密約と開示基準2

対外政治交渉過程等はその効果が出る前に、関係国・国内利害関係者に知れると困ることが多いことから、一定期間秘密にすべき事柄がありますが、国民の事後審判を受けるために一定期間(直接的政治効果が終わった後・・一定回数の更新があるとしても例えば最長50〜60年とすれば大方の関係者もなくなっていますし・・)経過で例外なく公開すべきでしょう。
数年〜数十年前の政策決定・・サンフランシスコ講和条約交渉・・沖縄返還交渉密約などが正しい選択であったかについてを例にすれば、口頭を文字化した議事録自体は一定期間経過で開示すべきでしょう。
政治交渉議事録でも添付資料があれば資料の内どこまで開示すべきかは、これまで書いているように別の判断が必要です。
政治交渉過程資料・・沖縄返還交渉で言えば返還すべき範囲を示す地図など高度機密性がないでしょうが、先端兵器購入交渉などでは、添付している兵器の詳細図書などに関しては、開示時点でまだ使っている戦闘機などに関する場合は同時に開示できないでしょう。
交渉相手が秘密を望んでいる場合こちらが一方的開示することが出来るかは、国際交渉上の信義に関係しますが、それを言い出したら相手の希望にしてしまえば永久に秘匿出来てしまうので、そう言う場合でも一般基準の何割増かの期間を決めて一定期間の限定にすべきでしょう。
この期間が来れば我が国では開示になるがそれでも良いかを相手に知らしめて相手もそれを覚悟した上で、相互に秘密文書に調印することになります。
TPP交渉も交渉中は秘密にすべきことが一杯あるでしょうが、終わってからも無期限に秘密にする必要は毫もありません。
そもそも合理的な密約(賄賂をもらう密約は別ですが・・)は、ある交渉成果と引き換えにある分野で譲りましょうというときに必要とするのですが、譲る対象にされた業界は猛反発します。
それを事前開示しているといつまでもまとまらないので、政治家の責任で秘密裏に決めてしまう・・その後は猛反発している業界と決定した政治家の政治責任問題とするのが普通のあり方です。
それにしても直ぐに公開すると紛糾し過ぎるので,一定期間の非公開はやむを得ないというのが現在の世界常識と言えるでしょうか?
時間が経過すれば秘密約束等の決着が長期的に日本の国益になったか否かは歴史が証明して行くという図式です。
このために落ち着くまでの一定期間の秘密期間を経て、いつかは(更新回数制限して)公開するのが原則です。
特定秘密・・高度兵器や原子力設計図等の公開は前もって一定期間を決めることが出来ないことを縷々書いて来ましたが、特定秘密保護法反対論者はこれと政治交渉の更新制限の必要性をごっちゃにして世論誘導しているキライがあります。
我々民事交渉でも和解をする以上は相互に譲るべきことがあるのですが、依頼者が単独が普通ですので譲るべき対象・切るカードによって同じ依頼者が他の面で不利益を受けます。
例えば家屋明け渡し訴訟で大家さんが立退料を払う代わりに強制執行の手間費用と裁判手続きを短縮できるメリットとの引き換えの説明です。
この損得勘定を十分説明して「こう言う不利益があるがこれを受諾するメリットとの比較をして受諾するか否かの検討を数日〜1週間掛けて考えて来て下さい」ということが多くあります。
日照権等の集団紛争では、ある方向にビルを動かすと反対側の住民は不利益になるなど利害が対立しますので、集団から弁護士が委任を受けるのは難しい問題があり・・不利益になる住民に説明しない・・秘密裏で事を進めるのは背信行為になるでしょう。
代理と代表の違いを11/22/02 「国会の機能 1」09/01/03「代表と代理(大理石)理事の違い」で紹介したことがありますが、政治家の場合、利害の違う多くの国民をバックにしているので、利害相反者の代理をしない弁護士の交渉とは違います。

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