人材と身分保障3(再任拒否の自由1)

1昨日紹介したセブンイレブンの社長解任決議否決に対して解任(正確には任期満了らしいので再任拒否)案を強行した鈴木敏文氏が退任表明したとのことですが、法的基準と言うか常識から言えば多くの取締役が常識にしたがいワンマンの暴走を止めたコーポレートガバナンスが機能したとも言えますが、悪く言えば無難な意見が通ったことが分ります。
マスコミ報道では何ら失敗もないのに・・と言う説明ですが、今回の騒動は労働法分野で定着した雇用者保護の基準・思考方式を無意識に社長人事基準に反映させていないかの疑問があります。
労働者に対しては不正その他懲戒自由にあたらない限り解雇出来ないのは生活や人権保障として当然ですが、社長人事は、過去の業績ではなくこれからの可能性にかける問題です。
公団公社や天下り組織の人事でありません。
まして「解任」ではない「再任の適否」となればなおさらです。
裁判官の身分保障に戻りますと憲法や法律を紹介したように解雇・転任規制などありますが、再任の保障までは法律上ありませんが、今回同様に再任拒否すると大政治問題になります・・昭和40年代に宮本判事補再任拒否が大政治問題になったことがあり、これに最高裁は懲りていますのでこの事件以来再任拒否は事実上出来なくなっています。
裁判官の自己保身意識が潜在的に働いていると思いますが、憲法や法律の保障のない一般労働者でさえ滅多に再任拒否や解雇転任命令が出来ない判例が定着していますが、こうすれば、法律保障のある裁判官はなおさら再任拒否出来ないと言う運用になる期待がないとは言えません。
期間限定雇用でさえも、雇い止めに対する規制的運用が普通になっています・・この流れを維持したい勢力としては、セブンイレブン事件は正確には再任拒否なのに何故か「解任」として大々的に報道している理由かも知れません。
借地権保障を強化・・再任拒否と根底思想が同じ更新拒否を事実上認めない運用になって土地を貸す人が減った結果、平成に入ってから借地借家法で更新拒否出来る定期借地借家形式が創設されたように、再任拒否が事実上出来ないような行き過ぎた運用が非正規雇用を広げた背景です。
今現在業績が良いから4〜5年先を見据えた新しい事業に挑戦する必要がないと言う企業がないのと同様に、社長の器の見立ては今失敗していないかどうかではなく、将来発展性を持って事業を革新して行く能力があるかどうかが基準であるべきです。
これまで減点がなくうまくやれて来た人材がリスクをとって新たなことに挑戦して成功出来る人材かは全く別物です。
いわゆるプロと言うか、エコノミストなどの解説は、過去の業績トレンドの延長を前提にした解説ばかりですが、株が上がり始めるとともっと上がると言って買いを推奨し、下がり始めるともっと下がると言って売りを推奨するのが株屋ですし、こういうことに長けているのが社長お気に入りの気の利いた後継者です。
減点主義、気が利くかどうか右顧左眄の得意な人が概ね出世する雇われ社長や学者・官僚は過去の学習に向いていますが、果敢に挑戦して社会の一歩先を行ける政治家や創業者等は過去の学習能力はほどほどで良くてそれよりかもう一歩先を見る能力が必要です。
音楽その他芸術系の優秀な生徒と芸術家になれる人との違いとも言えるでしょうか?
社会の大きな動きを切り開いて行くには過去の延長的才能・・周辺同業者より早く真似するのにたけた競争的人材が社長では企業はジリ貧です。
9日の日経新聞朝刊を見ると氏名委員会2名の内社外委員は元警視総監や学者が委員、委員長と言う構成らしいですが、こう言う経歴のお偉い人が創意工夫力を問われる社長の適性に関して、カリスマ性・創意工夫力で誰もが認めて来た鈴木氏よりも優れているとする仕組み自体がおかしいように思えます。
新しいことに果断に挑戦出来る人材か否かは将来の見立てになるので、トップの直感力による新規事業開始決断(調査結果など客観資料に頼っていたら他社と同じことになります)同様に尊重されるべきです。
※バブルの10数年〜20年前ころの経験では、スーパーや街道筋のドライブイン〜ファミレスなどの出店ラッシュでしたが、この辺はスーパー立地適当と言う調査報告を元に出店計画を立て土地の買収あるいは借地などの交渉に入り西友やジャスコなど許認可などで4〜5年かかって工事着工してみたら直ぐ近くに同じような調査報告による出店計画した競合他社の工事着工が始まる・・(びっくり仰天?)雨後の筍のようなことが頻繁に起きていました。
要するに誰でも賛成するような情報・・手堅い事業計画では、企業計画としては意味がありません。

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