貿易赤字解消策(保護政策の功罪)2

19世紀型の貿易の場合・・例えば食料品・美味しい果物輸入の場合、大してうまくない果物を米国民だけ高く買うしかないとしても、それだけのことで国内産業競争力に響きませんが、部品輸入の場合に完成品性能に関係するので大変です。
中国が南沙諸島での埋め立てに異を唱えるフィリピンを黙らせるために、バナナ輸入規制しても国民が困らず、フィリッピンが音をあげたのもその一例です。
部品の場合、不良品でなくとも他国よりも25%も高く買うとコストアップになるし、それを嫌って性能の劣る国産部品を仕方なしに使うと品質低下分以上値下げしないと国際競争力を失います。
比喩的に言えば、ある部品が1%性能が劣り2%単価を低くしても、性能の良い部品を使った完成品の単価が2%高くても方が使い勝手が良いと何倍も売れるのが商品というものですから、ちょっとした性能差の為に5〜10%価格を下げないと売れない場合、少し高くても高性能部品を使うのが普通です。
人材で言えば、人種差別意識で有能な社員を採用できないと有能な社員を採用した企業よりも発展性が遅れます。
軍事戦略意図によって、情報収集ソフトが組み込まれるリスクを理由に中国国有企業の中国の華為技術や中興通訊(ZTE)との取引禁止命令(華為技術やは事実上の?)が出たようですが、両企業が世界席巻しているのは、中国政府の後押し的不純原因もあるでしょうが、それ相応の使い勝手の良さがユーザーを引きつけているからでしょう。
4月22日現在の中興通訊(ZTE)に関するウイキペデイアの記事です。

世界合計14ヶ所のR&Dの設備がある。2008年には売上が約443億元(約65億ドル)、利益が約16億6000万元(約2億4300万ドル)に達している[2]。
160カ国、地域でスマートフォンをはじめとする携帯電話端末を発売しており、2016年にはアメリカでのスマートフォンシェアが4位、スペインとロシアで2位、ヨーロッパ全体でシェア4位にランクされるなど、欧米でのスマートフォンの販売台数が増加していた。
2016年3月:アメリカ合衆国商務省が同社及び子会社に対して、2010年にイラン政府系通信会社や北朝鮮に禁輸措置品を納入し、またその事実を隠ぺいしたとして輸出規制措置とした。
2017年3月:上記の措置に関連し、アメリカ合衆国商務省は最高約1,300億円の罰金の支払いと、社内のコンプライアンス教育の徹底、今後6年間にわたり規制を順守したか年次報告を行うことなどの司法取引を行うことで、輸出規制措置を実施しないことで合意した。
2018年4月16日:アメリカ合衆国商務省は、前年の司法取引で合意した内容の一部を同社が実施していなかったことが判明したとして、米国企業に対し同社への製品販売を7年間禁止すると発表した。
・・・同社製品に使用されている米国製品の割合は25-30%に達し、この措置は同社事業に深刻な影響を与えるとみられている。・・・なお、アメリカ国防総省とアメリカ合衆国国土安全保障省にZTEが下請け経由で通信機器を納入していたことも問題となった[11]。
共和党のトム・コットン上院議員とマルコ・ルビオ上院議員は2018年2月7日、米当局者へのスパイ行為に対する懸念を理由に、ファーウェイとZTEの通信機器について、米国政府の購入やリースを禁じる法案を提出した[12]。

ウイキペデイアの華為技術に関する4月22日現在の記事です。

華為技術有限公司(ファーウェイ・テクノロジーズ、Huawei Technologies Co. Ltd.)は、中華人民共和国の通信機器メーカーである。スマートフォンにおいては、出荷台数・シェアともに世界3位。米キャリアのAT&Tが、ファーウェイのフラグシップスマートフォン『HUAWEI Mate 10 Pro』を取り扱う予定で、交渉も順調に進んでおり、2018年1月8日にラスベガスで開催されるCESで正式に発表されるはずだったが、直前になってAT&Tが白紙撤回した。白紙撤回の理由は不明だが、安全保障上のリスクを懸念する米国政府からの圧力という説が有力。

両社製品が世界を席巻しているのは相応の商品価値があるとした場合、米国企業だけ中国の両企業を使えないと、その分米国企業は損をします。
鉄鋼製品の場合、長期的には米国内生産で日本で作るより25%高コストでも価格競争できるようになるので国内生産に移行する期待があるでしょうが、物品販売の場合価格次第ですぐに輸入先を変えられますが、製品の場合技術水準の問題ですから国内業者に技術がない(から作れないのでしょう!)と、すぐには国内製造に切り替えられません。
この間米国企業だけ低レベル部品利用または高価格品利用になって国際競争力を失って行くのが普通です。
1985〜1990年頃のいわゆる日本叩きの攻勢によって日本の製造業叩きには成功したものの、結果的に米国企業は(日本の高性能部品を割安に利用できる)他国より割高かつ低性能部品を使うしかなくなったので国内産業の国外移転が相次いで国内空洞化・貿易赤字→衰退を早めただけでした。
米国の対中巨大赤字というものの米国企業の逆輸入がその大半とも言われるように(事実かどうか不明ですが)輸入規制すれば米企業自体が海外に出て行って良いものを使うしかなくなります。
以下の引用記事は古い・・対日貿易赤字になっている・・ここ4〜5年は部品の中国国内生産率が向上して対日貿易も黒字が続いているし、外資系企業の貿易黒字に占める比率が高いと書いている点も今は下がっているなど現状そのものではありません。
以上のように10年以上前の論文でかなり古いものの、アップル製品のほぼ全てが中国の工場製であるのが知られているように産業の集積状況など大方の傾向は変わっていませんので、今でも参考価値があると思われるので引用しておきます。

中国の対米巨額貿易黒字の見方

ビジネスレポート
2007年6月26日  馬 成三
米国の対中貿易赤字は米国企業の対中進出とも関係している。
米国系企業が中国で生産した製品の大半は、中国市場で販売されているが、中国での現地生産により、同製品の対中輸出を減少させているのである。また米国の対中投資のうち、付加価値の低い製品を中心に米国に逆輸入しているケースもある。
Made in China」よりも「Made in Asia」が多い中国の対米輸出
中国の対米貿易黒字の拡大は、諸外国・地域、なかでも東アジア諸国・地域の中国大陸への産業移転によるところが大きい。対米輸出を含む中国の輸出を企業主体別にみると、外資系企業の割合が際立って高い。2006年の数字を取ってみると、同年中国の輸出全体に占める外資系企業輸出の比率は約6割、貿易黒字額に占める外資系企業の比率も5割を超えている(表2)。これに対して、国有企業や私営企業を含む中国資本企業の貿易黒字額は貿易黒字全体の半分以下(うち国有企業は赤字)にとどまっているのである。
中国の外国直接投資受入れの7割が、日本、アジアNIES(新興工業国・地域)とASEANを含む東アジア諸国・地域から来ている。長い間、日本、韓国、台湾など東アジア諸国・地域は対米貿易で巨額な黒字を抱えたが、その対米輸出製品の生産を中国大陸にシフトしたことで、中国大陸の対米貿易黒字となったのである。
中国が東アジアにおける加工基地となっている現状を踏まえて、研究者の間では中国の対米輸出製品(組み立て用の部品を含む)を、「Made in China」よりも「Made in Asia」と見なすべきだとの見方もある。
東アジア諸国・地域が生産拠点を中国に移しただけでなく、部品などを中国に輸出し、その加工製品を米国に輸出するといったケースも多くみられる。中国税関統計によると、2006年における中国の対米貿易は1,443億ドルの黒字を出した一方、日本、韓国、台湾との貿易には1,358億ドルの赤字が記録された。

上記は2007年の論文なので実情が様変わりですが、日米韓やアジア諸国の対中投資拡大が中国の対米黒字の大きな原因になってきたことは確かでしょう。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC