継続契約保障と社会変化4(離婚法制の変化・破綻主義へ)

継続的契約関係ではDecember 9, 2017の「継続契約保障と社会変化3(借地借家法立法3)」で書いた続きになります。継続関係解消で似たような事例では、偕老同穴の誓い・共白髪の末まで・・と契ったはずの夫婦関係も何かの事情変化でわかれる(離婚)しかない事態が起きます。
この場合も戦前の旧法では、法律上は相手に契約不履行・・不貞行為等の違反・落ち度がないと離婚を求める権利がありませんでしたが、戦後は破綻主義といって、破綻している以上無理にこれを維持させるのは意味がないし逆に害悪があるということで離婚できるようになりました。

民法旧規定
第二款 裁判上ノ離婚
第八百十三条 夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ
二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ
三 夫カ姦通罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ
四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
十 壻養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ
第八百十四条 前条第一号乃至第四号ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ行為ニ同意シタルトキハ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
2 前条第一号乃至第七号ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方又ハ其直系尊属ノ行為ヲ宥恕シタルトキ亦同シ

上記の通り相手方になんらかの原因がないと離婚の訴えが認めれない仕組みでした。
民法現行規定

(裁判上の離婚)
第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
《改正》平16法147
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

上記「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」がこれ(破綻主義採用)にあたるという解釈が定着しています。
第二項の「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」場合とは、離婚に至った事情を総合し、離婚請求される方の生活保障等のバランスを考慮することになっています。
破綻主義と言っても当初は有責配偶者(例えば浮気している方)から、自分の浮気や暴力が原因で「夫婦関係が破綻した」という理由の離婚請求を認めない・・いくら高額慰謝料・終身の生活保障をすると言っても)妻が「懲らしめや復讐のために?」拒否すると離婚が認められない解釈でした。
この間の研究については以下の論文がネットに出ています。
ただし、論文発表時期明示がないのですが、かなり古い時期の分しか引用されていないので、現在の参考にならないかも知れませんが、問題点が十分に掘り下げられていますので深く知りたい方は、以下を参照してください。
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20181112095822.pdf?id=ART0001408704

いわゆる制限づき破綻主義の判例法理について(その1)梅木茂
1聞題の所在
2 有 責配偶者の離 婚請求拒否法理 の背景
3.判例の動向 な らびに考察
「法 は かくの如き不徳義勝 手気儘 を許すもので は ない.道徳 を守 り,不 徳義 を許 さない ことが法の最重要 な職分である.総て法はこ の趣旨にお いて解 釈されな け れ ば な らない、・・・前記 民法の規定は相手方に有責行為のあることを要件とするもの でないことは認 め る け れ ど も,さりと て前記の様な不徳義 得手勝手の請求を許すものではない.(最高裁 昭和27.2.19判決最高民集6.2.110)

借地借家法成立前には、相場の数倍の立ち退き料支払いを申し出ても借地人が拒否すればどうしょうもなかったし・・労働契約解約のために契約上の退職金の数倍の上乗せ支払いを申し出ても労働者が応じなければそれまでだったのと「軌を一」にしていました。
その後(昭和62年)破綻後一定期間経過と子の養育や相手方の生活保障等のセットで有責配偶者からの請求でも離婚が認められる最高裁判例(いわゆる破綻主義)が出て、これが定着しています。
離婚を認めるかどうかは離婚後の相手方や子供の生活がどうなるかの問題であるという実態を直視してその面の判断が重視されるようになってきたのです。
こういう判例が出る前から庶民の世界・・現場労働系低所得階層・特に職を転々とする傾向のある男相手の場合には、相手が浮気でいなくなったのであろうと理由が何であろうと、慰謝料を1円も払わないからと離婚しないと頑張っていてもどうなるものでもありません。
こういう場合には早く離婚して母子手当て・母子優先のいろんな制度(公営住宅の優先入居その他)利用をして生活の安定を図り、場合によっては次の男と再婚した方が有利なので、どんどん別れていくのが私が弁護士を始めた昭和40年代でも普通でした。
仮に相手の居所がわかってもあちこちフラフラ職の定まらない(こういう場合生活費も入れない男が普通)男相手に「慰謝料を払わない」から「払え」と裁判しているよりは早く別れて社会保障手続きする方が簡明ですし、次の相手と再婚する方が手っ取り早いからです。
たまたま夫が行方不明で離婚届けを出せない場合に、(再婚前に次の子供ができると大変なことになるので)はやく離婚するために弁護士費用を払ってでも法的手続きするのが普通でした。
長々とした裁判になる事件の多くは、相手が高額収入・・安定職業に就いている場合で話の通じない・ほどほどのところで手を打つ能力のない・・同士の争いが普通でした。
最近家事事件が多くなっているのは、男も子育て参加の掛け声によって男性も子供に対する愛着が 強くなってきた結果、親権者や子供との面会にこだわる人が増えたことによります。

継続契約保障と社会変化3(借地借家法立法3)

12月6日に出たばかりのNHK受信料に関する最高裁判例で時間軸をhttp://www.toranosuke.xyz/entry/2016-1105_nhk-saikosaiによって見ると以下の通りです。

事件の概要 *6
2006年3月、テレビを設置、「放送内容が偏っていて容認できない」と契約拒否。
2011年9月、NHKは男性宅に受信契約申込書を送付したが、応じず。
契約の申し立てを行った時点で契約は成立すると、NHKは主張。
1審:東京地方裁判所判決(2013年7月判決)
2審:東京高等裁判所 (2013年12月18判決, 下田裁判長)

となっていて、超長期の時間がかかっています。
弁護士が判例を説明して、企業からどのくらいの期間で決まりますか?と聞かれてもそう簡単には答えられないの実情です。
これでは企業活動(大手マンション業者の場合には、見込みだけであちこちにちょっかいを出しておいて買えるようになった順に仕入れていけばいいのですが、事業用地取得・・デパートの出店や工場進出などの場合には売ってさえくれれば駅に近ければどこでもいいという訳にはいかないので長期間不確定では事業計画がなり立たない・・不向きな制度設計になっています。
判例さえあれば良いかというと実務的には大違いなのが分かるでしょう。
この法制度がない時代にも事実上適正な立ち退き料支払いの示談で出てもらって都市再開発などができていたのですが、建築後4〜50年以上のあばら家に住んでいる借地人や借家人に正当な立ち退き料の提案をしてもアクまで「金の問題でない」と言い張られると法外な立退き料を払うしかなく、法的に強制する方法がありませんでしたが、判例は徐々に自己使用目的でなくとも金銭補完を認める方向に動いていたのです。
借地制度は、戦後牢固とした勢力を張る「何でも反対派?」(社会変革反対)政党の基礎的制度ですから、解約の自由度をあげる改正には頑強な反対が続いていました。
これでは時代即応の都市設計・再開発が進まない不都合があったので、借地借家法が新規立法の機運が盛り上がったのです。
昨日借地借家法の付則を紹介しましたが、「付則」とはいえ、これが最重要部分で(超保守系)革新政党との妥協によって、既存契約に適用なしとする妥協がされたので、過去の契約に関しては、従来通りとなってしまいました。
今どき新規借地契約をする人などめったになく、存在する借地権等はいつ始まったか分からないほど親や祖父の世代からの古いものが中心ですから、新法では古くからの借地の再開発案件には利用できないままですから、新法制定による都市革新促進効果は(定期借地権付き大型マンション等でたまに利用されることがある程度で)限定的になっています。
時代遅れのブティックやレストラン等の場合、この先何十年も建て替え予定がないのに「今度家を建て替えたら綺麗にするから」というだけでリフォームを一切しないのに似ています。
このように「弱者救済」の掛け声ばかりでなんでも反対していると木造密集アパートばかり残って行く・・近代化阻害ばかりでは災害対応も無理ですし、国際都市感競争に遅れをとるのが必至です。
車や電気製品のように短期に買い換えて行く商品の場合には、新製品からの規制・・排ガス規制というのは意味がありますが、超長期の借地契約でしかも無制限的に更新が保証されている借地関係では、(しかも新規借地契約など滅多になく旧契約が問題なのに、)今後の契約からの適用ですと言っても社会的にほとんど意味がないことなります。
都市再開発や新規事業用地取得の障害になって困っているのは、新規借地ではなく明治大正昭和前半に、大量に生み出された山手線の内外に多い古くからの借地です。
古くからの借地が事実上無期限に更新されていく前提ですと新法制定の効果がほとんどなくなります。
現代型借地契約として時々見かけるのは、大型マンションの場合、多数地権者からの買収が必須ですが、開発用地内の一部地主が先祖伝来の土地を売りたくない(一時に大金が入ると税負担が大きいなどいろんな事情で)と頑張った場合、便法としての「定借」が利用されるようになっている程度でしょうか。
あらたに生まれた定期借地権の利用形態としては、ビル用地の一部に所有権を残しておいても50年程度の長期ですから、(自分が生きている間には)配当金をもらうだけの債権に似ていて「保有」している意味が実際に無い(50年先に何か言えるというだけ)のに比して、マンション等ビル保有者の方は50年先にどうなるか不明で不安定になるマイナスだけで新規借地を奨励するべき社会的意義がほとんどありません。
マンション法の累次の改正で特別多数で所有権の一態様で有る共有者に対してさえ、強制的改築(建物取り壊し決議)ができるようにになっているのに、地主というだけで(全体敷地の1%しか持っていない地主が合理的理由なく拒否権を発動できる)老朽化したマンションの死命を制することができるのは、おかしなことだという時代が来るべきでしょう。
長期的には借地という半端な制度は臨時目的の1時使用目的以外にはなくなって行くべきではないでしょうか?
自分で利用する予定のない土地を持つこと自体がおかしいのであって、必要な人がいて相応の価格で買いたいといえば手放すのが筋です。
数十年あるいは50年以上も先まで土地利用計画すらないのに、売るのを拒否して所有権維持にこだわる人をなぜ保護するのか分かりません。
こういう不合理なヒト・しかも社会にとって迷惑なひとを保護するために、(既存借地の流動化を図るためならばわかりますが)いつでも返してもらえるような法律(新借地法)を作るのは方向性として間違っています。
有効利用もしていないのに「あくまで売りたくない」と言い張る所有権者の乱用と同じで、いったん借りたら既得権になって周辺の発展を無視して巨額立ち退き料を積まれてもアクまで「この古い家が好きです」と言い張って占拠し続けるのを社会が保証してやるべき・・どういう借地人でも「何が何でも保護すべき」という論者がいるとしたらこれも異常で、どういう社会のあり方を想定しているのか不明です。
バブルの頃に小さなラーメン屋か薬局だったかで何億という立ち退き料支払いが何件か話題になっていましたが、そのたぐいです。
※ ただしH6年の最高裁判例によって相当の対価が提供されていれば正当事由が補完されるようになってることは昨日紹介した通りです。
都市再開発での借地権問題同様に既得権には手をつけない・先送りしか出来ない問題は、厳しい解雇規制の結果、国際競争にさらされている大手企業の雇用現場で起きています。
企業でよくいう新事業向けに再構築し直すときに旧事業向けの余剰人員をリストラしないで、定年退職対応の新人不補充・(解雇規制があるため)「自然減を待つ」というのも同工異曲です。
1〜2ヶ月ほど前に三菱UFJBKの(フィンテック化進展等による)大規模人員不要化発言が話題を集めましたが、不要になるというだけで希望退職を募るのかすらはっきりできない・・不明の批判を受けているのは、解雇制限法理による点は、借地法関連の保護法理が支障になっているのと根底が同じです。

継続契約保障と社会変化2(借地借家法立法2)

昨日紹介した法改正の議論の結果、平成3年に成立したのが現行借地借家法で、この新法により定期借地や定期借家制度が創設され、さらに定期契約でない場合でも更新拒絶ができるように「正当事由」の条文内容を類型的具体化して使い安く変更されました。

借地借家法(平成3・10・4・法律 90号)
第1章 総 則(第1条-第2条)
第2章 借 地
第1節 借地権の存続期間等(第3条-第9条)
第2節 借地権の効力(第10条-第16条)
第3節 借地条件の変更等(第17条-第21条)
第4節 定期借地権等(第22条-第25条)
第3章 借 家
第1節 建物賃貸借契約の更新等(第26条-第30条)
第2節 建物賃貸借の効力(第31条-第37条)
第3節 定期建物賃貸借等(第38条-第40条)
第4章 借地条件の変更等の裁判手続(第41条-第60条)

(趣旨)
第1条 この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

附 則 抄
第四条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。
(借地上の建物の朽廃に関する経過措置)
第五条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による。
(借地契約の更新に関する経過措置)
第六条 この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。
(建物の再築による借地権の期間の延長に関する経過措置)
第七条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の滅失後の建物の築造による借地権の期間の延長に関しては、なお、従前の例による。

平成3年の借地借家法との比較のために旧借家法(わかりやすくするために「旧と書きましたが、実は以下に書く通り現行の借地権の大方は、この法律の規制を受けますので、実務家では廃止された借地法と借家法が日常的アイテムになっています)を紹介します。
そこで、借地法(大正十年法律第四十九号)を紹介したいのですが今のところ、ネット情報では現行法中心で改正前の法令情報が極めて少ないので、ネット検索では借家法しか出てきませんが、更新拒絶要件関連の基本は同じですので、借家法の引用だけしておきます。

大正十年四月八日法律第五十号
〔賃貸借の更新拒絶又は解約申入の制限〕
第一条ノ二
建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ非サレハ賃貸借ノ更新ヲ拒ミ又ハ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス

昨日紹介した大阪市立大学法学部生熊長幸氏の論文のとおり、借地借家法制定立案時に定期借地、定期建物賃貸借制度創設の他に一般(従来型)の借地借家契約でも、更新拒絶自由の合理化を図ったのですが、いわゆる現状維持派・反対勢力の主張が強くて法制定作業が進まないので結果的に当時すでに判例で認められている正当事由を法文化する程度で収まりました。
反対派の動きが強くて借地借家法の制定作業が進まないので催促するかのように、新判例の動きが出てきたとも言われます。
結果的にこの判例を条文化する程度までは仕方がないか!という妥協ができて国会通過になったようです。
最高裁のデータからです。
最判の時期は法制定後の平成6年ですが、高裁事件受理は昭和63年(ということは1審受理はその1〜2年前)で最高裁受理は平成2年の事件ですから、借地借家法制定準備・・審議会等での議論と判例の動きが並行していたことがわかります。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52466

平成2(オ)326事件名 建物収去土地明渡等
裁判年月日 平成6年10月25日
法廷名 最高裁判所第三小法廷裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁  民集 第48巻7号1303頁
原審裁判所名東京高等裁判所原審事件番号 昭和63(ネ)3286
原審裁判年月日 平成元年11月30日
判示事項
借地法四条一項所定の正当事由を補完する立退料等の提供ないし増額の申出の時期
裁判要旨
借地法四条一項所定の正当事由を補完する立退料等金員の提供ないしその増額の申出は事実審の口頭弁論終結時までにされたものについては、原則としてこれを考慮することができる。
参照法条   借地法4条1項,借地法6条2項

判例さえあればいいのか?となるとそこは大違いです。
上記判例があっても、「相応の立退き料を払うので出てもらって跡地にマンションを建てたい、デパート用地に売りたい、工場用地に売りたい」と言う理由では(上記旧法の自己使用その他必要条件にあたらないので)長期裁判を經ないと(上記の通り1審判決から最判まで膨大な時間がかかっています)どうにもならない・・判決時期等が不確定過ぎて計画的進行を重んじる企業用地としては手を出しにくくなります。

継続契約保障と社会変化1(借地借家法立法1)

今になれば夢のような昔のことになりましたが、私は昭和30年代に高校〜大学と池袋東口に住んでいましたが、(生まれたのは戦時中でしたので戸籍謄本では「東京都」ではなく「東京市」豊島区池袋〇〇で出生となっています)昭和35〜6年頃に木造の豊島区役所が4階建てのビルになったのが地元に住む高校生としては誇りに思っていたものでした。
そのころに池袋付近にあったビルと言えるのは、西武、三越、丸物(その後パルコに)百貨店、西口の3階建ての東横(その後東武デパート)百貨店くらいでその他集積していた映画館も皆木造の時代でした。
その後急激にマンションやオフイスビルが建つようになり、いつの間にか巣鴨の拘置所がなくなり、跡地にサンシャン60ができるなど東京中がビル化のラッシュになりました。
余談ですが3年ほど前にサンシャイン60に用があって行ったついでにサンシャイン60の展望台に登り、見渡すとその自慢の区役所の老朽化手狭のせいか?新庁舎が雑司が谷のあたり(上から見たので地名はわかりません)に新築中で移転予定だったのに気付いて(高校時代の記憶がいきなり蘇って)まだあったのか?と驚きました。
区役所は明治通りからちょっと入ったところにあったので、池袋に住まなくなってから池袋に行っても路地の奥まで用がないから行ったことがなかったのです。
このブログを書くために念のために豊島区役所旧庁舎の写真をネットで見ると昭和30年代に出来たばかりの頃に目に焼き付いている建物の写真が出ていました。
上記の通りで、昭和30年代末ころにはまだ木造家屋中心であった都内の繁華街・・渋谷、新宿、池袋周辺では中高層ビル化が始まり、古い建物のトリ壊しが必要な時代が来ました。
都市の大変革が始まると、長期契約の代表例であり都市再開発のインフラである借地法、借家法分野での改正議論が昭和60年から公式に始まりました。
借地・借家法分野の改正機運が起きて、平成の初めになってようやく定期借地権などの契約が公認される新法が成立しました。
借地法&借家法分野での改正議論の経緯については、現在の最高裁長官が中堅判事のころに書いた論文が見つかりましたので以下紹介します。
借地借家法の制定経緯を以下の引用により紹介します。
http://seitojiyu.com/wp-content/uploads/2015/10/acade166cdf0cadbfc1e4f0aa7a55f8a.pdf

借家法の運用と実務判例タイムスNo.785 (I992 7 20)
新「借地借家法」の概要 寺田逸郎
・・・・その後は、今日に至るまで借地・借家法の改正はなく、基本的には、存続保障として、昭和一六年改正による正当事由がなければ契約は更新されていく」という枠組みが維持されている
2 借地・借家法制の見直し
我が国の経済は、今日までに戦前とは比べものにならない進展をとげ、これに応じて社会も著しく複雑化した。それに伴って、不動産の利用形態、特に土地の利用形態が多様化してきている。このような変化を前にして、現行の借地・借家法が当事者聞の
利益の調務のために適当であるとしてとっている方策と現実の要請との聞にずれが生じてきている面があるのでないか・・・中略・・なお、昭和五0年代後半からは、土地の供給促進の観点から法制度としての借地・借家法の見直しが主張されてきた・・
全面的な見直しをはかることは、難しい情勢にあった。
しかし、高度成長期を経て経済規模が拡大し、都市化がすすむと、借地・借家法が画一的な規制をしていることによる弊害が一層明らかになってくるようになった。
戦前・戦後の住宅難の時代には重要な役割を果たしたと評価されているが、その後は、むしろ現状維持に働きすぎ、社会・経済情勢の変化に対応せず、硬直的になっているとの批判もみられるようになっているのである。このことは、このことは、特に借地において顕著で、借地権の新たな利用は、目にみえて減少していることが、ひとつの裏書きとなっている・・・・・以下略。
法改正に至る経過
法制審議会の民法部会(加藤一郎部会長)は、以上のような問題意識から、昭和六O年一O月に現行法制についての見直しを開始する決定をした。具体的な・・・・・以下略

上記によれば私が抱いている関心の通り・・・継続関係の保護→現状維持政策では社会変化に適応出来なくなると言う私の意見同様の立法経過であったことが分かります。
いわゆる日支事変以降(軍需産業拡大に伴う人口の都市集中により)空前の住宅不足が生じ賃料高騰したことから、家主が期間満了を理由におい出すような事態が頻発した実情を受けて昭和16年改正で正当事由がない限り契約満了しても更新拒絶できないという法改正ができています。
この辺の経緯については、昭和16年2月3日の貴族院での議事録を読むと(急激な都市集中により6畳一間に8人が交代で寝起きするなどのすさまじい)当時の社会実態が如実に出ています。
借地借家で借主借地人保護の運用が支持されたのは、戦時中〜戦後焼け野が原で始まり住む家が絶対的に不足している時代を背景にすれば借家を追いだされれば野宿するしかない状態であれば「余程のことがない限り、家主の都合で追い出されない」という運用も合理的だったでしょう。
しかし昭和50年頃から住宅事情が緩和されて空き家が目立つようになって来たし、日本の国力復活に合わせて都市再改造が必須になってきたのですが、借地人等への過保護?が都市改造や新規工場立地などに支障を支障をきたすようになってきました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs1993/1993/4/1993_30/_pdfによると、以下の通りのせめぎ合いがあったことわかります。

借地借家法改正と土地の有効利用―賃貸住宅政策における意義ついて―大阪市立大
学法学部生熊長幸
2 借地借家法制定の経緯と概観
・・・・市街地再開発のあり方の問題およびそれに関係する業界の利害と深く結びついていた点にあった(水本浩「都市再開発と借地・借家法ジュリスト851号13頁)。1985年7月に公表された臨時行政改革推進審議会の「行政改革の推進方策に関する答申」は、新規借地・借家の供給促進とともに、都市再開発のための既存借地・借家契約の解消も企図したものであった。
・・・・問題は、正当事由の内容において旧法と新法とで実質的変化が見られるかである。
・・・中曾根内閣の公的規制緩和・民間活力導入路線のもとで、「借地・借家法改正に関する点」は、「土地の有効利用の必要性及び相当性」を正当事由の要素とすべきかを問うた。
これに対しては、民間ディベロッパーや不動産業界の意に沿うものであり、私人間の権利関係の調整を図るべき借地借家法の範囲を超えることになるといった批判が強かった。
中曾根内閣の公的規制緩和・民間活力導入路線のもとで、「借地・借家法改正に関する問題点は、「土地の有効利用の必要性及び相当性」を正当事由の要素とすべきかを問うた。
これに対しては、民間ディベロッパーや不動産業界の意に沿うものであり、私人間の権利関係の調整を図るべき借地借家法の範囲を超えることになるといった批判が強かった。
・・・・このような経緯を経て、新法6条が成立した。
・・・・(2)国会審議において繰り返し強調されたように、借地借家法6条の正当事由の内容は従来の判例を整理して法文化したにすぎないのであって、従来の正当事由の内容と変わらない。
・・・・(4)補完的要素は、限定的に列挙されているのであり、これ以外の「土地の効利用」、「市街地再開発の要請」などは、補完的要素に入らない(広中編・注釈借地借家法§61皿〔内田〕)。もっとも、立案担当者は、これらも「土地の利用状況」背景になる事情として考慮されるとされる。
(5)本条は、新法施行前に設定された借地権の契約更新に関しては適用されない(付則6条)。

政治の世界では社会党が、理論面では主に日弁連が反対意見の論陣を張っていたように記憶しますが、今になるとネットで意見書などが発見できないので、事実はよく分かりません。
以上の結果、正当事由に関しては新法制定前の契約に適用がないばかりか、新法制定後の契約でも実質的改正をしない方向で決着がついたとされています。

賃貸借契約の真意

貸金に関する本音の約束と文書に書いた約束文言との違いに似た話は賃貸借にもあります。
契約期間2年と文書に書いてあってもそば屋に貸した場合、正当事由がない限り満期が来ただけで出て行ってくれというのは許されないと説明します。

借地借家法
(平成三年十月四日法律第九十号)
借地権の存続期間)
第三条  借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
(強行規定)
第九条  この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
(建物賃貸借の期間)
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
第二十九条  期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。

相談者は
「きちんと2年と期間を書いてあっても約束を守らない方が正しいのですか?』「これでは何を信用して良いのか分らなくなる・・道徳は地に堕ちた・・そんなことを法で強制しているのは納得出来ない」
と言わんばかりの質問をして来る人がいます。
そもそも、そば屋でも喫茶店でも魚屋でも「そこで商売を始める以上は、2年で店を畳むつもりで借りる人はいないでしょう」と説明します。
2年でやめるのは商売に失敗したときだけで、誰だって失敗するつもりで始める人はいないので、順調にいけば行くほどそこから動きたくないのが普通です。
(実際2年ごとに動いていたのでは客を失うし、設備投資も無駄になりますから、本気で2年で出て行くつもりで借りる人は皆無でしょう)
2年の契約は契約書に印刷していてこれが普通だと言うから仕方なしに署名しているだけでしかなく、本音は商売に失敗しない限り半永久的に借りていたいというものですし、合理的に解釈すれば、せいぜい家賃の見直し期間くらいの意味でしかなくて「あなたも本当に2年で出て行ってもらう予定で貸した訳ではないでしょう。」と説明します。
何か気に入らないことがあったときだけ大家が2年契約の文字をたてに主張するのは、大家の方こそ本当の約束を守っていないことになります。
本当の気持ちを裁判で認定して行くのは大変なので法律で「正当な事由がない限り自動更新して行く」と決めたのであって、決して契約を守らなくとも良い・・道徳はどうなるのかということにはなりません。
と、地主や家主さんには説明してきました。
金貸しも同様で、
「困っている人に仏様のように手を合わせて頼まれたならば、最後まで仏様のままでいれば一貫したね」というのが私の意見です。
そう言われると
「先生の言うことも分りますが、それでは我々は食って行けませんよ〜!」
という金貸しが普通です。
金儲けのための投資資金の融通と違い、お金でも何でも、ものがなくて困っている人に貸すのは金儲けのためではなく、慈善事業と思うしかないでしょうと説明しています。
個人の金持ちが貸した場合・・こう言う会話の結果、「仕方がないか!」と諦めることが多かった経験です。
こんな風にお笑い話でやりながら交渉して行くのですから弁護士って結構面白い商売?でした。
ここ20年ばかりの間に個人的サラ金は淘汰されて行き、今では大手企業ばかりになってマニュアル式交渉になって来たので、こうした面白み・・個人の個性で交渉する仕事がなくなってきました。
個人関係で言えば、誰かに道具類を預けるとその間に使って傷んだりするのが普通・・お金の場合で言えば、誰かに預けておけば預けたお金を少ししか使い込まれなければ良い・・8〜9割も戻れば「あぁよかった」と思うのが普通ではないでしょうか?
今後先進国では投資機会が少ない・・あっても投資すれば、投資金の何倍になって戻って来るような高成長機会は滅多にありません。
(何時の時代にもアップルやユニクロのように部分的に急成長する企業はありますが、私の書いているのは国全体レベルで成長企業より沈滞企業の方が多くなる状態です)

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