コーポレートガバナンス1(成長企業と安定企業の違い)

セブンイレブンの騒動は任期満了を待ったと言うのですから、皇帝などを途中廃帝にするのとはちょっとちがいます。
不正や大失敗がない限り任期満了→再任拒否出来ないのでは、前例のない分野にリスクをとって踏み出すべきトップの選任・解任方法としては逆に非合理・・と言う余地もあります。
これまでトヨタの奥田氏抜擢やフロントで奥田氏の弟を海外子会社から抜擢して本社社長にした例・・あるいは日航再建での京セラ社長の抜擢、徳川将軍家での吉宗の抜擢などを見れば、総べて本体危機時の緊急登板です。
セブンイレブンの場合、最高益更新中の社長再任拒否らしいですから・・緊急性がない点が支持を集められなかったことになります。
鈴木氏とすれば経営者は4〜5年先どころか10年先を見なければならない・・今のうちに手を打つべきと言う危機感でしょうが、(昨日書いたように会長の影響力を保持したいために漸く慣れて来た現社長をコケにしているのではないかと言う疑念もあるし)実績主義に慣れた普通の人の理解を得るのは困難だったでしょう。
会長制の是非・・どちらが正しいかの実質論を離れて再任拒否の手続論に戻ります。
いわゆるカリスマが10人も集まった場合、4〜5先あるいは10年先のために手を打つべきテーマを多数決で決めるのも良いでしょうが、1つの組織にはカリスマは一人しか要りません。
トヨタの奥田氏など例を書きましたが個性のある人は子会社に飛ばされるのが普通です・・「船頭多くして船山に上る」と言うように、本部で角付き合っていると企業が前に進みませんから本部運営から外しておくのは良いことです。
イザというときのピンチヒッター要員としてあまり本部の目の届かない自由度の高い海外子会社などで温存し、その人がのびのびと個性発揮させておくのが合理的です。
上記によれば、本部・・側近として残っている取締役は必然的にカリスマの言うとおりに実行する能力が高いが、それしか出来ない取締役が一般的になっています。
日本電産の永守重信氏やソフトバンクの孫正義氏、鈴木自動車の鈴木治氏などなどを見ればすぐに分りますが、彼らは取締役多数の決めたことを実行しているだけとは到底思えません。。
ユニクロでも次期社長にバトンタッチましたがうまく行かずに柳内氏が復帰しましたが、トップ次第で業績が大きく変わる事実はトップが取締役会の合議の結果・・ありふれた意見を集約して企業運営しているのではなく、取締役会は逆にトップの指示を受けて前向き検討機関になっていることを如実に表しています。昨日あたりにユニクロの柳内氏が昨年からの値上げ方針が間違っていたことを率直に認めていますが、トップ主導で決めて行くからこそ、自己責任を率直に言えるのです。
実績主義で上がって来たあるいは本部に生き残って来た実質的部下が、カリスマ経営者の提案を多数決で否決するのは背理です。
すなわち、トップが方針を決めて役員会はその遂行機関(追認)であることが実態であり,この方が実際に合理的であることを示しています。
ところで法的には社長は取締役会の選任→意見で動くモノであって社長の方が下位機関ですが、実際には上記のとおり指示待ち・・イエスマンのそろった取締役多数の言うとおりにしていたら何も進みませんので、トップ人事が株相場の上下に影響を与えているのです。
自治会などの団体のトップは、構成員の意向や世の中の流れにあまり遅れずに従っていれば良いのですが、(いつお花見会を開くか敬老会でどう言う引き出物を用意するかなど・・大方の意向に従った決議が妥当です)企業は先ずトップのリーダーシップで前に進まない限りジリ貧です。
企業は世間のトレンドがマスコミで報道されてからそんなに遅れずに設備投資したり社員訓練をしていたのでは、ドンドンジリ貧になって行きます。
鈴木自動車の鈴木治氏や孫正義氏,日本電産の永守氏,シャープ買収を決めた台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長らのカリスマ的経営者にそれぞれの取締役会の多数意見が、彼らに値上げ方針などを指示命令する姿を誰が想像出来るでしょうか?
大方の・・無難な意見を代弁する取締役会決議に従って社長が動くのは停滞・老舗企業に任せて、新興成長企業は、社長・トップの指導力に従うしかない・・コーポレートガバナンスも老舗・ジリ貧企業と新興・個人企業とでは違ったルールであるべきです。
国家的にみても、新興国では開発独裁政治が能率がいいことが知られています。
国家の場合には国民の人権的側面が重要ですが、企業の場合、取締役の人権?とは何でしょうか?
マスコミや学者がみているのは、創業期から続く成長企業から停滞企業に脱皮?した大手企業の方が多いでしょうから、安定成長型企業を前提とするコーポレートガバナンスをマスコミが「唯一正しい道」と宣伝しているように見えますが、社会には一定の躍進企業・・高成長企業が生まれて来ないとその社会の活力がなくなって行きます。
無謀とも言えるニトリ創業者の例やアイリスオーヤマの大躍進の例などみても、(大方の常識的意見に従っていたのでは出来なかった)創業者の創意工夫で躍進を続けて来たことが明らかです。
現在唱えられているコーポレートガバナンスは、(マスコミはセブンイレブン騒動をガバナンスが機能した事例と応援するニュアンスですが・・)誰も気が付かないような新たな投資をして成功すれば成果は大きいものの失敗すれば大変なことになる・・失敗して大きな損失を出すリスクよりは,儲けが少ないが確かな効果のある他社追随型投資・世間のトレンドに少しでも早く乗る程度の投資しかしない現状維持で大過なく役職定年まで勤める人たちのために安住の地を作る政策です。
「養子」(サラリーマン社長)が家を守る経営的発想・・先走って失敗しない・早耳で先行企業について行く・・後追い政策で行って年数%ずつ縮小の方が企業が長持ちするものですが、これでは社会の活力が奪われてしまいます。
マスコミ(多くはサラリーマン)はこのような自己保身的サラリーマン社長の立場を代弁していると思われますが、もっと成長したい企業にとってはマスコミ・(せいぜい早耳程度)識者の言うコーポレートガバナンスは、成長阻害のためにあるようなものです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC