マイナス金利の限界(三菱の資格返上の波紋1)

三菱UFJ銀行のプライマリーデイーラー資格返上申請が大問題になっています。
http://jp.reuters.com/article/bk-mufg-bond-idJPKCN0YU0NN
2016年 06月 8日 18:15 JST
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焦点:三菱UFJの国債特別資格返上、決断の背後にマイナス金利
「[東京 8日 ロイター] – 国債市場を支えてきた三菱東京UFJ銀行の特別参加者(プライマリー・ディーラー)からの離脱は、日銀のマイナス金利政策によって市場構造が大きく変化している現状を浮き彫りにした。」
以下財務省「国債市場特別参加者制度」からの引用です。
http://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/pd/index.html
国債の大量発行が今後も続くと見込まれる中、我が国では平成16年10月以降、「国債市場特別参加者制度」を導入しています。これは、欧米主要国 において、国債の安定消化促進、国債市場の流動性維持・向上などを図る仕組みとして導入されている、いわゆる「プライマリー・ディーラー制度」を参考としています。
この制度は、国債入札への積極的な参加など、国債管理政策上重要な責任を果たす一定の入札参加者に対し、国債発行当局が「国債市 場特別参加者」として特別な資格を付与することにより、国債の安定的な消化の促進、国債市場の流動性の維持・向上等を図ることを目的としています。制度の 概要は以下のとおりです。
国債市場特別参加者制度 制度概要
特別参加者の責任・応札責任:
全ての国債の入札で、相応な価格で、発行予定額の4%以上の相応の額を応札すること。
・落札責任: 直近2四半期中の入札で、短期・中期・長期・超長期の各ゾーンについて、発行予定額の一定割合(原則短期ゾーン0.5%、短期以外のゾーンは1%)以上の額の落札を行うこと。
以下省略
上記のとおり(最低これだけは引き受ける安定消化の保障)条件で仲間入りさせる仕組みです。
日本の最大大手銀行がこれを断る・・特別な買い受け資格などいらない・・国債の安定消化を断わらざるを得ない事態が起きていると言う意味で激震が走っています。
ところで金融機関は本来一般から資金を集めて一般人には分らない有望投資先を見つけてまとめて投資したり融資するのが本来(は決済機能でしたが、この1〜2世紀に限る)の業務です。 
言わば政府が税を集めて道路や橋を造る・警察力などの公的制度維持するのに対して、民間需要に対しては民間の銀行が市場での需要に応じて資金分配する仕組みでした。
19世紀型政府としては、夜警国家思想が知られていますが、日本の場合明治維新以降欧米に追いつき追い越すための近代化資金として、郵貯制度を創設して民間から資金を集めて(国営製紙工場や製鐵その他)財政投融資して成功して来たことを紹介しました。
(この功績が大きいのでもはや無用になったからと、特定郵便局をむげに扱うことは許されません)
第一次世界大戦以降ケインズ説によって、日本だけではなく世界中の政府にとって財政投資政策の巧拙が重要になってきました。
安倍政権も「三本の矢」が知られるように経済政策が主要テーマになっていることからも明らかです。
金利水準だけを中央銀行が決めるとしても市場の資金需要とその配分・セールスを市場に任せていると、海外受注あるいは企業誘致(工場用地造成や固定資産税減免など)出来ない時代・・インフラ輸出その他政府が海外でトップセールスするしかない時代です。  
資金分配に関する政府の役割が大きくなる一方で市場の資金分配機能を見ると、株式市場に一般人が直截アクセスするようになった上に、各種ファンドが発達している結果、銀行の資金分配能力がなくなる一方ですから、銀行は資金を集めても何を出来るか(残っているのは祖業である決済機能だけか?)が問われねばなりません。
金融機関の使命低下・・喪失については、このコラム開始直後・例えば05/02/07「銀行の機能変化と銀行救済策12」以前から繰り返し書いてきましたが、リーマンショック以降の金融緩和・金利低下=紙幣のだぶつきが,唯一残っていた貸し出し機能についても致命的ダメージを与えたように見えます。
機能低下・・業務能力(資金分配機能や貸し出し)低下の結果、預かった資金をマトモニ運用出来ずに日銀に預けたり国債に滞留させて,確実な利ざやで儲ける無作為収入にあぐらをかいていること自体が産業としての存在意義がなくなって来た結果・・最後の足掻きだったのです。
本来の銀行業務をさせるためにも、日銀預金金利を下げて国債を日銀が買い上げて銀行には銀行の仕事させる発想は当然のことですが、国債金利もマイナス化して来ると全部日銀が買い上げてくれないと銀行が一部でも引き受けし切れなくなったのが特別資格の返上問題です。
これは、本当の市場需要がない・・マイナス金利は市場原理から見て無理があることを表しています。
無理に金融機関に引き受けさせるために一定の特典を与えるグループ化が、上記プライマリーディーラーシステムですが、一定率まで日銀が買い戻してくれる密約の恩典程度では・・100%買い戻してくれればリスクがないですが・例えば7〜8割しか買い戻さない場合,銀行は残り2〜3割を自力で売りさばく能力がない→エンドユーザーがいない・・国民がマイナス金利の国債を欲しがらないのは当たり前です。
私の場合、マイナス金利で敢えて買う気持ちがしない・・タンス預金にしておくか少しリスクがあっても、外債その他いくらでも投資先があるよ!と言うのが普通です。
三菱としては売り損ねて自己保有していると、将来の金利アップのリスクに耐えられない「損だ」となって来たのが(株仲間・ギルド資格)返上問題です。
末端の買い手がつかないと言うことは相場が高過ぎると言うことですから値引きして売れば良いのですが、それが何故出来ないかと言う問題です。
三菱銀行はリスクがあると思えば市場金利をつけて損切りすれば良いのです・・・・例えばゼロ金利で売れないが1%つければ(割引価格で)売れると思えば、その金利で売り出して損切りすれば良いことですが、それを1社でもやると日本国債の暴落・・日銀の無理なマイナス金利設定の崩壊が始まってしまいます。
三菱UFJ銀行の態度表明は「王様は裸だ」と子供ではなく大臣にあたる最大手銀行が「プラス金利でないと売れない」と言い出したことになります。
日本の代表的大企業がゼロ金利では、社債発行出来ないよと言い出したのと同じです。
ところで、何年も前からトヨタなど大手日本企業発行の社債が、南アランドやトルコリラなど何%の高利回り外貨建てで売られていて、これの営業を受けることが多くなっています。
買う立ち場になれば為替リスクのない円建て買いたいのですが、国内でゼロ%近辺の金利で発行したらいくらトヨタでも買い手がつかないので、金利の高い国の通貨でワザワザ発行しているようです。
外国の金融業者を儲けさせないで国内で売れる金利で発行すれば良い筈ですが、日銀の金利政策をコケに出来ない・・遠慮があるからでしょうか?
市場原理無視の金利政策は発行企業に、ワザワザ海外金融機関に頼んだり当地の機関に届けでるなどの手間をかけさせ、日本の社債発行機関の仕事を奪い海外為替の動きにうとい国民にリスク負担をかけるなど、みんなに損をさせている印象です。
三菱の資格返上問題は、日本の代表的大企業がゼロ金利では、社債発行出来ないよと言い出したのと同じです。

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