相続制度改正2(法定相続制の廃止)

世襲を基本とする経済社会状況下で成立した明治31年民法では戸主による家産の自由処分権が今よりも厳しく制限されていたかと思いたい・・・遺言制度がなかったかと思う人が多いでしょうが、意外に条文を見ると現行法とほぼ同内容の遺言方法と遺留分制度が記載順も同じで規定されています。
明治31年民法でも旧1060条以下で現行法とほぼ同内容の遺言制度が規定されていて、1130条以下には現行法同様の遺留分制度が規定されていました。
直系卑属の家督相続人の遺留分が2分のⅠ(現行の子供の遺留分と同じ)直系卑属以外の家督相続人が3分のⅠ(現行の直系尊属と同じ)で考え方は同じです。
遺留分減殺請求権も行使しない限り考慮されないし、行使出来る期間も現行法と同じです。
廃除(現行法も同じ)しない限り法定相続人を変更・資格喪失出来ない制度もそっくり同じです。
旧975条以下が廃除の規定で、これも現行法とほぼ同じ内容です。
次の旧976条では遺言で廃除を書いておけば遺言執行者が裁判所に廃除請求出来ることなっていて、この場合には法定の事由が不要・・遺言者の意思次第で効果が生じるかのような書き方ですが、これは裁判所への請求を遺言で表明しておけると言うだけで遺言執行者は裁判で前条の廃除事由を証明しないと効力が生じないことになっています。
私の事務所では廃除の遺言を作られていて、(例えば次男に全部やると書いた遺言のついでに長男その他の相続人を廃除すると書いてある遺言が増えてきました)廃除の効力を争ってことなきを得た事件を、ここ数年〜5年ほどの間に2件担当しました。
現行民法を紹介しておきましょう。
内容及び条文の記載の順序も明治31年公布の旧規定とほとんど同じです。
法令全書で旧条文の写真が見られるのですが、コピーペースト出来ないのでそのまま掲載出来ませんが、(推定家督相続人が推定相続人に代わっている程度の文字の変更が中心ですので、遺言・遺留分制度は次のコラムで再紹介します)今回は廃除に関する現行法の条文を紹介しておきましょう。
(旧規定の原文をご覧になりたい方は法令全書をサーチしてみて下さい)

民法(現行)
第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条  次に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条  遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条  被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

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