超高齢者調査が必要か

 

戦前の政府は国民を臣民と言い、(明治憲法では国民の権利義務ではなく「臣民の権利義務」と書いていました)を税金を取ったり徴兵する対象・管理するべき客体であって国民は国家の主体・主権者ではありませんでした。
国家の経営主体は天皇にあって国民はその対象・・今で言えば牧畜業者が牛や豚の頭数を管理しているような関係、「朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ」と言う文言を見ると今風に言えば親の代から大事に可愛がっているペットみたいな扱いです。
第2章は現行憲法では国民の権利義務とあるのですが、明治憲法ではすべて臣民となっています

大日本帝国憲法(明治22年2月11日公布、明治23年11月29日施行)

憲法発布勅語
朕国家ノ隆昌ト臣民ノ慶福トヲ以テ中心ノ欣栄トシ朕カ祖宗ニ承クルノ大権ニ依リ現在 及将来ノ臣民ニ対シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス
以下中略・・・朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ万世一系ノ帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ増進シ其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履践シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム ・・以下省略
第2章 臣民権利義務

第18条 日本臣民タル要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第19条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均シク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得
第20条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ兵役ノ義務ヲ有ス
第21条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ納税ノ義務ヲ有ス
以下省略

戸籍に載っている人が死んでいるのにこれを抹消しなかくとも、死んだ人から税を取れないし徴兵出来ないことは同じですから、(死んだ人が記録に残っているだけでは犯罪を犯さないので、治安上の問題がないし)国家としては何の不都合もないので、生死を調べて歩く必要がありませんでした。
むしろ生きているのに死亡したとして、あるいは勝手に除籍して税や徴兵逃れをされるのは困るので、除籍には厳しく対応して来たのが明治以来の歴史でした。
今でもその精神で運用しているので、死亡届=除籍には医師の死亡診断書等証拠を要求したりして大変です。
日露戦争まで相続税の考えがなかったことを、11/20/03「相続税法 10(相続税の歴史1)」のコラムで紹介しました
相続税が制度化されると政府としては死亡したら税を取れるメリットがあるようになりましたが、実際に行方不明者・・普通は蒸発→どこかの公園で寝たりドヤ街で暮らしている程度ですから、行き倒れの人の死亡で相続税が発生するようなことは殆どあり得なかったでしょう。
政府は費用を掛けて死んだ人を探し出して戸籍を抹消する必要がまるでないまま、現在に至ったのです。
当時の政府は国民に要求するばかりで、国民が恩恵を受けるような今の時代・・社会保障の充実した現在の感覚で国民と国家の関係を考えるとまちがいます。
自分の納めている税金よりも受ける給付の方が多い人が今ではかなりいると思われますが、今の国民は政府に対して社会保障等要求する傾向が強くなる一方ですが、当時の国民と国家の関係はまるで違っていたのです。
個々人の納税額は別として、全体としては、(金持ち貧乏人・法人税や間接税も含めて)総納税額以上の支出を政府が出来ない理屈ですが、赤字国債の発行で可能になっている・・財政赤字の累積分だけ国民の受益の方が大きくなっていることになります。
財政赤字下では平均以下の納税者は、受益の方が大きいのは明らかです。
今になって(最近収まりましたが、このコラムは昨年秋頃の大騒ぎ時に書いてあったものですが間にいろいろ原稿が挟まって今になったものです)超高齢者の死亡が記録されていないのは政府の怠慢だと大騒ぎしていますが、届け出もないのに職権調査するとなれば膨大な人件費がかかります。
将来全部コンピューター化出来れば別ですが、死亡者の登録を消すだけのために過去100年分の戸籍簿を全部コンピューター化するために膨大なコストを掛けるのは無駄ですから、紙記録のままで調査するしかないでしょう。
紙の戸籍簿をにらんで(蒸発したような高齢者は戸籍筆頭者=戸主でないことが殆どですから、表紙だけ見ても分らず中をめくって行って初めて分ります。)その中の生年月日から逆算して今は何歳として、その人の関係者の追跡調査を始めるのには膨大な時間コストがかかります。
しかもこの種調査は一時的に全部やれば終わるのではなく、定期調査しなければまた100歳以上の高齢者が溜まってしまうのですが、そんなことに高額所得の公務員を多数貼付けて巨額の税をつぎ込む必要がありません。
今でもこの抹消のメリット・・戸籍に残っていることによる政府のデメリットが皆無に近いからです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC