労働分配率低下論1

ところで、好景気というが日本の労働分配率が減り続けているという煽り報道も時折見かけましたが、これもおかしな議論です。
これも「窮乏を極め」という意見の背景.互助会的応援報道の一種でしょう。
不景気の時には収益を犠牲にして社内失業(6〜7割しか仕事がなくとも解雇せず頑張る)を抱えてじっと耐えている企業が日本には多いので、その結果不景気下では売り上げや収益比で労働分配率が上がるのが普通です。
(社内留保のテーマでも書きましたが、こういう時のために一定の蓄積が必須です)
好景気になるとようやく(ラーメン店員で言えば、稼働率8割が損益分岐点をとすれば1時間に2〜3人しか客が来なかったのが2倍の5〜6〜10に人来ても店員の給与は同じで稼働率8割までは経営者の赤字補填が減るだけです。
分岐点の稼働率8割を超えてもなお2割の余裕があるので、定時勤務時間中の労力投入量が8割を超えて少し利益が出るようになってもこの段階では経営者が過去のマイナス補てんや将来に備えての利益蓄積〜配当資金段階となり人件費は上がりません。
稼働率10割を超えて残業が増えて従業員の収入が増え普通の利益配当を出せるのであって、それまでの景気回復局面では労働分配率が下がり続けるのは当たり前の原理なのに、なぜこれを大騒ぎしているかという疑問です。
私のうろ覚え記憶や素人考えのみでは頼りないので、以下の論説を紹介しますが、これによると今年の総選挙直前頃に騒ぎになってメデイアを賑わしてたことがこれでわかります。
http://www.toushin-1.jp/articles/-/4126

2017年9月19日
アセットマネジメントOneで調査グループ長を務めます柏原延行です。
・・・今回は、2017年9月12日付のコラム『労働分配率の低下を考える(1)企業利益は絶好調なのに…?』のつづきです。
労働分配率低下のもうひとつの要素である労働者の取り分(賃金)の上昇ペースが鈍い理由について考えたいと思います。
労働分配率の低下が意味するものは、企業の利益環境と比較して、労働者の取り分(賃金)の上昇ペースが鈍いことを示すことをお話ししたうえ、まず、企業の利益環境を整理しました。
「企業の利益環境が絶好調」、かつ「失業率が3%程度まで低下し、労働供給がひっ迫」していると思われる日本において、なぜ、賃金の上昇ペースが鈍いかは、「労働経済学上の大きな謎」といっていいのではないかと考えます。
労働経済学の先生方もこの課題に答えるべく、様々な研究成果を発表されています。
・・・・玄田先生からは、「①労働市場の需給変動、②行動経済学、③賃金制度、④規制、⑤正規・非正規問題、⑥能力開発・人材開発、⑦年齢」という7個のポイントをご教示いただきました。
代表的なイメージをご説明すると、
「①労働市場の需給変動とは、労働市場における需要・供給曲線の変化など」、「②行動経済学とは、賃金に下方硬直性があったことが、環境が好転しても上昇硬直性を生む要素となっていることなど」、「③賃金制度とは、1980年代との比較で2000年代の人事制度が株主価値最大化・市場価値重視型に変わった可能性があることなど」と捉えることができると思われます。

私の素人的着眼点は上記のうちの「②行動経済学とは、賃金に下方硬直性があったことが、環境が好転しても上昇硬直性を生む要素となっていることなど」に当たることがわかります。
特に我が国では大手に限らず小売業の店員など非正規でも簡単に解雇しないので、これが最大要因ではないでしょうか?
好景気になっても、繁忙性が一定限度を超えて(残業増で対処して)から、雇用増になるなどの時間差がありその次に雇用獲得競争が起きて募集賃金の上昇(現在はこの段階?)・同時的に人手不足解消目的で省力化投資・ロボット化進展など順次の連鎖がありコストに占める人件費率が下がる一方になるのは分かりきったことです。
そこで労働分配率とは何かの定義を見ておきましょう。
だいぶ前に書いた記憶ですが、労働分配率とは、収益との比率・・結果的に総コストに占める人件費率のことです。
例えば、http://www.first-kessan.com/category/1329922.htmlによると以下の通りです。

たとえば、商品を800円で仕入れ、1,000円で売るならば、会社が200円の価値を付け加えたことを意味します。
「付加価値額」とは、ほぼ「売上総利益」と同じと考えて下さい。
労働分配率とは、「付加価値額」に占める「人件費」を知ることです。これによって、会社に占める適正な人件費を知ることができます。
計算式は、以下のとおり。
労働分配率(%)=人件費÷付加価値額

上記例で200円の付加価値を生み出すコストと人件費率が何%かということですが、製鉄その他固定経費率の高い企業ほど人件費比率が下がります。
理想的形態である100%の全自動になると、製造原価に占める人件費としては、作業員ゼロになって製造システム監視部門やメンテナンス・.この辺もシステム設置企業への外注にしてしまうと人件費ではなくなります・・あるいはシステム更新などの企画部門その他の間接部門経費中心になります。
100%オートメ企業がないとしても、多くの事業主体ではこの比率をあげる工夫・その競争下にあること・・すなわち、人件費率低下競争下にあることが確かです。
我々弁護士のような時代遅れ業態でさえも、平成に入った頃からタイピスト不要になりファックスやメールの発達により、事務員が裁判所や相手方事務所へ一々書類持参のために行き来する時間を大幅節約しているので、中規模事務所で過去に10数人必要であったのが7〜8人で済むようになっている代わりに機器や通信コストがあがっているなど人件費率の削減に貢献しています。(サラ金事件の複雑な利息計算もソフトを使えば瞬時にできます)
下請け作業要員送り込みの「何とか組」などでは、人件費率が9割近い・.人件費以外のコストといえば事務所家賃や現場往復用送迎車のコストや電話コピー機くらいでしょうが、現場作業系でも職人派遣だけなく足場まで持つようになるとそのコストが増えますし、土木系も重機を持つようになると人件費以外のコストがグッとあがります。
商店では露天商の場合には人件費率が高いでしょうし、低単価の居酒屋でも皿洗い機次第で人件費率がまるで違うでしょうし、高級店になるほど出店料や照明や高級仕様の環境投資がかかるので人件費率が下がります。
国でいえば先進国ほど公園や街路の整備などインフラコストがかるのと同じです。
この10数年零細商店でも小綺麗にしているし、カード利用が増えるとスーパーのレジ要員を減らせる代わりにカード会社への手数料支払いが増え人件費比率が下がります。
このように工場のオートメ化、ロボット化が進展すればするほど人件費率が下がるのはあたり前・・元々人を減らすための電子化、機械化、ロボット化ですから好景気→人手不足になれば当然の結果です。
総収益が同じでもオートメ化が進み、例えば人手が100人から10人に減ると労働分配率が(ひとり当たり給与水準が同じとすれば)9割に下がります。
人件費率の低下は、国際競争上前向きの動きの結果であり、ちょっと考えればすぐバレるような変な意見を鬼の首でもとったようにメデイアで「なぜ賃金の上昇ペースが鈍いかは、『労働経済学上の大きな謎』と紹介されています。
専門家からすればいろんな微細論理が残っているでしょうが、素人的に単純に理解すれば謎でも何でもない、自明のことではないでしょうか?

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