社会構造変化と非正規雇傭の増加1

パート出現のときには、人手不足時代であったために正社員もパートも双方とも増えたので社会問題にならなかったのですが、派遣制度が始まった頃にはグローバル化進展によって、海外進出→逆輸入の進展などで、日本国内生産の停滞縮小時期に重なるのでこの間正規社員が平行して減っていきました。
(あるいは、後期のとおり、正規社員を減らさないと国際競争上やって行けなくなって国内雇用を守るために非正規雇用制度が産まれたとも言えます。)
統計数字の結果だけ見ると、この間に例えば正規労働者が1千万人減って、非正規雇傭が1千万人増えたとすると、如何にも正規社員がクビになってパートや派遣に入れ替わったような印象となります。
しかし、生産工場の方で海外生産移行などを原因として国内正規社員を減らすしかない趨勢が先にあって、その受け皿として、彼等の失業を防ぐために公共工事拡大やサービス業などで短時間労働職場を増やした結果・彼等の受け皿を作れた面もあります。
非正規のシステムがあろうがなかろうが、企業は世界政治・経済の動向に合わせて海外進出し、その分国内生産を縮小してくしかない以上、これに合わせて人員削減するしかないのですから,リストラ実施の必要性が先に存在していたのです。
元々輸出産業の乏しい地域では、受け皿=失業対策としての税を使う公共事業が隆盛を極めていましたが、輸出産業のあった都会地でも必要になったところが大きな違いです、
公共工事は言うまでもなく100%税を使うし、都会地の労働力の受け皿として新たに始まったサービス関連職種の内医療福祉関連は、100%ではないまでも巨額の財政支出を伴います。
バブル崩壊後のわが国財政赤字が累増し、年金や医療の赤字が問題になって来たのは、この結果です。
リーマンショックは、赤字分を借金で賄う強いアメリカの虚構性を白日の下に曝したものですが、借金体質・借金で贅沢している虚構性が衝かれた以上借金=財政赤字の増額による内需拡大は、基本的に無理があります。
そこで我が国でも赤字削減が過大になってきましたが、福祉と公共工事の赤字のうち医療・福祉はやめられないので、公共工事激減策に進むようになりました。
リーマンショック以前から進んでいる製造現場・公共工事その他旧来産業の人減らし分の受け皿として、リーマンショック以降介護・福祉現場や観光産業の振興を宣伝してこれら分野への労働者の転換の必要性がしきりに叫ばれています。(この記事の原稿はその頃書いていたので現在形です)
これを後から見るとそんな職業を作り出すから、非正規労働者が増えたと批判をしているようなもので、内容を見ない合計の統計だけで議論すると滑稽なことになります。
これでは、せっかく失業者を減らすために国民みんなで苦労して新たな受け皿を作ったことが、却って非難の対象になってしまいます。
もしも半端な就業形態の職場を作らなかったら、行き場を失う労働者のために政府は、企業のリストラを制限する事になるのでもっと多くの正規社員が残れたと言うことになるのでしょうか?
リーマンショックによる売り上げ激減後も「労働者を一人も減らすな」と叫ぶのは勝手ですが、それを政府が強制していたのでは、トヨタもホンダも新日鉄もつぶれてしまいます(その前に海外に逃げるでしょう)から、もっと大きな失業がその次に来るだけです。
(この辺の意見は2008年秋のリーマンショック直後の年越し派遣ムラが世間を賑わしていた頃に書いておいたものです)

契約・派遣社員(手切れ金9)

我が国では、今でも終身雇用を原則としていることから、必然的に正規社員の中途採用が極端に少ない・・・多分逆方向への転進が狭き門になっているので、非正規雇用が批判の対象になっているのでしょう。
しかし人材の流動化を双方向へ持って行くためには、正規社員の終身雇用慣行を崩して行くことに精力を注ぐべきであって、これを所与の前提として放置したまま非正規雇用を減らす方向へ逆戻りするのは時代錯誤と言うべきです。
非正規雇用規制論者は、パートか正社員の二種類しかなければ、子育て中でしょっ中休む人でも企業は仕方なしに正社員として採用するしかないだろうと言う立場と思えます。
仕方なしに採用する企業もたまにはあるでしょうが、それは余程人手不足の場合・時代にだけ通用する考えで、現在のように労働力過剰で困っている時代では、(1ヶ月きちんと働ける人でさえ失業者が多くて困っているのです)二者択一しかない社会にすると1日5〜6時間でもあるいは月に10日くらいでも働きたい半端な人に対しては就職の機会を100%失わせるリスクの方が高くなります。
比喩的に言えば100万人の半端な時間だけ働ける人がいた場合、そのうち2〜3万人だけ正規・終身雇用で採用されて残り97〜8万人が完全失業してしまうことになりかねません。
ここは感情的な二者択一論ではなく、終身雇用をやめる方向に持って行って中途採用が活発になって正規雇用への転進がスムースに進める方向への努力をする方が合理的です。
身障者雇用制度では一定率の雇用を義務づけていますが、これと似た発想で、職種ごとに一定率まで終身雇用比率を制限して一定率まで10年ごとの定年制を決めるなどして行けば、正規雇用者の中途採用がシステム的になって来るでしょう。
若年定年制論については、February 3, 2011「終身雇用から中短期雇用へ」のコラム前後で連載しました。
夫婦別姓論も同じで、選択も出来るようにしようとするだけで別姓にしなければならないのではないのですが、反対論者は、選択出来ることすら気に入らないのです。
次第に別姓が広がる心配をしているのは、別姓の希望者が多いことを前提にしているのでしょう。
契約や派遣の場合は、労働者の自主選択権が弱くて企業・雇傭側に一方的選択権があるのが(終身雇用制維持が正しいとした場合)問題とされます。
子育てが終わって正規社員になりたいと思ってもその道が少ないのは、派遣制度があるからではなく、実は中途採用の少ない終身雇用制に基礎的問題があると私は考えています。
派遣制度が出来たから正規社員が派遣に切り替わったばかりではなく、元々特定の時間帯で働きたい人たちには、再就職すべき職場がなかったのが派遣や契約社員制度の広がりのお陰で一応働けるようになったプラス面が多いでしょう。
パートの場合、正社員が一日数時間のパートに変更されたのではなく、元々正社員として中途採用される余地のなかった中高年主婦層の働き場が増えたのと同じ面がある筈です。

契約・派遣社員(手切れ8)

終身雇用中心の労働市場から、パート、契約社員や期間工、派遣労働など多様な労働形態の発達についても、借地人や借家人から出て行ってくれない限り期限不確定・・半永久的に更新して行く借地権だけの時代から、確定期限の定期借地権等の創設・併設と同じ流れの線上にあると見ることが可能です。
終身雇用一本ですと、ミスマッチが生じた場合、労働者の方ではやめたくとも適切な転職先がないので我慢するしかないし(うつ病などが増えます)、経営側も辞めてもらうわけにはいかないので草むしりさせたり窓際族に追いやるなど労使双方共に不毛です。
別の分野であれば有能な人材を有効利用出来ないで腐らせておくことになります。
契約社員や派遣の場合、不透明な手切れ金・解決金・・あるいは裁判不要なのが、(裁判の場合解決時期が明確でない)など企業にとって煩わしくないメリットになるでしょう。
労働者にとっても雇用の流動化が進めば必然的に受け皿も多様に出来て来るので、ある仕事についても適性がないと分れば契約期間が終われば別の職種につくチャンスが多くなります。
(平行してチラチラ書いていますが、離婚の自由度・破綻主義の進展問題も同じでしょう)
契約社員や派遣制度は、労働者全員をこれにしろと言うのではなく、従来からの終身雇用制度を残したまま、短期でもいいから半端な契約時間で働きたい人のニーズにも応えるために受け皿としてのコースも別途用意したのですから、従来型の借地借家に定期性の借地借家契約を併設したのと同じ発想です。
ただし、これが建前どおり選択肢が増えただけというためには、地主や経営者だけが自由に選べるだけではなく、借地人や労働者にも選択の自由が現実に存在する必要があります。
これがないのでは、事実上労働者や借地人が不利になっただけになります。
どちら側からでも自由に選べる社会状況であって初めて、選択肢が広がっただけと言えます。
借地契約に関しては、元々借地人に有利すぎることから、(高度成長の結果大都市とその周辺では土地需要がうなぎ上りになった)昭和40年代後半頃から新規借地供給は皆無と言えるほど減少していましたから、新法制定以降定期借地契約ばかり増えたとしても、旧来型借地契約がこれによって減ったことにはなりません。
(地主は貸すのではなく売るか売らないかの二者択一だけで、元々新規契約・新規供給ががほぼなくなっていたのですから・・・)
しかし労働契約・市場に関しては、終身雇用は企業にとって不利だからと言って企業側が新規終身雇用を100%近くやめていた訳ではないので、(そんなことは出来ません)非正規雇用制度が出来てそこへ流れた分だけ終身雇用者数が減った・・企業側にとって選択肢が増えただけとも言えます。
労働者にも半端な時間だけ働きたい人がいることは確かでしょうし、多様な労働市場が出来れば、労働側にも選択肢が広がったことによるメリットがあります。
たとえば、子供が大きくなったので今度からフルタイムで働きたい希望に変わったときにも、一定の比率で正規社員への転進が保障・・中途採用の受け皿が整備されていないと、一旦非正規を選ぶと正規=終身雇用に戻れない・・非正規雇用者ばかり増えてしまいます。
もしも簡単にどちらへでも転進が出来るならば、メニューが豊富になっただけと言えますが、正規社員から非正規への一方通行が中心で、逆方向の転進が少ないとなれば建前通りではないことになります。

定期借地権4

土地所有者にとっては一度貸しても期限が来れば必ず返してもらえるとなれば、期限後の計画が立ちます。
借りる方も一定時期に必ず返さなければならないと分っていれば、その期間で回収出来る事業を計画的に行えば良いのです。
かなり儲かる商売でも20年もすれば最盛期が過ぎて行くものです。
ましてそこそこ漸く経営をしていた商売では20年もすればじり貧になる一方で、本来早めに撤退した方が良い商売が一杯ある筈ですが、旧借地契約の場合、自分から店を畳んで出て行くと立退料が貰い損ねることから、赤字でも無理して続ける人が多かったのです。
大正の借地法も借りるときにその期限内で返す計画で借りていれば良かった点は理屈の上では同じでしたが、そうはならなかったのは当時の借地利用の主流は生活の基本たる居住用借地権が主体だったことによります。
居住用地・・我が国では定住志向が強いので一定期間で引っ越し計画を求めること自体に無理があったのです。
平成の借地法では事業用借地権(に限って)の場合、10年以上30年内でも定期契約が可能となっているのは、このためです。
50年以上になると事業用か居住用かを問いませんが、居住用であっても今では農家以外では定着性が低くなってきたので、そこまで(40代で借りればおよそ1生涯です)保障すれば充分だろうという時代認識によります。

借地借家法
 平成三年一〇月四日法律第九〇号
 施行:平成四年八月一日
第四節 定期借地権等
(定期借地権)
第二二条
存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。

(事業用定期借地権等)
第二十三条  専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
2  専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、適用しない。
3  前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。

平成の改正で建物の賃貸借にも定期契約が導入されました。
これは、ホワイトカラーが自宅新築後転勤で家を空けるようになったときに貸したいと思っても、一旦貸すと出て行ってくれない恐れがあって、貸すに貸せずに空き家にしておくのは社会資源の無駄・不経済だということから始まったものです。

(定期建物賃貸借)
第三八条
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。
この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
(建物賃貸借の期間)
第二十九条  期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
2  民法第六百四条 の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。

(強行規定)
第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

民法
(賃貸借の存続期間)

第六百四条  賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、二十年とする。
2  賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から二十年を超えることができない。

定期借地権3(手切れ金7)

前回紹介した借地権譲渡手続きを工場用地取得、あるいはコンビニやファミリーレストラン用地などビジネス環境として見ると、数年掛けて増産や新規立地など研究・調査して漸く候補地が絞られ、出店地域等が具体化して借地人と交渉して借地で経営している事業者が一定金額で売っても良いとなってから、次に地主の承諾を得る手順になります。
数ヶ月掛けて承諾料その他の交渉を経た結果、地主に断られてから、更に約半年から1年かけて非訟手続きをしても、その結果地主が買い戻すと言い出せば、(9条の2第3項)それまでの努力がすべてパーですから、各種の進出計画としては時間がかかり過ぎるのと終了時期が不明確な上に結果が不確定すぎて所有権を取得する土地と比べて商品価値が著しく劣ることになります。
面倒くさすぎるので、似たような立地条件の土地がある場合、借地を買う話は競争になりません。
20年ほど前に親会社が子会社からの工場買収計画に絡んでこの種の事件を担当したことがありましたが、親子会社で名目上の借地名義人移転に過ぎず、操業はこの間も同じように続けていたままでしたから駄目元でゆっくり法的手続きをしていられましたが、これが本当の他人間の借地権売買・新規事業開始の案件ですと、とてもじゃないけど時間がかかり過ぎるのと不確定すぎてやってられない感じでした。
今時こんな不確定すぎるのでは、商品経済社会の対象になり得ませんので、実際に、承諾手続きをする人は極く稀ですし、借地権価格と言ってもアカの他人間で通用する客観的な交換価値ではなく、地主借地人間の立ち退きに際しての人的な解決金でしかなかったのです。
譲渡承諾を得られる場合には、一般的に既存建家を取り壊して新たな施設の建設同意とセットでした。
(ファミレスの後に別の業態が出店する場合、ある事業所が廃業してその跡地を譲り受ける場合、同じ建物のまま利用しすることは滅多にありません)
このように譲渡同意を得られる場合でも、建物新築同意も含まれて・・借地期間や地代の変更など総合的に一挙解決が普通ですので、総解決金・コストは事前に読み難くくなっています。
期間満了時の更新可否の不確定さも商品価値をなくす要因でした。
これまで紹介しているように、契約期間が満了しても地主側に更新を拒絶出来る正当事由がなければ更新拒絶が出来ず、判例の基準では容易に認められない実情が続いていました。
社会構造変化・利用実態の変化から従来職種では有効利用出来なくなった借地人が、自分から出て行きたいと言うと無償で出て行かねばならないし、上記の通り有効利用出来る他の人に譲渡することも実際には難しかったので、既得権を失うまいとして不採算事業や老朽家屋にしがみつく不合理な事例が増えてきます。
地主から見れば現借地人の経営が苦しいならもっと利益の上がりそうな人に貸したくとも貸せません。
先行き不確定さを補正するために昭和50年代中〜末頃ころから、判例でも正当事由の補完として地主や大家が相当な代償金・解決金支払を提案すれば正当事由を認める運用が始まっていましたが、それでも勝敗は裁判をやってみなければ分らないので、(裁判の終わる時期も不明ですし)予測可能性を要素とする現在社会向けではありませんでした。
この不確定性を是正するために、平成に入って借地法の改正ではなく新借地借家法として造り直して、定期借地借家制度が出来ました。
定期借地権や借家権では、特定の契約形式=公正証書によれば、更新の出来ない借地契約・借家契約が可能になりました。
これによって、返還時期が明確になって、商品価値が高まったことになります。

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