資源下落とロシア経済1

資源輸出に頼るロシア経済の現状を見ておきましょう。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=14-06-01-23

ロシアの国情およびエネルギー資源 (14-06-01-23)
2016年01月
・・・ロシアは鉱物、森林、水産など豊富な天然資源を有する国家で、特に石油と天然ガスの生産・輸出に関しては世界トップレベルのエネルギー大国である。
ロシアはこれらのエネルギー資源を背景にエネルギー輸出大国に成長、エネルギー産業はロシア総輸出額の6割以上、連邦予算歳入の4割以上を占める同国最大の産業である。
しかし、国際経済市況に左右されるなど不安定要素も多く、エネルギー資源輸出依存から脱却する経済姿勢が問われている。

http://www.bk.mufg.jp/report/ecostl2014/20140901_ldnreport.pdf
Economic Research

海外駐在情報 BTMU Focus, London Naoko Ishihara
September 1, 2014
The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd.
Economic Research Office (London)
ロシア経済にみられる資源エネルギー収入依存の功罪
ロシア経済と資源エネルギーの関係をみると、ロシアの実質GDP成長率は、原油価格の伸びにほぼ沿う形で推移しており、資源エネルギー市況がロシア経済へ与える影響の大きさが端的にみてとれる(第1図)。
また、資エネルギーの存在感が最も明確に現れているのは輸出で、輸出総額の7割近くを占める(第3表)。2000年から2013年にかけて、ロシアの資源エネルギー輸出は6.6倍増加し、輸出全体を大きく押し上げた。
この間の輸出数量と価格の変化をみると、数量では1.0~2.4倍であったのに対し、価格は4倍以上に上昇し、輸出額の大幅な増加をもたらしたことがわかる。
また、2005年以降の変化をみると、原油と天然ガスの輸出数量が頭打ちとなっており、近年になるにしたがい、価格の変動が輸出額を左右しやすくなってきたことがみてとれる。

資源がロシア経済に占める比率・・先ずは輸出に占める資源比率を見ておきましょう。
世界ネタ帳によるロシア輸出内訳表です
http://ecodb.net/country/RU/trade/

基本情報
輸出品目
燃料・エネルギー製品 70.6%、金属および同製品 7.7%、化学品 5.8%
輸出相手国
オランダ 13.3%、イタリア 7.5%、ドイツ 7.0%
輸入品目
機械・設備・輸送機器 48.5%、化学品 15.9%、食料品・農産品 13.7%
輸入相手国
中国 16.9%、ドイツ 12.0%、アメリカ 5.2%
出典: JETRO (%)は金額の構成比を表す。

資源輸出が総輸出の7割ということでしたが、上記のとおり資源関連製品(現地加工の石油半製品など)を含めるとほぼ100%になっています。
同じ量を輸出しても手取りが(資源価格下落とルーブル価格下落によって)約半分になると国家財政だけでなく、国民総所得自体も半分・生活レベルが半分になります。
昨日紹介した元ロシア人学者のいう通り、同じお金で「以前2袋買えたのに今(14年頃)では1袋しか買えない」実態・・生活水準が半分に下がっているのですから、いくら言論統制しても(国内的には不満表明できないだけで)国民不満の蓄積は大変なものでしょう。
GDPが半分になっても国民等しく半分になるのではなく、強権政治下では必然的に政権に近い順に良い思いをする傾向が強まりますし、軍や治安関係予算配分が多くなる傾向があると、その分民生分野の配分が平均以下になります。
まして対外威嚇を始めると軍事関係への予算配分が多くなり、そのアンバランスが極まっていきます。
この結果?ロシア国内の老人や弱者の生活苦の実態が時々報道されています。
なぜか2014年の記事ばかりで最近のネット記事がすぐには出てきませんが、以来約4年経過で原油価格はバレル当たり50ドル前後で停滞したままですし、その間にウクライナ侵攻等があって、経済制裁が強化される一方ですから、国内不満はもっと深刻化しているはずです。
他方で、原油下落効果や経済制裁効果も兵器輸出が伸びているので大したことがないという以下の論文もあります。
以下のグラフを見るとGDPはそれほど下がっていないように見えます。

対ロシア経済制裁は効いたのか?-久保庭 眞彰

2017年12月16日 ロシア
対ロシア経済制裁は効いたのか?-久保庭眞彰
経済制裁のロシア経済へのマクロ的影響
図1に見られるように、経済制裁の効果の観測を難しくしている要因は、経済制裁開始のすぐ後の2014年の第4四半期から、油価の大幅下落が生じたことに大きく起因している。ロシア経済成長は、油価の動向に大きく依存する。油価下落により、2014年末から成長率大幅減速が生じたのであり、経済制裁の影響とはいえない。ロシアでは長期的に見て、10%の油価上昇(下落)は約2%の国内総生産(GDP)成長率上昇(下落)をもたらす。
ところが、図1の直近期間については10%の油価下落は約0.5%のGDP成長率下落をもたらすにすぎない。製造業生産についても同様である。従って、経済制裁と油価下落の下で何らかの要因が成長率の一層の下落に歯止めをかけているのではないかという疑問が生じる。

図1 ロシアのGDP成長率と原油価格

図1 ロシアのGDP成長率と原油価格

出所:ロシア国家統計局、国際通貨基金(IMF)、筆者によるGDP季節調整を基に筆者作成
ロシアの企業と消費者への影響の大きい、ルーブルの対ドル為替レートと油価の動向についてはどうであろうか。
直近の2014年から2017年までをサンプルとする回帰分析によると、ルーブル価値(対ドル為替レートの逆数:ドル/ルーブル)は油価10%下落により6.8%下落する。回帰の当てはまりも優れている(自由度修正済み決定係数は0.96)。従って、為替レート下落に影響したのは、油価下落がほとんどで、経済制裁の影響は見られない。為替レートについては、油価変動を相殺するような対抗要因は観察されない。
3.結び
以上に見たように、今のところロシアに対する経済制裁は目に見える形では作用していない。もともと超優良銀行・企業とそれら主導の優良プロジェクトに関する経済制裁なので、特定の個人を狙った制裁はともかくとして、経済分野別の経済制裁は有効性が初めから疑わしいものがあった。欧州がロシアからの石油・ガス輸入禁止措置を取れば経済制裁は実効性を持つが、それはEUなどの自殺行為ともなるので、冷戦時代にもなかったことである。返済の確実な超優良企業へのファイナンス禁止措置は、米欧日の政府系ならびに民間の金融機関・企業(特に国際協力銀行(JBIC))にとっても利益はない。
2000年代に入って油価の持続的上昇という天恵と域内引き締めの影響によって、対外債務削減・軍事生産近代化・域内統一という一連の難題をクリアすることができた。
遅れていたサイバー戦の備えもでき上がりつつある。ここで、プーチン大統領は一層の民主化・開放化ではなく、NATOと対峙するロシア核大国の軍事的プレゼンスの確保に走った。NATOと対峙しなければ、ウクライナのEUへの接近の妨害やクリミア黒海艦隊へのてこ入れも不必要であろう。
近隣外国の同胞支援を訴えれば、ロシア民族主義が一挙に盛り上がることはプーチン大統領によって明確に自覚されている。第2次世界大戦の対ドイツ苦境下で最後にスターリンがロシア国民に懇願したのも「ロシア死守」ということで「社会主義死守」ではなかったのである。
この強固な解き難いロシア民族主義の伝統にプーチン大統領は守られていると同時に縛られている。
[執筆者]久保庭 眞彰(一橋大学名誉教授)

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