法人税減税と補助金削減

生粋の日本企業は利潤だけを基準にしているのではなく、それどころか利益がなくなっても組織を維持出来れば良いというほど組織維持意識の強い社会です。
組織の永続と同胞の職場維持を目的にしています。
ある企業が100の利益を上げていて従業員10人しか雇用していない企業に比べて100分の1しか利益が出ていなくとも1万人を雇用している企業の方が、日本社会に貢献しているというのが日本人の価値観です。
国内産業の保護や発展を何故求めるかと言えば、主たる目的は国内雇用・国内波及効果目的です。
勿論税収が上がるに越したことがないですが、税収が少なくとも多くの人員を雇い、国内産業波及効果の大きい企業の方が価値があります。
税収10万円の企業で1万人雇い関連産業が10万人の企業と、従業員4〜5人が金融取引で大儲けして1億円納税する企業とどちらが国のためになるかと設問すれば明らかでしょう。
資本効率から言えば、年商1兆円で僅かに10万円の利益しかない企業は投資価値がないでしょうが、国家社会にとっては利益率よりは雇用確保が重要です。
法人税率に関心があるのはリターンを求める金融資本家に重要な指標であって、国家社会にとって意味のない指標です。
日本の企業は大赤字になっても再起を期して踏ん張り安易に企業解散をしないし、(赤字転落していたシャープもパナソニックも踏ん張って黒字転換しました)若干の赤字程度ならば海外工場での儲けで国内赤字を補填してでも簡単に外国へ移転しようとしない企業が大多数です。
儲け拡大のために国内工場を閉鎖して海外に移転してしまう(・・日産のような)あるいは税を払いたくないから海外に逃げるような企業精神は、日本人の支持を受けられないでしょう。
法人税減税の主張の合理的意味を理解し難いのは私だけでしょうか?
法人税は儲けた利益に課税されるものであって、赤字であれば関係がありません。
例えばある企業が10億円儲けたのに日本に本社をおくと4割税金にとられるので3割しかとられない税の安い国に本社を移転したくなるから、これを防ぐために外国並み課税率にしようというのが法人税減税論です。
日本のインフラ負担や弱者救済費用等に一定率の納税をするのが同胞としての義務であり、金儲けできる人が負担しなければ国は汚くなり人心がギスギスする一方になります。
利益が出れば国民の御陰だと感謝して一部を国内に還流して、日の当たらない人々や良いことをしていても資金の行き渡り難い分野へ回して下さいというのが愛国心です。
赤字でも何とか国内に踏みとどまり海外進出先からの利益還流で何とか持ちこたえようとするのが本来の日本の心ではないでしょうか?
儲けているのに税をあまり納めたくないと言う人はいますが、どうせならば安い方がいい・・税の無駄遣いをしないでくれと言うのは人情だとしても、税を納めること自体が嫌だからと言って海外に逃げて行きたいような企業は、日本にそもそも必要がない企業です。
このような強欲な企業の存在を許す必要がないと言うのが私の意見ですが愛国心が強過ぎますか?
補助金を減らす代わり同額の法人税減税という意見は、国民経済にとって真逆の主張をしていることになります。
各種補助金と法人税は表裏の関係がありますが、補助金は特定目的・・特定国内産業育成のために必要とするものであって、補助金を減らして税率を下げるのは政治政策の放棄です。
例えば人工衛星・ロケット等・・学術研究や教育設備への政府支出・・補助金は、新たな産業育成や人材育成のために必要な制度であって、こうした支出を減らして、その分税金を安くする政策は、国家の将来を危うくします。
言わば税を納めない観光客に頼る経済と同じで、公共インフラ負担や助け合いのお金を出したがらないで受益ばかり要求する社会を目指すことになります。
日本は縄文の昔から同胞相助け合う社会を築いて来たのですから、相応の共益費負担・税負担をするのが合理的です。

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