世界の警察官不在と世界秩序維持4(やったもの勝ち)

ここで、オバマ大統領の「世界の警察官をやめる」演説内容を見ておきましょう。

「世界の警察官」を返上 オバマ政権、曲がり角に

世界の警察官」を返上 オバマ政権、曲がり角に
2013年10月1日津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト
9月10日午後9時、オバマ大統領はテレビ演説でこう語り始めた。
「化学兵器による死から子どもたちを守り、私たち自身の子どもたちの安全を長期間確かにできるのなら、行動すべきだと信じる」と大統領は、化学兵器の禁止に関する国際ルールは維持すべきだと強調。しかし、武力行使に対しては、驚くような考えを明かした。
「米国は、世界の警察官ではない」
「私は、武力行使の必要性に対して抵抗した。なぜなら、イラクとアフガニスタンの2つの戦争の末、ほかの国の内戦を解決することはできないからだ」
こうした国民の厭戦気分に配慮したオバマ大統領だが、返上したものの対価も大きい。「警察国家」であることを否定することは、イコール、米国の世界における存在感の変化でもある。

ここで初めて演説内容を見ましたが、変な理屈です。
警察は、犯罪がなくならないとか紛争が解決しないからといって不要になるものではありません。
なんとなく日本の非武装平和論同様の観念的な理屈に自己陶酔しているようで、これが現職大統領の発言か?と驚きます。
オバマの言い分によれば、アメリカで銃撃事件がなくならないから警察・・刑事処罰不要と言うのでしょうか?
確かに警察官がいても麻薬取引や金融不祥事や汚職や銃撃事件はなくなりませんが・・。
「逆は真ならず」とも言います。
犯罪率の増減は、刑事政策や、経済政策の成否や道徳意識定着、家族愛その他諸々の総合施策の結果ですが、その解決の1手段として司法や警察制度があるにすぎません。
日本のように誰の目がなくとも法令を守る..拾ったお金などを警察に届けるなど道徳の行き渡った国もあれば、警官が多くても守らない・・生ぬるい法的手続きでは対応できないので現場射殺を認めるしかないフィリッピンなど世界はいろいろです。
警察や刑務所さえあれば、強盗や詐欺、交通事故その他犯罪がゼロになると思う人はいません。
アメリカは世界の平和維持の責任を一手に担いきれない・・単に負担が大きいので警察官の役割を果たせなくなった・負担に耐えられなくなったといえば済むことです。
報道のニュアンス・事実報道ではなくメデイアの希望する趣旨に編集した大手メデイアの一致した報道傾向・・1種のフェイクニュースだったのか?・・だけ何気なく見て来た私は、そういう演説だったのかと勝手に理解していましたが、「効果がないからやめる」といったのが事実とすれば驚くべきことです。
メデイアは何故その発言のママ報道しないのでしょうか?
経済政策も教育も医療や保険制度も、企業の新規事業挑戦も子育ても何でも「良かれ」と思ってやったことがそのまま良い結果が出ることの方が稀で、先行投資が失敗するなど逆に思いがけない悪い面が出ることが日常いくらもあります。
そこを何とか苦労しながら少しでも良くなるようにメゲずに努力して行くのが人生であり政治です。
うまくいかないから「やめた!」とは何と無責任な言い方でしょう。
もはや自国だけでは担いきれないから正義を維持するには有志連合が必要・・資金や人員拠出分担を求めると言えば良いことでしょう。
この意味では防衛費に関する応分の負担を求めるトランプ政治の方が現実的で合理的ですし、秩序のない平和はあり得ないので、日本国憲法が「世界平和を希求する」ということは世界秩序維持を求めることと同義ですから、日本の平和運動家も憲法を尊重するならば平和維持のために応分の(危険を含めた)負担を拒否すべきではありません。
最近海外平和維持のためにイラク派遣した場所の危険性を盛んに報道して野党はその批判に躍起ですが、その地域の平和維持の必要性を認める以上、日本だけ丸腰で「何の危険もないところへ行くべし」前提自体背理です。
なんの危険もないならば、普通の水道工事屋とか道路工事・民間に委ねれば足りるはずです。
国内であっても警官派遣要請は危険だから要請されるのであって、危険のない所しか行かないのでは警官派遣は不要です。
平和国家論と非武装論は同一ではないという前提の違い論がここにも出てきますが、非武装平和主義に対する「自宅の戸締りがいらないか」の質問には答えないのが普通ですが、仮に非武装主義者の家に強盗が来ても、あるいは暴力事件が起きても警察を呼ばないかという質問と同じです。
国際平和部隊派遣の場合には、いわば強盗集団が白昼公然闊歩しているような地域の治安維持のために派遣する(電話してから警官が来るのではなく一定期間常駐要請)のですから、これに対して日本が「危険地域に派遣しない」と言って拒否しながら「国際平和を唱える」ような矛盾した主張が国際的に通用するかの疑問です。
オバマが世界の警察官をやらないと言い出したら待っていたかのように、中国が南シナ海で実力埋め立て開始するし、ロシアもトルコも皆メッキが剥がれて地金が出て来ました。
世界中で無法者が公然と蔓延るようになったというか、予備テストできたことになります。
ロシアは資源価格下落で「お金がないから我慢しましょう」という代わりに「欧米の不当な制裁に対抗するためだから我慢しましょう」というレトリックです。
いずれも民族感情を煽って政権維持を図っている事になりますが、こんなことでは国内不満のボルテージが上がるばかりですから、ガス抜きのためにプーチンがパフォーマンス的に対外武力行使に走っているイメージです。
威嚇をやればやるほど国際孤立が進むし軍事費がかさむばかりで却って墓穴を掘るので、より一層過激パフォーマンスに出るしかなくなる可能性が高まってきました。
日本と軍事的争いもないのに、この半年くらいかな?いきなり北方領土周辺での軍事訓練が頻繁になってきました。
世界中に向かって露骨な軍事アッピールするしか、国内不満を抑えるための打つ手が無くなったのでしょうか。
(その間に原油相場が持ち直せば良いという淡い期待でしたが・この数ヶ月原油相場が上がってきたので内心ほっとしているでしょう。)
日本の場合、自民幹事長二階氏の使節団200人がロシア訪問すると昨日の日経新聞に出ていましたが、最近のロシアの軍事訓練に対する日本人の冷めた視線が背景にあるので成果は乏しいものと思われますが、ロシアとしては「軍事威嚇をしたから驚いて使節団がきた・・この成果があった」と国内宣伝に利用することになるのでしょう。
やればやるほど世界的に孤立化が進む・・場合によっては経済制裁を受けるようになって、さらに困窮度が高まっている点は今の北朝鮮大型版です。
そこで、アメリカ・オバマがシリアから手を引くと言い出した隙を突いて(これならばアメリカは文句言えないだろうと言うこと?で)15年夏ころからシリア介入を始めたのですが、その後の国連の停戦合意を破るどころか、今年2月には4月16日紹介したように米軍現地基地に対してまでロシア民兵名目で攻撃を仕掛けるなどロシアの傍若無人ぶりが目に余ってきました。
これら一連の行為に対する米国の回答が、今回のシリア空爆だったことになるのでしょう。
化学兵器使用を命令した関係者や使用による軍事効果・支配地を放置する・利用効果そのままではやり得ですから、今後の抑止力にはなりません。
化学兵器製造工場の空爆だけでは(シリアは事前に物資を退避させていたと言われます)米国の関与限界も見えて来ました。
ヤクザの抵抗が怖くて?事前通告してから、銃や覚せい剤など隠匿していないかの組事務所ガサ入れするようなやり方です。
今度の北朝鮮との首脳会談もこのような表向きの効果を狙った見せかけ合意になるのでしょうか?
外面を取り繕う行動ばかりが増えると、米国の地位がいよいよ低下していきます。
対日核兵器使用の場合で言えば、相手に対して米国が「今後やるなよ!というだけで終わるのならば、やったもの勝ちです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC