政党と利害調整1

政党が多くの利害団体を抱えている事例として、消費税率が10%になった場合の消費税軽減税率の範囲について自民党と公明党で現在行なわれている協議を見ておきましょう。
公明党は弱者救済の視点で大幅に軽減を求めるのに対して、(この辺は民主党同様に野党的に主張が単純で党内調整が楽です)自民党は消費税増税の意味がなくなるとしてこれに基本的に反対し、絞り込みたい立場ですが、具体論になると公明党と自民党では困難さがまるで違います。
自民党が一定規模(何千億)・・どこまで折れるかまでは、公明党と同じ理念の争い・・国益の争いですが、その先については、自民党支持団体内にも業種によっては軽減税率を求めている団体がいくつもあり,その内どの業界を外してどの業界を認めるかの内部的には熾烈な争いになります。
あるいは2000億までならこの業界が入るが1800億だとABCの業界が外れるという方針の基で自民党は公明党と協議しているのかも知れません
この点(支持業界が多くないでしょうから)公明党はトータルとして生活雑貨関係で何千億円まで獲得出来るかが党内的な関心であって、どの分野を入れるか除くかについての関心よりも、弱者救済にどちらがより役立つかの理念のチェックで足ります。
公明党員でも特定業界と親しい議員もいるでしょうが、理念優先で私益に絡んでの発言をし難い傾向があります。
公明党では何円の食糧品まで認めるかという理念による基準さえクリアーすれば、その線引きによってどの業界が該当するか除外されるかには利害があまりありません。
しかし業界にとっては理念よりこれが死活問題になります。
比喩的に言えば豆腐が認められて味噌が認められないとしても公明党では業界別支持を受けていないので気楽・・一本調子の交渉で足ります。
このように元の社会党や民主党も同じですが、野党的経験からすれば、内部利害対立が滅多にないし、個々の議員はそれなりの利害があっても党の理念優先で表立って運動し難い体質ですので、どの商品を軽減した方が良いかの個別交渉にはあまり関心がありません。
この結果野党では党内利害対立が起き難いし運営が簡単ですが、その代わり路線対立が観念的なために収拾がつかない・・分裂を繰り返し易くなります。
野党的一本調子の主張の場合、いろんな政治交渉についても党内支持者に対する説明責任がないので気楽と言うか,「秘密にする必要がない」と言う意見に傾き易いでしょう。
全国的な政党である以上、野党内にも多くの支持母体・利害対立があって内部調整が必要が全くないとは言えませんが、まだ現実政権を握っていない分,上記のとおり弱者救済等の理念主張を貫徹し易い・・族議員がいないから清潔と言えば聞こえが良いですが、逆から言えば利害調整能力が育たない弱点があります。
自民党に限らず政権党になるにはどこの国でも(茶会党やみどりの党など)特定支持母体だけでは無理があるので、多くの支持母体を抱えているのが普通です。
(たとえば防衛問題では意見の一致があっても別のテーマでは利害対立するなど複雑です)
テーマによっては常に内部利害対立する事項に対して何かを処理する都度外した業界を敵に回さないような智恵・・処理が必要とされています。
何か決める都度どちらかを切り捨てて敵に回していると、ドンドン切り刻んで敵ばかりになってしまいますから,政権維持するのには切り捨てたグループに対するきめ細かなフォローが重要になります。
この経験の巧拙こそが政権担当能力と言われているものですし、これがないまま一時のムードではやし立てて政権を担当すると収拾のつかないことになります。
野党でも政権を窺う程度になれば,多くの業界・グループを政党は支持母体に抱えていますが、理念優先になり勝ちですから党内利害調整の経験が乏しいのが難点です。
どこの国でも政権党にはいろんな利害団体が支持母体になっているのが普通ですから、政治交渉にはある程度の秘密交渉に合理性があるとして許されているのです。
ただし万年野党的立場では、理念優先で事足りるので内部調整に苦労する経験がなく、族議員的な利害調整努力を軽視し勝ちです。

密約と開示基準2

対外政治交渉過程等はその効果が出る前に、関係国・国内利害関係者に知れると困ることが多いことから、一定期間秘密にすべき事柄がありますが、国民の事後審判を受けるために一定期間(直接的政治効果が終わった後・・一定回数の更新があるとしても例えば最長50〜60年とすれば大方の関係者もなくなっていますし・・)経過で例外なく公開すべきでしょう。
数年〜数十年前の政策決定・・サンフランシスコ講和条約交渉・・沖縄返還交渉密約などが正しい選択であったかについてを例にすれば、口頭を文字化した議事録自体は一定期間経過で開示すべきでしょう。
政治交渉議事録でも添付資料があれば資料の内どこまで開示すべきかは、これまで書いているように別の判断が必要です。
政治交渉過程資料・・沖縄返還交渉で言えば返還すべき範囲を示す地図など高度機密性がないでしょうが、先端兵器購入交渉などでは、添付している兵器の詳細図書などに関しては、開示時点でまだ使っている戦闘機などに関する場合は同時に開示できないでしょう。
交渉相手が秘密を望んでいる場合こちらが一方的開示することが出来るかは、国際交渉上の信義に関係しますが、それを言い出したら相手の希望にしてしまえば永久に秘匿出来てしまうので、そう言う場合でも一般基準の何割増かの期間を決めて一定期間の限定にすべきでしょう。
この期間が来れば我が国では開示になるがそれでも良いかを相手に知らしめて相手もそれを覚悟した上で、相互に秘密文書に調印することになります。
TPP交渉も交渉中は秘密にすべきことが一杯あるでしょうが、終わってからも無期限に秘密にする必要は毫もありません。
そもそも合理的な密約(賄賂をもらう密約は別ですが・・)は、ある交渉成果と引き換えにある分野で譲りましょうというときに必要とするのですが、譲る対象にされた業界は猛反発します。
それを事前開示しているといつまでもまとまらないので、政治家の責任で秘密裏に決めてしまう・・その後は猛反発している業界と決定した政治家の政治責任問題とするのが普通のあり方です。
それにしても直ぐに公開すると紛糾し過ぎるので,一定期間の非公開はやむを得ないというのが現在の世界常識と言えるでしょうか?
時間が経過すれば秘密約束等の決着が長期的に日本の国益になったか否かは歴史が証明して行くという図式です。
このために落ち着くまでの一定期間の秘密期間を経て、いつかは(更新回数制限して)公開するのが原則です。
特定秘密・・高度兵器や原子力設計図等の公開は前もって一定期間を決めることが出来ないことを縷々書いて来ましたが、特定秘密保護法反対論者はこれと政治交渉の更新制限の必要性をごっちゃにして世論誘導しているキライがあります。
我々民事交渉でも和解をする以上は相互に譲るべきことがあるのですが、依頼者が単独が普通ですので譲るべき対象・切るカードによって同じ依頼者が他の面で不利益を受けます。
例えば家屋明け渡し訴訟で大家さんが立退料を払う代わりに強制執行の手間費用と裁判手続きを短縮できるメリットとの引き換えの説明です。
この損得勘定を十分説明して「こう言う不利益があるがこれを受諾するメリットとの比較をして受諾するか否かの検討を数日〜1週間掛けて考えて来て下さい」ということが多くあります。
日照権等の集団紛争では、ある方向にビルを動かすと反対側の住民は不利益になるなど利害が対立しますので、集団から弁護士が委任を受けるのは難しい問題があり・・不利益になる住民に説明しない・・秘密裏で事を進めるのは背信行為になるでしょう。
代理と代表の違いを11/22/02 「国会の機能 1」09/01/03「代表と代理(大理石)理事の違い」で紹介したことがありますが、政治家の場合、利害の違う多くの国民をバックにしているので、利害相反者の代理をしない弁護士の交渉とは違います。

特定秘密保護法11(適性テスト1)

「秘密を認めると暗黒社会になる・・ならない」と言う図式論だけでは、罵りあいみたいで建設的議論になりません。
適性テストに関しても思想信条の侵害になるという図式論が多いですが、氏素性の確かな人を採用するのは昔から当然のことで、これが法制化されていなかった(のでこっそりと調査していた方が不明朗です)方がおかしいことです。
職種によっては氏素性を確かめて採用するのは、古代からどこの国でも当然のことで、敵国のスパイでも何でも機密に関与すべき職員に採用して良い国があり得ません。
防衛機密を守る必要性を認めれば、IDなどコレに接近できる人材を厳選する必要があるのが必然です。
どこの企業でも高度秘密に関与できる資格が限定されているのが普通で、むしろその備えがなくて、個人情報等が漏出した場合,社会責任を追及されているのが普通です。
一ヶ月ほど前に発生したマルハニチロの食品工場での農薬混入事件でも、最末端労働者でさえも一定の規律が要請されています。
今度の事件では規律監視体制の不備が報道され,もっと厳しく出入や手荷物監視をするようになったと言われています。
このように一定の安全確保には、これに比例して関与者には厳しい規制が必要になるのは当然です。
国の場合だけ良い加減な採用基準で良い筈がありません。
機密に参画しようとすれば,相応の身体検査を受けるのも当然の義務ですからこれが嫌なら機密に参画しなければ良いのです。
プロ野球のレギュラーになろうと思えば、一定水準の技術水準のテストを受けるのは当然です。
クリーン実験室に入ろうとすれば、自分がクリーンチェックを受けるしかありません。
大臣に任命するには、閣内不一致を避けるために相応の「身体検査」する必要が言われていますが、任命に当たっての政治意見の調査を受けるのが思想信条の侵害だと言うならば、大臣にならなければ良いというのが普通の考えです。
適性テストを受ける義務付けを反対論者は思想信条の侵害だと言うのですが、一定の組織に入るには、入会基準に合致しているかの審査が必要なのはどんな組織でも同じです。
マスコミが仮にも中立であろうとするならば、特定方向ばかり煽るのではなく、世界の法令(運用例)を紹介して国民が合理的な議論を出来るように議論の材料を提供すべきでしょう。
特定秘密保護法制定に反対声明している学者は専門家としての意見であるならば、実証的研究の成果など具体的事例を紹介する義務があると思います。
実証研究していない門外漢であるならば、その道の専門家ではないことになりますから、憲法学者・刑法学者等々の一見専門家らしい肩書きを用いて声明を出すのは、羊頭狗肉のそしりを免れません。
文学者や演劇俳優等の反対声明も見かけますが、彼らは一般人に比べて何を余より多く知っているとして(肩書き付きで)声明を出しているのでしょうか?
単に有名人を動員すれば、無知蒙昧な庶民がなびくというダシに使われているだけでしょうか?
有名人が根拠なく企業広告やCMに出るのと同じ効果を狙っていることになります。
有名人が有名さを利用して発言・発信する以上は、相応の根拠を持ってからにすべき責任があると思います。
悪徳業者の広告に出たことによる責任追及を受ける政治家が時々いますが・・・。
ところで、特定秘密とは限りませんが、一般的な国家秘密に関してはある事実について開示か秘密にすべきかのルールには、同一時間軸内での面としての範囲と時間軸経過での公開の問題があります。
面としては機密とそれ以外の区別・線引きは、これまで書いて来た設計図や試験情報・捜査情報等は線引きが簡単ですが、政治関連の議事録や内部報告書等の線引きは難しい問題です。
この種の事項は時間軸での公開原則を定めれば、実際にはそれほど難しい問題ではありません。

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