人材と身分保障2(羹に懲りて膾を吹く1)

能力があるのに上司とそりが合わないと言うだけで解雇されたり地方へ飛ばされるのは本人にも企業にもマイナスです。
裁判官の場合、法の精神を体現している立派な人材であるが、政府特定権力の気に入らないからと僻地に飛ばされるのでは国家的大損害ですが、そのようなことにならないようにチェック体制を作れば良いことであって、どうにもならない人でも解雇や転勤を命じられないと言うゼロか全てのような制度まで作り上げるのは稚拙と言うか乱暴過ぎます。
権力が不当検挙をしてきた事例があるからと言って、「刑事処罰を全部やめよう」と言う意見は皆無と思いますが、不当拘束や無辜を罰しないように刑事訴訟法が工夫され発展して来たのです。
公害が出ても、その産業廃止ではなく公害が出ないように技術革新して行けば良いことです。
高度医療技術も失敗が多いからとイキナリ禁止するのではなく改良を進めて行くことによってその技術発展性があります。
原発は危険だから全面的にやめようと言うのも,その間のいろんな工夫の余地を認めずイキナリ結論に結びつける短絡性の難点があります。
不当転勤や解任を防ぐには、正当な処遇かどうかをチェック出来る仕組みにしておけば良いことで,弾劾裁判以外には転勤や解雇を一切認めないと言うのは論理飛躍があり過ぎます。
「羹に懲りてナマスを吹く」と言う故事がありますが、裁判官の身分保障の行き過ぎに限らず、日本国憲法は戦争の悲惨さを強調して一切の戦争を認めないとかやることが短絡的・・子供染みています。
戦争の悲惨さと軍備保持しないこととの間には、殆ど脈絡なく結論付けているのもその1例です。
憲法前文では、世界の信義を期待して生きることを宣言してこれを受けた9条では軍隊を保持しない・交戦権を放棄すると言うのですが、喩えば世の中から「犯罪のない平和な社会を希求」し「社会構成員の信義道徳を信頼して?警察制度や刑罰をなくして・・平和な社会を作り上げて名誉ある地位を占めたい」と言ってドア開けっ放して寝ていたり、留守にする人がいますか?と言うのと同レベルの単純思考で現実離れしている点は同じです。
犯罪のない社会を願って警察や刑務所をなくせば犯罪がなくなるのではなく、社会の安定・・正義が行き渡ってこそ犯罪が減少するのですから、思考回路が逆転しているか、幼稚園生レベルです。
国際社会は日本国内治安よりもっと民度が低い・・未だギャング世代みたいな段階であることは争いがない状態ですから、交戦権さえ放棄すれば世界が平和になるものではありません・このことは朝鮮戦争に始まり、最近ではロシアによるクリミヤ併呑や中国の傍若無人な行動を見れば誰でも分ることです。
憲法
前文
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

憲法原案起草は日本語の翻訳に従事していた若い女性を探し出してホンの短期間で作成したと言われていますが、法律実務や世の中を知らないド素人の作った憲法としてもお粗末です。
何事も濫用を防ぐには、手続の整備から入って行くものであって、イキナリ制度自体をやめてしまおうという乱暴な発想は素人でも普通は思いつかないレベルの低さです。
金融不祥事があれば金融制度をやめるとか、会社の不正経理があるから会社制度を廃止しろ、決算は信用出来ないから商業帳簿を廃止しろと言うのではなく、社外役員制度や監査制度の充実強化などの工夫から入るのが普通の智恵です。
話題がそれてしまいましたが、裁判所法で裁判官を降格転任させられない仕組みなっていることから、民間の解雇転任無効事件ではこれに引きずられて?の判断や運用が続いてきました。
その結果合理的根拠ないと解雇や転勤命令が無効となる判例が定着していますので、今では裁判官特有の身分保障制度ではなくなりました。
この結果から見ても、要は手続制度工夫次第であって法律で何が何でも転勤を禁止するのは行き過ぎ・・乱暴であることが分るでしょう。
「戦争を防ぐためには軍隊をなくせば良い」と言う意見は,死ぬのがイヤなら生まれて来なければ良いと言うのと同じで、あんちょこ過ぎてまじめに現実社会を見ていない・・冗談程度の意見でしかありません。
労働法の良き運用実績・・判例集積でいろんな企業では管理職としてどうかな?と言う程度の「難あり人材」を敢えて降格するのは出来なくなっていることは事実でしょう。

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