国際競争力低下と内需拡大4

内需振興・失業対策を局部的に見れば失業者を減らして、みんな忙しく働いて給与を貰ったり土木建設業などが儲かっているように見えますが、これは国内分配率の問題であって、トータル収支ではタコ配当と同じ論理で、国全体では何も豊かになっていません。
国外からの稼ぎがなく国内でお金のやり取りをしているだけですから、結果的に動けば動くほど過去の蓄積・国富の食いつぶすしかなく、国民がみんなで温泉につかっているよりも経済的(国際収支)には悪いことになります。
アメリカの大恐慌でニューデイール政策がうまく行ったと言われていますが、(実際は軍需景気で漸く立ち直っただけらしいですが・・)それは莫大な蓄積のある国だったから出来た芸当です。
戦前の日本やドイツのように蓄積のない国が内需拡大・軍需景気を煽ると、国内は少女まで学徒動員で軍需工場にかり出されて目の回るような忙しさでした(勉強するヒマもなかったのです)が、何も生み出さないので国民は(「欲しがりません勝つまでは」・・と)貧しくなるばかりでした。
個々人としては、ヒマつぶしに草むしりや庭掃除しているだけならお金を稼げませんが、その代わり国全体で殆ど新たな出費しませんが、人気取りの内需拡大・・みんなが働いていると個々の労働者や企業は目先の収入を得ますが、その分誰かが払うしかありません。
貯蓄取り崩しの段階を過ぎてストックなしの貿易赤字の場合、海外から資金を持ち込むには政府部門が中心になって借金するしかありません。
国内景気を良くしないと税収も増えないと世上言われますが、税を資金源とする失業対策・内需拡大目的の財政支出の場合、投資と違って後ろ向きですから、財政支出以上の税収はあり得ません。
国際収支の悪化だけではなく国内的にも政府からの持ち出し・・タコ配当で実質財政赤字の累積になります。
アメリカで長年双子の赤字(国際収支と財政の赤字)と言われて来たのは、この結果を表したものです。
個人で言えばお父さん・政府の懐(財政)は赤字なのに、自宅のペンキ塗り替えや家族旅行したり外食したりしていて、その穴埋めのためにお父さん(政府)がサラ金(財務省証券を海外に売って)から借金しているような関係です。
貯蓄がない上にフローの収支が赤字傾向の人や国では、ヒマになったからと言って演劇を見に行く余裕がありませんから、生活水準を落とすべきです。
生活水準を落とさずに国外からの借金で賄って以前より以上に支出を多くして来たのが、アメリカであり南欧諸国と言えますから、いつかは破綻するプロセスです。
リーマンショックによる世界経済の超減速・縮小の連鎖を避けるために中国が約40兆円に上る財政出動・内需拡大策を採用しましたが、中国が内需拡大しても輸出競争力のなくなったアメリカやその他の赤字諸国が出来る輸出は限られています。
中国の内需拡大は、中国自身の国内企業や日本やドイツ等元々競争力のある国の企業が儲けたことになり、貿易赤字国(輸出力の弱い)アメリカ国内の失業解消にはあまり役に立ちませんでした。
リーマンショック後中国の内需振興策に頼っていてもアメリカ国内景気回復に寄与しないので、アメリカは已むなく純債務国であるにも拘らず少し?無理してゼロ金利政策や財政出動しましたが、「無理なことは無理」ですから時間の経過によって、直ぐに借金経済の矛盾が露呈してきたのが、今夏から始まったアメリカドルの大下落の始まりです。
経済成長率の誤った信仰が広まっているのでここで少し書いておきますと、輸出増による成長率上昇は国運の上昇と同じ意味がありますが、貿易赤字を縮小しない(国内需要拡大による)成長率上昇の意味は大分違ってきます。
日本の成長率鈍化を基準に日本の落日をしきりに主張しているのが普通ですが、昨日書いたように日本はこれ以上輸出用の生産増=貿易黒字の蓄積をして行くことが国際政治上許されないので、(円高にもなり過ぎます)国内増産設備投資をやめて海外で工場新設して海外経由で輸出するようにしたので国内生産が増えなくなっただけです。
今回のタイの浸水被害報道を見ても分るように日本企業はこの何十年間で膨大な海外工場・生産設備を保有するようになっています。
ここからの輸出はタイ国の輸出増にカウントされて日本の輸出増にはなっていません。
日本は、同じことを中国その他新興国で行っていて中国の貿易黒字は日本のダミーのようになっている面があります。
アメリカその他の経常収支赤字国の国内成長率引き上げの多くは貿易収支の改善に結びつくどころか、貿易赤字の拡大を伴う内需拡大による成長が多いので、意味が違ってきます。
言わば借金して家を直したりパーテイをし、賑やかに、あるいは景気良く忙しく働いているようでも、その資金の出所が借金では、何も目出たいことではありません。
成長率上昇は、貿易赤字国でも増えた国内総生産をそのままあるいはその何%かの輸出増によって、貿易赤字縮小出来るものであってこそ意味があるのです。
輸出を増やさない内需増による成長率(国内生産増)上昇では、その分資材その他の輸入が増えるばかりで貿易収支の赤字化が進みます。
日本のように超貿易黒字国では黒字の減少で望ましい結果ですが・・・
国内を賑やかにして国内生産が増えても、対外的には赤字借金が増えるばかりでは、何も目出たいことではありません。
と言うことは、成長率そのものに価値があるのではなく国際収支と関連してみなければ意味がないということです。
(国内政治家が人気を維持する材料にしているだけです)
経済学を知らない私が言うのもおこがましいですが、ケインズの投資理論は、貿易黒字国・ストックの有り余る国に妥当する理論に過ぎなかったと言うべきです。

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