夫婦財産制2(持参金1)

 

庶民レベルまで豊かになって一定の資産が形成されたとき(持ち家政策によるマイホームを獲得した場合)でも、原則夫婦対等の共有が推定されます(・・両性の本質的平等原理の判例上の帰結です)から、この夫婦財産制に関する大きな節・・大量の条文が何故あるのか利用価値がなくて不思議な感じを抱く人(一般の人には関係がない・・条文を見る学生や法律家だけですが・・・)がほとんどでしょう。
しかし、我が国の民法とは市民の法(Code civil des Français)の翻訳であり、(我が国は都市国家の経験がなく市民=有産階級と言う概念がなかったので、ただの「民」法としたことになります。
ちなみに我が国では、シチズンの概念がなかったのでこの翻訳として市民と言う漢字を持って来たのですが、このうち「市」だけ抜いた「民」の概念が昔からあったので、民法として無産階層も含むとしたのは我が国の独創です。
天皇家以外は民(たみ)と言う区分けからすれば、民法と翻訳したのはあたっていますが、フランスなどで言うブルジョワジーやシティズンを何故我が国の社会で「市民」の翻訳語が幅を利かすようになったのかこそ、問題かもしれません。
市とは、マーケットのことですから、我が国の市民とは、都市住民と言う程度の意味でしかありませが、彼の国では、教養と財産のある名望家のことでしたから、大分ズレています。
ただし、今では欧米でも言葉のインフレで、生活保護所帯でも市民civil・citizenと言っているかもしれませんし、citizenshipを数十年前から、市民権とは言わずに公民権と翻訳する事例が増えています。
市民の法と翻訳すれば、都市住民以外に関係のない法律となってしまいますので、ここでは、明治初め以降最近まで流通していた翻訳語の妥当性について書いています。
たまたまその後の進展で世界中が大衆社会化して来たので、有産階級の市民だけの法から無産の庶民までが法の担い手になる時代が来たので、意外に先見の明があったことになります。
この偶然の結果、わが国の民法は明治30年から現在まで命脈を保っていられたとも言えますが、それでも(月賦販売法・貸金業法・消費者法など特別法に頼るのは)限界が来たので、(会社の規模が大きくなって、従来の本社ビルでは入りきれなくなってあちこちのビルに蛸足のように散らばっている状態を想像して下さい)現在民法の大改正論議・・骨格から作り直す論議が進行中です。
話を夫婦財産制に戻しますと、市民=ブルジョワジー・資産家がそれぞれ先祖伝来の資産を持ち寄って結婚するための法であったとして見れば、婚姻制度の始めに夫婦財産契約関係に多数の条文が用意されているのは、企業で言えば共同企業体を構成する契約の原始的なものですから、歴史的遺産としてならば理解が可能です。
と言う事は、市民社会でない(大衆社会です)我が国で、今でも大量の条文を何故温存しているの?と言う疑問になります。
今は持参金など殆ど考えられない大衆社会化が進み更には女性の社会進出が活発になって結婚後の稼働を中心に自己資産を持つようになっています。
これからは、結婚前に有していた(親から貰った)静的資産の財産契約ではなく、結婚後に獲得する夫婦資産の有り様を別に考える・・制度化する必要のある時代です。
婚姻後の年金分割制度はその一事例と言えるでしょう。
年金分割については、12/19/06「離婚と年金分割制度6(一部分割のメリット2)」前後で連載しています。

民法親族編旧規定
(戦後改正されるまでの条文)
第三節 夫婦財産制
     第一款 総則
第七百九十三条 夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル
第七百九十四条 夫婦カ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタルトキハ婚姻ノ届出マテニ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

第二款 法定財産制
第七百九十八条 夫ハ婚姻ヨリ生スル一切ノ費用ヲ負担ス但妻カ戸主タルトキハ妻之ヲ負担ス
2 前項ノ規定ハ第七百九十条及ヒ第八章ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第七百九十九条 夫又ハ女戸主ハ用方ニ従ヒ其配偶者ノ財産ノ使用及ヒ収益ヲ為ス権利ヲ有ス
2 夫又ハ女戸主ハ其配偶者ノ財産ノ果実中ヨリ其債務ノ利息ヲ払フコトヲ要ス
第八百条 第五百九十五条及ヒ第五百九十八条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百一条 夫ハ妻ノ財産ヲ管理ス
2 夫カ妻ノ財産ヲ管理スルコト能ハサルトキハ妻自ラ之ヲ管理ス
第八百二条 夫カ妻ノ為メニ借財ヲ為シ、妻ノ財産ヲ譲渡シ、之ヲ担保ニ供シ又ハ第六百二条ノ期間ヲ超エテ其賃貸ヲ為スニハ妻ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス但管理ノ目的ヲ以テ果実ヲ処分スルハ此限ニ在ラス
第八百三条 夫カ妻ノ財産ヲ管理スル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ裁判所ハ妻ノ請求ニ因リ夫ヲシテ其財産ノ管理及ヒ返還ニ付キ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
第八百四条 日常ノ家事ニ付テハ妻ハ夫ノ代理人ト看做ス
2 夫ハ前項ノ代理権ノ全部又ハ一部ヲ否認スルコトヲ得但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

現行民法
第3節
夫婦財産制
第1款総 則(第755条~第759条)第2款法定財産制(第760条~第762条)
(夫婦の財産関係)
第755条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
(夫婦財産契約の対抗要件)
第756条 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
以下省略

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