「不法滞在は信号無視程度」か?4(自然犯と法定犯2)

以下刑法犯を例示しておきます。

刑法
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。

傷害、殺人行為は原則違法として逆に正当業務の時だけ違法性を阻却する・・取締法規とは原則と例外が逆転しています。

 

第三十五条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

傷害罪等自然犯では、「乱用防止やこういう場合だけ許されない」という制度ではなく、そもそも許されない行為という法の仕組みです。
治療に伴う人体侵襲行為はそれ自体で違法行為にあたり、例外的に正当行為の時だけ違法性を阻却され「罰しない」関係でしかありません。
傷害行為は原則違法ですから、一般人の場合には正当行為であったことの主張立証責任がありますが、医療行為のように、正当業務性を立証すれば「罰しない」ことになります。
刃物で言えば、原則として所持できるが、指定の刃物だけ例外的に禁止するだけという刑法とは逆の書き方になっています。
その気になって考えれば、例えば家庭内にある包丁やハサミ鍬や鎌など、日常生活に必要な物が普通にゴロゴロあるのが原則で刃物一般の支持を違法というのは国民意識として無理があるので、特別指定した刃物だけ許可制にしたという仕組みです。
一般過程で使用する料理用の刃物や、子供が鉛筆削りや工作用のナイフ(私が子供の頃にはいつもポケットに肥後守というナイフを皆ポケットに持っていて鉛筆削りや、遊ぶ時に竹やぶなどで篠竹を切って遊ぶ道具でした。)などはもともと自由であり、持つこと自体が構成要件に該当しないのですから、正当行為の時だけ「罰しない」と言う余地がないのとは大きな違いです。
殺人や重傷事案で正当防衛主張の場合にはよほど正当防衛成立が明白な場合以外は、先ずは逮捕して言い分を聞いてから起訴するかどうか決める仕組みです。
医師による身体侵襲行為の場合は身近で正当行為性が常識化しているので、はじめっから違法性がないように皆が思うようになっているだけです。
このように不法滞在と信号無視とは、国民の道徳意識的に大幅な違いがある・不法滞在はそれ自体犯罪で国民の拒否感が強いものです。
これを敢えて「信号無視程度」と公言する神経が不思議です。
現行法制度の説明意見としては、信号無視と同程度ではない・上記の通り信号無視をしてもすぐに懲役の実刑でなく、普通は罰金程度ですむのに対して、不法滞在で検挙されると対応は大違いであるのに、「信号無視程度」という意見は現行法制度無視の意見です。
立法論・・法をこのように変えるべきと言う意見を言うのは自由ですが、法改正を待たずに自分の主張を現行法の解釈として主張するのは事実と違う・一種の虚偽主張というべきでしょう。
このような法改正論と現行制度とを同視する無茶な意見を、立派な意見のように新聞に掲載する新聞も新聞です。
この意見の出典を見ると41^ a b 朝日新聞2000年4月23日ですが、慰安婦報道のミスだけではなく、正邪の判断なしに自社意見方向に合えば現行法無視の意見でも他人の意見として報道することになっているのでしょうか?
ただし、不法滞在制度を本来の主権維持行為の「潜脱を許さない」という場合と違い、労働調整弁としているような場合もあります。
・・・たとえば、表向き就労禁止しておいて好景気・人手不足時には事実上就労黙認・・不景気になると取締強化というような御都合主義的運用になっている場合には、本来の主権維持問題ではありません。
こういう運用が続き、不法滞在者の多くが単なる景気調整弁に使われているイメージに変わってくると、不法滞在者の中でも単なるオーバーステイ者に対する国民の法意識も変わって来るべきでしょう。
今の法体系では、信号無視と不法滞在では明らかに違いますから、上記のような前提主張の上で今後の法改正論(例えば一定期間以上の(黙認の推定)不法滞在があれば、時効取得制度の変形として?強制退去を出来なくするとか、もっと刑罰を引き下げるなど)としての立法論であるならば、それほど間違っていないようにも見えます。

「不法滞在は信号無視程度」か?3(自然犯と法定犯1)

不法滞在と道交法違反の違いに戻ります。
道路交通法等の取締法規は、類型的な危険行為をあらかじめ規制しておく予防行為でしかない点・・・、技術的規制である道路交通法違反と実害が起きた場合に処罰する場合とは法の本質が違っています。
昔の分類(今ではその区別がはっきりしないので、こういう分類にあまり意味がなくなりましたが、今でも一般の法意識ではまだ厳然たる区別意識があるでしょう。
スピード違反で捕まった程度ならば気楽に人に話しますが、泥棒で捕まったと自分から言う人は滅多にいないでしょう。
社会の道徳意識では、昔からの自然犯(殺人、傷害、窃盗などと)と法定犯(金融取引法・宅建業法や建築基準法などの各種取締法規違反)で大違いと言えるでしょうか。

https://www.bengo4.com/gyosei/1127/d_7169/

法定犯とは、行政上の目的を果たすために定められた刑罰法規に違反するために、犯罪性・反道義性が生じる犯罪を意味する。行政犯ともいう。
法定犯に対して、刑法典に規定されている犯罪のように国民一般にとって当然に反社会的で処罰に値すると考えられている行為を自然犯または刑事犯と呼ぶ。
自然犯を「それ自体の悪」といい、法定犯は「禁じられたがゆえの悪」といわれ、区別される。
しかし、国民の規範意識・道義意識は社会の変化とともに流動するものであり、どの犯罪類型が自然犯かはっきりと区別することは難しくなってきている。
たとえば自然犯である賭博や堕胎の反道義性は薄らぎ、逆に、法定犯である選挙犯罪や税務犯罪に反道義性を感じるようになってきている。

上記例の「賭博や堕胎の反道義性」と言うのは、自然犯としては、歴史が浅い・・もともと全面的違法ではなく、技術的区分けした限度で違法という意味では法定犯の一種です。
例えば車の運転自体が違法ではなくスピード違反や信号無視その他の規制に反する時だけ違法なのと同じです。
賭博でいえば、人間本性として一定の賭け事・人生を賭ける・・一か八かの挑戦をするのも一つの生き方です。
ルビコンを渡り、桶狭間の戦いのような政治決戦に限らず事業でもなんでも、大きな仕事を成し遂げた事例は、皆この種/乾坤一擲の挑戦力によっています。
私の受験したころの司法試験挑戦も、現役合格者を除いて一旦浪人の道を選んで数年挑戦して最終的に合格しなければ通常の就職コースから外れてしまうので人生真っ暗です。
この乾坤一擲の挑戦力・・度胸の有無で多くの人が脱落していく世界でした。
企業であれ国家であれ、あれこれ調査して絶対安全な商売ばかりでは、結果的に人真似→後塵を拝するばかりでその企業はジリ貧です。
賭けることが悪いのではなく、(社運や人生を賭ける勝負は常習化しようがないのですが)パチンコのように小銭を賭ける方法・・それが常習化しやすいパターンの場合、家計を破綻させ人間性まで破壊してしまう怖さです。
そこで、競輪競馬、その他公営に限定して一定の賭博行為を公認している所以ですが、この10年前後ではパチンコ中毒化が社会問題になってきました。
飲食施設や建物の有用性を認めるが一定の基準を守らせないと危険だから規制があって、これに違反すれば処罰されるのはいわゆる法定犯です。
賭博行為はそれ自体人命や資産を侵害するイコール的違法行為ではありません。
一定のルールを守りさえすれば殺人や強盗も許されることがないのと比べればわかるでしょう。
賭博の弊害が古くから知られていたので自然犯に組み込まれてきたに過ぎない面がありますから、こう言うのが時によって犯罪性が低くなっても自然犯と法定犯の境界が曖昧になった例にはならないでしょう。
昨今大麻の解禁が世界的話題になっていますが、覚醒剤等はそれ自体が誰かの権利侵害行為ではないのですが、常習化しやすいことから、幻覚等による自傷他害行為に結びつくほか、利用者の人格破壊にもなるので予め規制しているに過ぎない技術的なものです。
ですから、医師等の有資格者が治療に用いるのは自由ですが、自分勝手に用いるのを禁止しているに過ぎません。
車もそれ自体違法性がなく、むやみに走らせると危険であるから、運転のルールを定め、これを守れる人に運転免許を与え、免許を持たない人が運転するのが違法になるのと同じです。
賭博そのものが悪いのではなく、常習化が怖いと言えるでしょう。
人体損傷行為は原則違法であるが治療のための損傷・手術や注射等は正当業務行為として違法性阻却されるのですが、覚醒剤や車運転等はそれ自体の違法性がなく、運転免許がないのに道路を運転したという道路交通法の規制違反というだけのことです。
ですから、車を道路で運転するには免許がいるし、運転ルールに従う必要があるというだけですから、運動場や駐車場など道路以外で運転しても事故さえ起こさなければ、道路交通法の対象外・・処罰対象にはなりません。
覚醒剤等もそれ自体が本来的(自然犯的?)犯罪ではないので、各種取締法で「法定の除外事由」というのがあって「それ以外は所持し使用してはならない」という仕組みになっています。
除外事由に当たればそもそも、犯罪構成要件にすら当たらないのです。
この点が、医師の治療行為が傷害罪の構成要件にはあたるが、正当行為として次の段階で阻却されるのと次元・ランクが違っています。
以下に見るように覚醒剤は、乱用防止が目的です。

覚せい剤取締法
(この法律の目的)
第1条 この法律は、覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害を防止するため、覚せい剤及び覚せい剤原料の輸入、輸出、所持、製造、譲渡、譲受及び使用に関して必要な取締を行うことを目的とする。
(所持の禁止)
第14条 覚せい剤製造業者、覚せい剤施用機関の開設者及び管理者、覚せい剤施用機関において診療に従事する医師、覚せい剤研究者並びに覚せい剤施用機関において診療に従事する医師又は覚せい剤研究者から施用のため交付を受けた者の外は、何人も、覚せい剤を所持してはならない。
2 次の各号のいずれかに該当する場合には、前項の規定は適用しない。
以下省略

銃刀法の場合は、もともと所持自由を前提に、法で禁止した刃物に限って初めて許可なしに所持すれば違法になることを明らかにしています。

銃砲刀剣類所持等取締法
第二条
2 この法律において「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の・・・・をいう。
第三条 何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならない。
一 法令に基づき職務のため所持する場合
以下省略

自然犯とされる殺人、傷害、強盗窃盗等では、そもそも「人を殺してはいけない」「盗んではいけない」」などの禁止規定すらありません。
全部チェックしていませんが、刑法犯は全てそういう仕組みだと思います。
特別法の場合・例えば刃物所持や自動車運転のように全部違法ではなく、「こういう場合に限定禁止」としているだけで限定禁止以外は自由になります。

アメリカの自治体1(法定市と憲章市)

アメリカでは自治体が各州ごとに独自の発展をしてきたとはいえ、結果的に今では自治体の大枠は一般法定市と憲章市の2種類に大別されているようです。
http://www.clair.or.jp/j/forum/series/pdf/h18-1.pdf1
カリフォルニア州の地方自治体について東海大学政治経済学部政治学科教授牧田 義輝氏によれば以下のとおりです。

第2節 カリフォルニア州の政府構造
1 地方政府は自治化区域と未自治化区域に別れる
州内の統治、行政サービスは、州政府の責任である。州政府は、そのために州域内をく4まなく区分し、カウンティ政府を作って、地域の問題に対処し行政サービスを行うのである。しかし、人々が自らのためにサービス機関としての自治体を作ったほうが良いと考えた場合、地方自治体を創設するのである。
このようにして自治体はますます増加傾向にある。今日では、多くの州で自治体の新しい創設に制限を設ける傾向にあるが、「結論」で述べるがアメリカ人の思想では、自治体政府を富追求の手段と位置づけるのが多くの研究者の見解である。このような考えから今日でも依然として多くの自治体を作っているのである。
カリフォルニア州には、「カウンティ」は、現在 58 機関存在している。カウンティは、州内の行政に責任をもつ州政府の任務を遂行するために設置されているが、その意味で「準自治体」(または、州政府の下部組織であるとして「半自治体」という人もいる)といわれている。
カリフォルニア州においては、統合された自治体として「市・カウンティ」がある。例として、サンフランシスコ市・カウンティ(City and County of San Francisco)、ロサンゼルス市・カウンティ(City and County of Los Angeles)として存在する。
このほか、地方自治体は、通常「市(City)」であるが、「町(Town)」と呼ばれる場合もある。その町にも「自治体化された町(Incorporated Town)」と単なる「町(Town)」といわれる「未自治体の町(Unincoporated Town)」がある。さらに「村(Village)」といわれる場合は、すべて未自治体である。
2 特別区政府 (special district governments)
特別区政府は、「一般目的地方政府 (カウンティ、市、町、村など)から実質的に管理・財政上独立し、限定的な目的をもった自治政府機関」である。ここでの定義からは、日本の「事務組合」などとは異なっている。なぜなら、日本の場合は、ほとんどが自治体を母体として、そのための広域行政であるからである。つまり、日本の事務組合などは、財政的に人事的に独立しているということはない。
特別区政府は、近年増加傾向にある。その背景には、大都市圏問題の多様化と深刻化の中で広域需要が増大してきていることがある。これに対応して自治体統合や連合などの方式によって広域自治体を作った方が得策であることはいうまでもない。しかし、このことによって公選公務員や職員が削減されることに対する反対、また個々の自治体の強い自治意識が阻止要因となって、広域自治体の実現は不可能である。それで、その妥協の産物として特別区が増加しているのである。
第3節 カウンティ政府
1 アメリカにおけるカウンティ政府の状況
カウンティは、約 1,000 年前のイギリスのシェア(Shire)に起源があるとされている。
当時、市民政府であると同時に国家政府の行政を受け持っていた。合衆国憲法の起草者達は、カウンティを州の問題とし、州の行政手段として位置づけた。
カウンティ政府の最高意思決定・執行機関である理事会(カリフォルニア州では、board of supervisors”、本報告書では「監理委員会」と訳している。なお、他の州では通常“board of commissioners”と呼ぶ)は、条例・規則の制定、予算案の審査・採択などの立法責任、それらを執行し、首席行政官、および部局の活動を管理監督する行政責任などを持つ。通常、理事は、小選挙区制で選出され、4年に1度の選挙で選出される。
2 カウンティの創り方、憲章の制定・改定
知事は、カウンティの創設が住民から提案されたとき審査をする「カウンティ形成審査委員会(County Formation Review Commission)」を作り、5人の委員を任命する。
カウンティ憲章の制定、および改定の手順は、カウンティ監理委員会のメンバーが過半数以上の賛成で採択された条例に基づいて発議される。条例の制定には、直近の選挙によってカウンティの有権者によって選出された 15 名の有権者から構成される憲章委員会の選出が必要である(Code Sec.23000-23027)。
6 カウンティ政府と広域行政
・・・カリフォルニア州同様、アメリカには連合型の広域政府が一例としてない。1960・70 年代に犯罪、福祉、暴動、環境、人種差別問題が大都市問題として噴出したときこれらの問題を解決するために大都市圏総合広域政府の創設の提案が、全米で 100 例以上提案された。
しかし、この種の広域政府は実現していない。
このようにカナダなどでは多数作られている連合型広域政府でさえ作られない理由は、地方自治体の自治権が強力であることに尽きる。カナダなどの場合、たとえば「トロント大都市圏自治体」の設置のように上位政府である州政府の議決で創設できるのに対し、アメリカの場合は大都市圏広域政府を作る場合に近郊自治体と中心大都市自治体の利害が不一致である場合(人種、経済格差、文化、環境などほとんどが利害対立しているが)住民投票において近郊の多数、中心都市の多数をそれぞれ要件とすることなどによってすべてが挫折したのである。
第4節自治体政府
1 自治体の権限
自治体政府 (municipal governments) とは、「一定地域に集住する人々に対する政治区画であって、一般目的地方政府として設立される自治体法人である」と定義されている。自治体政府は、具体的にどのようなサービスを行い、またどのように課税するかについて自ら決定することができる。それはサービスを提供する「企業」を作るという考えに似
ている。しかし、自治体は無制限に自治権を有しているのではない。
2 一般法定市と憲章市
このように州政府(日本ならば基本的に国家)は、自治体に権限を与えるに制限列挙方式であるが、しかし自治体に広範な自治権を与えていることも事実である。
アメリカの場合、自治体を作るということは、自治権を与えるということであり、州議会が憲章 (charter)を与えるということである。1850 年頃まで州議会は、自治体を設置する毎に特別立法を制定していた。しかし、それは、いかにも繁雑で非効率的であった。結果として、今日では、自治体の作り方に2つの方法がある。
1つの方法は、自治体の人口規模や課税資産価値などによって類型化し、あらかじめ州議会によって制定された法手続きに基づき自治権を与えるという方法である。カリフォルニア州においては、「一般法定市(General Law Cities)」と呼ばれている。
もう1つの方法は、自治体が独自に憲章を作る場合で、通常ホームルール憲章といわれる。この方法は、ホームルール憲章を州議会が認める場合と、州憲法に付与されている権限に基づき憲章を作る場合がある。

カリフォルニア州の場合は、「憲章市(CharteredCities)」と呼ばれる(Code.Sec.34101- 34102)。
(1)一般法定市政府
一般法定市政府は、州法によってあらかじめ定められた手順によって市(自治体)を作
る。次のような職制が定められている。
(a)最低5名からなる市理事会(b)市書記(c)市財務官(d)警察署長
(e)消防署長(f)法によって規定されている下位公務員・職員
(2)憲章市

要は、州のモデル通り設立するのが法定市と言い、自前の定款で市をつくるのが憲章市ということでしょうか。
ただし自前の 憲章を作れると言ってもホームルール法で決まった範囲の自由度でしかないようですし、法定市と憲章市の 違いを書いた以下の比較表表を見ても議員定数や報酬の基準、任期や再選回数の制限など・・それほどの違いはないようです。

表1 一般法定市と憲章市の比較
特徴
政府形態
一般法定市  州法が政府形態を設立するために市理事会が行う手続きを規定している。
憲章市    市長制、または市支配人制を含むいかなる政府形態も採用できる。
契約
一般法定市  公共事業の契約 5,000 ドル以上の公共事業の契約には競争入札が要求される、等。
憲章市  競争入札が要求されていない。交渉力による契約が用いられるかもしれない
その他省略

アメリカの州・郡(County Government)と市町村の関係2

アメリカの場合、州の規模が大きいので隣の州で日常規制・ごみ収集方法が違ってもあまり関係がないと言えば分かり良いでしょう。
例えば、関東地方だけで7都県もありますが、アメリカの場合で言えばカリフォルニア州の何分の1です。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q116683326によると以下の通りです。

カリフォルニア州面積:411,045平方km
(日本の面積の1.1倍)

以上のように州(ステート)と連邦の成り立ち・・歴史が違う上に事実的な意味を持つ面積規模もまるで違うアメリカの州の連邦の政府に対する自治権を理想化して日本の小さな都道府県や市町村に当てはめる議論は間違いです。
アメリカの場合、主権国家内の自治権というよりは独立国の条約による連合体・・EU加盟国がマーストリヒト条約等に従う義務によって、もともと100%あった主権が制限されている関係と見るべきです。
上記歴史経緯や地理条件などを総合すると、州に対して郡(County Government)や市町村がどのような自治権を有しているかの研究こそが日本の自治の参考にすべき基準です。
以下はカリフォルニア州政治に関する17年10月7日現在のウィキペデイアの記事からです。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E5%B7%9E%E3%81%AE%E6%94%BF%E5%BA%9C地方政府

「カリフォルニア州は郡に分割されており、郡が法的な州の小区分である[8]。州内には58郡があり、480の都市、約3,400の特別地区と教育学区がある[9]。特別地区は具体的な公共計画と公共設備を有権者のために運営し、「その境界の中で行政的あるいは所有者としての機能を果たすための州の機関」として捉えられている[10]。
地方政府の権限の詳細を支配下に置くために州議会は1963年にサンフランシスコ郡を除く全郡に地方機関結成委員会を創設した。」

その境界の中で行政的あるいは所有者としての機能を果たすための州の機関」ということは、要約すればこれと言った自治権がない・・州政府の末端行政機関であるかのような位置付けです。
別の記事を見ると郡は条例制定しても市の批准がないとその市内では適用できないというので相応の条例制定権があるようですが、上記カギ括弧書きの要約と合わせると州政府の下位機関としての行政執行を具体化する範囲程度のイメージです。
そこで各州と郡を一体として・・市町村の自治体との具体的な関係を見ていきます。
自治体とは何か?政府とは何か?となると意外に難しいのに気づきます。
昨日書いた通りアメリカは、もともと独立国家の連合体ですから、州内の統治をどうするかについて連邦憲法に何も書いていないことになります。
ですから州政府と郡や自治体との関係も州ごとに違うことを前提にする必要があります。
そもそも州の憲法事項になっているかを最初に問題にすべきでしょう。
https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk079/zk079_02.pdfによれば以下の通りです。

2.2
地方政府の法的位置づけ10
地方政府は各州ごとに州憲法や州法によって規定されており、その種類や機能は一律に定義することができない。歴史的には、地方政府を州の一部局として自治の範囲を狭く解釈する見解と、州からある程度独立した組織として自治の範囲を広く解釈する見解との対立があった。
地方政府の機能や権限を狭く限定的に解釈する前者の代表としては、
「ディロンの法則(Dillon’s Rule)」と呼ばれる解釈基準がある。この基準によると、地方政府は州憲法や州法によって付与された権限のみを行使することができる。
一方で、地方政府の固有の自治権を主張する議論として「クーリー・ドクトリン(Cooley’s Doctrine)」が挙げられる。クーリー裁判官は1871年にミシガン州最高裁判所で、「州憲法による黙示の制限」によって地方政府の権利は州議会の権力から保護されており、「純粋にあるいは基本的に地方的な事務については、地方政府の法が州法に優先する12」と述べている。
・・・・このため、南北戦争の頃になると州議会の過剰な介入に反発した地方政府や住民が、地方の自治権を主張して各地でホームルール運動を起こすようになった。この運動が一定の成果を挙げて、各州の州憲法や州法において、人口等の一定の条件を備える地方政府に対する、州政府の介入を制限・禁止する規定や、州憲法や州法に違反しないことを条件に、地方政府に自治憲章を制定する権利を認める規定が定められることで、地方政府の自治が保障されるようになった。ただし、実際にはこの特典が得られる地方政府は限られており、また自治憲章に関する規定は州憲法や州法にもとづいている。自治憲章のための権限は、あくまでも州政府から地方政府への授権であり、州政府から独立した自治権を地方政府に与えるものではない。」

以上要するに州法で許容される範囲の自治権しかないということでしょう。
各州が自由に決めてきたとは言っても江戸時代の各大名家が周辺大名家のいいところを吸収模倣して行ったように時間の経過でおのづと共通化していきます。
アメリカでは学校制度から何か何までいろいろあって自由な国だという評価する人が多いですが、ただ発展段階が原始的〜初歩段階にあるからに過ぎないのではないでしょうか。

相続制度改正2(法定相続制の廃止)

世襲を基本とする経済社会状況下で成立した明治31年民法では戸主による家産の自由処分権が今よりも厳しく制限されていたかと思いたい・・・遺言制度がなかったかと思う人が多いでしょうが、意外に条文を見ると現行法とほぼ同内容の遺言方法と遺留分制度が記載順も同じで規定されています。
明治31年民法でも旧1060条以下で現行法とほぼ同内容の遺言制度が規定されていて、1130条以下には現行法同様の遺留分制度が規定されていました。
直系卑属の家督相続人の遺留分が2分のⅠ(現行の子供の遺留分と同じ)直系卑属以外の家督相続人が3分のⅠ(現行の直系尊属と同じ)で考え方は同じです。
遺留分減殺請求権も行使しない限り考慮されないし、行使出来る期間も現行法と同じです。
廃除(現行法も同じ)しない限り法定相続人を変更・資格喪失出来ない制度もそっくり同じです。
旧975条以下が廃除の規定で、これも現行法とほぼ同じ内容です。
次の旧976条では遺言で廃除を書いておけば遺言執行者が裁判所に廃除請求出来ることなっていて、この場合には法定の事由が不要・・遺言者の意思次第で効果が生じるかのような書き方ですが、これは裁判所への請求を遺言で表明しておけると言うだけで遺言執行者は裁判で前条の廃除事由を証明しないと効力が生じないことになっています。
私の事務所では廃除の遺言を作られていて、(例えば次男に全部やると書いた遺言のついでに長男その他の相続人を廃除すると書いてある遺言が増えてきました)廃除の効力を争ってことなきを得た事件を、ここ数年〜5年ほどの間に2件担当しました。
現行民法を紹介しておきましょう。
内容及び条文の記載の順序も明治31年公布の旧規定とほとんど同じです。
法令全書で旧条文の写真が見られるのですが、コピーペースト出来ないのでそのまま掲載出来ませんが、(推定家督相続人が推定相続人に代わっている程度の文字の変更が中心ですので、遺言・遺留分制度は次のコラムで再紹介します)今回は廃除に関する現行法の条文を紹介しておきましょう。
(旧規定の原文をご覧になりたい方は法令全書をサーチしてみて下さい)

民法(現行)
第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条  次に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条  遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条  被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

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