賄賂社会と道徳意識(中国5)

地位維持に汲々とする党幹部や高官だけでなく人民の方も競争相手がルールを守っていないのに自分だけ守っていたら競争に負けるが、真似して違法操業すると摘発されるのが怖いので日頃から党幹部や摘発機関への付け届けを怠れません。
また、環境規制等日常全般に違反状態で許認可を通して貰い、摘発を免れるには賄賂が必要になる関係になっています。
競合相手より上位の人間に・・課長クラス一人に渡すだけより幅広く且つ部長クラス〜局長クラスにも渡しておいた方がより効果がありますが、そのためにはより大きな賄賂を出せる人に限られる・結果的に学校の成績評価も何もかも全て金次第の社会となっています。
中国では付け届けを渡すのは古来からの慣習で違法(モラル違反)というよりは、税金の自発的上乗せ納税(もともと徴税能力不足が原因?)かのように考えている節があります。
ただ公式納税の場合には納税の多寡によって電車に優先的に乗れるわけではないし、一流大学に優先的に入れるわけでもなく公平ですが、賄賂の場合この秩序が乱される点が大違いです。
日本の場合公平性が徹底していて金持ちも貧乏人も・・生命維持の基礎である医療現場で端的に現れていますが、生活保護による無料医療を受ける人も金持ちも申し込み時間順の順番待ちし、3分医療も同じですし貧乏人か金持ちかによって薬のレベルや品質が変わることもないし、受ける治療・レベルの高い手技の医師に手術を受けられるどうかもすべて機械的決定です。
(いつも書くようここは大方の社会の仕組みを書いているのであって総理その他の場合特別な割り込みの仕組みがあるのですが、ごく少数の例外を書いていません)
アメリカの場合、公的サービス提供に賄賂で割込めない点では日本同様に公平ですが、その代わり公的サービスレベルが公教育であれ医療その他何であれ日本に比べて低すぎる点(その分私立が発達している)に問題があります。
それが生命に関わる分野で端的に知られているのが、オバマケアで知られる医療場面です。
アメリカの自治体結成動機をこのあとで再開・書いていきますが、州政府の提供するサービスレベルが低すぎるので自分たちでお金を出し合って道路や学校を作りたいとか水道、警察を持ちたいという時にそれぞれの目的限定の自治体を結成します。
自治体にまでいかなくとも、昔から一定のお持ちのクラブ(飲み屋やレストランやゴルフクラブホテルなどいろんな分野でフリーの客を入れない閉鎖社会を作っていくのがアメリカ式社会・・地中海式都市国家の流れの残滓というべきものかもしれません。
閉鎖的都市国家形態を取らない社会は日本と東南アジア諸国だけですから、いろんな価値観で現在主流の世界の異端「変わってる!」になるのです。
大型マンション内部にプライベート公園を作ったり、プライベートビーチなどすべて同様の流れによります。
税金の代わりに払えるものが自発的に払うという点で賄賂はアメリカで発達している寄付文化に似ていますが、寄付者は寄付金の使途に色付けできるだけでルールを曲げようとするものではない点で、似て非なる方向性です。
日本でも一定のお金持ちしかグリーン車やファーストクラスに乗れないお金がないとお芝居も見られないという程度の差がありますが、賄賂と違って一定のお金を払えば(チケット買うのに身分さがなく、裏金が要りません)、公平に同様のサービスを受けられる点が違います。
中国社会のように賄賂を道徳違反の問題ではなく自発的納税または必要経費として考えれば、規制クリアーのために公害防除設備をつけたままにして生産するコストよりも、要路への賄賂提供の方が安ければ日本から輸入時にくっついてくる公害防除設備を取り外す方になびく・国民の健康がどうなるかの視点が全くない国民性・・中国の場合「人民」がいるが国民がいないと言われている所以です。
まして、規制にあうように技術アップに努力するコストを考える(金をかけてもうまく行くとは限らない)と賄賂や剽窃でクリアーした方が確実(100人のスパイを放ってその内一人でも持ち帰りに成功すればコスト的に計算可能)で安上がりですし、海外企業との競争のためには成功するかどうか不明の技術アップの努力・・例えば巨額投資の必要な医薬品開発よりは盗むほうに金をかける方が合理的となるのでしょう。
いくら企業秘密を盗んでも国内にいる限り処罰されないのでは、関係者は道徳の痛みを全く感じない・・コスト計算の問題でしかありません。
http://gigazine.net/news/20170608-high-school-exam-cheating-devices/によれば以下の実態がでています。

2017年06月08日 21時00分00秒
中国の試験で発見されたカンニング用ガジェットの数々が公開される
中国では2017年6月7日から9日にかけて全国大学統一入試「高考(gao kao)」が行われています。「世界で最も難しい試験」と言われる高考ではカンニングが多発しており、カンニングを防ぐために念入りなボディチェックが行われたり、受験生に「ワイヤレス端末が仕込まれている可能性があるためワイヤー入りのブラジャーをしないように」という指示が出されたこともあったとのこと。では実際にどのような方法でカンニングが行われているのか?ということで、中国・山西省の太原市が、ここ数年で実際に使われたカンニングデバイスを公開しました。

High-tech devices used to cheat China’s exams | Reuters.com
http://www.reuters.com/news/picture/high-tech-devices-used-to-cheat-chinas-e?articleId=USRTX39AF6
例えば以下の写真に写っているのは一見すると何の変哲もないベルトですが、実はワイヤレス通信を行うデバイス。太原市ではここ数年の高考で使われたカンニング道具がメディアに向けて公表されたとのこと。(以下写真部分引用省略)
以下も消しゴムに偽造したワイヤレス端末。受信した答えをディスプレイに表示するのでしょうか。
時計のように見えるワイヤレス端末に……
耳につけて外部との通信を図るイヤーピースと端末。
イヤーピースはこんな感じです。(以上写真部分引用省略)
上記のようなデバイスを用いたカンニングが増えているため、試験の最中は監視員がワイヤレス端末の活動を調べているそうです。」

中国以外の国々では、自分が努力しないで他人の努力の成果を盗むのは古代から確立したとてつもない犯罪行為というモラル意識ですが、中国ではいろんな受験時に電子機器を使って外部交信によってカンニングする方法が流行っていたのを見れば、カンニングすること自体が能力次第であるし、商取引の一態様という意識のように見えます。
裏切ることも騙すことも、騙されたり盗まれたりする方が弱いだけ・騙し陥れる方が、能力が高いと評価される社会です。
モラルの問題ではなさそうな社会です。
中国ではモラルよりは全て金次第、金の亡者のように外部から見えるのは、すべての分野で賄賂金額を基準に動く社会になっている結果によります。
今回の党大会で宣言された習近平の「世界強国」が実現する世界では、新たな中国式価値観がルールとして強制され、これが道徳として教育されるのでしょう。
「付け届けをしない」方がモラル意識が低いと批判される社会でしょうか?
忠臣蔵の原因ですが、当時何かを教えてもらうには授業料を払うルールが未発達であったのでその代わりにお世話になりますという付け届けが必須であったことが背景にあります。
粛清政治→恐怖の弊害は直接的には権力闘争の結果・・権力周辺の問題でしかありませんが、政府高官がしょっちゅう粛清されるようになると、次の地位(局長クラス)の高官も間接的に粛清政治の対象になり、どんどん下位公務員に及んで行き、最後は公務員でない民間人も反党分子という名目でどんどん処罰されるようになっていたのがソ連の「収容所列島」の実態でした。
これを免れるためには、じっこんにする相手を特定高官に限定するとその高官(例えば薄熙来)が失脚すると却って危ないので、できるだけ賄賂の網を幅広くしておく必要に迫られるようになります。
賄賂がないと何もしてくれない社会になっていても景気が良くて末端まで一定の資金が回っていれば問題がありません。

政治不満と暴動1(中国4)

北朝鮮を韓国と比較して極限的貧しさを強調し、このような貧困状態でなぜ我慢できているか・・すぐにも社会や体制が崩壊するのではないという疑問を抱かせるようなイメージが流布していますが、国民としては豊かで自由な方が良いとしても、言論の自由がなくても仮に年間人口の数%〜5%くらいが飢え死にしてもその程度ならば命がけの暴動を起こしません。
北朝鮮の場合先進国に比べて貧しすぎるだけであって、朝鮮戦争時に比べれば格段に生活水準が上がっているので昔に比べれば良くなっていると満足している人の方が多い可能性があります。
このような心象は日本の田舎でも同じで、他都市では10数年に2〜3回のペースで商店内装リニューアルしているのに対して地方都市では10数年に1回のリニューアルペースとした場合、地元の人は20年前に比べて新しい店やフィットネスクラブが出来て便利になったと満足しているのですが、新陳代謝の激しい地域から行くと古色蒼然たる展示内容に驚くのと同じです。
韓国の場合、身の丈にあわない民主主義政治をアメリカに押し付けられたのが国民の不幸で、ストレスいっぱいの社会になっている原因のように見えます。
せっかく大統領制にしているのに任期満了後例外なく次の政権の厳しい追及を受けるのですから、せっかく権力の頂点・政権を握っても安心できません。
ロシアの民度レベルを前提にすると選挙で選ばれる大統領制になってもプーチンはこれが怖くて政権を手放せない・終身制にしない限り心の休まる暇がないのでしょう。
暴動に戻しますと、最初の暴動参加者は治安警察レベルですぐ検挙されるし、そのうち大規模になっても政府軍に簡単に鎮圧され殺されてしまう繰り返しのうちに、各地で次々と暴動が起きて自然発生的暴徒が組織化されて軍隊らしくなっていく・・政府が弱体化の極みに達すれば(中国歴代王朝末期のように大暴動の長期化の結果農民の流民化→ 全国的食料不足発生・ソ連の場合で言えば生産低迷)による人口大激減になれば、結果的に一族殆どが飢え死にするリスクがあるのは同じです。
現在のシリアの現状を見ても暴動前より生命の危機を含めて生活水準が低下している現状を見れば分かります。
そこまでのリスクを冒してでも人民の多くが大動乱を願望するようになるには、このままでは一族みんなが飢え死にしてしまうほどの危機が来ないと無理でしょう。
ところで中国歴代王朝末期の飢餓→大暴動は、実は当てのない飢え死に目的で暴動を起こしたのではなく「県城」等に豊富な食料備蓄があって、それを襲う暴動から始まったことを無視できません。
項羽と劉邦・漢楚の攻防で知られる攻防戦も、多くは食料備蓄の豊富な県城争奪戦であり攻城戦勝利の暁には飢えに苦しんでいる兵士に腹いっぱい食べさせられる欲望を利用していたものでした。
城中に乱入すれば城内の家に押し入り略奪(限らず女性も)するのは文字どおりの兵士にとっての戦利品・・当然の権利として中国では何千年もやってきました。
日本の武士団が戦争に勝っても略奪しなかったのは、食料目的の戦争ではなかったからです。
日本軍の食料不足で餓死者続出のインパール作戦でも、自分たちが餓死していても現地民から食料調達・略奪をしていません。
中国歴代の暴動に戻しますと10月18日に大躍進政策で4〜5千万人が餓死していた陰で政府倉庫には、「また都市部の倉庫は穀物で一杯だったという証言が残されている[8]」という記事を紹介しました。
中国は古代から都市国家・点と点をつなぐ支配体制ですから、出先基地である県城(都市国家)の外は野蛮な異民族の居住地域(今も都市と農村戸籍の2分類思想です)という扱いですから、いざという時に近隣県城からの応援軍が来るまで持ちこたえるための食料備蓄は基本中の基本ですし、城壁外の異民族が飢えていても関心がない・城内備蓄優先ですから、これを狙った暴動が起き易かったのです。
現在の中国政府は、大躍進政策の失敗で4〜5千万人程度飢え死にを出しても暴動にならなかったし、その後公安部隊の増強をしてきたので、その数倍程度までの餓死者が出ても、治安部隊強化で押さえ込み可能と見ているでしょう。
まして現在の不満は、公害や不公平・格差の大きさ程度でしかない・末端人民が食えないほど困窮していません・その基準から見れば格差の大きさ程度は贅沢な悩みですので、過酷な拷問等を受けるリスクを冒してまで立ち上がる心配はありません。
シリア混乱が収拾のつかない内乱にまでなったのは、国外勢力の介入があったからだと見るべきでしょう。
現在中国の場合格差があっても解放直後よりも、生活水準が格段に上がっているので飢え死にするようなことはない・・ちょっとやそっとの経済不況(前年比減)や言論不自由程度で暴動(を期待する?論調が多いですが)になるわけがありません・海外逃亡を拒否して国内民主化運動をしていて先日獄死したノーベル平和賞受賞者の後に続く人がいないことを見てもわかります。
生活苦や規制の厳しさ等々の不満に対する国民の耐性については、昨年トルコ軍がロシア軍機シリア上空で撃墜した時にロシアが直ちに農産物輸入停止やトルコ観光停止などを発動した時に、経済政策の耐性としてロシアとトルコの経済制裁合戦になればどちらが耐性があるのかの意見をSep 19, 2016「フラストレーション度2と中華の栄光復活」で書き始めていました。
いろんな意見が挟まってしまい原稿が先送りになっていますが、これを引用してFebruary 1, 2017にもロシアはクリミア併合によって欧米から経済制裁を受けている最中・・野菜等生鮮食品が西欧から輸入出来なくなっていても、輸入国の方が強いことと「生活条件の過酷な発展の遅れた国の方が耐性がある」という意見を書きました。
月収百万円の人が半分になるのと10万円の人が半分になるのとでは貧しい人の方が極限状態だから、より反発が激しいというのが普通の印象ですが、現実政治では逆に日頃贅沢していた人の方が、(株が少し下がったり)少しでも貧しくなるのに耐性が弱いのです。
加えて政治自由度が低いとか政治不満程度ならば、(賄賂や汚い・公害等が気に入らないならば中国へ外資が進出しなければ良いのとほぼ同じで)今では国民にも国外移住の道があるので、わずか10数万円あれば国外脱出可能・・(出稼ぎ等で)逃げ出せば良いのですから命がけで暴動を起こす必要はありません。
シリア難民が最近の実例ですが、外部に逃げられない昔ならその何割かは暴動参加者になっていたでしょうが、難民になって出てしまえば政府は安泰です。
出血輸出は相手国の失業増加要因`・失業の輸出であると一般に言われますが、難民を吐き出せば受け入れ国の政治不安要因になります。
これが受け入れ国であるドイツその他西欧諸国の団結をゆるがす原因になっています。
賄賂社会に戻しますと、賄賂社会が嫌だという程度で命がけの反政府運動をしても続く人が少なすぎて投獄されて終わりです。
出世競争や権力闘争に関係のない人民の方も(競争相手がルールを守っていないのに自分だけ守っていたらコスト競争に負けるので)設備・労働基準など違反状態で許認可を通して貰う・許可後の基準未達操業を見逃してもらうなどいろんな場面で常に賄賂が必要になっています。
この数年は、 習近平派以外に近づかなければよかったのですが、せっかく賄賂を提供していても、習近平派内の争いが激化してくると頼みにしていた人がいつ検挙・粛清されるか知れないのでは、戦々恐々の状態でしょう。
この結果、賄賂提供の効果がない・・廃れるかというと日常末端の検査官や窓口業務で賄賂を要求される・断ると基準違反で摘発されたり嫌がらせされるリスクがある・競争相手の肩を持って自分の企業だけいやがらせされたたら、倒産するのでもっと上の人に頼むしかないのが現状です。
ソ連の場合も賄賂がないとまともに医療すら受けられない賄賂社会でも景気が良ければ何とかなっていましたが、ソ連末期の経済混乱期になると平均寿命が低下した時に賄賂社会の厳しさが表面化してしまいしました。
今後中国の成長が低下するとこの社会規模の矛盾(いわゆる都市戸籍と農民戸籍の差別・貧富格差)が表面化すると思われます。

中国過大投資の調整6(反日暴動)

元々は、下々の争いに大物は関知しない・・大物は自分の系列末端と相手大物末端や中堅幹部間のもめ事処理・解決を配下に指示しながら、争いを表に出さずに大幹部同士は親しげに宴会などしていたのが、これまでのルールだったと思われます。
これが共産党最高幹部クラスについては、汚職摘発しないと言う不文律が成立していた基礎です。
日本の大手ヤクザなどのトップ関係は協調を演出しながら、末端現場では縄張り争いにしのぎを削っている関係に似ています。
中国共産党はヤクザ組織ではないとおしかりを受けそうですが、コネ社会とはこう言う本質になります。
政府資金による救済対象が絞られて来た結果、最近では大幹部同士が直接関係する国有企業間の血で血を洗う淘汰・死闘が始まっている可能性があります。
これが政治の表面に現れて来たのが、習近平政権による「トラも叩く」と言う粛清の嵐の裏側とも読めます。
リーマンショック後中国の輸出産業が持ちなおす兆しがないまま、反日暴動→東南アジアへの日本の投資シフトによって、今度は東南アジア諸国での生産が始まって、いよいよローエンド製品の輸出競争力がなくなってきました。
反日暴動による日本の投資先変更は、中国にとって、リーマンショックに次ぐ2番底を形成している可能性があります。
4兆元の資金投入によって国内公共工事を増やしても、直接潤うのは工事用地買収による不動産好景気と鉄鋼やセメント、石化製品等基礎資材分野→建設土木工事業者等に過ぎず、ローエンド製品(単純組み立電気産業や縫製工場など)の国内売れ行きが伸びるのは公共工事で潤った、関係労務者の消費拡大による売れ行き拡大程度の間接効果でしかありません。
輸出が出来なくなった分、安物電気製品や衣料品輸出が出来なくなった分の穴埋め出来るほど公共工事によって売れる訳がありません。
他方で、ローエンド製品製造工場の相次ぐ閉鎖による大量失業(22日に1つの工場には万人単位で働いていることを紹介しました)が生み出されている筈ですから、その人たちの消費減退が起きてきます。
縫製工場や電気製品組み立て工場の工員が失業した場合、公共工事・・土木建設等に転職するのは容易でありません。
ローエンド製品の輸出競争力がなくなった以上は、高度製品への業態転換が必要・・日本企業の更なる進出誘致・より高度な技術移転を求める必要に迫れていた段階で、反日暴動を政府が官製で起こすことほど不合理な選択はありませんが、国内矛盾激化から目をそらすために已むなくやったのでしょうか。
政府としては、一時的に激しくやって日本企業を脅して次の進出条件を厳しくし(中国有利・技術移転を強要)、あわせて国内不満ガス抜きしたある程度のところで、「恐れ入ったか、頭を下げて技術移転をすると言えばすぐに暴動を収めてやる」と言うつもりだったでしょう。
官製デモですから謝らせてから収束すれば済む・・中国人の好きな「一石二鳥の政策」と悦に入っていたのでしょう。
予想外に日本が謝って来ないで、尖閣諸島領海侵犯では世界にアッピールされてしまうし、レアアース禁輸では逆対応で中国からの輸入を減らされて国内業者が困ってしまい、技術移転を加速させるどころか、リスクの高い中国への進出をやめる方向に向かったの(1石三失)で困ってしまいました。
韓国も中国の追い上げで困っていましたから、もう一段の高度技術移転を要求していたことを想起する人が多いでしょうが、竹島上陸で愛国心を鼓舞しながら、裏で日本に技術移転を要求(お願いでなく上から目線で「すべきだ」と言う表現した)していたものですから、中国との連係プレーだったことになります。
従来日本は何をされても謝る一方だったことによって、中韓共に甘く見過ぎた・戦後70年の成功体験が裏目に出たのです。
中韓両国が、日本による戦後レジームの転換を目の敵にする理由がここにあります。
繰り返し書いているように、ネット報道の発達が我が国のマスコミ支配を崩しました。
この辺は文字文化・識字率の高い我が国に特に効果が強く出た印象です。
中国漁船の体当たり写真が出回る社会で、マスコミや政治家さえ買収しておけば日本がどうにでもなる社会ではなくなっていたのに、中韓共に真の民主化が出来ていない・・中国では、就職先のない大卒を雇って日々政府に都合の悪いネット削除に精出しています・・実質専制社会なので、日本国民の強さ・政府は国民を意識せざるを得ない点を誤解していたことによります。

腐敗政治と最低賃金引き上げ2(暴動の頻発1)

最低賃金引き上げに成功して中国で仮に月額数千円賃金を引き上げても、流入した巨額外資(約1000億ドル)を地方幹部やその上の大幹部が懐に入れたままでは、農地を取り上げられて流民化(農民が都市に追い出されて農民工になっても都市戸籍を貰えない差別があります)してしまっている国民の不満が収まらないでしょう。
ところが、共産党幹部の腐敗政治をやめさせられないので、(これを本気でやると政府首脳の命取りになるので保身のために手をつけられないのが実態です)外資に賃上げを無理に飲ませることにしたのですが、こうなると採算が取れない外資だけではなく国内資本までも国外に逃げ始めます。
その結果、工場閉鎖の続出→失業増大・・あるいは新卒学卒の就職難(・・大卒のネズミ族の発生)で不満が極限に達している・・国内政治がどうにもならなくなっているのが中国政治の現状です。
中国では2011年度には年間に発生した暴動(無許可デモ→一般的には暴力事件に発展して問答無用で収監されますが・・)が20万件(公表データですから実際にはもっと多いでしょう)という日本では想像を絶する数字が発表されています・・殆ど中国歴代王朝政権末期の状態になっています。
タマタマうろ覚えだった暴動件数をサーチしてみたら、以下の文章が見つかりました。
暴動件数だけではなく、最低賃金引き上げに関しても私同様の関心で書いていることが分ります。
(私一人の意見ではなさそうですので安心したと同時に、人が先に書いていたのには驚きました。
ただし私の意見は賃上げの結果、企業が海外に逃げて、失業が増え政府は余計困難な状態になりつつあると言う点に重点があります。)
以下は下記ネットからの引用です。

◆中国の暴動・デモ1日548件 公安費予算9.1兆で国防費上回る
http://news.ameba.jp/20120528-401/
中国政府が、賃金は市場経済で決まるという原則を無視してまで、賃金を上げようとしている理由は、民衆蜂起を恐れているからだ。
中国各地では、貧富の差の拡大や役人の腐敗・汚職に怒った民衆の暴動やデモ(…群体性事件)が頻発しており、昨年は約20万件に達したという情報もある。
なんと1日当たり548件。
収拾不能な数字である。
このため、それを取り締まる公安費(公共安全費)が2010年以降、膨張を続ける国防費をも上回るという異常事態になっている。
2012年予算では公安費が7018億元(約9兆1000億円)、国防費が6703億元(約8兆7000億円)。
もはや公安は公共の安全を守る組織ではなく“民衆蜂起から不正官僚を守る”ための組織に成り下がってしまった観がある。
ことほどさように民衆蜂起の危険性が高まっているため、政府は民衆の怒りを和らげようと、企業にシワ寄せをしているわけだ。
だが、暴動やデモが頻発している背景には、賃上げだけでは解決できない国民の鬱積した不満がある。」

以上のように現共産党政権は現地歴代王朝末期より酷い状態にあるのですが、May 2, 2013「中国共産党→中国政府→人民3(モラルなき社会)」で書いたように近代装備の政府軍・・中国の場合、軍+公安部隊は強大です。
上記コラムでも書きましたが、中国の場合外国から守るための国防軍は存在せず、共産党の私兵=人民解放軍が中国全土を占領したままですから、いずれも共産党を守り、強制するための組織・・対国内戦争用です。
(ここ数年海軍に力を入れていますが、陸軍中心で来た意味が分かるでしょう)
・・・・人民解放という内戦向きの軍・・国内で敵対する相手と戦う軍しか存在しない・・国府軍を台湾に追い払った後には敵は国民しかいないのにまだ軍があると言うギャグのような組織のママですから、上記ネット意見では軍より公安予算の方が大きいと書いていますが、そもそも公安部隊と人民解放軍との区別が論理的には存在しません。
元々国民対策用強制装置の内、公安の方が情報収集や民間を下部組織として使うようになっている違いに過ぎません。
江戸時代にもとは対外戦闘用であった武士が治安を担当するようになって「寄り騎」→与力制度が生まれたと書いたことがありましたが、中国ではこの逆の成長をして来たのです。

暴動と政権維持2(同胞意識3)

強権弾圧政治は、政府軍の武器が民間人の保有武器を天文学的な格差で上回ってる現在、国民の不満がどんなに高まろうとも外国の介入がない限り崩壊することがあり得ません。
国家権力が次第に強化されて来たことについては、非理法天権の法理として、01/21/04「中世から近世へ(国家権力の強化)1」〜01/25/04「江戸時代の相続制度 3(武家)(忠臣蔵の新解釈?)」までのコラムで説明したことがあります。
信長の時代・・戦国武将が強い政権のイメージで想像されていますが、実は今の政府よりも非常に脆弱であったのに対し、今の政府は突出した軍事力の御陰で歴史上比類のない強権政治可能な時代に突入していることになります。
商品知識では専門家に到底及ばない消費者問題がその象徴ですが、(最近では地震や原子力ムラ問題)全ての分野で専門家がその他に比べて格段の突出した能力を蓄えるようになった時代・・専門家以外にはどうにもならない時代に入っています。
01/10/07「世界平和12(戦争の原因6・・武士の戦争6)戦闘員の専門化2」前後の連載で、軍人の専門化が古代から比較的早かったと書きましたが、専門家の力が強くなり過ぎると政治家・権力が恣意的にならないように民主的控制(チェック)が必要になっています。
中国のように独裁体制では、民主的チェックが働かないので権力をもった方がやりたい放題になっても、民衆には前近代のように暴動によって抵抗する物理的方法・・・暴動能力低下・・がなくなった点が問題・悲惨です。
(チベットの場合、対外的に殆ど解放されていないので政府のやりたい放題なっている傾向があります。)
まして旧ソ連や中国のような大国になると外国軍の介入はあり得ませんので、政府には人道に関する意識・自制がない限り(あるいは同胞に対する愛がない限り)何の遠慮もないことになります。
進歩的知識人によるロシアや中国での民主化期待は、実は被統治者の抵抗能力が極小になって物理的歯止めがなくなくなった現在では幻想に過ぎません。
ただ、収容所列島という本を出されてしまったソ連の場合を見ても分るように、政府批判者・暴動頻発→収容所送りをしていれば政権崩壊はないとしても、国民のやる気をなくすので国際競争に負けてしまう点が難点です。
(現在でも北朝鮮の経済停滞を見れば明らかです。)
そこでソ連はゴルバチョフによって、自ら弾圧政治体制を解体してやり直しに方針転換しました。
その結果今でもまだ民主化定着に努力中・・実際には揺り戻しもあってなかなか大変ですが、民主化定着に民族として頑張って欲しいところです。
中国の場合、国際競争力回復・維持のために経済(経済活動の自由化)を開放はするが強権弾圧政治を残すと言う二兎を追う政策を実験中です。
その矛盾が最初に出たのが天安門事件でした。
共産主義政権下でも自由主義経済(先進国の自由主義にはルールがありますが、中国ではルール無視でも手段を問わずに金儲けさえすればいという自由主義)にひた走るという矛盾した体制が共産党独裁下の「自由」経済と言う呼称です。
以前書きましたが、共産主義体制堅持というのは本来は経済体制の意義ですが、中国では単に1党独裁・強権政治体制を維持するための名目を意味しているだけですから、経済体制としては改革開放後は独裁に反しない限度で自由主義体制に移行しています。
西欧の歴史に当てはめれば、絶対王制下の重商主義の焼き直しをしていると言えるでしょうか?
イランのパーレビ王制やフセイン大統領時代のイラクや中南米・リビア(カダフィ政権)等に多かった自由主義経済下での独裁軍事国家と本質は同じです。
しかし、自由主義経済維持に必要なルールと1党独裁体制維持に必要なルールとでは、価値観が対立するので、これを強権的に無理に維持していると価値観の混乱が生じます。

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