特定秘密保護法10(実証的議論の必要性)

具体例に基づいて落ち着いた議論をして行くのが、成熟社会のあるべき姿です。
我々弁護士は相手を罵るのではなく、データ(証拠)に基づいた落ち着いた議論をして勝敗を決めて行く習慣です。
マスコミは特定秘密保護法の成立に反対表明し、恐怖政治になると大々的に報道する以前に、その前提として米英独仏等で実際に運用されて来た法文と我が国の法案との違い・程度・・比較対照表程度は最低限作成して国民の合理的な議論の叩き台を提供するべきではないでしょうか?
私は弁護士会で行なわれているこの種問題の意見書作成に関与している訳ではなく、仕事の合間にブログを書いているだけですから、世界中の法律を渉猟する暇がありません。
法律専門家の集団である弁護士会が意見を発表する以上は、世界中に実際にある法律の類型化した資料を作成した上で、類型ごとに運用によってどのような問題が生じているか・・このためにどのように科学技術の発展が阻害されて来たかについて具体的な意見書にして欲しい感じです。
実際に検証した結果なのかも知れませんが、もしもこうした研究をする経済力(・・検証チームを世界各国に派遣するには資金が必要です・・)がないので何もしていません・・海外の実例を知りませんと言うならば、何も知らないのに、専門的に検証した結果のように装って意見を発表するのはおこがましいことになります。
内部検討ではこう言う地道な検証が行われた結果の反対意見になっていると期待したいところですが、弁護士会会員に対してもこうした資料の配布が全くなく、公開されている意見書にも全く反映されていません。
外部(私のように弁護士会員でもチーム外の一般会員を含めて)の人にとっては、まじめに検証した結果の意見なのか、単に反対のための反対をしているのかが分りません。
国民全部に配布するのは物理的に出来ないまでも、チームに関係のない一般会員向けに最低限他国の法令状況や運用によるマイナス作用等の具体的なデータを広報して欲しいものです。
これがなくて会長声明等ばかり配布されても、昔の社会党のように反対のために先ず反対しているような誤った印象を持ってしまう一般会員が多いのではないでしょうか?
従来日弁連や単位会の運動はもっと具体的・・実務家らしい運動が多かったのですが,特定秘密保護法反対になるとイキナリ抽象的・・飛躍した主張・・パンフレットみたいなものばかり送って来るのを危惧しています。
法律というものは具体的社会生活に根ざすものですから、数学の理論みたいにどこでも妥当する観念で処理できるものではありません。
米英独仏等の先進国でどう言う規定の仕方があって、実際の運用の結果どのような不都合が起きているか、これを我が国の実情に当てはめるとどのような修正が可能かなど具体的に論じるべきです。
米英仏等のどの条文に対して自民党案のどこが良くないのか、どう修正するべきだというのかの意見であれば、読者が判断し易いので、専門家集団としての意見書の意味があるのではないでしょうか?
「秘密を認める法律の存在自体が良くないから地道な修正的議論が出来ない」と言い出したら,世界中どこでもこの種の規制がある筈ですから、どこの国にも妥当しない意見・・現実を無視した空理空論のたぐいとなります。
世界中で兵器等に関してテロ防止・スパイ防止関連法(法令名はいろいろでしょうが・・)が存在しているのが明らかですから、(全部公開していたらスパイや盗聴問題が起きません)何らかの不都合があったとしてもそれを上回る秘密保護の利益があるからでしょう。
堅実な議論をするためには、感情的反対・賛成論ではなく秘密保護によって得られる・・守られる利益と、秘密にすることによって生じる不都合の比較考量に関する実例に基づいた議論が先ず必要です。
安倍総理個人で見ても、テロから身を守るために要請される警備上の秘密が当然ありますし、その秘密のために国民が被る被害との兼ね合いその不都合と総理の命を守るメリットの比較を議論すべきです。
(警備計画を知りたい人には言論の自由侵害があることになるのでしょうが、警備計画を国民一般が知らないと社会発展にどう言う不都合があるか・・?)

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC