成長と独裁の限界2

中国では、改革開放政策の成功によって、時流に乗って儲けたり私腹を肥やせる政府・共産党幹部は天文学的資産を溜め込むことが出来るようになってきました。
当面は恩恵を受けるのは特定のグループだけにしないと、みんなに配るのは無理があるのは発展途上の国では当然のことです。
この経済実質に合致する政治体制が開発独裁政治です。
キャッチアップするのは模倣で足りるので、民意を聞きながらやるボトムアップよりは独裁指導力の発揮の方が効率が良いだけではなく、取り巻き(政府高官や党幹部)や直接役に立つ者にだけ儲けを配る方式もこの段階では合理的です。
場所的に言えば、特区制度で一部地域のみ生活水準を引き上げて高層ビル林立する差別化政策です。
韓国では地域限定はしないものの財閥とその関係者集中方式ですから、中国の国有企業と幹部集中方式と結果は似たり寄ったりです。
鄧小平が提唱した方式そのものですが、一定期間経過して儲けて贅沢する人が多くなってくると、儲けから疎外されているその他大勢が不満を持ち始めます。
全員貧しい方が不満が起きませんが、一部特権階層・地域のみが豪奢な生活・・巨額資産の蓄積や外国への資産隠しなどがスマホ等で広く知られるようになると不満が広まります。
このために第二段階として特区だけではなく、上海等沿海部の旧来の大都市へ成長の成果・恩恵を広げて行き、人的には大幹部のみではなく中小幹部、更にはその取り巻きにも不法利益のお裾分けをして来たようです。
裾野が広がれば広がるほど、その接点で損をする人が増えますので、政治意識の敏感な人だけでなく政治意識の低い庶民にまで不満が具体的に広がって行きます。
コネで一流大学に入れたり、一流企業へ就職した友人よりも自分の方が優秀なのに、アリ族になって地下室で寝泊まりするしかないという不満を持つ人が出てきます。
最高権力者等極く少数の贅沢・・あるいは特権だけならば・・庶民は目の前に見たこともないので偉い人は相応の贅沢している筈だし、その子供が特別扱いされていること自体は当然と言う諦観もあるし、政権批判者の追求言論を取り締まってさえいれば良いし、仮にたまに幹部の私腹肥やしが公になっても国民は「そんなものだと知っているので)そんなに腹が立ちません。
距離がある場合、庶民がたまに権力者に触れたり、立派な屋敷だったりすると腹が立つのではなく却って「すごかったよ!」と行けなかった同僚や周辺に逆に自慢する対象で・・畏敬の念を持つ傾向すらあります。
司法試験受験科目で、政治学原論を勉強していましたが、そのときに為政者の統治方法には、被支配者に親近感をとる方法と絶対的な距離感で畏敬の念を植え付ける方法で支配する方法があると習ったことがあります。
接しる人が少なければ、たまに会えた人は感激するし目のくらむような豪奢な王宮が必要装置です。
江沢民や習近平に直接会える人は今でも少ないでしょうが、お金や利権分配の方は周辺を通じて裾野が広がっているので、どの段階の人も自分よりより少し良い思いをしている身近な人に対する不満が渦巻く状態になっています。
接点=境界付近の不満が広がればその境界線の人を更に分配対象・・仲間に引き入れて行く・・分配の裾野を広げて行くことが出来る間は良いのですが、成長が停滞すると(懐に入れる資金が増えないので)際限なく裾野を広げて行くことが不可能になります。
この辺の理は、「アラブの春」発生の原因・・原油収入分配力が細ったから・・限界に来たからではないかと言う視点で連載しました。
リビヤ等アラブ諸国はイスラエルとアメリカを敵視してアラブの大義を訴求することで乗り切っていましたが、カダフイ大佐はアメリカと仲直りすることによって、外敵がなくなってイキナリ求心力を失ってしまいました。
北朝鮮の将軍様も、日米と円満化すればすぐに求心力を失なって政権はガタガタになるでしょう。

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