不法滞在者

外国人登録数に関係ないとは言え、不法滞在者はそのほとんどが(水商売であれ・・)日本で働く目的での不法滞在ですから、労働需給に大きく関係しますので、念のために不法滞在者数の推移を見ておきましょう。
不法滞在者数は、法務省統計によれば、2005年1月1日現在207,299人〜2006年1月1日193,745人〜2007年1月1日現在170,839人〜2008年1月1日現在の14万9785人から2009・1・1現在の11万3072人となって最近ではほぼ毎年3万人前後減り続け、直近では約3万6000人も減っています。
不法滞在=働きに来ている人が中心でしょうから、仕事がなくなればさっさと引き上げる人(帰る金がなければ自分で出頭して、強制送還して貰えばタダで帰れます。)の比率が高い(14万人の内3万人減とすれば20%減です)のは当然です。
ちょうど外国人の正規登録数の減少幅・・毎年数万人と絶対値では似ているのですが、不法滞在者は元々外国人登録している人が少ない・・留学等で登録した後に資格喪失などもあるでしょうが・観光ビザで来た人は登録しないまま不法滞在に移行していますが、・登録比率は少ないので、ここで数字が合致しても意味がありません。
前回紹介したとおり正規登録者数がここのところ年間2〜3万人減っているのと平行して、不法滞在者も数万人づつ減っている・・実数では合計2倍の減少率と読むべきでしょう。
正規登録者の内でも、労働者数としてはもっと減っているのでしょうが、正規登録者の場合、留学・日本人配偶者等その他多目的入国が含まれているのでその分野の増加があると総合計の統計では中和されるので、労働者数の減少よりも結果の数字が小さく出ている可能性があります。
ちなみに留学生がどのくらい来ているかについて見ておきますと、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の22年12月発表のデータによれば、「平成22年5月1日現在の留学生数 141,774人  過去最高(前年比 9,054人(6.8%)増)」とされております。
留学生が増えたか減ったかは別の問題として統計を取る意味はありますが、外国人を含め総人口減少だけを騒いでも意味のないことです。
話を日本人だけの人口増減に戻しますと、2005年の2万1266人の人口減少数は日本人だけの統計ですが、その翌年には8226人の増加に戻り、2007年以降また2万人台の減少に転じて、この2010年の国勢調査でイキナリ8万人台の減少(人口の0、06%と言う厚労省のパーセント表示数字)になったものです。
マスコミは日本の総人口には統計上在日外国人も含めていることを説明せずに(外国人を含めた)総人口の減少10万7000人減だけを大きく報道していますが、(マスコミは人口減少の危機感を強調したいようです)実態は小さなものです。
日本人だけのパーセント数字では0、06%減と厚労省が発表しているので、100年かかっても6%しか減らないことになります。
これではインパクトがないので、January 5, 2011「合計特殊出生率2」で紹介したとおり、政府では今後更に出生率が低下するとした場合のシュミレーションに励んで、今後約50年で50年前(1955年)の8000万人台に戻るとする研究結果を発表しているのです。

総人口と外国人数

ところで人口と言っても、外国人居住者を含めた総人口と日本人だけの人口の2種類があって、総人口とは外国人を含めた概念であるのに、マスコミが何ら限定なく総人口が減ったと大きく報道するのはミスリードする意図があるとしか思えません。
統計内容を見ると昨年の減少数は総人口では10万7000人減ですが、日本人の人口だけですと8万1000人(統計表にある%では0、06%減=100年で6%しか減らない計算です)しか減っていません。
在日外国人総数は上記統計によると・・総人口から日本人人口を差し引くと約170万人ですが、その中で特別永住権のある在日朝鮮人を含む朝鮮系は60万弱、留学生等が14万人前後で残りの100万人弱がいわゆる外国人労働者とその家族と思われますが、ここから1年で2万人以上も減ったとすれば、この減少率の大きさこそ注目すべきです。
在日韓国・朝鮮系は不景気になったくらいでは、韓国・朝鮮への脱出する人は稀ですが、(むしろ呼び寄せていることが多いにもかかわらず)60万人前後で何十年も安定しているのは、他方で日本人へ帰化が進んでいるからでしょう。
ところで、厚労省の統計とは別に法務省の外国人登録の統計「(2010年) 国籍別外国人登録者数の推移 法務省」によれば、外国人登録数が2000年末168万6,444人、2007年末215万2,973人、2008年末の221万7426万人と増えていたのが、リーマンショックのあった2009年218万6,121人と約3万人減少していますから、(2010年末現在はまだ発表されていませんが、)その1年後の2010年10月1日の国勢調査による約2万人減は趨勢としては大方合っていることになります。
法務省統計は出入国記録によるものであれば(密入国を除けば)正確でしょうが、統計局と若干時期が違っているとは言え、昨年の国勢調査による外国人人口=総人口−日本人人口との差額数字約170万人よりも約40万人も多くなっています。
(1年分の減少数2〜3万人引いても数字があいません)
国勢調査は自己申告による実態=不法滞在者も含む可能性がありますが、飯場に住み込んでいる不法滞在者が自己申告することは稀でしょうから、法務省統計が、仮に出入国記録の誤差(観光や留学・研修生その他で入ったままで、出て行かないオーバーステイなど)を全部カウントしているとすれば、不法滞在分だけ多くなっていると考えることが可能です。
そこでもう一度、法務省統計を見ると「外国人登録者数」ですから出入国の差額ではなく、正規に登録した人の数に限定されていることになります。
とすれば、不法滞在者数がこの数字・・2008年の221万人等の外国人数に入っていないことになります。   
2010年1月1日の国勢調査の外国人は総人口から日本人人口を差し引くと170万人前後しかないのに、法務省統計では210万人もいる誤差は、結局は正規登録者でも、外国人は国勢調査に協力しない人が多い(・・漢字が読めないなどで・・意味不明でプライバシーを書きたくない・・書けないでしょう・・英語などで対応しているのな?)と言うことでしょうか?

適正人口3

 

今後日本の労働需要がどうなるかの見通しによって、どの程度の労働可能人口を形成するのが適正かの基準を考えるしかないとすれば政府の人口政策は重要です。
企業はパソコンの普及等産業構造変化やグローバリゼーション化にあわせて、人材の配置転換等で迅速に対応して(不要人員には中途割り増し退職金支給等で企業外に放出するなどして)いますが、政府の方は不要な国民に支度金をやって(満蒙開拓団のように)海外に放出するわけにはいかないので、企業以上に先を読んだ人口政策が必要です。
企業家が数年〜数十年先の需給見通しによって仕入れたり、工場立地・・研究開発を進めるのと同じく、政府も何も考えずに成り行きに任せるのではなく、労働力の仕入れ=出産政策も30〜60年先の労働需給見通しによって策定すべきです。
そこで今後の労働需要の見通しに入って行きますが、グローバル経済下では日本だけが世界の工場として存在し続けるのは不可能ですから、長期的には国際平準化に向かうしかなく、この方面でもかなりの労働需要の減少が見込まれます。
出典不明ですが、ネットでは1990年に1197万人の製造業従事者が2007年には897万人に減っていると書かれています。
あるいは、平成22年11月16日経済産業省で開かれた「国内投資促進に関する意見交換会‐議事要旨」の発言によると
「平成14年から21年までの政権交代までの7年間、製造業では96万人、建設業では82万人の雇用減があった。」
とあり、需要減が続いていることが明らかです。
リーマンショック後に海外展開したことによる国内労働需要の減少だけでも、正確な数字は忘れましたが、何十万人にのぼると報道されていました。
この消滅した需要はリーマンショックの不景気から日本経済が立ち直っても最早国内に戻ることのない需要です。
仮に同じ生産量を国内で維持していても機械化・効率化によって従業員数は減る一方ですから、製品輸出産業に従事する労働力需要はじりじりと減って行くしかありません。
同じことは事務系労働者にも当てはまり、国際化による規模縮小だけではなく、事務処理の電子化等による効率化によって、中間管理職以下の事務職員の需要が激減しつつあります。
今後縮小して行くべき分野・裾野人口ほど、関連人口が多いのは当然ですので、裾野分野の過剰労働力発生に代わって研究開発やデザイン、漫画等知的分野で外貨を稼げるのは、うまく行っても少数の人間ですから、工場労働者や末端・中間ホワイトカラー向けのような大量の人員を養えません。
January 5, 2011「合計特殊出生率2と人口増減」で紹介したとおり政府や学者の予想では、現在よりも出生率が下がり続けても1955年の人口水準に戻すのには今後約45〜50年もかかってしまう予想ですが、それでは急激なグローバル化や効率化による上記のとおりの労働需要の減少に間に合わない筈です。

過剰労働力と域外脱出

適正人口がどうあるべきかの基準としてみれば、青森県の例・・たまたまネットで拾っただけで地方はいずれも似たような状況でしょう・・は大きな示唆を与えています。
青森県では人口減も始まっていますが、それでは収まらずに社会減=労働人口過剰が続いている・・・人口減と労働人口不足とは連動しないことが分ります。
青森県民・・あるいはその他地方では学者や政府が見通しを示してくれなくとも、適正人口を上回っていると自己判断した結果、脱出が続いていると見るべきです。
地元にとどまって失業率を押し上げるよりは、脱出して未知の地で就職活動をした方が良いと言う判断でしょう。
この結果地方の失業率はそれほど上がらず、(前回書いたとおり、就職機会がないと求職活動自体が低下するからです)大都会の方が失業率が高くなる傾向があります。
こうした実際の動きを無視して、失業率・持ち家率その他の統計だけで「地方は住み良いぞ!」とする宣伝を良く見かけますが、本当に住み良ければ地方の人口が減る筈がないのです。
地域として社会減があるのは、地元で吸収出来る以上の人口を用意してしまった・・人口政策を誤っていたことの厳然たる事実の現れと見るべき・・過去の為政者の人口政策と産業政策の総合的失政と言うべきですが、地域の場合過剰人口になってしまっても、他の仕事のありそうな地域への国内移動で間に合うので(地元失業率が許容出来ないほど上昇する結果責任を回避出来て)政治責任が顕在化しなかったに過ぎません。
これが政府が国全体の人口政策を誤って人口過剰になると、仕事のありそうな海外へ脱出出来るヒトは県外に出るのに比べて極めてハードルが高くなります。
政府が労働需要創出策とセットにした大枠の労働需要判断を誤り・・無責任に子供を増やすと、国内は失業の増大で大変なことになります。
(上記ネットあるいは関連ネットでは、流出が進むと過疎化が進んでしまい、大変だと騒いでいますが逆です・・青森のように出て行ってくれるから良いのであって、誰も出て行かないで県内で失業者が溢れたらもっと大変ではないでしょうか)
この流出実態に対して、地方では過疎化するからもっと子供生んでもらうには・・・と政策動員している現在の政治・マスコミはどうかしていませんか?

適正人口2

前回紹介した労働力人口とは完全失業者と就労者の合計を意味する言葉ですが、完全失業者とは求職活動をしている人のことですから働きたいけれど諦めて求職活動をしていないヒトはここに含まれません。
従って、不景気になって就職の見込みがないとなれば、労働力人口が大きく落ち込むことになります。
65才前後の健康な男子では殆どの人が働き続けたいと希望していますが、実際に労働力率が低いのは、仕事がないから諦めていることによるものです。
ですから、報道を見ていれば分りますが、求人数が前月比増えると却って失業率が上がることが多いのは、景気が良くなって求人数が増えると自分も仕事ができるかと主婦層・家庭に戻っていた人たちが求職活動を始めるので却って失業率が上がるからです。
報道されている失業率は本来の失業率ではなく、仕事のない人の中で職安等に出かけて手続きするしかないほど追いつめられた人がどれだけいるかを知る・・政治的温度計として意味のある数字でしかないのです。
60過ぎても働きたい人はいくらもいるのですが、余裕のある人・年金のある人は無理して仕事を探す気になれないでいるのが普通です。
受け皿不足が労働力人口を引き下げていることが多いので、労働力人口だけ見て労働者が増えているか減っているかの正確な基準は分りません。
どうせなら健康な人・・労働可能人口の統計を取るべきでしょうが、これが難しいのか見たことがありません。
適正人口の判断基準にはいろんな基準があり得るでしょうが、素人の私にでもさしあたり言えることは大方の人にとって仕事が保障される環境・・労働需要との関連が一番大きな指標となるべきです。
昔、人口密度と言う意味のない指標が幅を利かしていましたが、(農業社会では耕地面積によって養える人口が限られていましたので、可耕面積比の人口・・これは技術の進歩である程度まで拡大可能・・としては意味がありました)いくら土地が広くっても仕事がなければ北海道の原野や山の中、田舎に住んでいられないのです。
ちなみに青森県の人口問題が「デーリー東北www.daily-tohoku.co.jp/news/2010/12/10/new1012100801.htm – キャッシュ」のニュースとしてネットに出ていますが、そこには昨年10月1日現在の国勢調査の結果、青森県の人口は136万人前後で昨年1年間で6万人あまりが減少したと報告されています。
減少比率が(合計特殊出生率に関係なく)日本全体に比べて大きいのは、(都市住民内での地方出身者の格差をこの後で書いて行きますが、)地方での労働需要との関係で人口受容能力がない(一般人口としては均衡点以下になっている・・自然減が約3万人なのにそれ以上減っているのは、本来の労働力人口(働きたい人)としてはまだ過剰・累積が続いている)ので人口流出減が大きいことが分ります。
勿論出て行った人は地域の失業率にもカウントされていません。

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