金融政策の限界8

紙幣大量発行を利用して国民がそのまま国内消費に振り向けると(海外投資ゼロに近い場合)どうなるでしょうか?
比喩的数字で言えば、異次元緩和分が100兆円あるとした場合、日本ではその内99%以上が海外投資に向かい、資金不足の新興国では99%以上国内消費・投資に向かう場合の違いです。
単純に国内消費を増やせばこれに呼応した国内投資も増えますし、各種輸入が増えて国内景気が過熱して景気が良いように見えますが、国際収支赤字累積→流入資本引き上げ加速→通貨暴落(アジア危機)→いつかはハイパーインフレの心配がありますから、経済学者の杞憂論は資本不足国を前提にしていて資金余剰で縦横に海外投資する日本社会を1回目の東京オリンピック時期・・資金不足国と同視していると思われます。
ちなみに中国だって将来の経済失速を前提に海外資金逃避・・裸官(賄賂・高官非難が中心ですが経済的に見れば資金逃避の1態様です)に始まって死に物狂いで?企業買収に動いています・・この数日ではイタリアサッカーチームの買収も報じられているように、何でも買収対象になっているのが現状です。
中国の場合、(まだ海外進出するほど経営経験が熟していないのに)死に物狂い・・後先を考えずに買収するので失敗が多いと言われていますが・・「借りたら返す」近代法のモラルが定着していない中韓国民レベルを前提に経済政策の議論を日本の学者がしていることになります。
日本の場合いくら金利を下げても家計負債が増えるどころか、(サラ金系債務が激減していることを4〜5日前に紹介しました・・この結果サラ金大手も小さな個人的サラ金業者もほぼ壊滅しています)逆に個人金融資産が増える一方と言われています。
以下は野村のデータによりますが表をそのままコピペ出来ないので各年の(金融資産内訳に興味のある方は上記に直接アクセスしてご覧下さい)合計数字のみの紹介です。
http://www.nicmr.com/nicmr/data/market/retail.pd
リテール金融市場 日本の個人金融資産残高の推移
西暦    2011    2012     2013    2014     2015(Q1)   Q2     Q3
合計  14,999,732  15,440,650 16,443,403  16,962,404  17,001,117  17,175,367  16,838,135
野村資本市場クォータリー
(注)1. 2015年第3四半期以前の値は改定のため、前号の数値と異なる場合がある。
野村資本市場研究所作成

上記データは15年第三4半期(Q3)までしかありませんが、日本の個人金融資産が長1200〜1400兆円と言われていたのがいつの間にか15年第一4半期(Q1)以降約1700兆円に膨らんでいます。
日本の場合・・バブル崩壊で懲りた経験にもよるでしょうが、いくら金利を下げても日銀や経済学者の期待どおり、見通しの悪い事業を始めるために借金したり、返す当てもないのに借りる個人が滅多にいないのは慶賀すべき智恵です。
実はバブルのときも借りまくったのは不動産業者と貸しまくった金融業界(特に痛手を受けたのは住専でした)だけでした(個人は、農地など高値で売り抜けて得した人の方が多かった)から、日本全体の傷が浅かったのに金融業界の不始末の所為で日本全体が迷惑を受けたに過ぎないことを何回も書いてきました。
日本は犯罪率が低いと言う意味は、一定率の不心得者がいる・ゼロではないのと同様で、モラルハザード者も日本にも一定率いるには違いないですが・・消費者金融借入増に走る人も皆無ではないまでも、そう言うレベルの比率が低いと言うことでしょう。
日本社会の場合、道徳律その他で世界の先を走っていますので、中韓等の周回遅れの国に有効な19〜20世紀型金融緩和をしてもそれほどの政策効果を発揮しないのは当然です。
いつも書くことですが、エリ−トの考えることはいつも過去の事例研究・・お勉強が得意な人ばかりですから、先進国の政策決定に関与するのは間違いです。
日銀のエリート・経済学者や有名エコノミストは中国や韓国の中央銀行総裁やシンクタンクに就職すれば、社会状態が適合していて、提言どおりの政策効果がすぐに出て重用されるのではないでしょうか?
中韓贔屓のマスコミ人が退職後中韓の大学に就職して厚遇を受けている例がありますが、経済学者やエコノミストや日銀委員も中韓の大学教授に就職すれば活躍出来る筈です。
実際中国の場合バブル崩壊を食い止めるためにちょっと金融緩和するとすぐにマンション価格が急上昇し再バブル化して来たので、5月には2戸目マンション購入制限策(納税基準を過去1年分から2年分にするなど)に乗り出していますし,赤字生産を阻止するために2月26日にG20で約束したばかりの過剰設備整理の約束で休止中の高炉の再稼働が始まるなど政策効果がストレート・・ホンの数十日程度で出て来る国です。
ホテルでバイキング方式にするといくらお皿に取っても料金は変わりませんが、日本人の多くは自分が食べられる程度しかお皿にとりません・・。
中韓の客は食べもしない量をやたら皿にとって食べ散らかし放題と言われています・・今では恥ずかしいことと分って来ているかも知れませんが、元はそう言う話でした。
これが国民性の違いと言うか発展段階の差です。
マイナス金利や紙幣大量発行の恩恵で1000〜1万件に1つあるかないかの本当の有望新規事業がこれによって開業資金を得易くなる場合があるとしてもその効果は・・徐々に浸透して行くしかないので、すぐに日本全体の負債が大幅に増えて経済が活発化する・・経済効果がすぐに出るようなことにはなりません。

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