輸入国の物価と輸入価格

 
企業の設備投資が駄目なら個人消費を煽ればいいかと言う発想が商品券・エコカー減税・高速料金の無料化等ばらまきの発想ですが、この分消費が増えても安いものがいくらでも入ってくるので、(1国閉鎖経済ではないので)物価そのものが上がることはあり得ません。
エコ何とか減税で車や電気製品等が売れたと言っても、値上げまでは出来なかったのです。
エコ何とかで電気製品や車が売れても需要の先取りでしかなく、(来年買う予定のヒトが早く買っただけで)それで需給が締まって電気製品や車の値上げになる訳がないのです。
現在のデフレは貨幣が不足しているのではなく、海外から安いものが入ることが原因ですから、一国内だけの金融政策としていくら金利を下げても紙幣増発しても、中国からの輸入品価格が上がる訳がないことは子供だって分る道理です。
(日本の金利下げが、中国製品の生産コスト増や輸入価格が上がる訳がないでしょう。)
現在アメリカを中心として中国の貿易黒字の積み上がりを非難して為替水準が低すぎる・・元の基準をアップすべきだと言う論説が盛んですが、この主張は輸入価格をもっと上げてくれと言うに等しい主張です。
今回のレアアースの禁輸問題も、中国の禁輸が結果的に諸外国のレアアースの生産の採算が取れるようになると言う見通しが語られるのと同様に、中国の輸出価格上げが諸外国の国内産業保護になる訳です。
とは言え、そもそも中国等の低賃金国に諸外国が競って生産移管しているのは、少しでも安く製品を仕入れて多く売りたいと言う動機が先進各国の国内企業にあることからしている行動ですし、元の為替相場アップで輸入価格を上げて輸入制限したいと言う主張は、諸外国の国内企業の念願と一貫しません。
日本でも繊維産業に始まり、農産物、食品関係その他あらゆる業種で、中国その他の低賃金国で生産して輸入して来たのは外ならぬ日本企業自体が、国内販売競争上競合他社よりも優位に立ちたいとする企業が目白押しだったからですが、その結果中国の生産が軌道に乗った結果の中国の輸出増・・貿易黒字です。
農産物や食料品その他すべての分野で中国へ指導に出かけて日本人好みの食材生産・デザインやその他の製品を作れるように指導して来たのです。
せっかくこれが軌道に乗るとこれを非難して元高を誘導して輸入物価を上げて(元が2割上がれば中国からの輸入物価が2割上がりますが・・・)中国からの輸出を制限しようとするのは、これまでの先進各国の企業努力と整合しません。
円高反対の悲鳴に対して繰り返し書いていることですが、そもそも国内企業は1円でも資源その他を安く仕入れたくて必死の努力・交渉をしているのであって、その成果を利用して(ユニクロ等)国内あるいは他国で販売競争をしているのです。
個々の企業にとっては、自分の仕入れ価格を高くしたい企業があり得ませんので、円が高くなるのは有利ですし、ここで元高を強要するのは輸入企業・国内販売業者にとってはこれまでの企業努力に水を差されるのと同じです。
マスコミ報道では中国現地の人件費アップの運動が激しくなると進出企業が大変だと報道するのですが、円高には大変だと言うばかりです。
元高円安になれば輸入価格で見れば現地従業員の人件費アップと同じことですが、報道の仕方が一貫しません。
いずれにせよ、グローバル経済化している現在では、国内物価は輸入物価による影響が大ですので、一国内の金利や紙幣の増発や引き締めだけでは、国内物価はびくともしません。
物価の下げを本気で阻止しようと決意するならば、中国と人件費が同じ所まで日本の人件費を下げて行く(あるいは中国の人件費を日本同様水準までアップしろと言うか、中国元の大幅値上げを求める)くらいの覚悟がなければ意味がないのです。
私に言わせれば、新興国の市場参入後・・物価の番人としての日銀あるいは先進国の中央銀行の役割は、成熟社会では既に終わっていると言うべきです。
物価は新興国=輸出国の生産コストに比例するのであって、輸入国の金融政策によることはあり得ません。
何事も一時期有効だった制度は次の時代には無用の長物になることが多いのですが、日銀等の金融政策はその最たるものでしょう。

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