円高適応力1

21日までのコラムは1昨年秋ころから書いていたものを基調に若干日付などを修正して掲載したものですが、この間に昨年末に総選挙があって、現在は安倍自民党政権になっていることから、所謂アベノミクスが世上大流行語になっています。
これまでのテーマとの関連で、アベノミクス・金融・財政政策ひいては為替相場に関して現在どうなっているかなろうとしているかを書いて行きます。
アベのミクスの内、円安誘導目標は安倍氏が自民党党首になったころから早くも円安効果が出始めたとして世上囃し立てていますが、その功罪をどう見るべきでしょうか?
これまで書いているように低金利政策だけでは、資金が海外に出て行く(海外投資が進む)・・ひいては国内産業空洞化が進む一方になります。
前回まで書いて来たように海外進出ブームでも国内に居残ってなお勝ち進んでいるトヨタやコマツ等の会社がありますが、そうした会社でも海外工場比率が上がる一方ですし、(国内生産を減らさないで頑張るのがやっとで)しかも国内に踏みとどまる企業は少数派になりつつあります。
大方の企業はこれ以上円高が進むと海外に逃げるしかないという立場ですから・・国内職場が減って海外から利益送金してくる所得で所得再分配をする社会(円高定着で)になった場合を想定してみましょう。
海外進出→国内空洞化が進んで輸出が減っても、その代わり海外からの利益送金が増えて経常収支としては同じになる場合があります。
この場合労働需給側面で見れば職場が減るので、職場が減った分と同じだけ少子化が進んで労働力減小が進んでいない限り、国内失業者が増えるので国内的には不健全な状態になります。
アラブ等で頻発している最近の政権転覆の事例で書いたように、資源国等で革命騒乱が起き易いのは国民の労働に頼る比率が低く、少数労働者の働きだけで巨額収入が得られる産業構造に問題があることをJanuary 20, 2013「中間層の重要性4(テロ・暴動の基盤1)」以下で連載したばかりです。
日本社会が安定しているのは末端まで仕事が行き渡っていて精神が健全に維持されているからですが、少数の高度技術者や国内にとどまっても輸出出来る少数特殊勝ち組企業の高収入と海外進出による海外からの配当収入に国民総所得が頼るようになると、国際収支が黒字でも資源国では所得の割合に職場が少ないのと同様に国内で働いている人が減ります。
失業者が溢れるのでは、大変なこととなります。
この受け皿として失業させて失業保険を長期間払うよりは、税を使ってでも公共工事あるいは介護関連職種への移行が期待されています。
失業対策と言うか所得再分配と言うかの違いです。
すなわち、お父さんの稼ぎが良いときには専業主婦が多くなり易いですが彼女らが失業給付を受けているのではありませんが、家庭生活水準が上がります。
トヨタやコマツ等の特定企業の稼ぎや海外からの送金で日本経済が成り立つ時代には、高収入の分配が家庭内だけではなく社会的に行われないと失業者だらけになります。
特定者に偏る収入を社会的再分配システムにしたのが介護などの社会化と言えるでしょう。
介護関連事業へのシフトが失業の代わりという位置づけですと、海外からの送金や高度化成功者や高収入者の税に頼る分だけ、所得再分配・失業救済事業的要素があって賃金が安くなる傾向・・所得格差が広がる傾向があります。
高額所得者がいて、これをサービス分野に再分配出来れば、国民が豊かな生活が出来ることについて、この直ぐ後に書いて行きます。
以上の次第で円高は国民の労賃を高く評価してくれる代わりについて行けない国民は(新たな職業を税で作ってくれない限り)仕事を失うのが原則ですので、目出たいことだと喜んでばかりいられません。
学校の授業レベルをどの辺に置くのかの議論と似ていて、数人の生徒しか理解出来ないレベルに引き上げて「自分のクラスは高度な数学を教えている」と自慢していても生徒の大多数が眠ってしまうのでは困ります。
4〜5人が稼いで残り95〜6人を養ってやるよりは、9割以上の人が働いている社会の方が幸せですし、政治の方も気楽です。
国内雇用対策として国内公共工事を増やしても海外企業の受注を阻止出来ないし、資材輸入比率も上がる傾向があるので、ある程度しり抜けになりますが、それでもまだ国内企業の受注が8〜9割以上を占めているでしょうし、(資金が1〜2割海外流出しても)何よりも工事場所が国内にあるので、国内物流や現場労務者等向けの国内雇用が維持出来ます。
(資材を海外から輸入するなどもあって投資除数効果が低くなっていることは認めざるをませんが・・)
それと公共工事に使用する資材の大本である鉄鉱石や原油(ビニールパイプその他全て元はと言えば)輸入資材ばかりですから、結局は内需拡大=貿易赤字推進策→円安効果になります。
一般家庭で言えば、工務店を自分で経営していても家を直せば、家計が赤字になるのと同じです。
既にアベ政権誕生直前ころから貿易の巨額赤字発生によって、(20日の日経夕刊には2013年1月単月の貿易赤字額が何と1兆6294億円と出ていました。)赤字になればその赤字分だけ決済用に円で外貨を買わねばならないので、需給の原理によって実際に円安傾向になっていましたが、これに加えてアベ政権の金融・財政出動政策期待によって円安が加速される傾向が出ています。

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