憲法改正・ 変遷2(非嫡出子差別違憲決定)

12月16日の夫婦別姓合憲判決は、まだ判決文を入手出来ませんので昨日私の推測を書きましたが、数年前に出た非嫡出子の相続分差別違憲判断の決定文は公表されていますので、憲法判断に関する最高裁の考え方を参考にするために以下紹介していきます。
非嫡出子の相続分差別を合憲とする前最高裁判決が出た事件当時(当然のことながら、実際の相続開始は、最高裁に行く何年も前に起きた事件です)頃にはまだ社会状態から見て不合理な差別ではなかったが、今回の事件の起きた平成13年頃には、既に違憲状態になっていたと言う・・何十年単位の時間軸で見た・・社会意識の変化を認定した結果の判断が示されています。
この判断方式によれば平成7年に合憲判決が出たときには、まだ非嫡出子差別を許容するのが憲法の内容であったが、憲法がいつの間にか変遷し・・遅くとも平成13年に変わっていたことが平成25年になって、最高裁決定で認定されたことになります。
仮に日本国憲法が占領軍に強制されたものであるにしても、強制を理由に直ちに無効にすることが出来ない・・イキナリ反古するのは対米国外交的にも得策ではないし、乱暴過ぎます。
日本人の社会意識が変遷すれば自動的に憲法で許される範囲→許されない範囲の境界が変わって行く・国民投票で憲法を一挙に変えて行く必要がないと言うことではないでしょうか?
非嫡出子差別違憲・・夫婦同姓合憲の両判最高裁判断を見れば、(憲法の意味を社会の実態を無視して先進国の解釈や哲学をそのまま持ち込むのではなく)社会意識の変遷に合わせて、順次合理的に決めて行くべきと言う私の意見と同じであると思われます。
民度に応じた政治が必要と言う意見を、2015/11/29「民度と政体11(IMF~TPP)」まで連載してきましたが、今朝の日経新聞22pに民俗学者梅棹氏の論文の考え方によって、内部からの自然発展段階を経ている西欧と日本以外・・外部思想輸入による中国やロシア等では、発展の仕方を違った視点でみることが重要である旨の、経済学者渡辺利夫氏の着眼が掲載されています。
ちなみに梅棹氏は「知的生産の技術」などで一般に良く知られた碩学で、同氏のスケールの大きな思考に感激して大阪の万博公園内の民族博物館を妻とともに見学したことがあります。
このように憲法が時間をかけて変わって行くのを待つとすれば、憲法改正はすぐには出来ない・「新しい時代対応は憲法改正してからにしろ」と言う主張は無理がある・・政策反対論を憲法論に言い換えているに過ぎない・・何でも憲法に絡めて反対する「社会党が何でも反対党」と言われていたのと同じです。
憲法が徐々に変わって行くと、どの時点で憲法が変わったかはっきりしないと困る場合があるので、誰かが好奇心で争うと、・何年ころには「遅くとも」変わっていたと言う認定・・この確認作業を最高裁判所がしていると言うことではないでしょうか?
景況感に関しては、景気の谷がいつで、好景気のピークがいつだったと言う景気認定を政府・日銀が後で発表していますが、同じような機能です。
違憲立法審査権と言ってもその程度の意味・権能に理解するのが、合理的で社会が安定的に進歩出来てスムースです。
チャタレー事件で争われた猥褻の概念も、当時はその程度で猥褻になったが、今ではその程度では誰も猥褻とは思わないと言うのが常識的理解になっています。
ただし、以上は一般に言われているだけで警察もその程度では検挙しなくなっているので、本当はいつから意識が変わったのか誰も分らないですが、警察が仮に検挙に踏み切ると、(遅くとも)いつの頃から表現の自由の範囲内に変わっていたかが、判決または決定で認定されます。
以下非嫡出子差別違憲決定の抜粋です。

平成24年(ク)第984号,第985号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定 に対する特別抗告事件
平成25年9月4日 大法廷決定
「・・・・法律婚主義の下においても嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して 決せられるべきものであり、またこれらの事柄は時代と共に変遷するものでもある・・・・
(3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民法改正以降の変遷等の概要をみると,次のとおりである。
・・・戦後の経済の急速な発展の中で,職業生活を支える最小単位として,夫婦 と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに,高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり、子孫の生活手段としての意義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。
・・・・昭和55年法律第51号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたのはこのような変化を受けたものである。さらに,昭和50年代前半頃までは減少 傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか,平成期に入った後においては,いわゆる晩婚化,非婚化,少子化が進み, これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに、離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増 加するなどしている。これらのことから,婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴い婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。
・・・エ 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で,我が国における嫡出子と 嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち,住民票における世帯主との続柄の記載をめぐり,昭和63年に訴訟が提起され,その控訴審係属中で ある平成6年に,住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自 治振第233号)が行われ,世帯主の子は,嫡出子であるか嫡出でない子であるか を区別することなく,一律に「子」と記載することとされた。また戸籍における 嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても・・・平成16年に戸籍法施行規則の一部改正(平 成16年法務省令第76号)が行われ,嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載 することとされ,既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載も,通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)により,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集・・は嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍法3条1項の規定(・・・改正前のもの)が遅くとも平成 15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し,同判決を契機とする国籍法の上記改正に際しては,同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない子も日本国籍を取得し得ることとされた。
・・・・昭和54年に法務省民事局参事官室により・・・公表された 「相続に関する民法改正要綱試案」において,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする旨の案が示された。また,平成6年に同じく上記小委員会の審議に基 づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更 に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において,両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。もっとも,いずれも国会提出には至っていない。
・・・・当裁判所は、平成7年大法廷決定以来,結論としては本件規定を合憲とする判断を示してきたものであるが、平成7年大法廷決定において既に嫡出でない子の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに、婚姻, 親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化,更には国際的環境の変化を指摘して,昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べられ、その後の小法廷判決及び小法廷決定においても同旨の個別意見が繰り返し述べられてきた。
・・・・・・・以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
したがって本件規定は遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反して・・・というべきである・・・。」

夫婦財産制2(持参金1)

 

庶民レベルまで豊かになって一定の資産が形成されたとき(持ち家政策によるマイホームを獲得した場合)でも、原則夫婦対等の共有が推定されます(・・両性の本質的平等原理の判例上の帰結です)から、この夫婦財産制に関する大きな節・・大量の条文が何故あるのか利用価値がなくて不思議な感じを抱く人(一般の人には関係がない・・条文を見る学生や法律家だけですが・・・)がほとんどでしょう。
しかし、我が国の民法とは市民の法(Code civil des Français)の翻訳であり、(我が国は都市国家の経験がなく市民=有産階級と言う概念がなかったので、ただの「民」法としたことになります。
ちなみに我が国では、シチズンの概念がなかったのでこの翻訳として市民と言う漢字を持って来たのですが、このうち「市」だけ抜いた「民」の概念が昔からあったので、民法として無産階層も含むとしたのは我が国の独創です。
天皇家以外は民(たみ)と言う区分けからすれば、民法と翻訳したのはあたっていますが、フランスなどで言うブルジョワジーやシティズンを何故我が国の社会で「市民」の翻訳語が幅を利かすようになったのかこそ、問題かもしれません。
市とは、マーケットのことですから、我が国の市民とは、都市住民と言う程度の意味でしかありませが、彼の国では、教養と財産のある名望家のことでしたから、大分ズレています。
ただし、今では欧米でも言葉のインフレで、生活保護所帯でも市民civil・citizenと言っているかもしれませんし、citizenshipを数十年前から、市民権とは言わずに公民権と翻訳する事例が増えています。
市民の法と翻訳すれば、都市住民以外に関係のない法律となってしまいますので、ここでは、明治初め以降最近まで流通していた翻訳語の妥当性について書いています。
たまたまその後の進展で世界中が大衆社会化して来たので、有産階級の市民だけの法から無産の庶民までが法の担い手になる時代が来たので、意外に先見の明があったことになります。
この偶然の結果、わが国の民法は明治30年から現在まで命脈を保っていられたとも言えますが、それでも(月賦販売法・貸金業法・消費者法など特別法に頼るのは)限界が来たので、(会社の規模が大きくなって、従来の本社ビルでは入りきれなくなってあちこちのビルに蛸足のように散らばっている状態を想像して下さい)現在民法の大改正論議・・骨格から作り直す論議が進行中です。
話を夫婦財産制に戻しますと、市民=ブルジョワジー・資産家がそれぞれ先祖伝来の資産を持ち寄って結婚するための法であったとして見れば、婚姻制度の始めに夫婦財産契約関係に多数の条文が用意されているのは、企業で言えば共同企業体を構成する契約の原始的なものですから、歴史的遺産としてならば理解が可能です。
と言う事は、市民社会でない(大衆社会です)我が国で、今でも大量の条文を何故温存しているの?と言う疑問になります。
今は持参金など殆ど考えられない大衆社会化が進み更には女性の社会進出が活発になって結婚後の稼働を中心に自己資産を持つようになっています。
これからは、結婚前に有していた(親から貰った)静的資産の財産契約ではなく、結婚後に獲得する夫婦資産の有り様を別に考える・・制度化する必要のある時代です。
婚姻後の年金分割制度はその一事例と言えるでしょう。
年金分割については、12/19/06「離婚と年金分割制度6(一部分割のメリット2)」前後で連載しています。

民法親族編旧規定
(戦後改正されるまでの条文)
第三節 夫婦財産制
     第一款 総則
第七百九十三条 夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル
第七百九十四条 夫婦カ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタルトキハ婚姻ノ届出マテニ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

第二款 法定財産制
第七百九十八条 夫ハ婚姻ヨリ生スル一切ノ費用ヲ負担ス但妻カ戸主タルトキハ妻之ヲ負担ス
2 前項ノ規定ハ第七百九十条及ヒ第八章ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第七百九十九条 夫又ハ女戸主ハ用方ニ従ヒ其配偶者ノ財産ノ使用及ヒ収益ヲ為ス権利ヲ有ス
2 夫又ハ女戸主ハ其配偶者ノ財産ノ果実中ヨリ其債務ノ利息ヲ払フコトヲ要ス
第八百条 第五百九十五条及ヒ第五百九十八条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第八百一条 夫ハ妻ノ財産ヲ管理ス
2 夫カ妻ノ財産ヲ管理スルコト能ハサルトキハ妻自ラ之ヲ管理ス
第八百二条 夫カ妻ノ為メニ借財ヲ為シ、妻ノ財産ヲ譲渡シ、之ヲ担保ニ供シ又ハ第六百二条ノ期間ヲ超エテ其賃貸ヲ為スニハ妻ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス但管理ノ目的ヲ以テ果実ヲ処分スルハ此限ニ在ラス
第八百三条 夫カ妻ノ財産ヲ管理スル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ裁判所ハ妻ノ請求ニ因リ夫ヲシテ其財産ノ管理及ヒ返還ニ付キ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
第八百四条 日常ノ家事ニ付テハ妻ハ夫ノ代理人ト看做ス
2 夫ハ前項ノ代理権ノ全部又ハ一部ヲ否認スルコトヲ得但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス

現行民法
第3節
夫婦財産制
第1款総 則(第755条~第759条)第2款法定財産制(第760条~第762条)
(夫婦の財産関係)
第755条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
(夫婦財産契約の対抗要件)
第756条 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
以下省略

夫婦財産制1

 

今の我が国では、(特に専業主婦層では)夫婦である以上懐が一つになっているのは当然だと思う方が多いのですが、我が国でも平安貴族の通い婚の時代を想起すればわかるように、有産階級にとっては必ずしも経済・・生計一体が夫婦のあり方だったとは限りません。
何をもって夫婦と言うかの定義自体・時代によって様々ですから今の夫婦を前提に考えるのは間違いとも言えます・・夫婦の熟語については10/17/07「夫とは?2(民法325)」以下のコラムで少し書いたことがあります。
今の我が国では、庶民の場合奥さんが家計管理をするのが普通ですが、これは小規模農家社会が長かったこと(女性管理になりやすいことについては、「離婚の自由度1(貨幣経済)」Posted on October 16, 2010 で紹介しました)とこれを引き継いだ専業主婦が大多数だったことによるもので、他所の国ではそんな事はなさそうですから同じく「夫婦」と言ってもその経て来た社会の歴史によって大分関係が違います。
大統領と言ってもアメリカ大統領とインド大統領やドイツ大統領とは、内容実質が違うのと同じです。
戦国・江戸時代の大名家の場合、輿入れするとその女性及び下女等の付き人の食い扶持として、一定の石高の領地(の上がり・収益)が付随して行く例が有りますが、(秀忠の娘和子の場合など豪勢だったことで有名です)これが幕末まで続いていたかどうかまでは知りません。
・・・幕末有名な天璋院篤姫の場合も、島津家から何千石〜何万石分かの上がりを食い扶持として送られていて、それで局(つぼね)とか部屋を維持していて御付きの侍女・下男などを養っていたのではないでしょうか?
ですから、そこで働く人は嫁ぎ先の家臣ではなく実家からついて来た家臣となります。
忠誠心の系統としてはまるで違うので、家康の最初の妻・築山殿のように武田家に通じる事態も起きて来るし、信長の妹のお市の方が、夫である浅井の裏切りをいち早く信長に知らせたりすることが起きてくるのでしょう。
現在で言えば対外公館・・外交官が駐在国で治外法権を持っていて、駐在武官などを抱えてるのと似ています。
源氏物語の桐壺、藤壷(06/20/10「(1)女房とは?」〜(3)壷からつぼ根へ」ツボネの語源らしきことを書いたことがあります・・・)などの名称は、いわゆる里内裏の出先機関として宮中に引っ越していたような場所としてみることが可能ですから、当然実家でその費用を出していた筈です。
歴史小説などでは戦国大名に嫁いだ女性のことを「お部屋さま」書いていることがありますが、これは平安時代のツボネが部屋に変わったもので、一つの部屋の主としてそこでは君臨していて、武田信玄など「お館さま」が各部屋に通うしきたりでした。
これが江戸時代の側室になってくると、出自が低い(大名家の娘が側室にはならないでしょう)ので、側室の身の回りの世話をする人たちまで嫁ぎ先で丸抱えになって行ったものと思われます。
今では部屋も室も同じように使っていますが、部屋は大名家の館ないの家屋群の中で、独立の一棟(家屋=屋形群の一部?)を意味していたのではないでしょうか?
これに対して室となると大きな一棟の建物の中の区切られた「室」を意味するようになりますので、この面から持ち地位の低下が明らかです。
我が国でも有産層では平安時代を含めて女性の場合、実家の経済力次第・・夫とは家計が別だったことが分ります。
明治以降の家族制度では、現行民法にも夫婦財産契約制が残っていることから分るように、持参金(これは貨幣経済化の進んだ後の熟語です)として持って来た妻の財産権がどうなるかはフランス民法でも江戸期でも重要なテーマだったのです。
(離縁の場合、持って来た持参金を実家に戻すと言うよりは、我が国の大名大身の旗本など有資産家の場合では実家からの何石何十石分の送金・仕送りをやめるだけですから簡単です・・)
しかし、これらは余裕のある有産階級の話であって、歴史に出て来ない庶民・・これが人口のほとんどですが、彼らの場合小鳥がひなを育てるときと同様に生きて行くのがやっとですから、夫婦の持てる力を全部出し切る・・生活資源の渾然一体化・・原始共産制が続いていたとみるべきでしょう。
現在の我が国では都市労働者・・・勤労所得(将来獲得する収入)が中心で、結婚当初から予め契約する程の既存財産がない若者が殆どです・・婚姻後の勤労等の所得は庶民にとっては家計を支えるのがやっとですから家計の渾然一体状態→妻による家計管理が続いていたと言えます。
世界中の庶民は、みんな生きて行くのがやっとで持参金と言えるほどの資産がない筈ですが、我が国と違って他所では男が財布を握る習慣のようですが、これは交易・商業社会が長かったことによる差だと私は思っています。
商業と言っても現在イメージしている店での日々の商いになると、女性管理向きですが、商業の始まりは店舗を構える形態から始まったのではなく、未知の世界に旅立つ砂漠の隊商や船乗り等交易活動が本来の始まりですから、貨幣収入とその管理は男中心になりやすかったでしょう。
これに対して、我が国のように水田農業社会では収穫は年に一回ですし、年に一回の収入を1年に割り振って几帳面に管理して支出して(少しずつ貯蔵しているものを取り出して食べて)行くのは女性向きであって、男性向きの仕事でないことは明らかです。
男の多くは目の前にあるだけ食べてしまうし、あるだけ使ってしまう傾向があるのは洋の東西を問わない性格です。

夫婦の協力義務(応急措置法)

 

民法応急措置法は読んで字のとおり、敗戦後いわゆる国体が180度変更され、民主憲法が制定されても、その他の法律の改正が間に合わなかったので、その間の基本的応急措置を定めたものです。
先ず夫婦のあり方に関する憲法の条文です。

日本国憲法
昭和21・11・3・公布
  昭和22・5・3・施行
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

明治民法では、家庭内で戸主だけが1頭高いところにいて一家を統率しその代わり家族みんなを食わせる義務が決められていたのですが、戦後・日本国憲法制定後は夫婦対等(両性の本質的平等・・措置法第一条)の理念から、戸主に限定せずに双方向の夫婦間の同居協力義務が規定されました。
夫婦間の協力義務が強制されるようになれば、この延長として婚姻中に準ずる離婚後の養育費用分担思想が生まれたものでしょう。
離婚にあたって実際に・・実務上考慮される大きな要素は、財産分与の額を定めるには妻子が離婚後もちゃんと生活して行ける配慮がされているかが大きな争点です。
と言う事は、養育料と言い婚姻費用分担と使い分けても、その内容実質は離婚後の妻子の生活保障にあったことに帰し、似たような機能を有していたことになります。
以下応急措置法の条文です。
基本的人権の尊重・・民主憲法への変更が民法に及ぼした効果をみると、そのほとんど全部が男女のあり方に関するものであったことがこの条文で分るでしょう。
この結果民法の中で、親族相続編(第4編第5編)だけが全面改正されたのです。

  日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)

第一条 この法律は、日本国憲法の施行に伴い、民法について、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚する応急的措置を講ずることを目的とする。
第二条 妻又は母であることに基いて法律上の能力その他を制限する規定は、これを適用しない。
第三条 戸主、家族その他家に関する規定は、これを適用しない。
第四条 成年者の婚姻、離婚、養子縁組及び離縁については、父母の同意を要しない。
第五条 夫婦は、その協議で定める場所に同居するものとする。
2 夫婦の財産関係に関する規定で両性の本質的平等に反するものは、これを適用しない。
3 配偶者の一方に著しい不貞の行為があつたときは、他の一方は、これを原因として離婚の訴を提起することができる。
第六条 親権は、父母が共同してこれを行う。
2 父母が離婚するとき、又は父が子を認知するときは、親権を行う者は、父母の協議でこれを定めなければならない。協議が調わないとき、又は協議することができないときは、裁判所が、これを定める。
3 裁判所は、子の利益のために、親権者を変更することができる。
第七条 家督相続に関する規定は、これを適用しない。
2 相続については、第八条及び第九条の規定によるの外、遺産相続に関する規定に従う。
第十条 この法律の規定に反する他の法律の規定は、これを適用しない。
附 則
1 この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
2 この法律は、昭和二十三年一月一日から、その効力を失う。

近代社会と親族の制度化2

 

民法の親族相続編は、このシリーズで書いているように社会保障の代替物として制度化・強化されて来たと見れば、時代精神・・社会のあるべき姿をそのまま反映する傾向があるので、社会意識の変革期には大改正を受けざるを得ません。
財産法関係と親族相続関係は別々の法律が合体した歴史があってこそ、(元々別ですから)価値観の大転換した戦後すぐに第4編5編だけを切り離して全面入れ替えの改正が出来たゆえんです。
ちなみに1〜3編の財産法関係は敗戦にも関連せずちょっとした条文の手直しが時々あっただけで、明治以来のまま現在に至っていて、(2005年4月施行の改正で文語体のカタカナまじり文が口語化されただけです)ここ数年漸く現在社会の取引実態に合わせて大改正しようとする気運が盛り上がって来て(内田貴東大教授が大学を辞めてこれに専念している状況で)改正試案が公表されて、債権者代位権制度や危険負担制度・瑕疵担保など分野別の改正に対する意見を弁護士会その他各分野に求めている段階です。
現行民法制定後約10年以上も経過していても財産法に関してはこんな程度です。
例えば民法で,「借りたものは期限が来たら返さねばならない」「ものを買ったら代金を払う」と言う規定は500年や1000年で変わることはないでしょう。

民法
(売買)
第五百五十五条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(使用貸借)
第五百九十三条  使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

「借りたら返す」「買えば代金を払う」原理自体をいじることなく,借りるにして(友人同士の貸し借りは民法の原理通りですが,高利貸しの場合などは貸金業法や利息制限法の規制があります)も買うにしても割賦販売その他多種多様な複雑な取引形態があるので,これを民法に取り込もうと言うだけで,言うならば民法を複雑化しようとする改正です。
ですから民法制定後110年もたっているのだからと言う理由で大きく変えようとはしているものの、身分法関係の戦後改革のような価値観の転換によるものではなく,技術的な要因によるものがほとんどです。

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