定期借地権4

土地所有者にとっては一度貸しても期限が来れば必ず返してもらえるとなれば、期限後の計画が立ちます。
借りる方も一定時期に必ず返さなければならないと分っていれば、その期間で回収出来る事業を計画的に行えば良いのです。
かなり儲かる商売でも20年もすれば最盛期が過ぎて行くものです。
ましてそこそこ漸く経営をしていた商売では20年もすればじり貧になる一方で、本来早めに撤退した方が良い商売が一杯ある筈ですが、旧借地契約の場合、自分から店を畳んで出て行くと立退料が貰い損ねることから、赤字でも無理して続ける人が多かったのです。
大正の借地法も借りるときにその期限内で返す計画で借りていれば良かった点は理屈の上では同じでしたが、そうはならなかったのは当時の借地利用の主流は生活の基本たる居住用借地権が主体だったことによります。
居住用地・・我が国では定住志向が強いので一定期間で引っ越し計画を求めること自体に無理があったのです。
平成の借地法では事業用借地権(に限って)の場合、10年以上30年内でも定期契約が可能となっているのは、このためです。
50年以上になると事業用か居住用かを問いませんが、居住用であっても今では農家以外では定着性が低くなってきたので、そこまで(40代で借りればおよそ1生涯です)保障すれば充分だろうという時代認識によります。

借地借家法
 平成三年一〇月四日法律第九〇号
 施行:平成四年八月一日
第四節 定期借地権等
(定期借地権)
第二二条
存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。

(事業用定期借地権等)
第二十三条  専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
2  専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、適用しない。
3  前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。

平成の改正で建物の賃貸借にも定期契約が導入されました。
これは、ホワイトカラーが自宅新築後転勤で家を空けるようになったときに貸したいと思っても、一旦貸すと出て行ってくれない恐れがあって、貸すに貸せずに空き家にしておくのは社会資源の無駄・不経済だということから始まったものです。

(定期建物賃貸借)
第三八条
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。
この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
(建物賃貸借の期間)
第二十九条  期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
2  民法第六百四条 の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。

(強行規定)
第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

民法
(賃貸借の存続期間)

第六百四条  賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、二十年とする。
2  賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から二十年を超えることができない。

定期借地権3(手切れ金7)

前回紹介した借地権譲渡手続きを工場用地取得、あるいはコンビニやファミリーレストラン用地などビジネス環境として見ると、数年掛けて増産や新規立地など研究・調査して漸く候補地が絞られ、出店地域等が具体化して借地人と交渉して借地で経営している事業者が一定金額で売っても良いとなってから、次に地主の承諾を得る手順になります。
数ヶ月掛けて承諾料その他の交渉を経た結果、地主に断られてから、更に約半年から1年かけて非訟手続きをしても、その結果地主が買い戻すと言い出せば、(9条の2第3項)それまでの努力がすべてパーですから、各種の進出計画としては時間がかかり過ぎるのと終了時期が不明確な上に結果が不確定すぎて所有権を取得する土地と比べて商品価値が著しく劣ることになります。
面倒くさすぎるので、似たような立地条件の土地がある場合、借地を買う話は競争になりません。
20年ほど前に親会社が子会社からの工場買収計画に絡んでこの種の事件を担当したことがありましたが、親子会社で名目上の借地名義人移転に過ぎず、操業はこの間も同じように続けていたままでしたから駄目元でゆっくり法的手続きをしていられましたが、これが本当の他人間の借地権売買・新規事業開始の案件ですと、とてもじゃないけど時間がかかり過ぎるのと不確定すぎてやってられない感じでした。
今時こんな不確定すぎるのでは、商品経済社会の対象になり得ませんので、実際に、承諾手続きをする人は極く稀ですし、借地権価格と言ってもアカの他人間で通用する客観的な交換価値ではなく、地主借地人間の立ち退きに際しての人的な解決金でしかなかったのです。
譲渡承諾を得られる場合には、一般的に既存建家を取り壊して新たな施設の建設同意とセットでした。
(ファミレスの後に別の業態が出店する場合、ある事業所が廃業してその跡地を譲り受ける場合、同じ建物のまま利用しすることは滅多にありません)
このように譲渡同意を得られる場合でも、建物新築同意も含まれて・・借地期間や地代の変更など総合的に一挙解決が普通ですので、総解決金・コストは事前に読み難くくなっています。
期間満了時の更新可否の不確定さも商品価値をなくす要因でした。
これまで紹介しているように、契約期間が満了しても地主側に更新を拒絶出来る正当事由がなければ更新拒絶が出来ず、判例の基準では容易に認められない実情が続いていました。
社会構造変化・利用実態の変化から従来職種では有効利用出来なくなった借地人が、自分から出て行きたいと言うと無償で出て行かねばならないし、上記の通り有効利用出来る他の人に譲渡することも実際には難しかったので、既得権を失うまいとして不採算事業や老朽家屋にしがみつく不合理な事例が増えてきます。
地主から見れば現借地人の経営が苦しいならもっと利益の上がりそうな人に貸したくとも貸せません。
先行き不確定さを補正するために昭和50年代中〜末頃ころから、判例でも正当事由の補完として地主や大家が相当な代償金・解決金支払を提案すれば正当事由を認める運用が始まっていましたが、それでも勝敗は裁判をやってみなければ分らないので、(裁判の終わる時期も不明ですし)予測可能性を要素とする現在社会向けではありませんでした。
この不確定性を是正するために、平成に入って借地法の改正ではなく新借地借家法として造り直して、定期借地借家制度が出来ました。
定期借地権や借家権では、特定の契約形式=公正証書によれば、更新の出来ない借地契約・借家契約が可能になりました。
これによって、返還時期が明確になって、商品価値が高まったことになります。

借地借家契約の終了3(借地権譲渡)

11/14/03「相続と世襲3(民法113)物権と債権1」以下で物権と債権の違いで説明したことがありますが、借地契約は債権・・人と人の契約関係ですから、地主の承諾がない限り契約上の地位・一般に借地権と言われているものを譲渡出来ません。

民法
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条  賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

借地権の理論的価値が6割としても買う人は地主の承諾を得られないと買えませんから、地主の出方次第でいくらで買って良いかの合理的判断が出来ません。
承諾料を多めに払うと言っても地主が依怙地に反対すると、借地権の譲渡をできません。
地主に反対されると借地を有効利用する能力のない人は借地を手放すしかない(使う必要がないなら返せば良いだろうというのが地主側の良い分)ですが、それでは、既に権利化して借地権と言われるようになっていた実情に合わず、他方で、「自分で利用出来ないなら返せ」というのでは、空き家にしていても返さないで頑張る人が増える・・社会経済的にマイナス状態になります。
離婚に応じないで別居したまま戸籍だけ何十年もそのままになっているような状態です。
昭和42年頃の法改正で、裁判所が地主の承諾に代わる裁判をすれば地主が承諾しなくとも裁判所が一定の承諾料支払いと引き換えに借地権譲渡を許可する制度が出来ました。
借地権を譲り受けようとする人は予め地主の承諾を求めに行くのが普通ですが、何回か交渉した結果地主が不承諾の場合、以下のとおり借地法第9条の手続きをすると裁判所が一定の承諾料を決めてくれて、承諾に変わる許可を得ることが出来るようになりました。
この手続きには、地主の介入権があって、地主が自分で買いたいと主張すると(9条3項)この商談がパーになってしまいます。
この点は、平成の借地借家法でも同じ条文内容です。
念のために両方の条文を紹介しておきます。

借地法
第9条ノ2 借地権者ガ賃借権ノ目的タル土地ノ上ニ存スル建物ヲ第三者ニ譲渡セントスル場合ニ於テ其ノ第三者ガ賃借権ヲ取得シ又ハ転借スルモ賃貸人ニ不利トナル虞ナキニ拘ラズ賃貸人ガ其ノ賃借権ノ譲渡又ハ転貸ヲ承諾セサルトキハ裁判所ハ借地権者ノ申立ニ因リ賃貸人ノ承諾ニ代ハル許可ヲ与フルコトヲ得 此ノ場合ニ於テ当事者間ノ利益ノ衝平ヲ図ル為必要アルトキハ賃借権ノ譲渡若ハ転貸ヲ条件トスル借地条件ノ変更ヲ命ジ又ハ其ノ許可ヲ財産上ノ給付ニ係ラシムルコトヲ得
2 裁判所ハ前項ノ裁判ヲ為スニハ賃借権ノ残存期間、借地ニ関スル従前ノ経過、賃借権ノ譲渡又ハ転貸ヲ必要トスル事情其ノ他一切ノ事情ヲ考慮スルコトヲ要ス
3 第1項ノ申立アリタル場合ニ於テ裁判所ガ定ムル期間内ニ賃貸人ガ自ラ建物ノ譲渡及賃借権ノ譲渡又ハ転貸ヲ受クベキ旨ノ申立ヲ為シタルトキハ裁判所ハ同項ノ規定ニ拘ラズ相当ノ対価及転貸ノ条件ヲ定メテ之ヲ命ズルコトヲ得 此ノ裁判ニ於テハ当事者双方ニ対シ其ノ義務ヲ同時ニ履行スベキコトヲ命ズルコトヲ得

借地借家法
平成三年一〇月四日法律第九〇号
 施行:平成四年八月一日
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第19条 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
【借地非訟事件手続規則】第22条
2 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

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