海外進出と現地化(本国生産縮小)

世界企業の国際進出競争は当面新興国の人件費の安さに注目して完成品の輸出基地としての利用目的でしたし、(日本の場合欧米による貿易黒字対する圧力回避目的に合致しました)中国等も原則輸出基地として(全量輸出)のみ特区を作って進出を許可していました。
国内販売を認めなければ国内企業が先進国企業によって淘汰されないで済み、外貨を稼げるほかに進出した企業で働くことによる一部国民の所得向上や技術移転が見込める1石3鳥の政策でした。
実際そのように進行していて中国に限らず東南アジア諸国の国民所得が上がる一方で、他方で地場産業が興隆していて、今や日本企業(サンヨーの白物家電部門は中国のハイアールだったかに買収されています)を脅かしていますから、この政策は成功を収めています。
輸出基地である限り完成品(現地組み立て)を欧米に輸出する競争だけで、部品には関係がないかのように見えていましたが、輸出基地としての工場進出によって現地人の所得が上がり、現地人が顧客に成長して行くのは時間の問題です。
低賃金利用による輸出代替基地から現地消費目的生産に代わって来ると現地人の嗜好にあったものをつくるしかないので、部品競争でも似たような競争となります。
部品自体にエンドユーザーーは関心がないのですが、ニーズにあったものを早く作るには部品メーカーが近くにないと困ります。
現地ニーズに如何に早く対応して製品を早く開発して市場に出すかの競争になると、納品の迅速さ・部品擦り合わせ作業などの競争があって、品質差が余程大きくないと遠くから輸出・納品する方が擦り合わせや即時納品競争に不便なので不利になります。
元々輪島塗であれ何であれ、特定産業の周辺にその関連産業が集積しているのが普通ですし、トヨタの周辺に部品工場が集積していた原理の国際版ですから当たり前です。
トヨタ・ホンダなどが海外進出すると部品会社もついて出て行くしかなくなるのは、この原理によります。
昨日書いたように貿易の活性化は物品や技術の偏在を調整が完了するまでの過渡的なものに過ぎないのですが、産業革命以降数百年かかっていたので貿易の活発化が恒久的・無限であるかのように誤解していたに過ぎません。
最近では通信技術発展の加速化によって、グローバル化のスピードが早いので今後20〜30年もすればこの過渡期が終わり、結果的に工業製品貿易量が急激に縮小して行くことになります。
当面は研究開発拠点が現地そのものではなく、地域統括本社みたいなものがある場所・・シンガポールみたいな地域が幅を利かすでしょうが、将来的にはそれぞれの国・消費地での研究開発が主流になって行く筈です。
「高度部品を日本は作っているから・・研究開発部門が残るからいつまでも貿易赤字にならない」と言う希望にすがりついているのは危険です。
(高度部品や基礎研究等は残るにしても、今の人口を養うに足る燃料や食料品等輸入を賄えるほど稼げるようにはならないでしょう)
この結果FTAやTPP等が進み関税等の障壁縮小がどんなに進んでも、・・進めば進むほどグローバル化の加速が貿易量の増加を招くよりは、逆に縮小方向になって行くだろうと言うのが私の意見です。
将来の現地生産時代到来・・物品貿易量が減少して行き、貿易黒字を少ししか稼げなくなると資源輸入代金の獲得源も縮小します。
グローバル化=現地生産化とは工業製品限定のことであって、食糧や資源類は古代からの原則どおり交易によるしかありません。
グローバル化が完成し、工業製品の世界平準化=自給自足化が進めば、工業品の輸出によって食糧自給能力以上に人口を増やして養っていた国ではその咎めが出てきます。
自給能力が人口の上限を決めていた時代には農業=領土の広さに人口が比例していましたが、工業品輸出代金で食糧等の資源を輸入できるようになると、この制約が取り払われて、輸出能力向上に応じた人口増が可能でした。
企業で言えば製品の売れ行きに応じて生産増→従業員増になっていたのと軌を一にしています。
この結果日本では幕末の3〜4000万程度の人口が今の一億数千万人までふくれあがって、なお豊かな生活が出来ているのです。

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