新興国の将来10(内需拡大3)

前回・6月17日に書いたように予算の中身を考えて行くと、中国がリーマンショック後約40兆円分財政出動した資金の出所がどこにあったのかから入って行く必要があります。
他の支出を減らして公共工事や補助金を増やしても、財政支出総額は同じですから、財政出動とは言えませんから、真水で国家予算を40兆円増やしたことになります。
経済成長率以上の増額予算を組むには、増税か赤字予算しかありません。
もしも中国政府も世界標準の単年度主義であれば、リーマンショック後に40兆円分追加支出したのには、新たな財源が必要だったことになります。
財源としては、増税するか国債(または政府債)発行・・または、中央銀行(の独立性がないとすれば・・)が好きなように紙幣を印刷したとしてもそれを政府が使うには何らかの仕組み(政府債を中央銀行に買い上げてもらうなど)が必要です。
日本のように国債・政府債発行で資金手当てする場合、国債を買うべき資金が国内に余っていなければ国内に国債の買い手がありません。
仮に国内に購入資金があっても税同様に国内から資金を吸い上げて政府が使うのですから、政府が使う分だけ民間資金が減少します。
日本のように貯蓄があり過ぎて金融機関も使い道が分らない状態のときには、政府が吸い上げて代わりに使ってやるのは消費拡大のために合理的です。
(銀行も預金ばかり増えてもその運用先がないときには預金金利を払えなくなりますから、預金金利を下げるとともに預金よりも金利の高い国債にしシフトするのが合理的・・金融機関の救済になります)
資金がダブついているのに内需の弱い先進国では、民間資金を税で吸い上げようと国債で吸い上げようと内需拡大効果は変わらないのですが、資金余裕のない新興国では、国内から資金を引吸い上げたのでは却って、国内経済が沈滞してしまいます。
高度成長中の中国の場合、外貨準備が巨額であると言っても民間では資金需要が旺盛な筈ですから、個人で考えても車、家電・マイホーム等お金さえあれば欲しいものが目白押しです。
高度成長期では投資さえすれば儲かる時期ですから、企業家も資金さえあれば投資に次ぐ投資を目論んでいるのが普通です。
こういう状態の社会では政府が資金を吸い上げる必要がないばかりか、(いくら共産主義政権の中国でも・・)民間から資金を引き上げて政府が使ってやるというのはむしろ害があるでしょう。
資金需要旺盛な高成長中の中国ないし資金不足で外資導入の必要な新興国では、民間資金が退蔵されている訳ではなく、国民の方はお金があればあるだけ使いたい(欲しいものが一杯あるのに買えない)経済状態ですから、(民間に資金がだぶついてはいないので)増税であれ国債であれ、民間から資金を吸い上げる必要がなく民間の好きな所に使わせる方が合理的です。
国内に資金余剰がないのに国債を発行すると外資に買って貰うしかなくなりますが、ギリシャみたいになるのを中国が警戒するのは当然です。
中国は「経済力さえあれば何でも出来る」(「札ビラでほっぺたをひっぱたく」ような行動原理の国です)と考えて国際戦略を展開している国ですから、借金国になるくらいならば、国民に我慢を強いる方がマシと考える国柄です。
食うや食わずでよくも国民が我慢出来ると、北朝鮮を異質のように考える人が多いですが、中国も大躍進政策と称して国民を5000万人単位で餓死させても平然としていられたし、その後紅衛兵運動となって無茶苦茶な理由で吊るし上げては多くの国民を牢獄に繋いで来た国柄です。
それでも国家を揺るがすような大暴動すら起きていません・・外部に知られていないだけかも・・。
1万人規模程度の(小さな?)の暴動は今でもほぼどこかで毎日のように起きているようですが・・・その都度5人や10人の死者が出ても政治問題にならない国です。

構造変化と格差10(国内不況と円高)

円高になると企業が悲鳴を上げ、国民は物価が下がって大喜びの構図ですが、これは短期的な現象でしかありません。
企業は雇用責任を果たすために(余裕があるから)困っているだけであって、企業は本当に困れば(余裕がなくなれば)身軽に経費・人件費の安いところにドンドン移転して行けば良いので、本当に困るのは、簡単に移動出来ない国民の方です。
企業は新興国へ移動すれば低賃金で雇用出来ますが、人間の方は新興国へ移動して仕事があっても、日本の何分の1の人件費では困るので国内で従来通りで働けるならば・・と言うことで国内にしがみつくのが普通です。
労働者は円高になった当初、(いきなり賃下げはないので)物価安の恩恵を受けるだけですが、長期的には企業の海外進出が進むと、ジリジリと雇用が減り労働条件が悪化するのは当然の経済原理です。
円が1割上がれば、みんなそろって1割給与が自動的に下がる方式・・納品価格、失業保険、年金もすべて自動的に1割下がるスライド制にすれば公平ですし、企業も海外に逃げなくて済みます。
一律で強制しなくとも円高で輸入価格が下落していくので、時間の経過によって諸物価は下落して行きますが、時間の誤差だけなら我慢して企業も国内に留まれますが、人件費だけは賃下げが出来ない国民思想=宗教かな?があるので、この負担に耐えかねて徐々に企業は海外進出に活路を見出さざるを得ません。
一律強制的値下げの場合、たとえば電気料金だけ部分的円相場スライド制にした場合、却って不公平になり、複雑化しますので、すべての価格を一律機械的に上下させるのが簡単でしかも公平です。
(輸入原料費が1割減でも電力コストは燃料費が100%ではないので、すべてのコストを1割減にしてくれないと無理があります)
あるいは、現在年金制度では物価スライド制になっていますが、これでは、物価という間接的データによるので、効果が出るのに数年遅れになる外に何を統計に組み入れるかによって、その製品を多く使う階層と使わない階層によって、大きな違いが出過ぎて実際的ではありません。
年金で言えば超高齢者にとっては、スマートフォンなどの値下がりの恩恵は受けない代わり、医薬関係の相場変動は大きな影響があるなど階層によってマチマチです。
円相場に国内諸価格が連動しない状態においたままですと、国際競争に曝されている企業にとっては、販売価格は直ぐに・即日円相場上昇に連れて目減りするのに(1ドル100円の正札のままでも、円が次の日に98円に上がると企業の手取りは98円に減ってしまいます)、国内物価、人件費等が従来のままでは、コスト的にいわゆる股割き状態です。
政府の方は円高による国内不景気・・失業対策等バラまき傾向になって増税志向になりますので、ますます企業にとっては居心地が悪くなります。
円高傾向になれば、企業としては海外に逃げ出すのが、経済原理に合っているので(上記の例で言えばアメリカで全部造って売っていれば、1ドルが何円になっても関係がありません)ジョジョに海外比重を高める・・国内生産比率が下がる傾向になります。
海外展開資力のない企業は縮小・倒産し、労働者も失業して無収入になったり、新卒の就職が厳しくなります。
職場が縮小して行く中で失業を減らすには、ワークシェアリング・・非正規雇用の増加で薄めて行くしかないでしょう。
皮肉なことですが、一部の高度化適応成功と過去の黒字蓄積(利子配当の還流)が、国内雇用が大幅縮小して行くにも拘らず、円相場を引き上げ、平均的労働者の国際競争力を減退させ職を奪う効果を加速させていると言えます。
貿易赤字が続けば普通はその国の通貨価値が下がり、その結果再び貿易収支が均衡して行くものですが、我が国の場合、巨額海外投資資金・外貨準備があるので仮に貿易黒字基調になってもちょっと様子が違ってきます。
収入が減って苦しくなると支出を抑えれば貿易・家計収支赤字が収まるのですが、個人と違って政府の場合、従来支出を削るどころか不景気対策として、歳出増になるのが普通です。
貿易赤字国でのこの種のケインズ主義的支出は間違っているという意見をOctober 22, 2011「国際競争力低下と内需拡大5」で書いたことがあります。
我が国の場合、貿易収支が赤字基調になって経済が苦しくなれば、内需=バラマキを縮小して節約するのが筋ですが、衆愚政治化している現状では財政支出増を求める意見に流されて、資金穴埋めのために海外資金の引き上げに動く(海外のドルやユーロ資金を売って円を買う)でしょうから、貿易赤字になってもなお円相場が上がり続けるリスクがあります。
この連想作用で、復興資金として、海外からの資金引き上げが起きるとみた投機筋が円買いに動き震災直後に円が上がったのですから、私の個人的妄想・杞憂ではありません。

ポンド防衛の歴史10(成長率格差と英国病)

イギリスは戦前から続いていた国際収支の赤字基調が戦後も変わらず、しかもスターリング地域諸国自体もスターリング地域以外の諸国の経済復興について行けず、全体としても赤字化していきます。
ドイツに追い上げられその内アメリカに追い越され、戦後は再びドイツと日本に追い上げられ、追い越される展開ですから、新興国に追い上げられて低成長に陥っているいる今の日本同様で国内産業構造としては低成長は仕方がなかったでしょう・・。
こんな風に書くと日本も英国病と同じ道を歩むのかの心配がありますが、日本の場合は、日本の国力衰退の結果ではなく、国力は充実していてまだまだいくらでも貿易黒字を稼げたのですが、余り黒字が大きすぎて国際的に許容されなくなっていました。
デトロイトではアメリカの国会議員がハンマーで日本車をたたき壊している様子がテレビ報道されていたくらいです。
仕方なしに、アメリカ国内に工場進出したり、大きすぎる対米貿易黒字を隠すために東南アジアを迂回して輸出する構造=東南アジアへの工場進出が盛んになっていたものです。
この結果東南アジアの工業化が進みひいては、中国等新興国経済が浮上出来たに過ぎません。
日本企業が海外進出せざるを得なくなったことによる、アジア諸国の経済成長ですから、日本のさらなる成長の一変形・バージョンに過ぎないとも言えます。
中国やタイ韓国等によるアメリカ向け輸出は日本の進出企業や日本の部品を利用したダミー的輸出でもあると言われている所以です。
ですから今でも韓国などの輸出が増えると対日貿易赤字が膨らむ構造で、巨額貿易黒字を計上している中国でさえも対日関係では赤字を計上しているので、まさに日本の迂回輸出そのものです。
ただ日本からの輸入は部品ですから、完成品価格の一部に過ぎないので組み立てて完成品にして輸出する中国や韓国.タイは日本からの輸入に比べて輸出の方が大きくなるので、結果的に貿易収支が黒字になっていてアジア全体が潤う構図です。
この分、日本の貿易黒字の構造が変わっているので、従来のような大幅な黒字は完成品輸出の中進国に譲るしかなくなった・・現場系の職場が減って来ると町に活気がなくなることは事実でしょう。
ですからトータルの経済実力が衰退して、大恐慌前後から貿易赤字になりポンド下落に見舞われ続けているイギリスとは原因が違いますので、ただちにイギリスと同じような衰退を始めるとは限りません。
失われた20年と言っても、上記の通り迂回輸出構造に過ぎませんから、リーマンショックまでは巨額貿易黒字の連続だったことも繰り返し書いている通りです。
ただし、原発事故以降の輸出構造の変化・・貿易収支の悪化は、これを一時的に終わらせることが出来るのかについては注目する必要があります。
2011-12-6「ポンド防衛の歴史7(イギリスの耐乏生活1)」以下で書きましたが、英連邦諸国は、イギリスに積み上げた預金をマトモに払ってもらえずに資金不足状態にあったでしょうし、イギリス本体は借金支払に追われて新規投資資金が不足していたこともあったでしょうが、OECD諸国の戦後成長率に比べてイギリスはその約半分以下の成長しかしていません。
名古屋大学教授金井雄一氏の「基軸通貨ポンドの衰退過程の実証的研究」によれば、1950年代と60年代初期の労働生産性上昇率が紹介されていますが、日本が8.6%及び9.0%、ドイツの6.6%と6.6%、フランスの5.5%および6.5%に対して、イギリスは2.9%及び3.4%に留まっていると書いています。

契約・派遣社員(手切れ金9)

我が国では、今でも終身雇用を原則としていることから、必然的に正規社員の中途採用が極端に少ない・・・多分逆方向への転進が狭き門になっているので、非正規雇用が批判の対象になっているのでしょう。
しかし人材の流動化を双方向へ持って行くためには、正規社員の終身雇用慣行を崩して行くことに精力を注ぐべきであって、これを所与の前提として放置したまま非正規雇用を減らす方向へ逆戻りするのは時代錯誤と言うべきです。
非正規雇用規制論者は、パートか正社員の二種類しかなければ、子育て中でしょっ中休む人でも企業は仕方なしに正社員として採用するしかないだろうと言う立場と思えます。
仕方なしに採用する企業もたまにはあるでしょうが、それは余程人手不足の場合・時代にだけ通用する考えで、現在のように労働力過剰で困っている時代では、(1ヶ月きちんと働ける人でさえ失業者が多くて困っているのです)二者択一しかない社会にすると1日5〜6時間でもあるいは月に10日くらいでも働きたい半端な人に対しては就職の機会を100%失わせるリスクの方が高くなります。
比喩的に言えば100万人の半端な時間だけ働ける人がいた場合、そのうち2〜3万人だけ正規・終身雇用で採用されて残り97〜8万人が完全失業してしまうことになりかねません。
ここは感情的な二者択一論ではなく、終身雇用をやめる方向に持って行って中途採用が活発になって正規雇用への転進がスムースに進める方向への努力をする方が合理的です。
身障者雇用制度では一定率の雇用を義務づけていますが、これと似た発想で、職種ごとに一定率まで終身雇用比率を制限して一定率まで10年ごとの定年制を決めるなどして行けば、正規雇用者の中途採用がシステム的になって来るでしょう。
若年定年制論については、February 3, 2011「終身雇用から中短期雇用へ」のコラム前後で連載しました。
夫婦別姓論も同じで、選択も出来るようにしようとするだけで別姓にしなければならないのではないのですが、反対論者は、選択出来ることすら気に入らないのです。
次第に別姓が広がる心配をしているのは、別姓の希望者が多いことを前提にしているのでしょう。
契約や派遣の場合は、労働者の自主選択権が弱くて企業・雇傭側に一方的選択権があるのが(終身雇用制維持が正しいとした場合)問題とされます。
子育てが終わって正規社員になりたいと思ってもその道が少ないのは、派遣制度があるからではなく、実は中途採用の少ない終身雇用制に基礎的問題があると私は考えています。
派遣制度が出来たから正規社員が派遣に切り替わったばかりではなく、元々特定の時間帯で働きたい人たちには、再就職すべき職場がなかったのが派遣や契約社員制度の広がりのお陰で一応働けるようになったプラス面が多いでしょう。
パートの場合、正社員が一日数時間のパートに変更されたのではなく、元々正社員として中途採用される余地のなかった中高年主婦層の働き場が増えたのと同じ面がある筈です。

原発のコスト10(損害賠償リスク)

賠償責任限定にこだわる産業界の動きを見ると、賠償責任を限定しないと株式・社債市場で信任を受けられない・業界そろって株式も社債も暴落する業界って、本当に経済的に成り立っているの?と言う疑問に戻ってしまいます。
航空会社や運送業界で「事故が起きた場合の責任は取りません」という仕組みでないと儲からない責任限定したときだけ「儲かっている」と言われても、それって優良企業って言うのでしょうか?
「業者の責任を限定してそれ以上の損害があっても国民・被害者は泣き寝入りしろ」という法律は無理ですから、仮に総損害の5分の1あるいは一定額・1〜5兆円限定とした場合、それ以上の損害は国が面倒見るしかないでしょう。
政府が払うとすれば、その負担は国民全員の負担ですから、結果的に普段安いと言われている電気料金の代わりに税で負担することになります。
June 11, 2011「巨額交付金と事前準備3」前後で連載したように、巨額の税を立地市町村に交付金として投入しているのですが、それをマスコミがまるで報じません。
税で見る分はコスト計算しなくとも良い・・会社ごとの会計原則上はそうでしょうが、税を負担する国民の立場から見れば税による負担分を含めて総損害額を原発のコストに上乗せしないと原発が安いかどうか分らないことには変わりがありません。
これらの一連の動きを見れば、政府保証であれ何であれ、一旦事故が起きればどんな優良企業が束(業界一丸)になっても、(借り換えするばかりで返済しきれそうもない)社債を発行(借金)しない限り、発生してしまった損害を賠償しきれないという現実を経済界全員で認めているということです。
事故が起きたら賠償しきれない・・これをコストに含めれば経営が成り立たないことを前提にしながら、産業界やマスコミによる「原発のコストの方が安い」という主張は論理矛盾しているのではないでしょうか?
イザとなれば政府保証による社債発行で資金を集めなければ事故の賠償を充分には出来ない会計基準で東電が経営していたとすれば、原子力は安いとは言うものの充分な賠償基金を積み立てないでコスト計算していたと断定するしかありません。
と言うことは、従来の基準によるコスト計算は何の役にも立っていないのですから、従来のコスト計算に基づく意見を恥ずかしくて言えないのが普通の心理です。
今でも原発の方がコストが安い、あるいはやめたら電気代が上がって大変なことになると宣伝するならば、従来の予測コストを大幅に越える大きな被害が現実に起きているのですから、これを集計し、あるいは今回の被害総額を基礎に将来の被害総額を予測計算した上でなければ誰もコストに関する責任ある意見(・・安いという方の意見)を言えない筈です。
にも拘らず経済界やマスコミが(根拠もなく・・賠償コストを計算しないまま従来コスト計算に基づき)「原発をやめるとコスト増になる」とするキャンペインをはっているのは、論理的なルール違反です。

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