近代法理の変容10・破綻1(日本固有の法理2)

学校内の事故も同様で、損害賠償→責任追及されると教員も萎縮する一方で、マトモな教育が出来ません・・。
西洋式の意思責任主義・故意過失原理から解放して、校内の事故には(先生の故意過失の有無に関係なく)運営している学校が責任を持つ制度にすれば良いのではないでしょうか?
ここでは学校内事故を参考に書いていますが、介護施設や病院・スイミングクラブ内・工場内その他施設内の事故については、被害者に自招行為責任がない限り、似たような運用で足りると思います。
法理論・哲学的側面では、意思主義=故意・過失責任論をやめて、法技術的には原則と例外の入れ替え・・被害者が自分で危ないことをしたなどの自傷・自招行為・・施設側が自己の無責任を主張立証しない限り、原則として施設が責任を負う仕組みです。
教育方法の技能アップのための原因究明ならば、内部調査して責任を問うたり譴責して行く・・今後の教訓にして行く方が合理的です。
故意過失の有無にかかわらず学校や組織が賠償・保障すれば、事故にあった子供の親は先生の個人責任を問う必要がなくなり、・・裁判するコスト(熱心に指導してくれていた柔道などの先生を訴えなくても済むし精神面でも)負担がなくなります。
個人責任を問うのは、特に酷い対応をした場合の例外的制度にすれば、既に民事賠償が終わっているので、被害者に関係のない今後の再発防止などの研究や内部秩序維持・・再発防止目的の刑事責任や昇進・格下げや懲戒等の違った側面の問題になります。
現状の民事賠償責任制度では、無理な過失認定仕組みですので過失があると言われた方が納得し難い・・裁判に期待される合理的説得をする機能を裁判が果たしていないで、弁護士に頼っている状態です。
裁判所は個人の選任・監督責任と言いながら、本来の尺度は、古来からのどこまで組織(親)が責任を持つべきかの価値基準で判断しているように見えますが、これを口に出して言えない矛盾です。
このために本人訴訟では、なかなか納得しない被告相手に裁判所から、弁護士に相談してくれと言う勧誘が行なわれている様子です。
しょっ中裁判所から弁護士を頼んだら勝てるようなことを言われた・・だから先生さえやってくれれば勝つに決まっていると言う主張して相談に来る人がいますが、「逆でしょう」と言う事例が殆どです。
裁判所がその人に対して負ける理由を噛み砕いて説明出来ないからその役割を弁護士に振って来る感じの相談が多いのです。
振られた弁護士としては、この主張では負けるしかないと言う理由を苦労して説明するしかなくて、何故負けるかの説明です・・その人の信念・・価値観と噛み合わない説明ですから、大変な苦労をさせられています。
西欧由来の近代法は意思責任のフィクションに頼っているので、そのフィクションどおりに理解すると(秀才型の人に多いのですが・・)却って「俺にどう言う過失があるのだ」理解不能になるる人が出て来ます。
同居して親が監督している場合、どういう風に親が努力していても結果的に監督不十分の責任を取らされるのに、「この子は外に出して大丈夫かな?」と心配のある子供を都会に就職させたり学生寮等に入れている場合、何かがあっても「国許の親が却って監督する余地がない」と言う理由で、何の責任も負わない結果になります。
4〜5年前に私の受任していた大学寮内の暴力事件で、(私は加害者側でしたが)「親には監督責任がない」ことを前提に、親の日本的責任として事実上親が金を出して和解しました。
前近代的かどうかは別として成人した息子であっても、同居している息子が隣の家のガラスを割ったり、怪我をさせたりすれば、成人しているから親に責任がないと開き直る人はいない・・親が謝って弁償するのが普通でしょう。
アパートの独身居住者に何かあれば、親に連絡して(遺体など)引き取ってもらうのが普通です。
親の過失責任などを問題にしていません。
謝りに行って相手から、「親御さんは大変すね」とねぎらってもらえればお互い円満ですが、「あなたの監督が悪いんだ」と居丈高に言われれば、謝る気持ちが薄まってしまう人が多いでしょう。
監督の仕方が良くても悪くとも、(親に過失がなくとも)息子が不祥事を繰り返していると近所の人にとっては迷惑で不安なことは同じですから、無言の圧力があって、障害を持った息子を抱える一家は、その土地にいられなくなってどこかへ引っ越して行くしかなくなります。
親の過失の有無が問題ではなく、傷害や放火行為者の故意・過失にこだわらない・・病気だから故意も過失もないと言って無罪=放置→事実上親まかせにしていた心神喪失者等医療観察法のような隔離する法制度成立前の不備・運用の問題です。
(ただしこの法律は殺人・放火・傷害等一定の重要事件を起こした後の制度ですから、予防・・奇声を発していて不安だと言う段階では全く役立ちません。)

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