貿易赤字下の円高3

個人ではなく、企業の方も蓄積があるのとないのとでは必死のになる気持ちが違うでしょうし、本気になって頑張ろうと思っている矢先に赤字なのに円が上がってしまえば、努力する気力が失せてしまいます。
貿易赤字=競争力がなくなってから直ぐに円が下がり始めれば、国内産業が壊滅までしないうちに競争力の復活が容易です。
貿易赤字=国際競争力がなくなっても、なお所得収支や移転収支の黒字があるために結果的に経常収支が黒字のままの場合、為替力学上は円がなお上がり続けることになります。
所得収支の黒字が大きいので10年や20年赤字が続いても大丈夫とした場合、その間円は上がり続けることになります。
貿易赤字になってからも仮に10年も20年も円が上がり続けると、貿易上のハンデイが重たくなる一方ですから、国内産業が根こそぎなくなるまで進み、修正・復活能力が途切れてしまうリスクがあります。
(20年後に円安になって採算が取れるようになったので、イザ製造業を復活しようとしても技術の継続性が途切れてしまうでしょう)
我が国の場合、貿易赤字になっても所得収支の大幅黒字があるので大丈夫・・心配がないように思っている人が多いと思いますが、ギリシャ危機の根源が、継続赤字下でも独自の通貨がないために為替の切り下げが出来ないところにあるのと同様で、所得収支や移転収支の黒字が却って国際競争力を反映するべき為替の切り下げを遅くしてしまって傷を深くするリスクにもなります。
貯蓄が悪い方に作用することもある・・何事もプラス面とマイナス面がある一例です。
親世代に資金力があると若者がハングリーでなくなって挑戦力が弱くなり気に入った仕事がなければモラトリアムになりがちです。
以上貿易赤字下の円高のリスクを書いてきましたが、これを防ぐには所得収支の黒字に頼らない・・海外利益はそっくり海外に再投資して行けば、貿易収支の赤字がそのまま円安に振れることになります。
移転収支・・海外からの投資が少ない(もっと魅力のある市場にしろ)というマスコミ意見が多いのですが、資金が入って来る(資本収支の黒字)とさらに円高に振れますので、意味のない意見です。
逆に海外資金は出来るだけ引き上げてもらった方が、為替相場が円安方向に振れて好都合です。
最近の日本株式市場の値下がりは海外投資家の引き上げによるものですが、(有り難いことに円高のブレーキ役にもなっているでしょう・・)その穴埋めに日本国内資金が向かっているようですから、言わば日本企業に対する海外投資家比率が下がって目出たいことです。
トヨタや日産、ソニーの業績を心配しても、その海外投資家株式保有比率が仮に8〜90%も上がっているのでは、日本人にとってはトヨタの儲けは海外の投資家に大方行ってしまうので意味がありません。
ちなみに海外投資家比率はNECで25%、東芝やパナソニックも15〜20%前後で似たようなものですが、韓国ではアジア通貨危機以降海外投資家比率が大幅に上がってしまったようです。

発電所の消費地立地4(コンパクト化3)

消費地である東京に製鉄や発電所を立地しないのは、汚いものや危険な公害型産業を遠くへ追いやる意識が底流にあるからではないでしょうか。
安全性に問題がないならば、(原発は別としても火力発電所くらいは)東京の消費量から言えば、各区に1基くらいずつの大型発電所あるいは東京湾岸エリアに千葉にある火力発電所程度の大きさのものをいくつかまとめて造っても良い筈です。
東京のど真ん中に造ることによって送電ロスが減り、身近に生活する都民の厳しい意識が、より安全で効率の良い発電所(CO2排出削減努力)に変えて行けます。
民主党以前の政府や電力業界が主張していたように本当に原発が安全ならば、大量消費地に近い東京湾岸に多数立地するのが合理的です。
都内に立地する気が全くない・・こんなことを主張するのは狂気の沙汰と思う人が多いとすれば、誰も安全神話など信じていないし科学技術の発展を誰も信じていないことになります。
June 11, 2011「巨額交付金と事前準備3」前後からJune30 2011「交付金の分配」までの連載で、地元では巨額の交付金を得ていたので、危険性があることを前提にした損害賠償の前渡し金だったのではないかと書きましたが、都内に原発を造るなんて論外だという意見が普通だとすれば、過疎地への原発交付金は、やはり危険手当だったのではないかとなります。
電気の場合、利用場所において操作が簡便になりクリ−ンになったのでツイ誤解しがちですが、遠くでエネルギー変換出来るようになったことによって、目の前から見えなくなって危険性のごまかしが利いているだけではないでしょうか?
(蜂蜜はうまいが蜂から蜜をとる作業は危険です)
産業革命以降原産地と消費地との距離を離して行きさえすれば、消費者にとっては安全になる仕組みが考案され・すなわち輸送コスト安+鮮度維持技術の発達によります・・アフリカ沖のマグロの刺身を東京で食べられる時代です・・安全になった錯覚が生じていたのですが、今回の原発事故によって、危険なものをどんなに遠くへ持って行っても放射能汚染は地球規模の問題ですから、ごまかしが利かなくなりました。
今後は距離で何とかするのではなく、規模のスモール化と管理技術を磨いて行くしかないでしょう。
極小化・・今の火力発電所の一基当たりの規模を1000分の1程度にすれば事故があっても大したことがないでしょうし、燃料も原油そのまま使わないで爆発し難いように別のものに変換してから使うなど工夫が発達します。
原発もウラン自体を別のものに加工して原発で使う段階で事故があっても安全化するなどの工夫が発達するべきでしょう。
電気の場合スイッチオン・オフが瞬時に出来るのは利用場所においてだけであって、発電現場ではスイッチで瞬時に発電したり瞬時に停止出来ない・・一旦止めたら再運転するのは大変なことから見ても象徴的です。
(原子炉はどのようにして廃炉するかすら分っていないのに、発電だけ始めてしまったようです)
これからは、危険なもの汚いものを遠くの見えないところに持って行って安全になったように錯覚して安心しているのではなく、如何に制御して安全化し、且つコンパクトにして身近においても安全にするかの工夫・技術開発が望まれます。
我が国の清潔度・感性の高さは世界一級ですが、これは1月2日に炭火の利用例で書いたように古くから、使用の場と造る場をウマく切り分ける技術が発達していたからです。
現在ウオッシュレットが発達してからのトイレのクリ−ン化はやはり世界に冠たるものですが、これなどもわが国の分離の成功例でしょう。
今では身近・台所の隣にトイレがあっても、汚いと思う人は滅多にいないでしょう。
かと言って家の裏で汲取業者一人が汚物を処理しているのではなく、今は下水を通じて流れて行き、各自治体ごとの週末処理場でも機械化しているので、担当者が汚い非衛生な目に遭っている訳ではありません。
台所のクリーン化・コンパクト化はガス、水道、電気の発達とゴミ処理技術の発達に負うところが大きいでしょう。
小金井市長がゴミ処理問題で引責辞職せざるを得なくなった事例でも明らかなように、クリーン化は自前で後始末までしてこそ完結出来ます。
電力も東京都等大消費地が自前で発電すべきであり、電気は消費地生産の方向で管理技術を磨いて行くことが、これからの主要課題であり、(今のところ電力はすべての産業の文明化の基礎ですから・・)この解決が国際競争力の維持に繋がると思われます。
この問題はまだまだ書きたいけれども、大災害に負けずに奮起して欲しい正月特別番組としてはここで一旦終わりにして、(このコラムは前日・6日に書いて翌午前零時にオープンしていますので)明日から年末(12月30日)までのテーマに戻ります。
ちなみに私の事務所は例年通り1月6日から仕事始めですが、仕事に出れば初日から晩まで来客予定が詰まっていました。
昨年地元老人会から相続問題の講演・解説を頼まれて、ウイークデイは仕事の予定が一杯なので困ると言ったところ、町内の役員としては私がとっくに隠退していると思っていたらしく(土日の方が家族団らんのために時間を取れないからウイークデイの方が良いと思っていたようです)、こちらが逆に驚いてしまったことがあります。
私はまだまだ50代くらいの気分で仕事をバリバリしているつもりですが・・・・まだ若いと思っているのは自分だけかも知れません。

発電所の消費地立地3(コンパクト化2)

産業発展の歴史はすべての分野での小型化競争の歴史でもありますので、先ず発電部門で日本が超小型化競争・・効率化競争に入ることが重要です。
独占(九電力体制)維持のために電力業界ではそんな研究はしたくないでしょうから、今の九電力体制のままでは望み薄ですが・・我が国はものを小さくして行く技術特性のある国民性ですので、この分野の競争にまじめに取り組めば必ずや世界に先駆けた開発に成功して有力な輸出商品になる筈です。
また電気関連はすべての利便設備の基礎ですから、基礎技術が他国よりも早く進化すればそれだけいろんな業種での競争が有利になります。
いきなり今の大型発電所と同効率で、各家庭で使う程度の発電機の小型化までは無理でも、大型ビル4〜5個あるいは数街区規模に供給する程度の中型火力発電所の効率化を工夫出来れば、送電ロスや送電線の建設や維持コストが殆どなくなります。
また、発電所が細かく大量に分散していれば、1カ所の事故があってもその影響は限定的ですし、網の目のようにある隣接発電所からの融通で間に合わせられるので補完性も優れています。
一カ所の事故で大規模な停電が起きる心配がなく、災害やテロに対する安全性も優れています。
ところで、今のところ大型発電所しか効率上造れないとする意見が正しいとしても、(電力会社の独占維持のために発電装置小型化の研究開発費が出ないとすれば、日本にとって不幸なことです)送電ロスをなくし、テロその他の災害ダメージを少なくするには各消費地ごとに大型発電所を分散するのが合理的です。
福島原発では6号機までもあって更に増設する予定で今回の事故になったのですが、1基当たり一定規模の大型発電が必要なことと、一カ所に6〜10号機までも集中して造る必要性とは一致しません。
せいぜい1号機だけよりは集中管理出来て(所長が一人で済むなど)管理コストが安くなる程度でしょう。
管理費合理化程度ならば、送電ロスや膨大な送電網の維持管理費との損得の外に、一カ所がパーになると大規模停電になるリスク等と比較すれば、危機管理上から見ても分散立地する方が合理的です。
10号機まで集中すれば一カ所の警備で済みますが、その一カ所からの送電延長距離が伸びるので長大化した一カ所でもテロに遭うと全部停まってしまうリスクがあって、長大な線に沿った警備や保守維持に苦しむことになります。
超高圧線は山奥・稜線を利用しているので、警備の車が巡回するには不向きで歩いて巡回するしかないのですが、毎日1回も巡回し切れないでしょうし、巡回の合間を縫ってテロリストが潜伏して破壊するのは簡単です。
道らしい道がない場所ばかりなので、破壊されてから修復に駆けつけるにも(資材の搬入にも重機を使えないなど)日数を要します。
火力発電所も同じで、大型化の必要性だけから首都圏の需要を、千葉や神奈川県の大規模火力発電所ですべて賄う必要まではないでしょう。
仮に今のところ大型発電機しか効率が悪くて造れないとしても、最大消費地である東京都区内(輸入原油や石炭に頼る・・大量の海水を使うとしても東京にも海岸がありますよ)に全く発電所を造らないことの説明にはなりません。

危険と隣合わせ3(発電所の消費地立地1)

利便性と距離およびコンパクト化の解決策としては電気は多方向(医療機器もすべて電気利用です)で大活躍ですから、電気発明以降の社会では、電気製造・運搬利用技術とその管理をどうするかによって、社会生活のレベル(文明度)が決まって来ます。
以下電力関係に絞って書いて行きます。
電気は普及当初から遠隔地で石炭を燃やすなどして製造出来るので、利用する場所では生産に伴う煙・熱・臭気騒音などに悩まされなくても良い上にオン・オフが簡単・・使う人にとって便利なものでした。
工業地帯と旧市街地を分離することで造る人の作業環境がどんなに劣悪でも、利用者は気にならない・分らない関係になりました。
電気自動車・電気エネルギーにすればクリーンだなどとマスコミは報道しますが、それは、車や事務所・台所等エネルギーを利用する場所ではクリーンであるだけで、電気を造る場所ではどうなのかの議論がありません。
その矛盾が露呈したのが今回の原発事故でしょう。
もしも電気が安全でクリーンであるならば、消費場所に最も近い東京湾岸・お台場辺りりに火力発電所や原発をドンドン造ったらどうかの議論が必要です。
電気は遠隔地から運んでも電気自体の性能は同じです(魚その他の食品のように古くなると味が落ちたり腐りません)ので、つい遠隔化する一方ですが、実は送電ロスがあります。
(距離に正確に比例し電圧にほぼ反比例します)
個人のブログによりますが、(客観性は不明です)送電ロスは平均して約5%(2000年のデータで年間約458.07億kWhの損失・100万キロワット級の原発6基分)らしく、東電に限定すれば、2002年度損益計算書では送電費と変電所維持費に6000億円あまりかかっているそうです。
(本来の送電コストは、ランニングコストだけではなく初期投資・建設費や用地取得費用がかかっています)
平均コストでは分り難いですが、火力は東京湾岸(千葉と神奈川両県)に集中していて遠くても70km前後ですが原発は近くても200km以上ですから、原発の方がロス率が大きく送電コスト(高圧線の維持管理費)が多くかかっていることになります。
火力等を電気に変換する過程で約5割もロスがあって、電池に加工すれば、その加工段階の歩留まり次第で大きなロスが発生します。
節電節電と言いますが、個人の節電も必要ですが、国民は昨年充分に節電して来たのでこれ以上節電できるのは多寡が知れていますし、節電疲れを起こすと(薄暗い駅舎など)国民の活力を弱め、生活水準を落とすことになります。
今後は、節電よりは消費地のビル10〜20棟をまとめた街区ごとの公園地下などでそれぞれの地域利用分を小型発電する工夫・・場合によっては義務づけなどに取り組む方が送電ロスとコストが少なく合理的です。

ポンド防衛の歴史3

英連邦諸国は弱いポンドとリンクすることによって、交易上有利な地歩を築き(為替切り下げ競争に成功したのです)スターリング諸国の域外国との貿易黒字が増加しましたが、黒字分はポンドで預金されたままになるので、イギリス単体では貿易赤字でも、域内国の持って来た黒字分のドルで買い物が出来ました。
たとえば、インド国内で調達した莫大な戦費は、ルピアで調達され、これの支払い債務の方はポンド預金に切り替えられたので、預金という記帳で済ませただけで実際に支払われていませんでした。
イギリスはこれを流用して、諸外国との貿易赤字の穴埋めに使えたことになります。
(終戦時のインドのポンド預金は11億ポンドあまりと言われ、このように、域内に対しては預金通帳の交付だけで支払をしていなかった・・預金残高分だけ対スターリング地域内での赤字が累積していました。
域内・親戚からの借金で、ポンド維持・対外的メンツを保ち莫大な戦費を調達していたのです。
イギリスは戦時中は特殊事情としてスターリング諸国の売上金流用で、自国経済を賄っていましたが、戦後これの支払(返還)に窮することになります。
話題が変わりますが、戦後インドの独立運動が激しくなって行った原因には、この不払い・経済問題の不満が大きかった可能性があります。
スターリング地域の設定は、歴史教科書ではブロック経済の始まりで、このために世界経済が混乱して世界大戦に突入して行ったとされていて、それは貿易の動きではその通りでしょうが、為替切り下げ競争・ポンド防衛から始まった点も見逃せない視点です。
すなわちスターリング地域の結成が結果的にブロック化したのは事実でしょうが、その前にイギリスにとってポンド防衛が急務だったのです。
弱含みのポンドの切り下げにリンクしたことによって、貿易上有利になった英連邦諸国が貿易で儲けた外貨・・ドルや円、マルクをロンドンに持ち込んでポンドに替える→イギリスはこの外貨・ドルで対外決済を出来るのでイギリスの貿易赤字がこれで穴埋めされてポンド下落を防げる・・その代わり域内諸国に対してはポンド債務・・ポンド預金が増える仕組みでした。
言わば今のアメリカが世界の基軸通貨国である結果、貿易赤字分を日本や中国からのファイナンス(アメリカ財務省証券や公社債を買わせて)で資金環流を果たしているのと同じような結果を、スターリング地域の設定によって果たしていたと言えます。
しかし、これも戦時経済の特殊性で許されたに過ぎず、いつかは域内に対する膨大なポンド債務の決済をしなければならないことは重荷として分っていました。
戦争が終わりに近づく1943年4月にケインズの考えによる「国際清算同盟案」が策定され、この頃から、その解体・清算・決済への準備・計画が進んで行きます。

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