紙幣供給量増大と減価2

日銀が仮に10兆円分の国債を市中(主として金融機関や生保等)から買い上げると、金融機関に資金余剰が生じますが、国内大手企業も資金余剰でだぶついています。
最近で言えば全体で60兆円だったか正確には忘れましたが、大手企業ではものすごい額の内部留保状態・・資金の使い道に困っている状態です。
だからこそ、金融機関が国債を買うしか集まった資金の運用が出来なかったのですから,国債を売って資金を回収してもマトモな企業からの借り入れ需要が増える訳ではありません。
では何故日銀の買いオペ・入札に応じるかと言えば,量的緩和による超低金利化によって国債相場が上がっているので,利益確定売りをしているのです。
比喩的に言えば1%金利の国債を持っている金融機関にとって、金利が0,5%に下がれば理論的に既存債権の評価が5%上がります。
この3月期に金融機関の利益がもの凄く伸びている(三菱UFJBKが約1兆円もの利益を出したと記憶していますが・・)のは,低金利化による国債相場上昇・・利益出しの結果や保有株式等の評価上昇によるところが大きいのであって,銀行が営業上何か工夫して儲けを稼ぎ出したものではありません。
史上最低金利化すると将来は金利が上がる=債権相場が下がるしかないとなれば、早めに手じまいする・・保有国債を手放して得るべき利益を得ておいて評価減に備えておくのが合理的です。
言わば現在の日銀による国債買い入れ政策は、将来の評価下落リスクを民間保有から日銀保有への移し替え作業が始まっている状態と言うべきです。
国内資金需要からはみ出した分、この資金が低金利を武器にして海外流出して行く・・リーマンショック前に盛んであった円キャリー取引の復活です。
日本の金融機関は海外で稼ぐ能力が低いことはあまり変わっていませんので,海外投資家が,日本の銀行から低金利で駆り出して海外へ持って行くのが普通・・所謂円キャリー取引の復活です。
この結果(貿易赤字化による円安だけではなく)円を海外で利用するために円からドルへの両替が増えて,円安が加速されているのが現状です。
結果的に海外向けに安い金利・・言わば、貨幣の押し出し・叩き売り・投げ売り的貸し付けが広がります。
投げ売り的貸し付けが広がれば、審査が甘くなり結果的(いつかは)に不良債権の山になるのは目に見えています。
現在も1国閉鎖経済から世界経済に広がったので分り難くなっているだけで、世界全体を1つの経済圏としてで見ればまだまだ貧困層が多いので、これらの国では先進国の金あまりを背景に貸し付け条件が緩まれば、いくらでも借りて消費拡大したい人が無限にいます。
そう言う国で仮に紙幣発行量が3倍になれば、比例して需要も伸びるでしょう。
その結果、ギリシャ・キプロスのように重債務国になっていつかは危機に陥る・・債権価値がこれに比例して評価減になります。
南欧諸国の危機では債権国フランスやドイツ等が債券評価減で大損失を受けましたし,キプロス危機では、資産隠しあるいは租税回避に使っていたロシアの富豪が大損失を受けています。
現在社会では物価上昇による貨幣価値の下落(も当然ありますが)よりは、通貨下落や債権評価減による修正作用の方が大きくなっています。
少し話題がずれますが、日本の超低金利政策や大量紙幣発行が何故関係のないように見える新興国の需要刺激になるか・・あるいはその国の紙幣大量発行に繋がるかについては以前から何回も書いていますが、もう一度この辺で見ておきましょう。

紙幣供給量増大とインフレ(減価1)

紙幣発行量の増大政策はいつかは帳尻を合わせるしかない一種の借金であるとの説明から、ポンド防衛の話題に入ってしまいました。
November 2011「自国通貨が逆流した場合2」の続きになります。
この間に政変があって、民主党から自民党政権に変わり更に従来の自民党の政策とも違う所謂アベノミクスが世間を賑わしています。
2011年時点で書いていた意見から1年半ほど横路にそれていたので、この辺の意見はそのころの続編ですから、安倍政権誕生後の環境変化に合わない分があればアレンジしなければならないかな?と思いましたが意外にそのままでも掲載出来そうです。
(・・意見・考えというものはそう簡単には変わりませんから当然と言えば当然です)
発行し過ぎた紙幣による実物価値との乖離を調整する方法としては、紙幣価値の値下がり・・財・サービス供給不足時代が長かった過去・・現在でも新興国経済ではインフレによる減価が一般的です。
供給能力に限界のあって・・国民の多くがもっと豊かなりたい・多く食べたい・あれもこれも欲しい欲求が強い場合、金利下げや紙幣大量供給後数ヶ月から半年で直ぐにインフレあるいはバブル効果が現れるし、金利引き上げや紙幣供給量の絞りで直ぐに経済活動が収縮しますので、誰でも分るような単純な経済現象でした。
紙幣発行量を2割増やせば2割物価が上がると言う単純な原理ですが、これは1国閉鎖社会で供給量が一定の農産物等を前提にした経済原理でした。
日本のような物あまりの成熟国においては、紙幣をだぶつかせても買いたいものがないと言われますが、貧しい人はいつでも買いたい欲望で渦巻いています。
どんな豊な社会でも貧困層は皆無にはなりませんので、彼らの所得増加はストレートに消費増に繋がるので、成熟国だからと言って、貨幣大量供給やバラマキが消費増加と無関係とは言えません。
紙幣発行量を増やしても物価が上がらない・・むしろデフレ傾向を止められないのは、1つには供給力超過による不景気の場合、少しくらい消費が増えても超過供給量の一部(休止設備の稼働率が上がる程度)になってしまう上に、国内消費増大を目ざして却って輸入量が増えてしまうことが大きな原因でしょう。
(輸出競争に負けて輸出向け製品が輸出出来ずに生産能力過多になっているときには、逆に輸入品が逆流してくるようになる結果ダブルで供給過剰になります)
言わば生産増・設備投資に結びつく紙幣発行は、乗数効果が高いのでその何倍もの内需を生み出しますが、末端消費増を期待する貧者向け福祉政策的供給増(バラマキ)の場合には、供給過多の穴埋め程度しか効果がありません。
他方で増えた紙幣の受け皿になっている人の多くは、成熟国では既に充分な金融資産を持っている人や高所得層の人が多いこともその原因の1つでしょう。
年収1000〜2000万円の人が更に10〜20万円収入が増えても、その分支出を増やすことはあまりない・・預金残高が少し増えるだけですから、物価は上がらないままです。
従来型の金利の調節やマネタリーベースの拡大が消費の増減に影響を及ぼせるのは、国民の中のギリギリの生活をしている階層・底辺層中心となります。
結果的にだぶついたお金は預金等の金融資産に変身して膨張させるしかない・・裏から言えば金融債務が膨張する→債務が実体経済力以上に膨張すれば、支払い能力が追いつかないので金融資産の劣化による調整・・債権の評価減しかありません。
名目金融資産が100あっても債務者の支払能力が50しかなければ、理論上その金融資産の実勢価値は50に評価減するしかありません。
今の時代には、紙幣供給を倍増すれば物価が2倍になって減価するのではなく支払い能力減による評価減が起きるのです。
ですから・アベノミクスで流行している紙幣供給増プラス超低金利政策による物価アップ目標論は論理的ではありません。

ポンド防衛の歴史17(ポンドの威信6)

ちなみに、平成25年4月17日午後8時5分現在のドル・ポンド相場を三井住友銀行の表で見ると1ポンド売りが147、32円、買いが152,32円となっています。
ドルの売りは97、35円買いが98、35円です。
当時1ドル360円を基準にすると円がドルに対して約3、7倍に上がっていてポンドに対しては約6、7倍余りの上昇・ポンドの約6、7分の1への下落です。
これを個人の年収に置き換えると分りよいですが、イギリス人が1945~65年代には年間1000万円の収入だったのが現在では149万円に下がっている・・日本人の年収が149万円から1000万円に上がったという関係です。
イギリスに旅行すると、何となく元気がない・・イギリス市街がどこも貧しい・沈滞した感じがするのは仕方のないところでしょう。
円安は貿易条件が良くなるという意味は人件費が安く出来るから競争力がつくという意味しかないことを繰り返し書いてきましたが、ポンドの下落を見ればイギリス人の稼ぎがこんなに下がっていることを如実に表現しています。
円安もほどほどにしないと、企業だけ儲かって国民が苦しむことになります。
平成23年12月1日に紹介した「基軸通貨ポンドの衰退過程の実証的研究」は、戦後10〜20年にわたって世界経済を揺るがして来たポンド危機の根源を、為替規制によるスターリング地域の結成と衰退を実証的に研究している分りよい優れた論文です。
(素人の私から見ても、良く分り、子供の頃に抱いていた疑問を解いてくれるという意味ですが・・)
イギリスは裁定相場から完全な変動相場制に移行しているのでポンド防衛から自由にはなりましたが、今でも英連邦諸国との紐帯をどうするかに悩み、共通通貨ユーロには参加していませんし、ことあるごとに主権維持に敏感です。
EUの理念は、主権を徐々に制限して行きながら、将来的には経済一体化を目指すものですから、イギリスがこれに参加しながら主権制限反対に頑強にこだわるのは論理的に無理があります。
貨幣の共通化=グループ構成員間の平均化ですから、グループ内強者は実力以上に為替相場が低く抑えられるメリットを受けますが、平均以下の弱者は実力以上の高い為替相場に苦しめられます。
スターリング地域解体の結果から分ることは、各加盟国に発展不均等がある以上は貨幣の共通化あるいは通貨交換比率共通化は無理があることが分ります。
我が国の地方交付税制度や補助金制度を何回か紹介していますが、それでも弱い地域はドンドン弱くなるのを緩和するくらいが関の山であることは、大都市人口集中・過疎化が進行する一方の各地辺境地域を見れば分ります。
ポンド防衛のシリーズをここでひとまず終わりますが、ギリシャ危機の解決策に関してのイギリスの対応は、戦後ずっと続いて来たヨーロッパの一員に戻るかどうかの重いツケをまだ解決出来ないイギリスの苦しい立場を明らかにしました。
我が国も島国のために中国や朝鮮等の大陸諸国とは基本的に国民性が違うので、将来アジアもユーロのように一体化しないとやって行けない時期が来るとその違いに悩まされるようになると思われます。
このとき・・まだまだ何十年〜100年単位も先のことでしょうが、考えておくべきことでしょう。
ただし、中韓の一体化は歴史経緯もあって目の前に迫っていると思います。
中韓一体化は、元々の支配服従関係(宗主国と服属国)に戻るだけだという視点でまだ冷静に対応して行けるでしょうが、もっとその先の時代・・アジア一体化が進むしかないときに、海の民対大陸と言うアジア島嶼国連合で対応して行けるのかどうかが心配です。
(FTA・TPPその他が発達して来て国境の壁が低くなって、ユーロのような政治的一体化が不要になるのを期待したいものです。)

ポンド防衛の歴史16(ポンドの威信5)

話がそれましたが、経済実力の落ちて来た場合のテーマ・2013-4-7「ポンド防衛の歴史15(ポンドの威信4)」の続きに戻ります。
戦後のイギリスは、経済力が落ちて来たのに格式にこだわって、(核武装もするし武力維持でも無駄に頑張ります)広大な屋敷(毎年の植木屋さんの費用やちょっとした家の修理も半端ではありません)や門塀を維旧家の格式出費が多くて、実生活が苦しい旧家みたいなものでした。
個人の場合、旧家の格式を維持するのが何かと面倒なので都会に出てしまって、簡素な生活に切り替えることが多いのですが、国の場合は逃げ出す訳には行きません。
(大名が明治維新後全員東京に移り住んだのも、元々江戸に住んでいたというだけはなく、地元にいると面倒だった面があったでしょう)
国力の変化を為替相場に委ねてジリジリと実力相応に国家の格式を下げて行けば無理がないし、貿易収支改善も期待出来ます。
現在のギリシャ危機(この基礎原稿は昨年12月10日ころに書いておいたものですが、今ではキプロス危機になっています)の原因も同じで、自国の実力に応じてジリジリと為替相場が下落して行けば自然体で楽だったでしょうが、自国の経済力に直截関係なくドイツ、フランス等EU諸国平均経済実力でユーロの為替相場が決まるのですから一種のバスケット方式に参加してしまった状態です。
実力以上の評価を受ければ外見は格好いいでしょうが・・・その分マイナスが生じます。
能力以上の高校・大学に入ったり、交際関係(庶民が名門女子校に子弟を入れると付き合いが大変なのと同じです)に入るとそのレベルに合わせた付き合いが大変になります。
ギリシャ・キプロス等の弱小国はユーロが実力以上の為替相場になっても、貿易赤字を修正する為替変動を利用するチャンスがなく、赤字が累積してしまった結果現在の危機が来てしまいました。
逆から言えば、どんなに貿易赤字が続いていても通貨下落の心配がないので、ロシアが有効国のキプロスに資金逃避地として巨額預金をしていたのが今回あだ花になりました。
EUとしては基本的に預金の削減・・預金者にも相応の痛みを求める政策のようですからロシアの巨額(不正資金?)預金者は大変なショックでしょう。
中国でもどこでも不明朗国は、裏金をどこか信用出来る国に隠しておきたいようです。
ギリシャは独仏等の相場にリンクするだけで独自の通貨を持っていれば、(アジア危機後のアジア諸国のように)バスケットから離脱すれば良いのですが、自国通貨がない(金利政策も出来ない)ので、イギリスのように自国通貨の売り浴びせを受けない代わりに、為替が下がることによる交易条件を有利に是正するチャンスを失い貿易収支が際限なく悪化してしまったのです。
この解決には通貨切り下げが一番簡明ですがこれが出来ないので、緊縮の強制しかない・・とは言うものの南欧諸国国民が納得しないのが現実です。
EUを完全に経済統合に一歩でも進むか、国別経済の独立性を飽くまで維持するならば、自国独自の通貨・金利政策・為替相場に戻るしかないでしょう。
ちなみに2012年12月11日の新聞報道では、ユーロ圏の新条約会議で10日に合意され、(ギリシャのユーロ離脱よりは)財政規律を強化・財政の一体化強化の方向に決まったようです。(このブログはこの頃に書いてあったものです)
財政規律維持と言っても実際には無理がありますので(12月10日ころに予想して書いておいたこのブログ通りに)今春のキプロス危機では、国民の反発で否決されてしまいました)。
行く行くは日本で言えば青森や沖縄その他地方は独立国ではなく、日本の一部として地方交付税その他補助金など補填して成り立つような関係に持って行かない限り根本的解決にはならない筈です。
ただし、財政規律重視方向は将来的には上記のような財政の一体化に進むしかなくなるので、主権維持を気にするイギリスが飽くまで今回の合意に反対を貫いたので、独仏との間で将来に禍根を残すことになったと報じられています。
ちなみに敗戦直後から1990年までのドルとポンドの対円為替レートがグラフになっているデータがあったので紹介しておきます。

以上は以下のアドレスからのコピーです。

http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/J062.files/Graph13.gif

http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/J062.htm

中国の国際協調能力4(不公正貿易国認定2)

年数の経過でペッグを組んでいる国同士で格差が生じて来るのは必然ですから、赤字国に連動する国にとっては無茶においしい話になりますし、赤字国はいくら通貨を下げても一緒に相手が下がるのでは赤字解消が難しくなります。
EUであれドルと連動する国があると、その関係国間で生産性上昇率の低い国や地域が参ってしまう関係です。
我が国の場合地方交付金や政府補助金が(補助金は特定業種向けですがその業種がどこの地方に立地しても同じ補助金が交付されます)国内均等に行き渡りますが、それでも地域差が生じて来て僻地はいよいよ僻地・過疎地化する一方となります。
国内的には農村社会から商業社会へ・・都市集中現象で済みますが、国際的にはそうも行かないでしょう。
デフォルト寸前の危機にならない限り修正の余地がないとなれば、現在のキプロス危機のように最後には債権者債務者双方に大きな痛みが伴います。
日々の為替変動制を利用すれば能力差が日々反映されて、ポジションのちがいを軟着陸・ソフトランデイング出来る便利さがあります。
貿易黒字あるいは所得収支黒字の結果、円高や元高が進み過ぎるのを防ぐために、それぞれの政府による為替介入が繰り返されますが、これは市場のドル売りに対してドル買いで対抗することですから、必然的にドル保有額が増えて行くことになります。
上記のパターンは、金利下げによって自国通貨安を演出する場合(何回も紹介している円キャリー取引による円安)も同じです。
為替介入によって得たドルをユーロやポンドに替えるために売りに出せば結果的にドルが対ユーロ等で下がってしまい、ひいては円高・元高になるので為替介入した意味がなくなるので、ドルを保有したままにならざるを得ません。
中国は元の相場上昇阻止のために為替介入を繰り返して来た結果、貿易黒字の累積以上(長期的には結果は同じでしょう)に外貨準備が積み上がることになって中国の外貨準備が急激に積み上がって数年前に日本の外貨準備を追い越してしまいました。
割安な為替相場を無理に維持して対ドルの貿易黒字が蓄積すればするほど、ドル外貨準備が大きくならざるを得ず、準備額が大きくなればなるほどドルの暴落は困るので、その買い支えに動かないと外貨準備=国富が毀損してしまうので、「毒を食らわば皿まで」の一蓮托生的関係になって行きます。
大口債権者が融資先の企業の倒産先送りに・・独仏等の債権国がギリシャや南欧諸国の危機にコミットせざるを得ないのと同じです。
債権者と債務者は、実は同じ船に乗っているようなものです。
後で考えれば債務国の為替の下落でどうせ同じことになるなら、中国人民元を実力相応に切り上げて、国民の生活水準向上に役立てた方が良かったことになるでしょう。
同じことは日本円にも言えて、無理に為替安で貿易黒字を稼いで、ドル預金を増やしても、結果的に同じことにされてしまうならば、黒字に比例した円高を受け入れて、(赤字になるまで円高になるのは困りますが、)それ以上の大幅黒字を積み上げないで国民生活を豊かにしていた方が、実質があります。
円高になれば海外製品が割安になって輸入が増えるし、物価が下がるので国民はより豊かな生活を送れます。
日本の場合、バブル崩壊後一時円高になったもののその後リーマンショックまでずっと円安のままでしたが、それでも中国から食糧品を含めて超安値の製品流入が続いた結果、物価下落が続いたので国民は円安による被害・物価上昇がなく仕合せでした。
この辺は、企業にとってはデフレ経済で大変でしたが、国民にとっては楽だったという意味です。

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