円高対策3(資金還流1)

円高問題に戻しますと、貿易赤字傾向になっても所得収支黒字がある為に円高が続く国では、これまで書いたような不都合が有るので、貿易赤字傾向が見えて来た段階で所得収支が黒字でも早めに円高を抑える必要が有ります。
2日くらい前の日経新聞では、8月単月ではなく4〜9月の半年間での合計でも貿易赤字になったことが報道されていました。
地震の影響とは言え、1〜2ヶ月の例外ではなく半年間でも赤字となると大分基礎体力が弱って来た感じです。
為替相場を貿易収支の均衡化を図る道具と考えれば、仮に1兆円の貿易黒字なら,1兆円の黒字に対応する円高は貿易収支の均衡という意味では合っていますが、その他に所得収支が10兆円も有るからと言って、為替相場が10倍の倍率で円高になると,1兆円の貿易黒字の解消どころか、あっという間に貿易赤字に転落してしまいます。
1兆円の貿易赤字でもなお上記の10兆円の所得収支の黒字があると差し引き9兆円の黒字ですから、その分だけドル売り円の買いの圧力が高まってなお円高が進むことになります。
とは言え、為替相場は人為的に介入して上下させることは短期的には可能なことも有りますが、長期的には市場原理に逆らえません。
為替の市場原理に基づいて、資金の集まるところの紙幣の価値が高くなるのは当然ですから、この原理に逆らわずに応用して対策を考えれば良いことです。
現在のように円高が困ったと悲鳴を上げているだけでは、どうにもなりません。
赤ちゃんが泣けば何とか周囲がしてくれるような甘ったれた心情に浸っていても国際政治は非情で、誰も助けてくれません。
円高が本当に困るならば、円高の原因を究明して円高にならないようにするしかありません。
貿易赤字傾向にも拘らず円高になるのが困るのですから、その原因になっている逆ばりをすれば、簡単に解決します。
すなわち、貿易黒字が減っても所得収支などで黒字がたまると・・・海外の稼ぎを円に替えないと国内の経費を払えないので・・儲けはすべて一旦ドルなど外貨を売って円紙幣に切り替わりますので円高になる一方です。
(10月19日に紹介したように2010年でも17兆円もの黒字でした)
円高対策・・貿易黒字以上の円高を阻止するには、毎年貿易外で儲けた黒字分(海外からの元金回収や配当収益等)とほぼ同額を海外再投資(工場用地の買収や鉱山・企業買収など)に振り向けて海外に資金を逃して解消して行けば、貿易黒字による以上の円高進行が止まります。
もともと、海外進出した企業は海外で発生した利益を日本へ送金しないで現地再投資して行ければ簡単です。
・・・個人の海外債券投資で言えば、満期が来ても元利金を円に替えないで外貨のままで保有しているようにすれば円高になりません。
とは言え、企業の場合,海外での利益・あるいは債権回収を外貨で持ったままでは、株主への配当も出来ないし、研究開発費・国内本社部門の経費を払えないなどいろんな問題があって、ともかく一旦円に変えてしまう必要があって実際には複雑です。
日本の証券会社のファンドなども満期が来れば、一旦は日本人顧客に円で償還する必要が有ります。
結局は、ドルを円に換金すること自体は防げない・・禁止や指導は出来ないとして、両替の結果日銀に貯まったドルの使い道の問題に帰するのでしょう。
日銀が民間の株を買うのは難しいので、結局は配当金や元金を貰った個人や機関投資家が、海外株式・債権などを再購入して海外に還流して行くしかないと思われます。
国民個々人には直接還流能力がないならば、(個人では勿論海外の鉱山権益など買えませんし、海外のどこの株を買って良いのか分りません)証券会社が海外債券を組み込んだファンドあるいは外貨建債券などを一般向けに販売することが有効です。

円高対策2(生産回復力)

資源国(鉱物など)の場合は、貿易赤字になって為替相場が下がり採算がとれるようになれば再採掘を始めるのにはそれほど手間がかかりませんが、我が国では、有るものを採掘して売るような単純産業がなく、何十年以上の技術蓄積で売るものが殆どですから、一旦技術が途絶えると再興は不可能に近くなります。
敗戦時の廃墟から直ぐに立ち直れたのは、資産・資源に寄りかかる産業ではなく、技術による産業中心だったので、借金して設備投資さえすれば直ぐに復興出来たからです。
新幹線技術も戦闘機作りの技術が残っていたからであることはよく知られています。
(・・技術者が死に絶えるほども期間が空いていたら駄目だったでしょう)
自然を相手にしている農業でも、水田で言えば一旦ガラなど入れて埋め立てて宅地や工場用地などにしてから、食料不足でもう一度水田を復活しようとしても,簡単でないことでも分ることです。
日本の場合、農業でも何百年かけて営々と土を造って美田に仕上げて来たことによるものですから、一旦荒れ地(ガラを入れてなくとも)にしてしまうと回復は容易では有りません。
貿易赤字の規模が大きくなって来て海外投資した元金も食いつぶすようになって来ると海外からの配当収益も減って来るので、いつかは経常収支も赤字になって来ます。
この段階で漸く為替相場が反転するのでしょうが、そのときまで円高が進むのを放置して置いて良いかの問題です。
海外投資収益が毎年約10兆円有る場合、(リーマンショックまではこのペースでした)貿易赤字が約10兆円を超えるまで、経常収支が赤字にならず、その間円は貿易赤字にも拘らず上がり続けることになります。
そこまで行くには仮に50年もかかるとすれば、その段階で壊滅してしまった製造業の復活を図っても、技術者・熟練工・関連職種その他がなくなって、至難のわざとなります。
(所得収支・海外債権が少なければ少ないほど貿易赤字になると直ぐに円安に反転します・・連動性が高く、逆に対外債務国は貿易黒字になっていても、なお下がり続ける恩恵が有り、結果公平とも言えますし何が幸いになるか分らないのが世の常です)
働いている人は、公務員や医療・福祉・公共工事関連や配達員等の最末端労働者ばかりで、その他は生活保護や失業保険などで生活している人で、何の技術もない人ばかりになってしまうと大変です。
貿易赤字が大きくなる・・・何もかも海外製品を購入する時代が来れば、国内で造るものが減ってしまい、生産活動従事者が少なくなります。
福祉・医療・保育所等社会保障や、国内サービス業関連・公共工事も海外勢の受注が普通になって日本人はその下請けの下請け・・最末端労働者として働く時代が来ることになります。
飲み屋やラーメン屋のような零細事業主くらいは日本人がやれるだろうと思うのは時代遅れで、今後50年もすれば今の居酒屋どころかラーメン屋も焼き肉屋も美容院その他すべてチェーン店になって、海外資本が進出して、日本人のトップはせいぜい労務者兼店長になれるのがやっとの時代が来るでしょう。
余談ですが、・・公共工事の儲けに対する課税で公共工事費を賄えないのは当然ですし、社会保障関連経費も同じですから、(医師・病院や保育士に対する課税で医療費や保育所経費を賄えません)生産活動が縮小している時代には、上記の資本所得・・所得収支の黒字に対する課税中心で賄うしか政府資金が賄えない時代が続くことを予定しています。
生産に対する課税は容易ですが、海外所得に対する課税中心になると難しいので、財政赤字が続くことになります。
財政赤字も所得収支の黒字の範囲である限り、税を取れずに政府が財政赤字でも国民の貯蓄が残っているなら特に問題が有りません。
この辺は財政赤字・国債残高は、いくら大きくなっても国内金融資産がこれを上回っている限り論理的に何らの問題もないことをSeptember 1, 2011国債破綻5書きました。
国債残高がGDPに迫っているかどうかを議論する人がいますが、対外純債務国に当てはめる論理であって、対外債権権国の基準としては関係ないことも以前書きました。
たとえば預貯金が3000万円ある人が、別に負債が500万円あったとしても、その人の年収が300万円か500万は何の関係もないでしょう。

円高対策1

前回の分散投資の続きですが、その前提としてここで少し円高について書いておきます。
為替自由化は、貿易黒字のたまり過ぎる国の為替相場が上がることによって交易条件の悪化に伴い国際貿易の均衡回復をして行こうとするものですが、日本のように貿易黒字が減って来ても海外投資による収益・・所得収支の黒字が大きくて結果的に経常収支黒字が大きい国は、貿易黒字で稼いだ以上に世界中からお金が集まって来ます。
この結果貿易商品の国際競争力以上の円高になりかねず、輸出が壊滅的になって将来的にはアメリカのように貿易赤字国になってもまだ円高が続く危険が有ります。
この場合為替相場は貿易収支の修正機能と関係がなくなりますので、言わば悪い円高です。
現在の我が国はまだ貿易黒字基調ですが、(リーマンショック、あるいは大地震等特殊要因でトキに赤字になるだけで年間を通じての赤字はまだありません)これが今回のような急激な円高になると、今度こそ貿易赤字基調に転換してしまうかも知れません。
貿易赤字が継続すれば普通なら外貨収入が減って行き円は下落する筈ですが、総合収支である経常収支が黒字のために貿易は赤字でも外貨収入が増えてこれを円に替えることから、貿易赤字になっても我が国では円が下がるどころか逆に円が上がり続ける「悪い円高」になる可能性が有ります。
円高でも、貿易黒字による値上がり分は仕方がない・・貿易収支の均衡を図るために合理的なものですが、所得収支による黒字分も含めて円高になっている分だけ国際競争力の実力以上になっているのです。
貿易赤字が進んでいるのに経常収支の黒字が続くために更に円高になって行くと、輸出産業どころか内需産業まで輸入品に負けてしまい、国内産業は現場労働以外に何もなくなるまで進んでしまいます。
円高その他の要因で輸出産業が弱体化して、先細りになり、他方で従来通り原油等の輸入が続くと輸出の減った分だけ黒字が減ります。
国際競争で負け始まると輸出が減るだけではなく、逆に輸出していた商品が輸入品に入れ替わって行き国内生産がゼロになります。
往年の花形輸出品だった家電製品で見ると白物家電その他かなりの分野で既に輸入品なっていますし、パソコンもテレビも(ここ数日前からパナソニックのテレビ生産からの全面撤退が報道されています)そうなって行きそうです。
ドンドン輸出商品が逆に輸入品に押されるようになって行き,貿易赤字化が進み国内生産ががじり貧になって行くのに、利子・配当所得等の結果、円高が更に進むのでは困ります。
以上のように見て行くと、為替相場は貿易収支に連動している限り貿易収支の均衡回復機能を持っていますが、貿易外の総合的な収支である経常収支に連動するところに問題が有ることになります。
100の輸出が80〜60〜20と減るだけではなく、ゼロどころかマイナス(輸出商品まで輸入品になります)にまで落ち込んでも、それ以上の所得収支黒字のある限り、為替相場だけは上がり続けます。
従来の輸出産業であった分野まで輸入品に席巻されて行くので、その分国内産業までが縮小して行き結果的に失業者が溢れる社会になってしまいます。
金融や知財でいくら儲けるようになっても、1億の国民の仕事では有りません。
この辺は後に格差社会のテーマで書きます。
国内産業が壊滅した段階で漸く円安基調になっても一旦壊滅した産業の復興には数十年以上かかるので、(技術者がいなくなります)今のアフリカ諸国みたいな結果になると大変です。

国際競争力低下とデフォルト

共和党・茶会党が財政規律重視を主張しているのは、アメリカの将来を考えた合理的な主張ですが、これに対して更なるバラマキを求める民主党系の仕掛けで、格差是正を主張するウオール街のデモが準備されました。
前回書いたように貿易赤字・・雇用減を糊塗するための内需振興政策を始めると麻薬患者のようにやめられない性格をもっていて、経済危機が目前に迫っていてもやめられない人が多くなります。
アメリカの格差是正デモは、ギリシャ危機のサナカで、ギリシャの公務員が緊縮政策に反対するストを打っているのとその性質は同じで合理的世界から見れば一種のおふざけ・悪乗りです。
ギリシャやアメリカのデモは、厳しく言えば麻薬患者が、「もっと麻薬をくれ」と恥ずかしげもなく大っピラに叫んでいるようなものと言えるでしょうか?
麻薬・薬物中毒者に例えれば、彼らは逮捕されて仕方なしに続けられなくなるまで自発的にやめれないのと同様に、内需振興の麻薬に毒されてしまった国は、最後はデフォルトで塗炭の苦しみに至るまでやめれらないということでしょう。
経済規模が大きすぎてまだアメリカ危機の深刻さに誰も気づいていませんが・・世界情報を牛耳るマスコミは、気づきさせたくないので情報操作をしているのが正確でしょうか?
ギリシャの危機と本質は同じで、アメリカの方が規模が大きくイザ顕在化するとどこも救済し切れないほど大規模な救済資金が必要です。
リーマンショックでは中国が4〜50兆円の財政出動をしましたが、もしもアメリカのデフォルトを想定するとその何十倍も資金供給ないし日本や中国の債権放棄が必要です。
今後中国も経済が次第に減速して行くので、その事態が起きたときに前回の数倍から10数倍の財政出動・債権放棄能力があるか疑問です。
アメリカの危機が現実化したときに、どこが手を差し延べられるのでしょうか?
アメリカの危機が現実化したときには、規模が大きすぎてどこも援助し切れない・・大恐慌再来の可能性があるとも言えるし、しこしこアメリカ財務省証券等を溜め込んだ日本と中国だけが大損をして終わり、世界経済はどうってことなく終わるのかも知れません。
ユーロもドルもみんな紙切れになって世界中の債権者が損をする・・みんなゼロペースで再出発となれば、それまで溜め込んだ分の多い国や個人が大損で終わりです。
個人で言えば中高年以上は貯蓄も多いのですが、(預貯金がなくて年金だけの人も過去の蓄積に頼る点は同じです)ゼロベース(年金基金も崩壊)になれば、これからもう一度貯め直すには能力・時間がない・・若い人ほど有利になります。
ゼロから始まれば、国ベースでは新興国ほど有利で、日本のように貿易黒字が縮小気味で過去の蓄積の取り崩しで食って行こうとする国は不利になります。
そこで大口債権国の日本や中国はアメリカのデフォルトは困るので、必死に買い支えざるを得ませんので余計大口債権者になって行きます。
そうなると最後は共倒れですから、適当なところで損切りして行くしかないでしょう。
これからの日本の蓄積はいつカットになるか分らない債権ばかりに振り向けるのではなく、世界各地の実物に分散投資しておくことが必要です。

国際競争力低下と内需拡大5

ケインズ理論によれば、財政投資すればその何倍の投資乗数(投下した部門によって違いますが・・・)効果があるので、不景気のときには財政出動した方が良いというもので,しかも政治家に都合の良い理論なので、世界中どこでも不景気が来ると財政出動要請のオンパレードでした。
金融緩和・紙幣の潤沢な供給論もこれの亜流でしょう。
輸出増加基調の経済・・たとえば年率8%増の国が今年は不景気で5%増に落ちたという好不況の波の場合、臨時の谷間を浅くするために財政出動・・おもに内需拡大向けは意味があります。
輸出向けに偏っていた産業構造を内需向けに修正することによって、それまで働き過ぎて生活を楽しむゆとりのなかった国民が貿易黒字の成果を享受出来ます。
生産余力が3%分有るので、その分の雇用確保になります。
土日も働いていた大工さんが土日に自宅を少し手直ししたり出来るようなものです。
構造不況・・国際競争に負けて輸出減少傾向にあるときに、あるいは既に貿易赤字になっているときに、不景気の谷間を浅くするために内需拡大の財政出動をしても、貿易赤字がその分増えるだけです。
構造不況・・恒常的赤字国の場合、海外からの輸入増加による供給過剰ですから、財政出動で需要を増やしても輸入業者に食われてしまう確率・・却って輸入増を招いてしまいます。
貿易赤字傾向による需要不足は臨時の不景気とは違うので、一旦内需拡大と称する麻薬を始めるとやめるチャンスがなくなり惰性的に連続することになりがちです。
国内で言えば北海道や東北地方の各県をギリシャのような独立国としてみれば分りますが、県内所得からの資金ではなく、内需拡大の公共工事等資金は中央からの交付金・補助金(独立国なら借入金)に頼っていいて、これを打ち切ると直ぐにもでフォルトする関係になっています。
アメリカは1986年には純債務国転落ですから、そのずっと前から貿易赤字が続いていたことが明らかです。
輸出が減るということはその分国内生産が減る→失業の増大ないし不景気ですが、戦後世界生産の半分以上を占めていたアメリカの場合、今の日本のように膨大な蓄積がありましたから、気前良く内需拡大を続けられたのです。
これをやっている内に、遂に1986年には、貿易赤字どころか蓄積も食いつぶして純債務国に転落したのですが、それでも内需拡大をやめられません。
アメリカは少なくとも純債務国転落以降は、収入減少に応じた緊縮政策・国民の生活水準を下げて行くべきでしたが、これをしないで不況の度に政治圧力で逆に借金で内需拡大していました。
ジリジリと輸出が減って来た分だけ毎年生活水準を落とさないとやって行けないのは国も一般家計と同じですが、その差額分を過去の蓄積の取り崩し、蓄積がなくなると財務省証券の発行や、住宅公社名義の債券発行などで国外から借りて補って来たのは、サラ金禍家計と同じやり方(規模が違うだけ)です。
それでもリーマンショックまで約20年あまり持ち応えましたが、今回は僅か2年余りで矛盾が露呈し、この夏からドルの大幅安に発展しました。
赤字転落後も老舗企業がジリジリと赤字拡大のまま持ちこたえて、20年後に危機を迎えて、親族などの援助・短期借入金で数年持ちこたえたが再び危機が到来したというところです。
今はギリシャ危機の発生によってユーロが下がり、結果的にアメリカドルの下落が落ち着いていますが、言わば世界金融・情報界を牛耳るアメリカ特有の目くらまし戦法に過ぎずアメリカ経済が立ち直った訳ではありません。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC