南シナ海封鎖リスク1

南沙諸島が中国支配に入って・・海上輸送ルートが中国に押さえられて日本が困ろうとも、中国がアメリカと友好関係を約束するならアメリカにとって死活的重要性がありません。
ロシアのウクライナ介入やクリミヤ占領に対しても同じこと・・アメリカ国防に何の関係もない地域紛争に血を流すほどの関与したくない・・日本からグアムへの後退作戦も日本の(対中)戦争にアメリカが巻き込まれたくない・・守る気持ちがない意思表示です。
・・沖縄にいながら防衛協力しないわけにはいかないでしょうが、沖縄にいなければ「その内応援に行きます」と言う程度で済みます。
アメリカの年間軍事予算が日本の約13年分=13倍であることを昨日引用で紹介しましたが、アメリカの経済力が日本の13倍もないのですから、その差額分だけ国内政治に無理(長年の蓄積は大変な額です)が来ています。
大統領選の争点はアメリカ自身が世界に展開している巨大な軍事費に耐えられなくなっているのでしょう。
日本駐留経費が全軍事予算1%以下しかないと言うのですから、日本の防衛分担金を1割上げても全予算から見れば0、1%の財政改善効果しかありませんから、アメリカ得意のスケープゴート的アッピールしているだけです。
軍事費削減がテーマならば、99%を占める欧州・中東方面の軍事費を削減する議論をする方が先であるべきでしょう。
全軍事予算の1%足らずしかない軍事費を槍玉に挙げて大統領選のテーマになるコト自体、アジア軽視を態度で示していることになります。
アジア軽視と言うより、太平洋が広過ぎる・グアム・・これも遠過ぎるならば、将来ハワイを外郭拠点として守れば充分でないかと言う戦略的要素も無視出来ません。
中国が古来から西域の広大な砂漠の先まで拠点を常設する必要を感じていなかったのと同じ発想です。
アメリカの経済力に見合った長期戦略を合理的に考えて行けば、太平洋二分論・・当面グアムでの線引きは(中国が言い出したと言うよりは、)かなり前からアメリカ自身が決めていた基本戦略であったとみるべきですし、これを中国が再確認しているだけ・・だから明白に否定出来ないのだと思われます。
「否定も肯定もしないなら、態度を見てやるからどうするの?」と南シナ海で埋め立て強行してアメリカの出方を見ているのですが、やはりアメリカの態度は煮え切りません。
それどころかアジアでの現地政府の負担率アップの主張=アメリカ自身の軍事費削減まで大統領選のテーマにのぼっているのです。
ここまで来れば、アメリカは太平洋二分論を事実上認めている・・言わなくとも分るでしょう「行動・態度で理解して下さい」と言う段階です。
次に日中紛争が起きた場合、・・自然に起きるのではなく、中国がアメリカが手を出さないと見極めて・・タイミングを見計らって仕掛けて来た場合のことです・・。
前回のレアア−ス禁輸のような緩いやり方とは違い、今度は中国が軍事基地を設けて実効支配してしまった南シナ海の有効利用が当面の焦点になります。
「南沙諸島海域が中国の領海であるから、日本向けの船舶を通さない」と来れば大事件ですが、すぐに航行禁止しないで「領海通過許可申請をしろ」と来るのが第一段階です。
日本はこれ(中国領海)を認めるとその後全面通行禁止されても、異議を言えなくなるので、応じられないと言う政府の立場になるでしょうが、そうすると中国進出企業・・伊藤忠の日本国内向け船舶が中国の許可を取らないで南シナ海を航行すると喩えば、伊藤忠商事が中国で不法入国した企業として処罰や賠償金をとられてしまいます。
かなりの企業が中国に進出しているので、中国の要求に従ってしまうのではないでしょうか?
この辺の対策研究がどうなっているのか知りませんが、重要なことです。
南シナ海での埋め立て軍事基地工事は、フィリッピンやベトナムを相手にした行動ではなく、日本攻撃を主目的にしていることが明らかですから、安倍総理が必死に非難しているし、中国は「関係ない外野は黙ってろ」と無礼な発言を日本の外相にする訳です。
フィリッピンなどは漁船が行けない程度ですから、バナナその他の禁輸との天秤に掛ける程度で、フィリッピン大統領があまり問題にしていませんが、日本も尖閣付近の漁業損害程度ならば大した問題ではありませんが、船舶が通れないとなると大被害になります・・中国は尖閣諸島を直接軍事占領するのは国際的に難しい上に日米に反撃されると勝てそうもないリスクがありますので攻め口を変えて、無人の南沙諸島で埋め立てを始めたのです。
南シナ海は日米の領海でもないところですから、中国が一方的埋め立てを始めても、直接被害当事国を応援することが出来ても、当事国の応援要請がない限り軍事反撃する名分がないので直接打つ手がなく、せいぜい「公海で違法なことスルな」と言う非難をする程度しかありません。
中国は国際ルールでは勝ち目がないので次期政権抱き込み作戦に集中していて、筋金入り親中のドウテルテ大統領が今春就任したのは大成果・・作戦勝ちでした。
新大統領はは折角前政権が勝ち取ったフィリッピン有利な国際司法裁判所判決を一顧だにしない方針変更は、(アメリカ・・オバマが人権その他余計なことを言って中国寄りに追い込んでしまった失敗です)日本にとって死活的マイナス環境になったし、中国にとっては大逆転勝利と言えるでしょう。
インドネシアでも日本の新幹線採用がほぼ本決まりとして進んでいたのに、新大統領になるとイキナリ中国の新幹線に変更してしまいました。
権謀術数の凄まじさと言うべきか?道理も何もない・・抱き込めば勝ちと言う・・古代からのやり方を世界中で実行しているのが中国政治です。
日本にとっては南シナ海での通行遮断リスクは死活問題ですから、実は南シナ海の中国軍基地建設を巡る攻防は日中紛争の最前線なのですが、自国領海が侵害されていないので、直截打つ手がないのが最大の弱点ですので、フィリッピンの応援と言う形をとっていたのですが、トップの交代があり・・アメリカが人権問題で非難したり刺激して中国寄りに追いやってしまったのが大誤算です。
個別の人権も重要ですが、国家の違法行為放置の方がより大きな・・質的に違う人権侵害ですから、主権のある外国の内政に口出しするよりは国家の力で外国に対して違法行為をしている場合、こちらを先に解決すべき・・優先順位が違います。
このためにフィリピンと協力すべきときに内政干渉して敵方に追いやってしまったのは愚策です。
大義のためには戦死者が出る・小義を犠牲にすることすら厭わない・・兵士の戦死も人権侵害ですが、個々の人権より大きな大義があるからです。
オバマはこの優先順序を間違ってドウテルテ大統領を非難してしまったことになります。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC