責任政党と批判政党(ストレスの受け皿)1

立憲民主党は「確かな野党」という立ち位置が明瞭ですから、批判オンリー政党であればいいので政策実現可能性を前提にする必要がありません。
ただし、批判するだけの政党って本来的意味の政党と言えるのかの疑問がありますが、世の中には何事でも不満を言いたい・批判だけしていたい人が一定数いますのでこういう人の受け皿も社会システムとしては必要でしょう。
これがないとフラストレーションが積もって、社会不安がたかまります。
日本は江戸時代以降余ったエネルギーをお祭り騒ぎで発散させていたし、今は学校では青少年がクタクタになるまで部活でしごいていて暗くなって自宅に変えると風呂に入って食べてすぐ寝てしまう生活になっています。
大人に溜まっているフラストレーションは、安保法反対・憲法守れ等のシュプレヒコール程度の発散で治るのですから安いものです。
「憲法守れ」と自分で言っている以上テロ行為に走りません・・安心・平和な社会です。
希望の党は政権交代できる政党・・責任政党を標榜して結党した以上は、正規雇用になるのを支援する・労働者をこれに誘導するためには、具体的な道筋を提言するべきです。
正規社員総数は、経済動向に左右されるので景気を良くして全体の規模を大きくするというならば経済政策次第ですが、希望の党の経済政策を見ると「アベのミクスは失敗している」というだけではどういう政策を提案するのか不明で、具体論で見れば電線地中化などあまりにも瑣末すぎて(箇所付けのレベルであって)経済政策とは言えません。
具体的な社会のあり方を掲げないで、「正社員で働けるように支援する」という希望の党の公約をみると、「正社員」というものをカチッと決めてそれ以外の働き方をイレギュラー=非正規社員と区分けした上で、現在の正社員の比率を上げる・・現状が、労働人口の6割が正社員とすればこれを一人でも多く・65%〜70%へと増やしていく公約のようにも読めます。
イメージ的には現在行われている正社員との差異最小化に向けた細かな政策実現努力よりは「臨時採用をなくして正社員中心社会にします」という単純化したスローガン強調をしているだけの印象受けた人が多いのではないでしょうか。
経済の必要性で決まっていくことを政治の力・権力で何ができるか?ということですが、権力で出来ることは(経済や社会の動向に反したことでも)一時的にできることは、「飴と鞭」・・・権力に迎合するグループには補助金交付や有利な地位を与えて優遇し、権力の志向する方向に逆らうグループには不利益を与えるのが政治権力による誘導です。
これの具体化をするには、非正規雇用者を必要以上に不利に扱う(保険や年金各種信用情報で不利に扱う)ことで何が何でも(韓国の就職浪人のように就職塾に通ったりしてでも)正規雇用就職運動に誘導することならば権力で可能です。
我が国で言えば、明治民法以来婚姻制度維持のために嫡出子と非嫡出子の相続分の差をつけるなどの嫌がらせが行われていましたが、これによって正規婚姻がいくら増えてもトータル的に無理が出ませんが、非正規就職者をいくら不利に扱っても正規就職できない労働者が困るだけで社会全体の正規社員が増える関係にはなりません。
しかもこのような政策目的による非嫡出子に対する差別は、不合理なもので憲法違反であるという最高裁判決が出て法改正になったばかりです。
http://yuigonsouzoku.jp/souzokubun/h250904.html

非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする民法の規定を違憲であるとした最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定
「・・・法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。・・・」

まさか希望の党は非正規の労働条件を今よりももっと厳しく(不利に)して非正規就労を嫌がるような社会にしていくつもりでないでしょうが?そうであるならば多方面の政策をセットで発表すべきです。

希望の党の公約7(正社員を増やす?3)

11月26日以来内部留保・手元資金問題が割り込んでしまいましたが、希望の党の公約である「正社員で働けるように支援する」というテーマに戻ります。
選挙が終わってからこのテーマの連載では、読者によっては気の抜けたテーマと思う方がいるでしょうが、ムードに頼る選挙・実現する気持ちが全くない公約で選挙民のウケを狙う選挙が行われるのでは社会にとって害悪です・・・こういう公約が堂々と発表されるのでは健全な政治議論ができない・日本のために良くないと思うので、(選挙中には自制して書かなかったのですが)以下書き続けます。
政党が公約に掲げる以上は、他の政策と矛盾しないか既存システム改廃の可能性・・利害調整が可能かの実現性有無を吟味した上での意見を言うべきです。
「実現の可能性はないが顧望を言って見るだけ」という無責任な公約では困るからです。
そこで「正社員で働けるように支援する」と言う公約を実現する場合どのような社会を想定しているかを、まず決める必要があります。
正社員の定義がはっきりしない点・終身雇用的理解を21〜23日頃に書いていますが、非正規雇用の拡大・待遇改善が社会的テーマになっている関連で考えれば、正社員とは非正規雇用の対比で使用しているものと考えられ、結果的に雇用期間の定めのない社員を正社員と称するのが常識的用語になっていると思われます。
そうとすれば、「正社員で働けるように支援する」という意味は、期間の定めのある労働比率を下げて正社員比率を上げるという意味になるように思われます。
私は正規と非正規の区分け・「正式の雇用と正式ではない雇用」という二分論自体・・期間も労働内容も無限定な終身的雇用を「正式」それ以外は正式ではない」という社会構造を固定化するのは問題がないか?の視点でこのシリーズで書いてきました。
長期継続を原則とする社会では労働者や生徒あるいは嫁、借家人等々弱者の地位が安定しひいては社会安定にもつながり良い面があることは確かです。
しかし、この仕組みは、先祖代々の職種しかなくひいては世襲の職場以外にない・女性が離婚すると再婚しない限り独立の生活を営めない・学校や就職先でいじめがあったり、自分の適性に合わないからと途中で辞めると同等の受け皿がない等々のりゆうで修正可能性の乏しい社会を前提に出来上がってきたシステムです。
数百年前から続く事業しか世の中にない時代が終わり、新規事業創出に向けた国際競争が熾烈な現在、能力さえあればいろんな分野での活躍チャンスのある社会になると、固定社会を前提とする終身雇用システムは一旦就職したものの途中別のことをやりたい人にとってはむしろ窮屈な社会になり発展阻害によるマイナスの方が大きくなります。
他方企業の方も国内外で日々新規事業分野開拓の競争があるので、雇ってみて外れ人材であっても才能不足・不適合理由では(証明困難で)解雇不能社会では困るし、新規事業分野挑戦目的で採用したものの、事業開始してみると予想が外れて不採算でも配置転換等の努力をした後でないと簡単に解雇・人員整理できないのでは、怖くて採用を最小限に絞る傾向・企業としてはチャレンジ意欲にブレーキがかかります。
被雇用者も就職してみて企業内環境や方向性が自分に合わないと思っても(終身雇用=中途採用市場不足)定年前にやめると再就職先が簡単にみつからないので、不適合のままくすぶった人生を送るしかない不健全なことも起きてきます。
社会構造の変化が激しい時代には、長期変化のない安定社会向け終身雇用・継続関係重視の仕組みは労使共(各種契約当事者)に社会の変化について行けないマイナス面が大きくなります。
全員が全員自由競争をしたい人ばかりではないでしょうから、必要な人から順に自由市場型生活を選べるように社会を柔軟に変えて行く姿勢が必要です。
必要を感じる人の自由移動を白い目でみたり嫌がらせ的冷遇(保険や年金制度からはずすなど)をする必要もなければ、逆に特別優遇する必要もない、政治は自然の流れに合わせて従来型労働形態に合わせてできている諸制度のうちで新型労働契約に不合理に不利にできている部分の修正等に努力すべきです。
この点はLGBTであれ、各種障害者や女性や子育てや介護中の人の就労環境であれ同じです。
一般に言われるクオーターのように実力以上に優遇するのは、なぜ優遇しなければならないのか?(たとえば人口比率比例して知的障害者や身体障害者を国会議員や大学教授や企業役員にすべきだ・上場企業の何%を知的障害者をトップにすべきだといえば、おかしい主張だと誰でも思うでしょう。
職業は能力に応じて就職できるべきであって、弱者認定さえあれば、一定率で就任できるものではありません。
クオーター制は実質的不公正を政府が強制する結果、贔屓の引倒し的側面もありうまくいかないでしょう。
必要以上に不利益な制度は改めるべきですが、能力がなくとも一流大学や1流企業の宰予数を同数・・例えば男女同数あるいは各種障害者の人口比率にあわせるべきとなってくるとおかしくなってきます。
最近弱者ビジネスという言葉が流行していますが、一旦被害者の立場になると何をしても要求しても許されるかのような振る舞いをする人・クレーマー・モンスター保護者などが増えています。
希望の党が、「正社員で働けるように支援する」というスローガンを掲げれば正社員が増えるものではないだけではなく、もしも自然の変化を政治が妨害してその流れを止めて正社員比率を引き上げようとするのであれば邪道です。
終身雇用の基礎にある精神・・よほどのことがないと一旦できた関係性を断ち切れない社会構造の典型的場面である借地借家制度や婚姻法制がこの数拾年で大きく変化してきたし、最近では労働契約解雇法制改正(金銭解決)の機運が俎上に上ってきた事情をこれから紹介していきます。
共通項は、長期関係切断による不利益を受ける方(多くは弱者)の期待利益保障が基礎にある点を直視して・・切断を禁止するのではなく、期待利益保障整備の進展具合を総合した雇用や生活保障の問題に移ってきていることがわかります。
離婚に長年抵抗があったのは主として離婚後の生活・・子育てに不都合があるからですが、今は社会の受け皿が揃って来たので(実家の経済力が気にならなくなり)4〜50年前に比べて離婚のハードルが下がっていることを見れば実感できるでしょう。
正社員(毎週約40時間以上働けるか必要に応じて残業ができるか転勤可能等)かどうかで「正式な市民」になれるかどうかが決まるのでは窮屈すぎます。
1日数時間しか働けない人、午前中だけ〜午後だけ働ける人と8時間連日働ける人や、2〜3年で技術を習得したらやめたい人、場合によっては定年までそのまま働いてもいいが、途中4〜5年別のことをしてみたい人・転勤可能な人とそうでない人などの多様な働き方を前提にした社会にした方がいいでしょう。
働き方の違いによって待遇(給与体系等)が変わるのは仕方がないとしても、働き方の違いに比例した合理的待遇差にすべきということではないでしょうか?
実際にこの数年「同一労働・同一賃」政策やパート臨時雇用に対する年金制度の拡大・社会保険制度加入など具体的な変化が進み始めています。
実際にこの数年「同一労働・同一賃」政策やパート臨時雇用に対する年金制度の拡大・社会保険制度加入促進など具体的な整備が進み始めています。
これに対して希望の党が政府と施策とは違う「正社員で働けるように支援する」という公約は何をどうしたいのかまるで見えない・現在の政策方向をどのように変えるという主張なのか不明です。
希望の党は政権交代可能な政党として結党したという大宣伝で売り出した以上は、「正社員で働けるように支援する」公約を希望の党が政権を取った場合にどうやって何をするのかのビジョンとセットでければなりません。

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