養などは関係(アカの他人同士で、タマタマ同業種というだけで30〜40年前の先輩の生活面倒を見るなどの理念)が遠過ぎて考えられない制度ですから、基金の赤字化は少子化の問題ではなく設計のミス性が明らかです。
業種別に見た場合、社会構造の変化で次々と業種ごとの栄枯盛衰があるのが普通ですから、(石炭産業から石油産業へ、繊維産業から電気機器へなど業界の変遷が激しいのが普通です)1つの業界で何十年後の業界人が先輩の年金を負担出来ることなど論理的にあり得ません。
(50〜100年も羽振りよく続く業界は稀な例と言うべきでしょう・・・金箔その他伝統工芸のように細々とならば、今でも続いていますが・・)
この結果、土木建設、水道事業・管工事など業界別年金基金が業界縮小の結果、あちこちで年金基金存続の危機に瀕しています。
これらはすべて、上記のとおり制度設計に無理があった・・あるいは約束に反して食いつぶして来た経営責任の問題であって次世代加入者が少ないか、各人の納付金が少ないかの問題ではありません。
その責任問題をうやむやにするために「インフレよ再び・・加入者増よ再び!」と願望して騒いでいるのが現在の官僚とその意を受けたマスコミと言うところでしょうか?
国内製造業が雇用を守ると言いながらも、拡大傾向にある好調企業であっても増産分を海外展開するしかないのが時代の趨勢ですし、韓国、中国等に負け始めている企業の場合従業員を縮小する一方ですから、掛け金を納付すべき加入者が減少して行くのは当然のことで少子化とは関係がありません。
何回も書いていますが、(非正規雇用を失業者にカウントしないにもかかわらず)失業率が高止まりしている現状からしても明らかなように少子化=労働者不足で企業が海外展開しているのではありません。
少子化以前に企業の雇用者数が減少しているので、厚生年金の納付者が減少して企業年金等どこもかしこも火の車になっています。
上記の各問題点は経営設計ミスの問題であって、加入者の責任ではありません。
民間生命保険会社を例にして考えてみましょう。
生命保険加入者が想定外に長寿化し続けたために生保各社の大もうけの時代が続きました・・。
これが想定外大災害等で平均より早く死亡したり、想定外金利下落によって運用益が予定に届かなかったり、年金保険契約で言えば、加入者が想定外に長生きして保険会社経営が赤字になったときには国民の責任というのでは一方的です。
古くからの加入者も現在の加入者もどちらの責任でもありません・・想定ミス・安易な年金約束をした経営責任の問題であることは疑問の余地がないでしょう。
政治家が実現出来ない公約を掲げて当選したようなもので、政治家は公約を実現出来なければ責任を取るべきです。
年金は誰が責任をとるべきかですが、当時の政治家や企画者は既に皆鬼籍に入っているし官僚主導でしたから、結果として官僚制度そのものに責任を帰すしかありません。
9月12日に書いたように年金制度は、政府が独占運営する必要がない・・民間・民営化中心に進んでいるのが、官僚の責任の取り方と言うことでしょうか?
政府の年金だとせっかく生活費を切り詰めて積んでいても、やれ障害者が可哀想だ、孤児は可哀想だとなって、次々と人の積んだお金を流用(公的な使い込みです)してその結果赤字だと言われるのでは、安心して預けておけません。
民間保険だと、可哀想な人がいたので保険加入していなかったが死亡保険金を払ってやった・・掛け金を払わないが年とって食えないのでは可哀想なので年金を払ってやっているから赤字になってしまったので、皆さんの保険金支払を減らしますと言って加入者が納得するでしょうか?
民間生保の場合そんなことはあり得ないので、却って安心です。
政府の最低生活保障は税や国債による社会保障費として統一し、これよりも良い生活をしたい人は個人的に預貯金を蓄え、あるいは保険会社の年金に加入すればいいことです。
政府は社会保障に特化して年金制から撤退すべきです。
現在生活保護水準は、国民年金を満額もらうよりも高くなっています。
こうなって来ると、国民年金を掛けるメリットのある人は、それ以上に老後資金を蓄えることが出来る人に限られ、預貯金なしに年金だけを頼りに生きる人にとってはその不足分を生活保護で貰うのでは、1円も掛けて来なかった場合と変わりません。
現役でギリギリの生活(それ以外に老後資金を蓄える能力のない)をしている人にとっては、国民年金掛け金を苦労して払う意味がなくなっています。
最低生活は政府が保障してくれる・・より良い老後生活=プラスαを求めるだけならば、民間保険に委ねれば充分ではないでしょうか?
従来の社会保険庁(解体したとは言えほぼ同数の役人が別の名義で働いている筈です)だけでも、膨大な役人や公的施設を利用していますが、これら全部不要になります。

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