輸入国の物価

先進国の資本投下で最先端技術(農業だって日本人が食べるように上品に仕上げるのは先端技術です)も移植されて新興国での工業生産が始まると、これまでの工業製品輸出国としての先進国と輸入国としての後進国との関係が攻守入れ替わったようなもので、先進国の方が貿易赤字になるので、先進国の地位は脅かされて行きます。
ただ、これまでの後進国の貿易赤字と違ってそれほどの悲惨さを論じる政治・経済学者がいないのですが、それは、先進国はまだ過去の資本蓄積があるのと、先進国の企業が新興国に資本投資して立地して企業統治しているので見た目が分りにくくなっているだけです。
物流(貿易収支)で見れば逆転関係となったことは疑問の余地がなくなったのです。
この結果、先進国は国内で作るよりもヒトケタ安い製品が流入してくる以上は、国内物価が下落するし、輸入品に太刀打ち出来なくなった企業は縮小して行き、最後は消滅して行くしかないのは仕方のないことです。
これを古典的な金融理論で(金利を下げたり紙幣大量供給で需要喚起によって)解決しようとしても、無理なことは子供でも分ることではないでしょうか。
紙幣が足りなくて物価が下落しているのではなく、安いものが入ってくるから下落しているのです。
自国の金利を下げたり紙幣増発して需要喚起してもその分中国からの輸入製品がよけい入ってくるだけで国内物価が値上がりする分けがないのです。
こんな単純な原理を無視して、金利を下げ紙幣の増刷すれば国内企業が増産するだろうとする戦前の経済理論をそのままに有り難そうに実行しているのが今の経済政策です。
こんな変な政策をここ20年も続けて物価が上がらないと言って天を仰いでいるのは、経済学者仲間が裸の王様みたいになっている・・自分のアタマで考える習慣をなくしているからではないでしょうか?
ただし、新興国では旺盛な資金需要に対して・供給・資金不足(作れば売れる関係)ですから、旧来の経済理論で間に合う関係ですが、先進国では過去の貿易黒字の蓄積で資金が豊富すぎるほどあるのに国内市場が飽和状態どころか後進国からの低価格品の流入で物価が下がるしかないので、高コストの国内既存設備の休止・消却して行くしかない・・国内投資先がないと言う関係です。
自動車産業で言えば、輸出していた分を海外生産に振り向けるしかないので、国内工場は縮小して行くしかないのは誰でも知っていることです。
生産設備自体がだぶついているのですから、いくら金利を下げても増産用に設備投資する企業はいません。
せいぜいエコ何とか補助金で生産を持ち直すくらい・・国内生産縮小の速度を落とすくらいしか効果はないのですから、デフレの速度を落とすだけが目的であって増産投資・・物価上昇には結びつきません。

先進国デフレの原因

日本の(技術及び借款)協力で中国に最新鋭の製鉄所その他が生まれすべての分野(農業も指導者が懇切に指導して逆輸入商品に仕上げましたし繊維・衣類その他すべてご存知のとおりです)でそうなってくると、人件費が今でも日本の10〜20分の1ですからそれまでの輸入国が輸出国に入れ替わるのは時間の問題でした。
この関係は日本と中国だけではなく欧米と中国との関係でも同じですが、日本の場合、中国に近いだけではなく上記のとおり積極的に
野菜の作り方餃子の作り方まで手取り足取り指導して、逆輸入しても日本で売れるようにわざわざ出かけて行って指導していたのですから、指導が成功すればその効果として逆輸入品が増えるようになったのはあたり前です。
日本は失われた10年と言われ、更に今では20年と揶揄されていますが、これは上記のとおり早くから後進国への技術移転に努力していて成功した分だけ、日本は欧米よりも早く・・1990年頃から低賃金による低価格品の洗礼を受けるようになったのは当然であって先進国中で日本だけ問題があって低迷していた訳ではありません。
こうして、徐々に新興国と呼ばれる国々が製品輸出国・貿易黒字国として台頭して来て、日本だけではなくアメリカもEUも新興国による低価格製品輸出に脅かされるようになり、世界経済を論じるには今やG7だけではどうにもならなくなり、G20にまで経済会議が拡大されている状況となりました。
日本は中国への進出が初めてではなく、その前から韓国や東南アジアへの現地進出を進めていて日本に関係した国々(韓国・台湾やタイ等)は順次経済離陸出来ていったのですが、いずれも人口的には少数ですので、世界に与えるインパクトは小さかったのですが、そのとどめが巨大な人口を有する中国であったと言えるでしょう。
中国は隣国ですので身近な野菜の作り方まで指導して逆輸入するようになったので、(この点東南アジアは気候風土が違い過ぎて珍しい南洋の果実を輸入する程度でした)全面的な影響を受ける・・文字どおり経済一体化が進んでしまったのが大きな違いです。
中国その他の新興国は資本・技術の受け入れによって・・天然資源以外の国際競争力のある輸出商品を作れるようになれば、物価水準・賃金水準が均一化に進む・・先進国から見れば輸入物価の下落によってデフレになるのは当然です。
後進国への生産移管は当初普及品中心ですが、低価格・普及品では人件費の高低差がもろに価格差に跳ね返るので、国際競争力の有無は人件費差になります。
こうして何十分の1と言う低人件費に支えられて同じ機械を使って同じ品質の製品を作れるようになった後進国では爆発的な輸出競争力を付けることになりました。
産業革命以降先進国が一方的に輸出していた工業製品について、日本については1990年以降(世界全体では大雑把に見て2000年以降)逆流が始まりこれが国内物価の引き下げ圧力になって来ました。

デフレ2(輸入)

兌換紙幣から不換紙幣になってからは、そもそも紙幣不足によるデフレなど起こりようがなくなっているのですから、(実際戦後の日本は物価上昇の連続であってバブル崩壊までは下落したことがありません)無制限紙幣発行可能な不換紙幣時代に、その前の金本位制時代の貨幣不足理論を当てはめても意味がない筈です。
先進国は産業革命以降1990年頃までは世界の工場として(今の新興国同様に)いくら作っても世界中に売れたので設備投資用の資金需要が旺盛・・何時も不足気味でした。
この世界輸出競争の過程で、先進国間での市場争奪戦争・・古くは英仏蘭によるヘゲモニー争い等帝国主義戦争を繰り返したあげくに最後はブロック化によって世界大戦が起きたのですが、第二次世界大戦後は、先進国間の経済戦争が軍事衝突に結びつかない工夫・・自由貿易が戦争抑止に必要と理解して、これを守るガット〜WTO体制の構築によって制御されて来ました。
産業革命以降、列強と言われる先進国だけが鉱工業製品を生産・輸出し、その他の国々はその市場として位置づけられ、その制度的保障・・囲い込みの対象として植民地化されていったのです。
これら植民地は第二次世界大戦後独立したので宗主国による囲い込み・・ブロック化がなくなったものの、これらの国々では先進国の市場として位置づけられたままでした。
元植民地諸国は、工業製品を買うばかりで資源以外の売るものがなかったので貿易赤字をファイナンスするために経済援助としての借款等を得て辻褄を合わしていたので、債務が増える一方でした。
このため(石油等の資源のある国以外は)いわゆる南北問題としてしょっ中最貧国への経済援助の債務帳消しが債権国会議の議題に上っていたのです。
1980年前後中国の改革開放と1990年頃のソ連の解体によって先進資本主義国の資本が今の新興国になだれ込んで工場立地するようになったことから、これまで先進国から後進国へ流れていた工業製品の流れ・・物流の流れが逆転して新興国から先進国へ製品輸出・・グローバル化の時代になりました。
現在の新興国から先進国への物流の逆転は、イキナリ技術優位が先進国と新興国で逆転して輸出国と輸入国が入れ替わったのではなく、周知のとおりこれまで先進国が技術独占を利用して実力以上に高所得・高水準の生活を謳歌していた分メッキがはがれて来たに過ぎないと言えます。
先進国内にある機械設備さえ後進国へ設置して少し訓練してやれば、後進国も同じものを作れる・・当たり前のことが分ったに過ぎません。

労働力過剰とデフレ(1)

ちなみに労働力過剰とは言い換えれば生産力過剰であり、・・製品過剰でもあり、これがここ20年ばかり我が国で続いているデフレの元凶です。
ついでにデフレ問題について少し書いておきますと、現在の経済政策はバカの一つ覚えのように(学校で習ったことしか知らない・・自分で考える能力のないヒトがエリート気分になっているから行けないのです)金利を上げたり下げたりあるいは、紙幣供給を潤沢にする等を繰り返しているのですが、こんなことをしても企業は国内投資するどころか既存設備を売却して海外に移転したいくらいですから、国内資金需要がありません。
資金需要があるとしたら、円高を利用した海外進出用資金が欲しいくらいでしょう。
日本企業が海外投資のために資金をいくら海外で使っても・・資金を持ち込んだ先の中国等の設備投資・消費が増えるだけであって、国内消費需要に結びつかないので、国内商品需給が引き締まることには繋がりません。
私の言いたいのは過去の経済学・・資金不足時代に成立した経済理論を金科玉条のように適用しても意味がないと(アホの集まりかな?)言うことです。
ここ20年あまりの日本やリーマンショック後のアメリカは、金詰まりでデフレ・物価下落になっているのではなく、先進国で作るよりも10〜20分の1程度のコストで作れる中国等新興国から商品が流入していることが原因で価格が下がっている現実を直視すべきです。
日本は中国に近かった分早くその影響を受けただけであって、今になって欧米もその影響を受けつつあるのです。
高校レベルで知っているデフレの定義をここで思い出してみると(誤解しているかも知れませんが・・・)
「資金不足で買いたくても買えない・・そこで物価が下落する・・これをデフレと言い、この結果売れないので生産が減少して再び品薄になって物価上昇が始まるとまた生産拡大になって景気が回復すると言われます。
この循環が原則だが、病人が寝たままでいると足腰が萎えてしまうように大変なことになるのと同様に・・デフレの場合自然治癒しないうちに産業構造が参ってしまうことがあるので早めに手を打つ必要がある・・そこで、足腰が駄目になる前に早めに金利を下げ紙幣の大量供給すれば購入者が増えて早めに価格が上昇する・・ひいては生産意欲が刺激されて重病になる前に景気が良くなると言うのが私が知っている程度の古典的理論です。
・・これに基づいて日銀はバブル崩壊以降金利を下げまくってゼロ金利にまでしてしまい、それでもどうにもならないのでせっせと紙幣の増刷に励んでいるのですが、(金利の上げ下げも同じ考え方です)これは金本位制と輸入品の少ない時代の結果を不換紙幣・グローバル経済時代に当てはめて紙幣発行権を利用して打ち出の小槌のように使おうとするものですが、世の中にはそんな都合の良い結果ばかりあり得ません。

高齢者引退と年金

現役世代が元気なく勤労所得が少ないのは、もしも根性がないのではなく親世代がいつまでも居座っているために職場がないからだとすれば、親世代が早く職場を譲るべき問題に帰ってくるので、世代間で損得を議論するべきテーマではあり得ません。
若年層の年金納付額が減少しているのは、中高年齢層の引退を引き延ばすことによって、若年層の就職難を引き起こし、年金・保険料等納付者や額を減少させていることによる面もあるのですから、(海外進出の加速が職場縮小の大きな原因ですが、そうとすればなおさら、縮小した職場を若者に譲るべきではないかと言うことです)結局は国内で一定の労働需要があるとしたら、若年が担うべきか高齢者が担うべきかの問題を先に解決すべきです。
高度成長期のように増産すればその分だけ売れる時代・・労働者が多ければいくらでも働く場があった時代とは違い、いまは、むしろ中国等の追い上げで・・製品輸入増で現場労働の職場は減る一方の時代では、既存労働力さえ過剰になっているのは明らかです。
・・この過剰になった労働力を高齢者が引退して次世代に譲るべきか次世代を遊ばせて高齢者が働くかの選択の問題です。
赤ちゃんの間引きならぬ高齢者の間引き・・・姥捨ての習慣について9月24日頃に書きましたが、職場が一つしかなくて若者が働くか高齢者が働くべきかの二者択一となれば正解は明らかです。
この明らかな結論を見ないことにして、高齢者の定年延長・高齢者雇用促進と言う馬鹿げたことを歴代政府や現政権が政策目標にしているから、その分だけ若者の職場が失われ、(保険・年金等納付者が減ります)長期的にも若者の職業訓練機会が失われる国力低下リスクに直面しているのです。
高度成長期には旧市街再開発も新市街造成も(国単位で言えば過疎地対策も成長企業への補助も)両方にテコ入れが可能な時代でしたから、政治家は双方に言い顔が出来て楽でした。
成長が止まれば両方へ税金を配ることは出来ず、スクラップ&ビルド択一関係しかありません。
人材も同じで、縮小傾向・・失業者が出るしかないとすれば、高齢者を遊ばせるか若者を遊ばせるかの択一選択しかない筈です。
この厳しい選択を避けて、双方に良い顔をしていると社会的に強い高齢者の方が職を手放さない弊害が生まれて来ます。
ここは政治力を発揮して、高齢者を早期引退させる政治に切り替えるべきです。
同じ500万人が失業するならば、年齢の高い順に失業させた方が社会のためには合理的です。
若者を失業させて、たとえば数百万人フリーターにするよりは高齢者を早く引退させて同じ数だけフリーターに入れ替えた方が将来のために良いのです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC