新旧日米安保条約と日本の防衛1

岸政権の60年安保改訂交渉は、米軍の意思次第でいつでも軍が日本人を鎮圧出動出来る権利を認めた第一条削除を筆頭に占領軍としての米軍を(今もアメリカの支配下にあると言う実質は別として)法形式上全面否定した・・形式的にも日本独立後約10年経過でようやく軍事的独立を果たした大成果でした。
占領軍の本質を前提とした旧条約では,法律上も駐留軍は肝腎の日本防衛義務を全く負わない仕組みでした。
アメリカとしては日本を占領支配するだけで何の義務も負わなかった占領軍の本質が、独立前の竹島占領や北方領土占領を黙認した基礎に繋がっているのです・・。
昨日紹介した旧条約の条文によると共同防衛義務が全く記載されませんが,元々米軍は占領軍でしかないからアメリカとしては日本の独立を認める代わりに占領軍が従来と何ら権限が変わることなく継続さえ出来れば良いのであって、日本を防衛する義務など想定すら出来なかったからでしょう。
アメリカ軍支配を侵す勢力があれば、アメリカ軍の支配地(縄張り)を守るために?撃退する関心があっただけです。
強盗が折角の略奪品を奪われそうになればこれを撃退するのと同じで,被害者を次の泥棒や強盗から守る義務などに関心がありません。
「占領支配の沽券にかかわるかどうか」だけの関心であったから、北方領土でも李承晩ライン・竹島(要は漁業権の争いですからアメリカの軍事関心「沽券」には関係がなかったのでしょう)もスキなようにさせていたことが今の日露,日韓のしこりになって残っている原因です。
最早占領軍ではないと言う意味を明らかにするために60年安保では防衛義務を新条約第5条で明記させたのですが,相手の防衛義務を明記する以上は日本も相互負担するのは当然です。
日本で大騒動になった60年安保のテーマを見ておきましょう。
11月30日現在のhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E4%BF%9D%E9%97%98%E4%BA%89の記事からです。
「1951年(昭和26年)に締結された安保条約は、1958年(昭和33年)頃から自由民主党の岸信介内閣によって改定の交渉が行われ、1960年(昭和35年)1月に岸首相以下全権団が訪米、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領と会談し、新安保条約の調印と同大統領の訪日で合意。1月19日に新条約が調印された。
新安保条約は、
内乱に関する条項の削除
日米共同防衛の明文化(日本をアメリカ軍が守る代わりに、在日米軍への攻撃に対しても自衛隊と在日米軍が共同で防衛行動を行う)※アメリカ軍の防衛の明文化はされていないとの反論が多数されている。
在日米軍の配置・装備に対する両国政府の事前協議制度の設置
など、安保条約を単にアメリカ軍に基地を提供するための条約から、日米共同防衛を義務づけたより平等な条約に改正するものであった(※より平等でないとの意見もあり)。」
独立時の条約は独立を認める代わりの既得権として,(沖縄返還時の基地既得権自我条件だったのと同じです)基地無償使用権をそのまま維持するものでしたが,今度は日本に基地を置く以上は,日本の要請があれば日本防衛義務を分担する外、軍や設備の配置も米軍が勝手に出来ず日本との「事前協議」のタガを嵌めると言う当たり前の条約に改訂しようとするものでした。
「日本に基地を置きながら日本防衛に協力しないならば何のための条約だ!」となります・・まさに旧条約はアメリカが占領を続けたいだけの条約だったことが分ります。
昨日紹介した旧条約には、期限がない・・・破棄・・一方的なけんか腰の破棄をする以外には,やめらない条約でしたが,この改訂で10年間に限定されました。
もしも改訂が出来なければ、日本がアメリカと喧嘩するほどの関係にならない限り(今でもびくびくして付き合っていますが・・)アメリカは従来どおり植民地支配軍として「半永久的」に居座っていられる関係だったことが分ります。
ウイキペデイアの記事は当てにならないと言う批判がありますので,外務省の公式記録による60年安保条約そのものを見ておきましょう。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/jyoyaku.html
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
第一条
 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条
 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条
 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条
 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
第十条
 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
 もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。
 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。
 千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために
 岸信介
 藤山愛一郎
 石井光次郎
 足立正
 朝海浩一郎
アメリカ合衆国のために
 クリスチャン・A・ハーター
 ダグラス・マックアーサー二世
 J・グレイアム・パースンズ
上記を見ると,旧条約第一条の内乱条項がなくなり米軍が国内で勝手に軍事力行使出来ない・・当たり前の条約になっています。
代わりに第5条で日本施政権下の米軍に対する攻撃に対する共同防衛義務が明記されましたが,これは米軍日本防衛にあたることになった以上,日本防衛のために出動した多米軍と共同軍事行動するのは当然のことであって仮に明記されなくとも米軍と一体化して戦うベキは解釈上でも出て来ることです。
友人に引っ越しや大掃除をの手伝いを頼めば,頼んだ本人がテレビを見て遊んでいる訳には行きません・・喩えば、日本上陸作戦をしている侵略軍と戦ってくれているアメリカ軍に弾薬や食糧を届けたり見張り報告程度の協力をするのは当たり前のことです。
何故これが60年安保で大問題になったのか意味不明です。
以下に紹介するとおり,60年安保のときに極東の範囲を問題にしてソ連が,「歯舞色丹を返すのをやめた」と通告して来たこともありますが,旧条約で元々書いてあった上に,60年安保でも米軍の防衛義務は日本施政権範囲内だけですから,日本の施政権外での協同防衛義務はありませんから、何も変わっていないのです。
新安保条約でもソ連が日本の政権下の地域へ侵略しない限り共同軍事行動がないのですから,この条項をソ連敵視とソ連が怒るのは(ソ連を刺激すると反対する国内運動家も),日本侵略意図があると言う意思表示だったのでしょうか?
一方で極東の範囲が不明だと言うのも大きな反対理由になっていたようですが,この条文は元々旧条約に入っていたのですから,新安保で変わったことではないのに、何故国内で大反対理由になるのか?も不思議です(無期限条約でしたから,改訂しない限り旧条約のママです)し、ましてソ連が日ソ共同宣言を何故破棄出来る理由にするのか不明です。
日ソ不可侵条約破棄→満州から日本人大量に拉致したのと同様に、国際合意を守る気持ちが元々もない・・・相手が(国内デモストライキ等で)弱れば,何をしても言っても,しても良い・・力関係次第と言う信用出来ない体質が再び出ただけのことです。
こんな国相手に先行協力すると,(中国も韓国も日本の世話になるだけ世話になって今になると如何に日本をやっつけるかに智恵を絞るクニですが・・)取るものだけ取ってから「破棄する」と言うドンデン返しがいつあるか知れません。

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