南シナ海封鎖リスク2(大義と小義1)

中国の南シナ海の利用方法は、当面通行許可申請を要求する程度から中国向けの船だけ通行許可するが日本へ行く船の通行許可しないなどいろんなバリエーションがあり得ますが、ドンドン強化して行き最後に無許可航行船舶を拿捕するところまで行くとどうなるでしょうか?
アメリカが中国の領海を認めない・・ここは公海だと言って、従来のように年に1〜2回だけ自国海軍が強引に通行する・・「航行の自由作戦」を実行するだけでは、日本向けの船が日常的に航行出来ない状態が変わりません。
中国が違法に南シナ海を占拠して好き勝手に通行妨害するようになれば、法的にはソマリア沖で跳梁した海賊グループと同じことですが、タマタマ大国が公然とやっている点が大違いです。
ゲリラ勢力は神出鬼没・・警察が来たら逃げ回るのが本領ですが、ついにISと言う国家?を樹立したようなもの・・公海に海賊の基地を公然設営していてこれを黙認している状態です。
この無法状態を解決するために年に1〜2回米軍海軍艦艇がデモンストレーション行為をするだけでは、フィリッピンやベトナムの漁船が怖くて現場に日常的に近づけていません。
中国が南シナ海=公海を自国領海と勝手に決めて軍事基地を設けているのですが、これを利用して気に入らない国だけ航行妨害をした場合、ソマリア沖の海賊対策のように公海の自由航行権を守るためにはどうするべきでしょうか?
日本は自国領土領海を侵されていないので、従来型(日本特有解釈?)自衛権の範疇に入りません。
今の(過去の?あるいは戦後の)法理論では、対応出来ない事態が始まっています。
日本がソマリア沖に自衛隊を派遣したのは、自衛権発動ではなく公海航行の自由を守るための国際正義実現(自警団参加?)の活動だったように思われます。
湾岸戦争に大義があったかどうかは別として(私はなかったと思っていますが)日本独特の狭過ぎる?自衛権概念の結果、日本だけ参加出来ずその代わり莫大な金額の拠出をさせられたのですが、国際的には「日本が貢献しなかった」と言う評価を受けました。
非武装論によれば、自国侵略軍に対する自衛の武器・準備すらもいらない・・戦うことが許されない前提ですから、公海上の安全を守るための出動などは論外になるのでしょうか?
ソマリア沖のやり方・・国際合意を得てから海賊排除すべきと言うのは一見綺麗な形ですが、関係国一致しないと実現出来ないので、一定の力のある国が違反している場合、元々実現不可能な条件・・無秩序状態放置・・強い者が何をしても良い社会・・「万人の万人に対する闘争」と言われる原始社会復帰を前提にしています。
一見平和解決の理想論を言う人は実は理想と反対の力の強いものの実力行使を誘発し、是認する意見・・・結果を期待している場合が多い一例です。
戸締まりしているから泥棒に狙われるのか開けっぴろげで出かけた方がいいのか…信用して無防備な人を襲うのは恥ずかしいと思って被害を受けないか逆に犯罪者を増やすのかは、人によって意見が違いますが、物語の世界としては「恥ずかしいことをしない」生き方が素晴らしいですが、この種の話は1万人の内一人でも恥ずかしくない人がいると社会が成り立ちません。
物語では百万人一人でも素晴らしい人がいれば主人公・ヒーローになりますが・・現実世界では、一人だけ善人では、廻りが犯罪者だらけになってしまいます。
今の常識では普通に施錠するだけではなく、金をかけてもセコムや防犯カメラを設置する人が増えています。
非武装平和論も同様で結果的に善人が少ししかいない現実を前提にした場合、侵略誘発論になります。
圧倒的強国・・覇権国があってこそ・ヘゲモニー・指導力発揮出来る国を覇権国と言う以上当然です・・・・国際合意が形成されて世界秩序が守られますが、まとめる力が衰えると全会一致など無理・・不可能になるに決まっています。
覇権国の意向で決まる社会・・パックスアメリカーナには、覇権国〜ムラの有力者に至るまで采配を振るう地位に応じて采配権者に都合の良い(役得)秩序が混入するのが避けられませんが、これも程度問題で、無秩序・大混乱よりは良い(ある程度の役得が生じるのは目をつぶる)と言うのが、これまでの歴史経験です。
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この程度を超過したり、覇権国であることによるうまい汁を全く吸わないで、持ち出しばかりになると覇権国自体がこれ以上警察官役をやっていられないと投げ出すようになったのが現在のアメリカであり、中国が太平洋の半分は引き受けると言い出してアメリカはだんまりで日本が異を唱えている図式です。
覇者がその役割を果たせなくなり、その後の棲み分け・区割りがはっきりしないときに王朝末期の大混乱発生・・新秩序形成までの戦国時代に入って行きます。
現在は覇権国アメリカが覇権者の地位を維持したくないと言い出したので、(アメリカ国内でも大統領になるのはマイナスばかりでイヤだと言う風潮が数十年前からあるようです)世界中で強い者勝ち・・ISやロシア、トルコその他地域大国が色めき立って来た・・言わば群雄割拠時代・・山賊、海賊などやり放題時代が来たということでしょう。
公海での規制は諸外国一致が必要と言うルールでは、圧倒的力を持つ覇権国がない状態では、一定の力のある国は、周辺弱小国に対する個別撃破による切り崩し能力も高い(先秦時代の合従連衡の故事によって証明されています)のでやりたい放題になります。
中国が頻りに利害関係ある国同士のこ別交渉で決めれば良いと主張し、他所の大国(日米)が口出しするのを嫌う所以です。
折角司法判決が出てもフィリッピンやラオス、カンボジアそれぞれの国に対して輸入制限するなどの強迫で、個別に切り崩して行く戦法が実際に成功しています。
日本固有の自衛論や非武装論は、強大な権力下で安全が保障されている特殊状態下で偶然に成り立つ議論であって、国際警察力が衰えて、市街(自国)を出ると護衛が必要あるいは暗闇では危ないとなれば、自宅の施錠だけでなく、状況に応じて護衛を連れて歩くことも自衛権の行使です。
護衛の必要があるとすれば強盗が襲いかかって来れば護衛隊が応戦する権利があるのも当然です。

南シナ海封鎖リスク1

南沙諸島が中国支配に入って・・海上輸送ルートが中国に押さえられて日本が困ろうとも、中国がアメリカと友好関係を約束するならアメリカにとって死活的重要性がありません。
ロシアのウクライナ介入やクリミヤ占領に対しても同じこと・・アメリカ国防に何の関係もない地域紛争に血を流すほどの関与したくない・・日本からグアムへの後退作戦も日本の(対中)戦争にアメリカが巻き込まれたくない・・守る気持ちがない意思表示です。
・・沖縄にいながら防衛協力しないわけにはいかないでしょうが、沖縄にいなければ「その内応援に行きます」と言う程度で済みます。
アメリカの年間軍事予算が日本の約13年分=13倍であることを昨日引用で紹介しましたが、アメリカの経済力が日本の13倍もないのですから、その差額分だけ国内政治に無理(長年の蓄積は大変な額です)が来ています。
大統領選の争点はアメリカ自身が世界に展開している巨大な軍事費に耐えられなくなっているのでしょう。
日本駐留経費が全軍事予算1%以下しかないと言うのですから、日本の防衛分担金を1割上げても全予算から見れば0、1%の財政改善効果しかありませんから、アメリカ得意のスケープゴート的アッピールしているだけです。
軍事費削減がテーマならば、99%を占める欧州・中東方面の軍事費を削減する議論をする方が先であるべきでしょう。
全軍事予算の1%足らずしかない軍事費を槍玉に挙げて大統領選のテーマになるコト自体、アジア軽視を態度で示していることになります。
アジア軽視と言うより、太平洋が広過ぎる・グアム・・これも遠過ぎるならば、将来ハワイを外郭拠点として守れば充分でないかと言う戦略的要素も無視出来ません。
中国が古来から西域の広大な砂漠の先まで拠点を常設する必要を感じていなかったのと同じ発想です。
アメリカの経済力に見合った長期戦略を合理的に考えて行けば、太平洋二分論・・当面グアムでの線引きは(中国が言い出したと言うよりは、)かなり前からアメリカ自身が決めていた基本戦略であったとみるべきですし、これを中国が再確認しているだけ・・だから明白に否定出来ないのだと思われます。
「否定も肯定もしないなら、態度を見てやるからどうするの?」と南シナ海で埋め立て強行してアメリカの出方を見ているのですが、やはりアメリカの態度は煮え切りません。
それどころかアジアでの現地政府の負担率アップの主張=アメリカ自身の軍事費削減まで大統領選のテーマにのぼっているのです。
ここまで来れば、アメリカは太平洋二分論を事実上認めている・・言わなくとも分るでしょう「行動・態度で理解して下さい」と言う段階です。
次に日中紛争が起きた場合、・・自然に起きるのではなく、中国がアメリカが手を出さないと見極めて・・タイミングを見計らって仕掛けて来た場合のことです・・。
前回のレアア−ス禁輸のような緩いやり方とは違い、今度は中国が軍事基地を設けて実効支配してしまった南シナ海の有効利用が当面の焦点になります。
「南沙諸島海域が中国の領海であるから、日本向けの船舶を通さない」と来れば大事件ですが、すぐに航行禁止しないで「領海通過許可申請をしろ」と来るのが第一段階です。
日本はこれ(中国領海)を認めるとその後全面通行禁止されても、異議を言えなくなるので、応じられないと言う政府の立場になるでしょうが、そうすると中国進出企業・・伊藤忠の日本国内向け船舶が中国の許可を取らないで南シナ海を航行すると喩えば、伊藤忠商事が中国で不法入国した企業として処罰や賠償金をとられてしまいます。
かなりの企業が中国に進出しているので、中国の要求に従ってしまうのではないでしょうか?
この辺の対策研究がどうなっているのか知りませんが、重要なことです。
南シナ海での埋め立て軍事基地工事は、フィリッピンやベトナムを相手にした行動ではなく、日本攻撃を主目的にしていることが明らかですから、安倍総理が必死に非難しているし、中国は「関係ない外野は黙ってろ」と無礼な発言を日本の外相にする訳です。
フィリッピンなどは漁船が行けない程度ですから、バナナその他の禁輸との天秤に掛ける程度で、フィリッピン大統領があまり問題にしていませんが、日本も尖閣付近の漁業損害程度ならば大した問題ではありませんが、船舶が通れないとなると大被害になります・・中国は尖閣諸島を直接軍事占領するのは国際的に難しい上に日米に反撃されると勝てそうもないリスクがありますので攻め口を変えて、無人の南沙諸島で埋め立てを始めたのです。
南シナ海は日米の領海でもないところですから、中国が一方的埋め立てを始めても、直接被害当事国を応援することが出来ても、当事国の応援要請がない限り軍事反撃する名分がないので直接打つ手がなく、せいぜい「公海で違法なことスルな」と言う非難をする程度しかありません。
中国は国際ルールでは勝ち目がないので次期政権抱き込み作戦に集中していて、筋金入り親中のドウテルテ大統領が今春就任したのは大成果・・作戦勝ちでした。
新大統領はは折角前政権が勝ち取ったフィリッピン有利な国際司法裁判所判決を一顧だにしない方針変更は、(アメリカ・・オバマが人権その他余計なことを言って中国寄りに追い込んでしまった失敗です)日本にとって死活的マイナス環境になったし、中国にとっては大逆転勝利と言えるでしょう。
インドネシアでも日本の新幹線採用がほぼ本決まりとして進んでいたのに、新大統領になるとイキナリ中国の新幹線に変更してしまいました。
権謀術数の凄まじさと言うべきか?道理も何もない・・抱き込めば勝ちと言う・・古代からのやり方を世界中で実行しているのが中国政治です。
日本にとっては南シナ海での通行遮断リスクは死活問題ですから、実は南シナ海の中国軍基地建設を巡る攻防は日中紛争の最前線なのですが、自国領海が侵害されていないので、直截打つ手がないのが最大の弱点ですので、フィリッピンの応援と言う形をとっていたのですが、トップの交代があり・・アメリカが人権問題で非難したり刺激して中国寄りに追いやってしまったのが大誤算です。
個別の人権も重要ですが、国家の違法行為放置の方がより大きな・・質的に違う人権侵害ですから、主権のある外国の内政に口出しするよりは国家の力で外国に対して違法行為をしている場合、こちらを先に解決すべき・・優先順位が違います。
このためにフィリピンと協力すべきときに内政干渉して敵方に追いやってしまったのは愚策です。
大義のためには戦死者が出る・小義を犠牲にすることすら厭わない・・兵士の戦死も人権侵害ですが、個々の人権より大きな大義があるからです。
オバマはこの優先順序を間違ってドウテルテ大統領を非難してしまったことになります。

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