原発事故と円安(天佑)1

海外投資(資産)の大きい国(英国等先進国共通)では、所得収支黒字還流が大きいので貿易赤字になってもこれを食いつぶして総合収支赤字に転落するまでには時間がかかります。
漸く・・通貨安・円安になった頃には、産業が壊滅していて、熟練労働力がなくなってしまうので、再起出来なくなるほど体力が弱ってしまうリスクがあることを、November 8, 2011利子・配当収入(鉱物資源)で生活する社会2」前後でナウル共和国の例を引いて書いたことがあります。
タイの洪水被害のときにも書いたと思いますが、タイで製造している製品を国内回帰して製造しようとしても、既にその生産品を作れる技術者が国内にいなくてタイから指導者を招いて生産した事例を書いたこともあります。
企業自体がなくなっていなくとも白物家電の生産を全面中止してから為替相場の変化・・円安を利用してもう一度国内生産しようとしても技術者や関連裾野産業がなくなってしまっているリスクがあります。
水田が休耕地になってから直ぐなら復活が簡単ですが、30年も50年も休耕していたらその水田に雑木が生えてしまうだけではなく、周辺水路その他のインフラも駄目になって復活が絶望的になるのと同じです。
せいぜいその業務を縮小しながらでも、一定量の生産が国内で続いているうちに円安に変化する必要があります。
我が国の巨額所得収支を食いつぶすのには時間がかかるので、総合収支赤字になって漸く円安が始まる頃には円高適応能力を超えてしまいます。
ここに至る前に原発事故によってイキナリ巨額赤字体質になったのは天佑としか言いようがないタイミングです。
100の企業が連続的円高によって、徐々に海外シフトして行き国内に80しか残らなくなったときに円安に振れるのと、50〜40〜30〜20と順に減ってから円安に変わった場合を考えると、少しでも国内産業の残っている内・・早い時期の方が復活が早いし効果があります。
経常収支黒字のママで円安に振ろうとしてどんな人工的介入をしても原則として持続性に無理がありますが、貿易赤字→国際収支赤字になれば自然に任せていても円安に振れるのが経済原理です。
(円キャリー取引のような特異現象による資金の海外流出あるいは海外投資の拡大による円流出があれば例外ですが・・いずれにせよ、資金流入国の紙幣相場が上がり流出国の紙幣が下がると言う需給原理は変えようがありません)
今回の超円高は日本企業の国際競争力の結果だけではなく、リーマンショックでアメリカが傷ついた直後の欧州危機で資金逃避先として日本に資金が集中的に入って来たことによるもので、競争力の実力=貿易黒字よるものの外に緊急避難に原因がありました。
(日本が長期的黒字国であるから、・・円キャリーや海外投資で資金が流出していても債権国としていつでも回収可能ですから・・緊急避難と言っても長期黒字継続国としての安心という基礎があってのことですが・・・)
輸出競争力以外の理由で円が高騰したのですから、輸出企業の円高適応力を越えてしまったことは確かでしょう。
ところがこの効果が出て総合収支赤字=円安になるまで時間がかかるので、マトモに(自然治癒力)効果が出るのを待っていたのでは、日本企業は壊滅的打撃を被るところでした。
今回の原発事故による原燃料輸入の急増によって、12年11、12月と経常収支でも赤字なったというのですから驚きですが、これを逆から見れば急激に円安に招いてくれる切っ掛けになったのですから、天佑そのものです。
まだ近代産業系が競争力を維持しているうちに(現在社会の主流的産業である車産業や機械産業がまだ国内に大量に残っているし、家電業界がいま限界になりかけている状態)資源輸入急拡大の結果円安に振れるのならば、(資源では元々競争力がない・・国内産業がないので)ラッキーです。
この場合、まだ産業界に競争力が残っているうちに応援団・・機械工業系の競争場外から赤字要因が降って来た・・が駆けつけたようなものです。
例えばパナソニックやシャープなどの電気業界も一息つける(円安転換が間に合ったのかまに合わなかったのか微妙ですが・・・)ことになります。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC