借地借家契約の終了3(正当事由と補完)

地主からの解約が裁判上で滅多に認められなくなったことから、地主の方から解決金支払によって解約に応じてもらうことが一般化してきました。
この解決金は更地価格の5〜7割前後の支払で解決することが多かったので、世上借地権価格として5〜7割で理解されるようになっていました。
時々法律相談であたかも既定のようにこの辺の借地権は何割かと聞いて来る人がいますが、この解決額は借地契約の強弱・事情によるので一概には言えませんと答えていたものです。
極端な例で言えば、借地人に契約解除出来るほどの契約違反があれば、解決金ゼロでも立ち退きが認められますし、この解除権の行使の有効性が微妙なときには間を取って和解金を払うしかないこともあります。
逆にまるで解除権の有効性が認められそうもないときには、7割払うと言っても裁判で勝てないこともあります。
離婚事件で言えば、明確な離婚事由がないのに離婚して欲しいと思えば、相場の2〜3倍の解決金でも払うと言って解決を求めるしかないのと同じです。
それでも女性が応じないときには離婚が出来ないこともありますが、今では(判例では)有責配偶者(浮気した方からの)の離婚請求でも一定の条件の元に認められるようになりました。
(この点は03/07/05「離婚の自由な社会4(有責主義から破綻主義へ1)民法126」以下で破綻主義の判例として何回も紹介しています)
これの先駆的対応と言えるかも知れませんが、昭和50年代末頃から、更新拒絶の正当事由の補完として一定の立退料の提示をすれば、あるいは裁判所が一定の支払と引き換えに更新拒絶・明け渡しを認めるような運用が少しずつ始まっていました。
相続税評価では借地権割合を5割、6割など場所によって基準がありますが、これは大量画一的な課税の便宜上の基準であって実際に相手がその保障で立ち退いてくれるかは別問題ですし、またこの割合の権利をそのままで借地権を買う人がいる保障がありません。
この問題は地主だけではなく、借地権者にとっても一定の財産があるように見えるもののはっきりした交換価値を把握できない不便さがありました。
この結果、狭い国土なのに、地主も借地人も新たな方向への有効利用が出来ない・・例えば借地人の世代や周囲の環境が変わって有効利用する能力がなくても、借地権を売るに売れないのでしがみついているしかないし、地主の方でもっと有効利用出来る人・・たとえば商業店舗や工場用地に貸したくとも貸せない・・国民経済上の不経済が生じていました。
借地人も一定の金を貰って出て行きたい・・地主も出来れば借地権を買い取りたいあるいはまとめて第三者に売りたいという偶然に一致する限られたときに解決出来ただけです。
この辺は人材の流動化の限定されている我が国の大手企業で、有能な人材がミスマッチで窓際族で不遇をかこつのと似ています。

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